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必然の幕引き





彼の手元に来たのは絶望


彼女の目の前にあるのも絶望


そして二人の間にあったのは、何だったのだろう?


必然の終幕

    必然の幕引き、祐介と綾芽の出撃前夜


 二人には約束があった。

 何があっても、絶対にこれだけは守ろうと、そう決めあった。

 あの出撃前夜の、あの二人の別れの日に。

 泣かずに、笑いあって、決めた。

 二人には分かっていた。

 ――二度と逢えない事が。

 なぜなら、彼の手元に来た手紙は、特令紙。

 白紙でも。

 赤紙でも。

 黒紙ですらもない。

 それは紫の封筒なのだから。

 通称、特別指令召集紙。略して、特令紙。

 軍部からの特殊任務出動要請のことである。

 それは、生還率が限りなくゼロという意味でもある。

 内容は……回天令。

 そう命名されてあった。

 内容は敢えて言わない。


「綾芽さん、お願いがあります」


 目が見えない綾芽に気取られないよう、必死に震える声を我慢して話した。

 もう、自分の目からは止めどない涙が溢れそうだった。


「もし、もし僕が……」


 ―――戻らなくても、あなたは幸せに生きてください。

 そう宣告した。

 自分が死ぬのに、人のことを心配できる自分が不思議だった。

 死への恐怖。体が竦むほどの異常な恐れが体を蝕む。

 だけど、これから行く戦場はそんな生半可なものではない。

 それ以上の恐怖が待っているのだ。

 それならば、せめて。


「あなたを、生きる希望にさせてください」


 僕が死ぬまで、そして死んだ後でさえも。

 綾芽はそれを聞いて笑った。

 クシャクシャになって笑った。

 何も言葉を返さない。

 今にも喚きだしそうなほど、苦しんでいる綾芽は。

 ただ、震えて、笑って、でも泣かずに。


「い、……て……さい」


「……?」


「……生きてください」


 そう言っていた。

 やっとのことで返してくれた言葉がそれだった。

 その言葉が、自分の封印してきた思いを揺さぶる。


「うッ、あ……ッ、うぅ……ああッ」


 思わず溢れる涙を必死に我慢した。

 でも必死に我慢しても溢れてくる声が、嗚咽となって響いてしまう。

 笑おう、と。そう誓っても、限界だった。

 ――思いもかけない事に、僕は大声で叫んでいた。


「忘れないでくださいッ(・・・・・・・・・・)!!僕の事を(・・・・)!!」


 死んでも。

 消えても。

 例え、生きて帰ってきたとしても。

 ずっと、永遠に。


「お願い……だからッ」


 自分が死んでも、忘れないでほしかった。

 彼女が幸せに生きてくれて、そして、自分のことを忘れさえしなければ、自分はどんな恐怖にも打ち勝てるような気がした。


「祐介さん……愛して、います。――決して忘れません。絶対にあなたを待ちますから、笑顔で待ち続けますから(・・・・・・・・・・・)」


 そう言い切って、


「だから、今日だけ……お願いです。一緒に泣いてください」


 ――泣いてください、と。もう一度震える小さな声で、綾芽は儚い願いを言った。

 ああ、と頷きながらも、綾芽の顔は涙で見えない。

 この世で一番愛する人が。

 最も大切な守りたい人が。

 涙で見えない。

 ――それなら(・・・・)

 僕は綾芽に近づき、自分の涙が零れている頬を彼女の頬にくっつけた。


「こうすれば……一緒に、泣ける」


 彼女の息づかいが頬に感じるぐらい近く、温もりを感じるまで近く。

 綾芽には目が見えないので、僕が泣いているのかが分からない。

 それなら、頬をくっつけあって泣いている事を確かめ合えばいい。

 二人で一緒に泣くために。

 二人で泣いている事を分かち合うために。

 泣きながら、強く抱き合った。

 二人とも泣き声は出さなかった。

 ただ、堪えきれないほどの思いと涙が頬を伝うだけだった。



 そして、二人は別れた。

 この先、きっと未来で、二人は絶対に忘れないだろう。

 この時のことを。

 どんなことが起ころうとも、二人の思いは消えるはずはない。

 水原綾芽はこの時誓った。絶対に生き続けよう、と。

 そうして、水原綾芽は手紙を待った。

 愛する人の手紙を……










その後、坂本彰は郵便局を辞めた。

彼の行方はしれない。

それが、また新たな悲劇を生み出すとは知らずに。

覚えていてほしい。彼の手元に来たもう一枚の手紙を。

そして、残った二輪の勿忘草を。

それが引鉄になり、悲劇をもたらす。


手紙は幸福をもたらさなかったのかもしれない……



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