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勘当貴族 ルキス君の冒険日誌  作者: ナカノムラアヤスケ
第二の部 勘当貴族 ルキス君の邁進
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第十八話 勘当貴族、再び巻き込まれる


 銃剣ガンブレードの切れ味に満足していた私だったが、不意に肌がにひりつくような感触を覚えた。


 それはある種の第六感の様なもの。


 以前にも似たような事がある。エトナが森の奥からノーズボアを引き連れながら逃げてきたときと同じ感覚だ。


 私は緩み欠けていた集中力をもう一度鋭くし、付近に生えている濃い茂みの中に身を潜めた。気配を殺し、注意深く周囲の状況を観察する。


 やがて──森の奥側から獣のような鳴き声と多数の駆け足の音が聞こえてきた。


 そちらに目を向ければ、案の定と言うべきだろうか。森の外へ向けて必死の形相で駆ける三人の冒険者。そしてそれを追いかける十を超える数の魔獣──ゴブリンの姿があった。


 冒険者三人組は見覚えがあった。


 両手剣を背負う活発そうな少年。


 片手剣と盾を装備した少女。


 そして魔法使い風のローブを纏った少年。


 今日、私が薬草採取の依頼を受注するとき、意気揚々とギルドを後にしたあの三人だった。


『ゴブリン一匹を相手にしようとしたら、いつの間にかゴブリンの集団に囲まれていた』とは良くある話。ゴブリン単体は雑魚だがその単体の弱さを集団で補う程度の知能はある。


 『初見殺し』の異名を持つツノウサギと並んで、しっかり対策を練ればゴブリンは苦戦するような相手ではない。が、逆に単体の弱さを侮って的確に対処しなければああして集団に追い立てられることとなる。


「やれやれ、私はこういう・・・・場面に遭遇する運命なのか?」


 気配が漏れ出ないように小さくとだが、私は溜息をつきながら肩を竦めた。状況としてはエトナの時と全く同じだ。強いて言えば、エトナはランク度外視で森の奥に入っていた阿呆という点くらいだ。……それが一番致命的な気もする。


 それはさておき。


 不穏な気配に気がついて隠れていたおかげで、冒険者と魔獣はこちらに気が付いた様子は無い。このまま身を潜めていればやり過ごせるだろう。


 ただ、あの程度のゴブリン、私なら余裕で相手ができる。装備が整っていなかった以前ならともかく、今の私には双剣がある上に片方は新装備である銃剣ガンブレード。実用試験としてはもってこいの相手だ。


 少し考えている間に状況が悪化した。


 冒険者三人の一番後ろ。ローブの少年が木の根に足を取られて転倒したのだ。前を走っていた仲間の倒れた音に気が付くと急いでそちらを見る。


 ローブの少年は転んだ痛みに表情を歪めていたが、ハッとなり背後を振り返る。


 ゴブリンの集団は、もう目と鼻の先にまで近付いている。


 いち早く先頭を行く一体が手にしている棍棒を振り上げ、倒れている少年へと振り下ろさんと迫っていた。


 仲間の一人が両手剣を背中から引き抜き、ローブの少年を助けようと大急ぎで引き返す。だが、それよりも早くにゴブリンの棍棒が振り下ろされるだろう。


 倒れた少年は絶望的な表情を浮かべ、迫り来る棍棒を凝視していた。



 そして──一発の銃声・・が森に木霊した。



「うむ、この距離からの狙撃も問題ないか」


 立ち上る硝煙を視界の端に移しながら、私は満足げに呟いた。


銃剣ガンブレードから放たれた弾丸は見事に少年に棍棒を振り下ろそうとしていたゴブリンに命中し、その頭蓋を粉砕した。


 例え見ず知らずの者が相手でも、そこに手を差し伸べてこその紳士だ。手元に武器が無いなら仕方が無いにしろ、今の私には助ける事のできる武器ちからがある。ならば、もはや迷うことはない。


 ローブの少年は目の前で起こったことが理解できないのか、目を見開いたまま頭部の半ばを失ったゴブリンを眺めている。至近距離にいたせいでゴブリンの血やらグロテスクな色々なものが少年の躯に飛び散っているが、命が助かっただけありがたいと思って貰おう。


 両手剣を抜いている少年も、その後に続こうとしている片手剣の少女も、突然の事に呆然としている。


「ちっ、動きが鈍い」


 私は舌打ちしながら少年達に向けて走り出す。先頭を走っていた足の速いゴブリンは無効化したが、その後からまだまだゴブリンが続いてきているのだ。


 私は親指で銃剣ガンブレードの撃鉄を起こし、ついでに左手の剣は一旦鞘に収めて懐から愛銃を取り出す。


「ぼさっとするな! まだ敵は残っているぞ!!」


 少年達に言葉を叩き付け、私は走り出した。その間にも牽制の意味も込め、走りながら銃剣ガンブレードと愛銃の引き金を引き絞った。


 両手それぞれに質量の異なる銃を持ち、走りながらの銃撃。満足に狙いは付けられないが、牽制にはなる。ゴブリンの何体かには命中し怯みを見せる。


 最初は銃撃を意に介さなかったゴブリンも、仲間が負傷していくことに気が付くと走る速度が遅くなる。


 その隙に、私は倒れたままの少年の前に立ち塞がり、愛銃と銃剣ガンブレードの弾丸を全てゴブリンに撃ち込んだ。


 その内の一発がまたもゴブリンの頭部に命中し絶命させる。仲間の死に、とうとうゴブリン達が私に対して警戒を強め足を止めた。


 私は愛銃をしまい、その左手で手早く弾丸を取り出すと銃剣ガンブレードの弾倉に押し込む。エトナ嬢の幾度となく練習した動作だ。流れるような動きで弾込めが終わる。


「あ、あなたは……」

「二度は言わんぞ! さっさと立って魔術式の一発でもやつらに喰らわせろ! その格好は見てくれだけか!?」


呆然と呟くローブの少年に、私は再度言葉を叩き付けた。そこでようやく混乱から立ち直ったのか、ローブの少年は大慌てで立ち上がると手を翳して魔術式の構築を開始し、ゴブリンどもへと狙いを定める。


「そこのぼさっとしてる二人!!」

「「──ッッ!?」」


 私は棒立ちになっている残り二人の少年少女へと怒鳴った。


「奴らに魔術式が命中したら私に続け! 互いをフォローしてひたすらゴブリンを斬り捨てろ!!」

「なっ──いきなり現れるなり命令するなんて何さ──」


 バァァンッ!!


 剣士の少女が口答えしてくるのを、銃剣ガンブレードの天に向けた一発の銃声で黙らせる。


「四の五の言うな! ……まったく、無駄弾を使わせおって」


 私の言葉にいち早く反応したのは両手剣の少年だった。


「今はあの人の言葉にしたがった方が良いって!」

「……ああもう、分かったわよ!」


 仲間の言葉に少女も渋々ながらに同意したようだ。


 そうこうしているうちに、ローブの少年が構築していた魔術式が完成したようだ。


「準備できました!」

「よし、やれ!」


 私の合図で、ローブの少年の眼前から、人間の頭部ほどの大きさのある複数個の土塊が地面から浮かび上がり、ゴブリンに襲いかかった。魔術式を構築する速度は決して早いものではなかったが、仲間がフォローする前提であるなら実戦でも十分に通用するだろう。


 土塊が命中したゴブリン数体が悲鳴をあげながら倒れると、ゴブリンの集団全体に大きな動揺が傍目からでもわかる。


 ゴブリンを相手にするときは、必ずその個体数を確認すること。そして確認した個体数を確実に殲滅すること。一体でも逃せばそれが新たなゴブリンを引き連れて戻ってくる可能性が高い。


 もし殲滅しきれなかったなら、素早くその場から離脱。ゴブリンの集団が襲いかかってくる前に安全圏まで退避すれば良い。

 

 そして、堆肥も間に合わずにゴブリンの集団に襲われた場合は──相手が調子に乗る前に出鼻をくじき、一気に畳み掛けるのが鉄則だ。


 そうすればいくら数が多かろうとも、やはりゴブリンはゴブリン。士気が低ければ烏合の衆と変わりは無い。


 そう、まさにこのような状況だ。


 私の銃撃とローブの少年が放った魔術式で、ゴブリンどもの勢いは大きく削がれた。あとは油断なく迅速に刈り取ればいい。


「行くぞ!!」


 私は再び左手で剣を抜くと、両手にそれぞれ別の剣を構えてゴブリンの集団に突撃する。それから少し遅れて両手剣の少年と片手剣の少女が続く。


 結果──ものの数分で全てのゴブリンを刈り取ることに成功した。


「実戦での試しも良好か」


 多少の助力・・があったとしても、以前までの二刀流の戦い方ではここまで迅速にこの数のゴブリンを殲滅することはできなかっただろう。


 やはり、銃剣これを選んだ私の目に狂いはなかった。


 私は満足げに頷きながら空薬莢を弾倉から排出し、新たな弾丸を込めてから銃剣ガンブレードを鞘に収めた。


「さて……問題はこいつらか」


 私は腕を組み、私の背後でへたり込んでいる三人の冒険者に目を向けた。


 私よりも圧倒的にゴブリンの討伐数は少ないはずだが、三人とも息も絶え絶えで地面に膝をついている。


「やれやれ。厄介な幼女の相手でもお腹が一杯なのだがな」


 ため息の一つくらい、許されるだろう。


 

銃剣の使い方で『ここって変じゃね?』というのは心の内側にとどめておいてください。

浪漫がそこにあればいいじゃないですか。



当作品を読んでくださった方ありがとうございます。

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[一言] やべぇ。マジで続きが読みたい!!暇潰しに読み始めたけどめっちゃ面白い!カンナとは違った魅力がある!
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