第8話
学園祭始まりました。
◆◇◆◇◆
学園祭当日。
天気は晴れて、段ボール造形も外に展示している。どのクラスの作品も凄いクオリティだ。
今年の学園祭は凄く盛り上がりそうな予感だ。
「片桐、俺は先に学校行くから。学校に着いたら、連絡してくれ。正面玄関で待ち合わせよう」
「はい! いってらっしゃいませ!」
片桐も学園祭を楽しみにしているようだ。
「それと、学校では敬語はなしで。行ってきます」
紫苑も高校生活初めての学園祭を楽しみにしていた。
◆◇◆◇◆
開会式が体育館で行われ、一般公開のために準備をしている。
紫苑もクラスの出し物の準備を手伝った。
そして、一般公開が始まる時刻。
すでに、多くの人が門の前で待っていた。一人一人にパンフレットを配る受付係は大変そうだ。
うちのクラスにもお客さんがちらほら見え始めた。
紫苑はクラスの係には入っていないので、シフトはない。それは愛梨も同様だ。
「紫苑、風紀委員のシフトはいつ?」
「今日は10時から12時」
「2時間もやるの!?」
「まぁ風紀委員の腕章つけて校内ぶらぶらするだけだからな」
「じゃあ私もついて行っていい?」
「いいけど、揉め事があったら危ないぞ」
「そのときは紫苑が私を守ってくれるでしょ?」
「はぁ、そんときはお前は逃げろよ」
紫苑の返答が良くなかったのか、愛梨は少し頬を膨らませたが、すぐに元に戻った。
「それで、親戚のお姉様はいついらっしゃるのかしら?」
「なんだよお姉様って。多分、お昼頃」
「しっかりと挨拶しないと」
なんだかやけに愛梨が気合いを入れている。
片桐は、お昼頃にお弁当を持って学校に来ると言っていた。
「それじゃあ、私と他のクラスとか見て回りましょう」
「そうだな」
二人で校内をウロウロしていると、クラスや部活で一緒の生徒に会いからかわれることもあった。
愛梨はその度、顔を赤らめている。対して、紫苑は中学時代と同じく受け流す。
こうして見ると、カップルが多い。学園祭時期だからか、中庭には多くのカップルがいた。
今の自分たちも、他人から見るとそんな風に見えるのかなと紫苑は思った。
◆◇◆◇◆
いろいろと見て回り、現在10時前。
「そろそろ風紀委員のシフトだ。本当にお前もついてくるのか?」
「うん!」
紫苑たちは本部に腕章を取りに行き、紫苑は愛梨に腕章をつけてもらった。
校内をウロウロとまわる。風紀委員の仕事中だからといって、クラスを見て回ってはいけないわけではない。
つまり、さっきと変わったのは紫苑の腕に腕章が付いただけ。
紫苑も愛梨とまわるのは楽しいので、特に文句はない。愛梨も楽しんでいるようだ。
ちなみに、風紀委員の相方には別行動にしてもらった。
◆◇◆◇◆
11時前。これまでは特に問題はなかった。
こんな人の多い、しかも学校で暴れる馬鹿もいないだろう。ガラの悪い人はちらほらといた気がする。
すると、紫苑のポケットに入れているスマホにメールが一通届いた。
片桐からだ。どうやらもう来たらしい。すぐにそっちに行くとメールで伝える。
「愛梨、正面玄関に行くぞ」
「う、うん。緊張してきた」
「……なんでだよ」
「いや、しっかり挨拶しないと。そして、戦力確認しないと」
「戦力確認て……」
愛梨は何がしたいのか。紫苑にはよくわからなかったが、とりあえず二人は正面玄関に向かった。
☆
正面玄関には、見る人を圧倒する美しさを持つ女性が立っていた。
彼女は、自分のスマホに届いたメールを確認すると、美しい笑みをたたえる。
そんな彼女に近づく複数の影があった。
「お姉さん一人? 凄く美人だね。俺たちと見て回らない?」
金髪でピアスをした男が声をかける。
片桐は三人の男に囲まれていた。
面倒なものに捕まったと思いながら、返事をする。
「連れがいるので」
まるでゴミを見るかのような冷たい目。見えない圧力がある声。三人の男は、竦み上がった。だが、諦める様子はない。
「お、俺たちと遊ぼうぜ」
男の一人が強引に片桐の腕をつかもうとする。
だが、片桐はそれを難なく避ける。
紫苑様以外の男に触れられたくない。そう思っていたので、反射的に体が動いた。
紫苑様の顔が早く見たいなと思いながら、まだ自分を取り囲む男たちを見据えた。
片桐なら一瞬で男達をねじ伏せられるが、それをする時間とエネルギーが無駄だと思った。
そこへ紫苑がやってきた。紫苑の顔を確認すると、片桐はぱあっと明るくなった。
紫苑も片桐を見て笑顔になったが、次の瞬間には険しくなった。男達を強引にかき分けて片桐の前に立つ。
「お待たせ」
紫苑は片桐を安心させるようにできる限りの笑顔を作る。
「なんだてめぇ。引っ込んでろ」
男の一人が紫苑を掴もうとする。
紫苑はその腕を取り、捻って関節を決めた。男は顔を苦渋で歪める。
そのまま動けない男を別の男にぶつけ、もう一人は腹に蹴りを入れた。
その後、三人は先生方に取り押さえられ強制的に校外へ出された。
そのとき紫苑は初めて風紀委員でよかったと思った。
「紫苑さ……紫苑、大丈夫?」
片桐は、紫苑様と言おうとして慌てて言い直す。
それが紫苑にはとてもおかしく見えた。
「早苗姉さんこそ大丈夫だったの?」
紫苑は笑いを必死に抑えて問う。
片桐のことは早苗姉さんと呼ぶことにした。
「私は大丈夫よ。紫苑が守ってくれるから」
早苗姉さんはいつもの微笑で紫苑を見つめる。呼び方を変えても、態度は変わらない。
そうやって、甘い雰囲気を醸し出していると不機嫌な声がかけられた。
「紫苑、そろそろ私にもお姉さんを紹介して欲しいのだけど」
完全に愛梨の存在を忘れていた。
〜続く〜