第11話
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白雪が鷹司家に来てから六年後。
その間も、鷹司姉妹と紫苑の関係はかなり良好だった。
相変わらず白雪は紫苑に懐いている。それは、千冬の方も同じだが。
喧嘩などほとんどしなかった。したとしても、すぐに仲直りした。
今年から白雪も中学校に入学する。もともと千冬が通っていた中学校だ。ちなみに千冬は、高校生だ。
白雪が中学校に入学する少し前、ちょっとした問題が起きた。
◆◇◆◇◆
桜が満開に咲いている。その花びらがそよ風によって靡くたび、少しずつ散って地面にピンクの絨毯を作っていた。
白雪の小学校の卒業式が終わったばかり。白雪は、少し長い春休みだ。
今日はのどかな日曜日。千冬と白雪は鷹司邸の庭に面した部屋で、桜を見ながらティータイムを楽しんでいた。
「これなら、お花見もいらないわね」
「お家でお花見が出来るなんて贅沢です」
今では白雪も千冬や紫苑に対し、敬語で話すようになっていた。
「そうね。紫苑にも見せてあげたいわ」
「お兄様は、春休み中に遊びに来てくれないのですか?」
白雪が少し寂しそうに聞く。
「そうね〜また連絡してみましょうか」
「はい!」
白雪が元気に応える。
オープンにした窓から春の心地よいそよ風が、千冬と白雪の間を通り抜ける。
「本当に白雪は紫苑のことが好きね。まぁ私もだけど」
「もちろんです!」
白雪は、すでに自分の気持ちを理解していた。
これは、家族愛や千冬に対する愛とも違う。
白雪は、紫苑を男の人として好きになった。もちろん、兄のような存在として慕っているが。
ーー紫苑に恋をした。
他の男の人には、決して抱くことのない感情。
いつも一緒にいたい。
紫苑を喜ばせたい。
紫苑のことが気になる。
紫苑が他の女の子と仲良くしてほしくない。
白雪の心には、常に紫苑の存在がどこかにあった。
白雪がそれに気付いたのは、いつのことだったのか。千冬にもわからなかった。わかったことは、大人になったこと。もう子どもではない。
「白雪、あなた小さい頃から医者になりたいと言っていたわね。それには、かなり勉強しなきゃいけないわ。中学校で最初からつまずかないようにね」
「はい、もちろんです。ですが……私の夢は一年前に変わりました」
「え⁉︎ そうだったの?」
「はい。まだ誰にも言ってませんでしたが」
「それで、将来の夢は?」
「……私は、組織に入りたいです……」
「なっ!……」
これには、さすがに千冬も驚きを隠せなかった。
千冬は、鷹司家の代表としてすでに組織の正式なメンバーだ。しかもかなり優秀。
「ちょっと待ちなさい! どうゆうこと⁈ あなたは、組織に入る必要はないわ!」
千冬がいるので、白雪は組織に入る必要はない。
「はい。わかっています。ですが、お兄様も去年この時期からトレーニングを始めたと聞きました」
「それは、紫苑が一条家の次期当主だからよ」
「知っています。私が組織に入る必要がないことも。お姉様が私の組織加入を望んでおられないことも」
「……」
「ずっと一緒にいたのですから、わかります」
白雪の目には確かな覚悟があった。
「ですが、私の夢は組織に入ることです。入って、組織内で仕事をすることです。お姉様のように」
「……待って、よく考えて。組織に入れば危険にさらされる。仕事も辛いわ。いつ誰に裏切られるかわからない。
あなたには、そんな道は選んでほしくないの。普通の女の子として生きてほしい」
これは、千冬の本心のようだ。
「お姉様が、私を心配してくださることには感謝しています。ですが、これは私も譲れません。
私は、これからもお姉様やお兄様と一緒にいたい。そして何より、お兄様の隣で笑っていたい」
これは、千冬にとって可愛い義妹の願いでもあり、彼女からの恋の戦線布告でもあった。
「私は、お姉様やお兄様には到底かないません。それでも、諦められません」
いくら千冬でも、これを止めることは不可能だった。それに、恋のバトルも正々堂々としたかった。
「……わかったわ。その代わり、あなたにもトレーニングを受けてもらうわ。この三年間で十分実力がついたら認めましょう」
「望むところです」
白雪は自信に満ち溢れていた。
〜続く〜
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