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第26話/揺れる境界線(3)/RISA


ミトハロに来て七日目。

太陽がちょっと顔を出した早い朝。

あたしは砂浜に隣接した木々の陰に隠れるようにして目の前の光景を見ていた。


ボサボサ頭とポニーテールが何かの練習をしてる。

魔法で掴み合った後に殴り合い。

殴り合いの中で加速したり相手を魔法で吹っ飛ばしたりしてる。

〝離れるやつ〟アネットがブローチの時に使っていた魔法だ、あれ。

ギブアップっぽい時にナギの背中にタッチしている。

なんでナギもあの魔法使えるの?

いつから使えるの?

なんであたしには教えてくれないの?

どこで買ったの?

あたしはポニーテールを注意深く見る。


よかった。

たいしたことない。

あれなら別に。

色々言う割にそこまでじゃないんだ。

なにがよかったなの?

二人とも楽しそう。

あんなナギの顔見たことない。

ああいう顔できるの?

あれって本当にナギ?

アルセナに行くまでの馬車で三回も吐いてたあのナギ?

なんであたしの前ではしないの?

あたしなんかした?

あたしなんかナギに変な事言った?

いつからできるの?

なんでできるの?

なんでそれに当たるの?

弱すぎない?

なんで食らった瞬間に自分も当てにいかないの?

あいつこんなに弱かったの?

体術なら二人よりもあたしの方が上。

ナギは自分で回復できるのになんでアネットがべたべた触ってるの?

おしり触ってない?

別におしりに怪我なんてしてなくなかった?

離れる魔法なんて関係なしに突っ込めばいいのよ。

使われてもどうせ離れるだけなんだから。

攻撃を当てるために使われるのなんて別にいいじゃない。

どうせ軽い一発を当てるためだけにわざわざ魔法使ってくれてるんだから。

なんでそんな事もわかんないの?

なんであたしはわかるの?

あたしは魔法なんて使わなくても当てられる。

よかった。


肩の力が一瞬抜けるのがわかる。


いや、何が?

あたしはアネットより強い。

別に勝ち負けじゃないけど。

今顔当たったキスした絶対にキスした!

魔法の練習じゃないの?

なんでやってるの体術なのにあたしに教わりに来ないの?

アネットにも別に教わってるわけじゃないし。

ただ殴り合いしてるだけじゃん。

こないだ砂浜でやってたみたいに不思議な使い方してないじゃん。

あたしの方が強いじゃん。

あたしなんかした?

別に何かを教えてるわけじゃなかったんだ。

じゃあなんで?

あたしと何が違うの?

あたしのせい?

キューとかアネットといる時とあたしの時、ナギはなんか違う気がする。

なんかあたしずれてる?

なにがずれてる?

あたしがずれてるの?

あたしのせい?

あたしなんかいった?

なぎがまわりになにかいわれた?

まわりになんかいわれたんじゃないの?

よわいふりしてるの?

かまってもらえるから?

あれあたってるのわざと?

なんでそんなのあたるの?

なんであてないの?

あたしがおかしいの?

まわりがおかしいの?

なんでおかしいの?

なんで?

なにがなんで?

あたしたいくつ?

あたしのほうがつよいのに?

からだにさわりたいからそれやってるの?

こうじつ?

まけたいの?

なんでまけてたのしそうなの?

あれやってもいみなくない?

なんであたしにこえかけてくれないの?

なんであたしのほうがいっしょがながいのにあたしじゃないの?

あたしなんかした?

なにがちがうの?

あたしべつになにもしてなくない?

なにもしてないから?

きのうのっくしなかったから?

でものっくしてもいない。

あたしはわるくない。

ぜんぜんわるくない。

あたしはしてる。

あたしはなんかしてる。

まわりがわるい。

わるいとかわるくないとかじゃなくない?

あたしがつよいから?

うらやましいから?

つよすぎてれんしゅうにならないから?

いみわかんない。

れんしゅうになるじゃん。

じゃあなんであたしじゃないの?

みんながよわいから?

なんでみんなはよわいの?

あたしがつよいから?

なんでつよいといけないの?

よわいからいいの?

そういうもんだいじゃないでしょ。

じゃあなんで?

なんであたしじゃないの?

あたしとまわりはなにがちがうの?



気づいたら宿の前にいた。




少しだけ眠っていたみたい。

太陽はまだ全然高くない。

少し散歩でもして時間つぶしながらドーゲンミライ道場に行く事にする。

行きたくない。

最悪の気分だった。

強いとか弱いとかミライ君は昨日言ってたけど、そうじゃなくてさ。

様子がおかしい人嫌いなのよ、あたし。

距離感おかしいんだよねあの人。

なんか近いし。

憂鬱。

早く帰ろ。

とりあえず宿を出て昨日通った裏路地の建物を縫うようにして走る。


道端で寝てる人がまたいた。

寝相がいいみたい。

あたしはけっこう悪い時あるから羨ましい。

オーイ!ってまた呼ばれたから大きな声で返事したら声が止んだ。

ちょっと離れたらまたした気がした。

同じところを早足でぐるぐる歩き回っている人はいなかった。

寝てる酔っ払いの人に足を手で軽く掴まれて驚いて顔を蹴り飛ばしちゃった。

大丈夫だったかな。

襲われたのかと思った。

少し走るスピードを上げる。

そういえば裏路地は暗いけど、喧嘩してる人とか争ってる人達が全然いない。

建物一階のちょっと開いた窓の隙間からじっとこっちを見てるおばあさんと目が合った。

気配とか音がなかったからブローチかとびっくりした。

窓すぐ閉めちゃった。

あれ?おじいさんだったかな?

向こうも驚いたよね。

急に目が合うと驚くよね。

最後にナギと目が合ったのっていつだろう。

なんで合わないの?

後ろで叫び声と同時に物が割れる音がした。

あたしのお母さんもよく物を落とすと叫ぶ。

なんか懐かしかった。



ドーゲンミライ道場に到着した。

足が重くなる。

引き戸を開けようと手をかけたけど開かない。

鍵?

今日は絶対にいるって言ったのに。

ほんと最悪。

ドーゲンさんをぶちのめした時の穴に回る。

腰を折って顔を穴に近づける。

手を当てた壁が柔らかい。

木材がかなり腐ってるみたい。

髪が垂れてきて見にくい。

中を覗き込むと貼ってある大きな〝一日一善〟が髪の間から目に入ってきた。

この言葉、ドーゲンさんとミライ君を思い出すから嫌い。


誰か人がいる。


髪を耳にかけて凝視する。

黒髪のミディアムヘア。

身長が高い。

ちょっと体格良い感じがする。

長袖のシャツを手首あたりまで少し捲ってる。


ため息をついたり髪を掻き毟ったりしてる。

困ってるみたい。


あたしの方を見た。

こっちに来る。

ブーツが鳴る音が近づいてくる。

ばれた!


「おい。てめぇ。」


荒い口調に焦って離れたけど遅かった。

腐った木材を手で毟り、ばりばりと大きな音を立てて女が穴を広げる。

ミディアムヘアの女性が少し屈んで広がった穴から顔を出した。

綺麗な顔立ちの人。

でも怒ってる?


「てめぇ、ここのじじい見なかった?ドーゲン。あと唇に傷のあるナヨナヨした男。ずっと待ってんだけどよ。いねぇのよ!今日いるって言ったのによ。」


後ずさりしてると矢継ぎ早にミディアムヘアの女性は続けた。


「てめぇ、ドーゲンの仲間?」


細目になる黒髪の女性。


「違います違います!あたしも今日いるって聞いたから来たんです!」


焦って手を前に出す。


「あー。そう。わりぃ、わりぃ、ま、じゃあ中入って待てば?」


ミディアムヘアの女性は豪快に壁の穴を広げる。

ほら。と顎で中をしゃくった。


「あ、あの、いいんですか?」


「あ?何が?」


「壁…。」


あたしは少し身を屈めながら穴をくぐる。

前を歩く女性は横顔だけこちらを向いて雑に返事をした。

両腕にブレスレットをしてる。

壁の断面を触ると相当腐ってる。やわやわだ。


おそるおそる答える。


「いいも何も、借りた金返さねぇあのジジィがワリィんだよ。何日待ってると思ってんだよ。クソ!あ、てめぇ、もしかして道場の生徒?」


ミディアムヘアの女性の体がこちらを向いた。


「いえ!違うんです!あたしもお金貸してる?っていうか、もらえる事になってて…。今日なら絶対にいるっていうから来たんです。」


あたしは焦って否定する。

黒髪の女性は腹を抱えて笑いながら道場の中央辺りから壁際に移動する。


「おめぇさ!もしかしてあの賭けに勝ったの!?あれインチキだぜ!詐欺詐欺!」


こちらを向く黒髪女性。

声を張っている。


「詐欺?」


「攻撃当てたら一日、、いくらだっけ?当てられなかったら入会ってやつ!」


「あれやっぱり詐欺だったんですか!?当てましたけど…。」


床を見ながら当時の事を思い出す。

やっぱり詐欺か。


「一緒にいるナヨナヨした奴が魔法使いでよ!あの顔に二つの怪我の跡があるやつ!

そいつが小声で唱えんだよ。そこにいる奴らはほとんどドーゲンしか見ねぇだろ?

だからちょっと手翳してもバレないって方法。なんの魔法かはわかんねぇけど。興味ねぇし。」


最悪、ミライ君もグルじゃん。


「でも良く当てたなぁ!ドーゲンは強くねぇけど体の使い方うめぇのに!おめぇ、名前は?」


「リサです。」


「ふーん。俺は〝サファ〟ね。よろしく~。」


サファと名乗った女性は興味なさげに返事をした。

壁を手で撫でながらゆっくり歩いている。


「俺、ここの道場に金貸してんだよな。だからたまーに来てんだけどよ。一向に返しゃしねぇ。」


立ち止まるサファ。

あたしを向いて続ける。


「ま、お互い被害者だな。最初は返すんだよあのジジイ。すぐ雲隠れしやがる。」


「あたしの時と一緒です。」


「な!ああっ!ほんっとイライラする!あのジジイ!」


言い終わると同時にサファは近くの壁を蹴り破った。

腰よりちょっと高い位置に穴が開いた。


「あ…。」


あたしは思わず声が出る。


「あー勘違いすんなよ?俺は気性はちょっぴり荒れぇけど仁義は忘れねぇ女だ。

今開けた穴は、これは借金からちゃんと引いといてやるつもりだから。

ちなみに今入ってきた穴の修理の依頼も俺が受けてたんだよ。

まぁ、俺が大きくしちまったけど。それは無料でやるとしてだな…。

あのクソジジイといると儲かってるはずなのにイライラしてどんどん金がなくなってく気がすんだよ!クソッ!」


少し噴き出すリサ。


「じゃあ俺は一旦帰ってまた来るわ。リサ、おめぇもさっさと帰った方がいいぞ。勝手に入ってるとこ見られたら不法だとか侵入だとかあのジジイ喚き出して金要求してくっからよ。俺は付き合いそこそこ長ぇから返り討ちにするけどおめぇはたぶん違うだろ。」


「あっはい、そうします。」


壁の穴に歩き出すサファを追うようにあたしも向かう。


「ちょっと俺、金が必要でよ、ちょくちょく来てると思うからよろしくな。ドーゲン見つけたら捕まえとくから、おめぇもここで見たら縛っといてくれよ。たぶんドーゲンよりリサの方が強ぇからよ。」


「はい。そうします。」


お互い少し笑う。

挨拶して別れた。



その日の晩、ナギの部屋をノックしてみた。

ちょっと遅かったからか返事はなかった。

ナギは明日もアネットと砂浜でやるのかな。

毎日やってるの?






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