第123話/ヴィーナス!ヴィヴィヴィ!ヴィーナス!/RISA
ある日、夜空の中にいた。
周りに星星星。とにかく星。
暗すぎてなんか怖かった。
なんか足浮いてる?と思ったら立ってた。
あたしここ、来た事ある。
目の前にぼんやりと〝何か〟が現れる。
弱く光り、球体の形になった。
大きめの馬車の車輪くらいの高さまで膨れたかと思うと、分裂した。
かたっぽは、人の形になっていってる。
綺麗な胡桃色のロングヘアーが靡いてる。女の人。
気づいたら目が丸くなってた。
「女神さまじゃん!」
思わず声が上がっちゃった。
頭の上には赤と白の草がいくつもくっついてるようなリングを被って、片方の肩が出ているドレスが艶っぽい。
ドレスの色は黒かった。
いいなあれ。オトナって感じ。えっち。
ナギってこういうの好きなのかな。
ひたひらした裾から、手首だけがちょんと出てた。
その女性の周囲には光る虫みたいなのが少ないけど飛んでた。
なにあれ?ハエ?
周りを覆ってる光が落ち着いて、女神さまがくっきり見える。
星空の中で立ってる女神さまって、絵になる。きれい。
「勇、者リ、サ、よ。」
体が跳ねた。頭の中に声が響く。
声震えてるし、唇が変な感じに半開きなんだけど。
女神様、笑ってない?
「あた、しはす、きよ。貴、方の、事。」
急に告白してきた。震えた声。
女神さまは片手を口に当てて、目尻が緩んでた。
肩も震えてんだけど。笑ってんじゃん。
「ありがとうございます!あたしも女神さまの事好きですよ!」
丁寧に話す。
心が不安定なのかも、刺激しないようにしないとね。
その言葉に返さず、女神さまが優しく聞いてきた。
「勇者リサ。こないだ会った時ね。覚えているかしら。貴方、ちゃんと毎日お祈りするって言ってたの。してくれてるかな?」
女神さまは、ぼんやりと光る球体に手をついて体重をかけている。
微笑んでるけど、目が笑ってない感じ。
「してますよ!」
してません!ずっとトマト太郎見てたから!
目を逸らしちゃった。
力強く言ったから大丈夫でしょ。
小刻みに吐息が漏れる音が聞こえた。
顔を上げると、球体から手を離して、ドレスの太腿あたりを掴んでる。
もうかたっぽの手は口を覆って、目が赤い。
女神さま!泣いてるの!?不安定過ぎない!?
「あなたって、本当に〝THE・人間〟って感じよね。」
どゆこと?人間だけど。
目細めて見ちゃった。
ガンつけんなよ!って叫んできたドミヌスの人が浮かぶ。
腰の柄に咄嗟に手を伸ばす。剣がない。
突っかかってきたドミヌスの人、元気かな。
そんなに血は流れていないと思うから。
「基本的に自分の事しか考えないし、メリットがありそうなら飛びつく。快感大好きだけど、それが快感だとは言葉に出来ないまま日々生活してる感じ。〝THE・人間〟ね。周りの人達が気持ちいいっていう事が気持ちいい事になっていくのも人間っぽいわあ。」
語尾が弾んでいた。
ガンつけんなよ!って言ってこなくてよかった。
この人の声すき。澄んでる?落ち着く。寝ちゃいそう。ああ、今が夢ね。
「はあ。」
相槌から力が抜ける。
声は好きなんだけど、何言ってるかわかんない。それがたまにキズ。
女神さま、今にやついてるし、馬鹿にされてる気がする。
「あんなに〝緑の髪のパンピー〟が丁寧にね。執着について本当に丁寧に教えてくれたのに。」
女神さまの肩が震え出す。
パンピー?聞きたかったけど、ナギに時間かけすぎって注意されたばっかりだったのでやめた。
「あ、なた、そこ、に突、っ込、んでいく、ってど、ういう、了、見よ!くくっ!は!」
球体に手をついて俯いちゃった。
噴き出してんじゃん。
「あの!本日はどのようなご用件でしょうか!」
巻いた。
こんな事してる場合じゃない。
はやくナギに会いたいから。
体を向けながら髪をかき上げる女神さまと目が合った。
不敵に笑ってる感じ。
強そう。
強いの?この人。
ラグナロクに手をかけようとしたけど、腰になかった。
何回やるのこれ。癖って怖い。
「つれないわねえ。」
妖しい声がした。艶やか。なんかえっち。
「クラックランに着いたなら、出てこようと思ってたんだけどね、今のあなた見てると、明日にはいなくなってそうで。出てきたのよ。勇者の誕生がよかったのかしら。〝信仰〟ちょっと溜まってきたわよ。やるじゃない。」
女神さまが投げキッスしてきた。
「あの!本日はどのようなご用件でしょうか!」
あたしのその言葉に、女神さまはため息をついていた。
片っぽの掌を上に向けて眉を困った感じにくねらせて言う。
「あのねえ、リサ。あたしと話すのって、貴重なのよ。涙を流して喜ぶ人なんてザラよ。最近は少なくなってきたと思ってたけどね、まだ意外といるみたいよ。そういう人。」
まあいいわ。そう言って女神さまは本題に入る。
「今日はね、魔法をあげようかなって思って。」
魔法!?
ほしいほしいほしい!バシナリー広場で色んな人が魔法使っててめんどくさかったのよ!
ちょうど興味持たないとなって思ってたところだったの!
って叫びそうになっちゃったのを堪える。
「感謝いたします。」
ちゃんとクールな声になってる?
「えっ、あんまりだった?ほしくないの?飛び掛かってくるほど欲しいかと思ってたのに。」
目を丸くした女神さまに冷静に反論した。
「ほしいです。とても。」
立膝でどうだ!
目線を下げる。
「あなた、急に大声出したり、へりくだってきたり、様子おかしくなっちゃったわねえ!」
女神さまは手の甲を口元に当てて大笑いしてる。
笑った顔かわいい。
「いいわ。あげるわね。魔法の名前はね〝びびび〟よ。」
「びびび!?」
立ち上がりながら聞き返す。
「そう。〝びびび〟。リサ。人間にとって、最も幸福な状態とはなんでしょう。」
にやついた女神さまから、それっぽいなぞなぞが来た。
ぜんっぜんわかんない。
でも答えたかった。
一生懸命考えたくて、こめかみに左右の手で指を当てながら目を瞑る。
鼻の頭に皺が寄っちゃってたかも。
ゆっくりでいいわよ。少しの笑いを含んだ優しい声が聞こえてきた。
前までは、お金持ちって幸せなんだろなって思ってた。
たくさんお金があれば、人生何周も遊んで暮らせると思うし。
でも、今、五千万エンテ持ってるけど、全然幸せじゃない。
水も飲めないし、お腹だって空いてる。ナギも近くにいないし。お金があっても何もできないじゃん。
人が幸せな状態ってなんだろ。
お腹いっぱいの時?でもお腹なんて、すぐに空いちゃうし。
寝てる時?…はそもそも意識ないし。
愛してくれてる人とエッチな事する時は、何もいらない。すんごい幸せだってネリが言ってた。マリも言ってたかも。でもあたし、そういうのまだした事ないしわかんない。
別に人を斬っても、スカッとする時はあるけど一瞬だし…。
幸福だとは思わないんだよね…。
ぜんっぜんわかんない。
でもわかんないわかんないって言うの、もうやめたくて、間違っててもいいからちゃんと言いたかった。
変わりたい。でもぜんぜんわかんなかった。
わかんなかったから、あたしが思う幸福な状態を言おう。
それしかない。
目を開けると、眉を上げて微笑んだ女神さまと目が合った。
絶対に目を逸らさない。
「あの。わかりません。でもわかりませんって言って、もう逃げたくないんです。だから、あたしが幸せだって浮かんだ状態を言ってもいいですか。でも、気持ちを言うのってとっても怖いんですね。女神さま、笑わないでくれますか。」
言いながら、ちょっと睨んじゃったかも。
そういうわけじゃないんだけど。
口角の上がった女神さまが、ゆっくりとした瞬きに併せて頷いた。
胡桃色の前髪がふわっと揺れた気がした。
「あの、、あたし、ナギの事、、、もう一人の勇者の子、好きなんです!今までは多分、別に好きじゃなかったんだけど、ミトハロの出来事でとっても好きになりました。」
女神さまは両手を口に当て、まあ。と声を出していた。
頬が赤くなってる気がした。
「一緒にいるっていいわよね。幸福ね。今はちょっと喧嘩しちゃってるかもしれないけれど、きっとまた仲良しに戻れるわ。大丈夫よ。応援してるわね。」
「違うんです!」
つい、強く言っちゃった。
女神さまが目を丸くしてる。
「あの!今のまま一緒にいようとしても!無理なんです!あたしの周りにそれまでにいた…、他の人達が居なくなったから、ナギに靡いてるだけでしょ!って絶対に思われます!ばかなあたしでも考え付くんだから!ナギは絶対に考え付くはずなんです!多分、すごいんです!彼!」
何が始まるのかという表情の女神さま。
目を合わせたまま声を張ると、息が上がる。胸がどきどきした。
「できる事なら!彼をコントロールしたいのかな?とも考えました!彼の手足を捥いで、一生あたしの傍に置いておきたいのかなって!でも違ったの!そういう猟奇的な感じじゃなかったのです!」
一瞬顔が曇ってたけど、すぐに安心したように女神さまが微笑んだ。
「でも!ナギの幸せだけを考えて行動するってのもなんか違うんです!あたし!女が近づいてきたら斬ると思います!殺しちゃうと思うんです!ナギが別の女の人を好きになったら!あたしその人の事を暗殺すると思います!」
女神さまが目を細める。
「っぅんあああ!なんて言っていいのかわからないのですが!とにかくあたしは!とっても好きな人にどうやって気持ちを伝えるかで!今そういうのを考え中なので!ナギの近くにいないといけないんです!一緒に居なくても答えが浮かばないんだから!一緒に居て考えまくるしかないんです!はやくしないと誰かほかの女の人に盗られてしまいます!彼!目を離すと他の女とすぐに抱き合ってるんです!」
あっと声を出して付け足した。
「ナギがエーテルノードぶっ壊しちゃったので!この大陸の人達から、ナギはとても狙われると思うんですけどね!そういうのを守りたいっていう気持ちもありますよ!もちろん!安全で居てほしいんですが、そこそこ危険も迫ってほしい!じゃないとあたしの価値がないですし!」
うわぁ…。女神さまから、そう声が漏れた気がした。
「だから!あたしの幸せな状態は!ナギナギと一緒にいる事なのです!」
ラグナロクを振り翳そうと思って、腰に手を伸ばしたけど、そもそもなかった。
女神さまは胡桃色の髪を両手で掴み、上体をぐわんぐわん揺らし出した。
少し唸ると、球体に手をついてボサボサの髪のまま、あたしを見て口を開く。
なんか疲れてる?
「まあなんていうかね、人の幸福な状態って〝気づける状態〟なのよ。」
「気づける状態…。」
よくわかんないんだけど。とりあえず聞くことにした。
女神さまは低い声で続ける。
なんか怒ってる?
「そう。そういう意味ではね、あんたのその、今の状態は幸せなのよ。あんた、あまりにも下劣過ぎるから、今のあんたを人間の幸福って定義するのは嫌だけれどね。」
「今のあたしが…幸せですって…?」
口調が変わっちゃった。
いけないいけない。
怒られちゃう。
「そう。今のあんたで言うと、〝気持ちを話すのって怖いんですね〟とかね。そういうのに気づけるってのは、人間で一番幸せな事なのよ。人は独りだと狂うっていうけれど、別に狂わないわ。〝気づける世界〟があるかどうかが重要なの。新しい事に気づけるって楽しいし、痛みを伴う気づきだってこれ以上ない成長よ。そんな〝気づき〟素晴らしいわね。自分は成長できる、自分が成長できたって実感できる事こそが、人間の最大の、幸福の状態なの。」
自分の頬の保湿を確認するようにしっとりと撫でながら女神さまが言った。
顔にかかった髪を小指でわけながら微笑んだ。
「今のリサの言い方だと、少年の横にいるのは少し怖いけど、居たいわけよね?それって気づきたいって事よ。どうしたら想いを伝えられるのかっていうか、どうしたら一緒に居られるか。それに気づきたいって事よね。あんたが言うと、何故かちょっと邪な感じはするけど…。あんた、健康に害がないなら、少年のごはんに睡眠誘導系の草とか混ぜそうよね。」
目を丸くした。
その作戦があったか。
たしかに気づけるって幸福な事ね。
「あんたの話が重くて話題が逸れちゃった。〝びびび〟はね。気づける魔法。もう発動してるから大丈夫よ。」
「もうしとるんですか!?」
焦っちゃった。
女神さまは頷いた。
「人が気づくってね。大変な事なの。まずは気づける状態じゃないといけない。心に余裕があったり、視野や思考を広げるトレーニングをしたりね。目の前の現実に呑まれてはダメよ。その上で、気づきたい事に関心を持ってないといけない。〝関心があります!〟って言い聞かせじゃダメなの。〝本心から〟そう思わないと気づけないのよ。だから気づける魔法ってすごいわよ。さすが女神魔法って感じね。」
女神さまは肩幅くらいに足を広げて、腰に手を当てていた。
えっへん!って言い出しそうな得意げな顔でかわいかった。
えっへんとは言わなかったけど、うふふとは言ってた。
この人、なんかかわいい。
「どうしたらそれが発動したってわかるんですか!?あたし自分でも気づけますよ!」
かわいさに見惚れて、大事な事を聞き忘れそうだった。
叫んで聞いた。何故か鼻で笑われた気がした。
「すぐわかるわよ。」光る球に腰掛けながら言う。
足を組む時に黒いドレスから太腿がぬるって出てきてどきっとした。
おしり見えそう。
キスしろって言われたらすると思う。それくらい綺麗な足だった。
女神さまは髪をかき上げると、微笑んで続ける。
「誰かの声みたいな感じで入ってくる事もあると思うわ。普段の〝気づき〟とはちょっと違うから、少し怖いかもしれないけどね。脈絡ない感じでふわっと湧くときが多いんじゃないかしら?」
あたしが口を開きそうなのを察したのか、女神さまは言葉を切らなかった。
「気づきってね。自分だけのものじゃないの。他の人の想いも混ざってるって言ってもいいかもしれないわね。」
「他の人の想い?あたしはあたしですよ。」
口がとんがっちゃったかも。
女神さまがアネットみたいな事言い出しそうで胸がもやもやした。
「あなたを〝作っているモノ〟。あなたを〝象っているモノ〟。あなたを〝形成するモノ〟には、他人も含まれてるって事よ。」
高笑いされた。
眉間に皺が寄っちゃった。
「他人が自分に入り込んでくるって意味じゃなくてね。他人に触れる事であなたが出来上がっていってるって事よ。」
はい!アネットきた~!
白目剥いちゃった!
女神さまの噴き出した声が聞こえた。
「リサ、あなた下か上に家族、きょうだい?いる?」
「弟がいます。」
「性格は?」
周りを飛ぶハエみたいのに微笑みながら、女神さまが聞いてきた。
耳の裏を掻きながら少し考えて答える。
「慎重かもしれません。でも、たまにストレートに物事を言いますね。」
「それは、あなたと比較してでしょう?」
頷きながら首を傾げちゃった。忙しい。
「弟を見る事で自分の性格を知ったじゃない。あなた〝から〟見て弟は慎重って事でしょ?言い換えれば、弟よりかは、あなたは慎重ではない。弟を通して自分を知ったじゃないの。自分の中には他人がいるってそういう事よ。他人がいないと自分も存在しないわ。」
短い声が出た。
なるほど。そういう事ね。
「家族だけじゃないわよ。他人もそう。人と関わっていると、嫌な事言われる時ってあるじゃない?それを〝嫌だ〟って思えたって事に気づけるって事は、そういう価値観なんだって知れたって事よ。大抵は人と会う事で、そういう気づきの土台みたいのが集まっていくものなのよ。」
女神さまの表情が得意げになった。
腕組みをした状態から片手を出し、掌を上に向けて言う。
「ところがこの女神魔法。〝びびび〟に関してはね。そういう制約がないの。それがこの魔法の本質よ。あなたが世界に心を開いている限り、人と出会う必要はないわ。気づけるって本当にすごい事なのよ。流れてくるわよ!気づきが!迫ってくるわよ!新しい自分が!人の想いだけでは世界は変わらない。でもそれが人に届くとね、何かが変わるものなの。変わらない事ってね、それを認知した瞬間に、変化なんだからね。」
嬉しそうに目尻を緩ませ、声を上げる。
「人間ってね!すっごく繊細なの!気づくのも技術なのよ!仮に〝本当に〟気づけていたとしてもね!不安になるの!やれ他の人から洗脳されただの!やれ騙されてるだの!警戒しちゃうものなのよ!気づくって怖いの!昨日までの自分を否定する事だからね!それを無条件で気づきだって感じられるのが〝びびび〟よ!強いわよ~!この魔法!」
胡桃色のロングヘアが揺れる。
前髪をぱっぱっと払いながら、女神さまの声のトーンが落ちた。
「あ、でも、怒らないでね。全然発動しない事もあるから。」
「えっそうなの?ですか?」
つい聞き返しちゃった。
「はあ?何言ってんの?当たり前でしょ?」
食い気味に高い声が返ってくる。
呆れた顔で顔をぐわんと揺すると、続きを話す。
「大体ね。死ぬまで気づけない人間なんて、たくさんいるのよ?これ本当よ?それを何よあなた。〝びびび〟をもらったからって常に気づけるみたいな?そういう風に思ってるの?訪れる事が確約された気づきなんて、もはや気づきじゃないじゃないの!答えが降ってくるのが気づきじゃないのよ!リサのばか!ごみ人間!」
今、ごみ人間って言った?
咳ばらいをして女神さまが話をまとめる。
「まあそんなところね。あんたの事、あたしけっこう好きなんだから頑張んなさいよ。面白すぎるでしょ
。人間、とし、て完成さ、れ、てるわ、よ。あ、んた。」
褒められちゃった。
優しい笑顔でそう言われると、胸が暖かくなる。
小さく頷いた。
咳ばらいを二、三度する女神さま。
声のトーンを変えて「なんか聞きたい事ある?」そう言った。
「女神さまは、あたしに肩入れしていいんですか?あたしっていうか、個人の人間に肩入れしてもおっけいな存在なんですか?」
女神さまが目を丸くした。
は?なんで?
「意外とまともな事、聞けるじゃない。見直しちゃった。」
あんたバカだから、好きな体位とか聞かれるかと思ったわ。ぼそりとそう呟かれた後、鋭い目つきの女神さまと目が合った。
「ダメね。ダメ。肩入れしちゃだめよ。」
首をゆっくりと横に振りながら言った。
眉を上げ、ぼんやり光る球体から立ち上がる。
ドレスの裾が豪華に揺れる。
「でも、その辺は人間も一緒よ。身体に悪いと言われているのにお酒は飲むし、なんかの葉っぱの煙だって吸うでしょう?」
目を合わせたまま頷いた。
たしかにそうね。
女神さまは口に手を当てて、大きな欠伸をしながら聞いてきた。
「なんで?」
「はい?」
言いながら顔が前に出る。
「なんで?なんでわざわざそんな事聞いてくるの?」
「黙っといた方がいいのかなって、思いました。」
何気ない顔で答えた。
誰によ!そう言いながら、女神さまが大爆笑した。
お腹を押さえて、大きく口を開け、細くなった目の端に優しそうな皺が少しだけ寄り、胡桃色の髪が揺れた。
綺麗な人の大笑いってすんごくかわいい。
見惚れちゃった。
とてつもない爆笑で、最後引き笑いになってた。
ブローチみたい。
楽しそうにしてくれてたからか、気づいたらあたしまで微笑んでた。
「頭のおかしいあんたがね!女神がどうとか言ったって!今よりももっと!精神異常者として扱われて終わりよ!〝女神様からもらった魔法でびびびと来たの!〟とでも言うつもり!?」
は?言うつもりだったんだけど。
すんと表情が消える。
しばらく爆笑する女神さまを冷めた顔で見ていたら、言葉に遅れて目が開く。
えっ。あたし頭おかしいの?精神異常者なの?
疑問を見透かしたように女神さまが笑って言う。
「ちょっと頭がおかしいくらい!気にしないの!リサ!人間の一生懸命なんてもんはね!所詮誰かから見た狂気よ!あなたは一生懸命進めばいいのよ!生きればいいの!がんばんなさい!」
これ励まされてるの?
あたし今、何されてるの?
笑いが落ち着いたのか、淡々とした声で女神さまが言った。
「ああ、あと。〝こんぷら〟もつけとくわね。あんたの事だから適当に発動すると思うけど、別に気にしないでいいわ。」
村にいた頃、ちょっと重めの風邪をひいちゃった時を思い出した。
偶々来てた隣村のお医者さんが、帰りがけにお薬を追加する時の口調みたいに女神さまは言った。
頭おかしいって言われてショックだった。
もうあんまり会話したくなかったから、何も聞かなかった。
女神さまは、ぱんと手を叩く
「今日はこれで終わり!リサ、じゃあね!頑張るのよ!あっあとあたしの名前ね!〝ヴィーナス・ヴィヴィヴィ・ヴィーナス〟よ!覚えといてね!シンプルにヴィヴィでもいいし!捻ってヴィスリーでもオッケー!かっこカワイイいいじゃない!ヴィーナもいいわね!できればかわいく呼んでね!」
満面の笑みの女神さま。
特に反応しなかった。
死んだ顔してたかも。
もうだるくて。
笑顔で手をひらひらと振るヴィヴィヴィが白んでいった。
*
目を開ける。
太い枝の上で膝を抱えて寝てた。
落ちなくてよかったって毎回思って目覚めるのがしんどくなってきた。
女神様がきた。〝びびび〟もらった。
気づき?なんだろ、結局。どういう事?
心臓が、ばちんと跳ねた。
はっとする。
愛してくれてる人とするエッチな事は、何もいらない。すんごい幸せだって…なんでマリが知ってるの…?えっ…?うぉぁぁ…。
マリって…、エッチな事…した時あるの…?あたしと同い年くらいじゃなかった?あれ!?ひとつ下だっけ!?なんかマセてると思ってたけど…。
えっそんなはやいの?
女神さまとの記憶はほとんど思い出せなかった。
なんか色々喋った気がするけど、〝びびび〟をもらった事と、女神さまの名前くらいしか思い出せなかった。それどころじゃないのよ。




