表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/90

番外編 白銀の誓いと、とろける祝福

 ――結婚式当日、王都は朝からざわついていた。理由はひとつ。


「副団長が、結婚するらしいぞ」

「“らしい”じゃない、“する”だ」

「しかも団長が仕切ってる」

「……あの人が?」


 騎士団本部の空気は、戦前よりも張り詰めまくった状態だった。


「よし! 配置確認! 装飾班、花は左右対称だと言っただろう!」

「団長、ここは祭壇ではなく大聖堂です!」

「知っている! だからこそ完璧にする!」


 団長はなぜか正礼装と指示書を三冊抱え、完全に自分の結婚式のテンションで走り回っていた。


 誰も止めない。止められない。なぜなら――。


「……団長、張り切りすぎでは」

「副団長の人生最大案件だぞ? 手を抜く理由があるか?」


 その背後で、騎士団員たちは一斉に頷いた。


***


 祭壇の前。白い装飾に包まれた大聖堂で、真琴は少しだけ緊張していた。けれど――。


「真琴」


 リオンに名前を呼ばれた瞬間、その緊張は全部が綺麗に溶けた。


 白銀の甲冑を礼装用に仕立て直したリオンが、まっすぐ真琴を見ている。いつもの鋭さは影を潜め、代わりに浮かぶのは、どうしようもなく優しい眼差しだった。


 リオンの手が、迷うことなく真琴の腰に添えられる。そして彼の耳元で、低く囁いた。


「逃げないでくれ。今日は」

「逃げないよ。伴侶を置いてどこに行くの」


 その一言で、リオンは完全に落ちた。腰に回る手の力が、ほんの少しだけ強くなる。



***


「では誓いを――」


 司式を務める神官の声が響く。リオンは、迷いなく真琴の前に跪いた。王国騎士団最強と謳われる男が、ただ一人の前でだけこうして膝を折る。


「……この人を生涯の伴侶とし、命を賭して守ることを誓います」


 ざわ、と騎士団が揺れた。


「“命を賭して”は誓約文に含まれていないぞ!」

「副団長仕様だ」

「むしろ、まだ控えめだろ」


 真琴は小さく笑って、リオンの手を取る。


「僕も誓うよ。君の隣で生きるって」


 その瞬間、指輪がはめられ、方々から白い花びらが舞い、ラディス団長が誰よりも大きく拍手した。


「よし! 誓いのキスだ!!」

「団長、声がでかい!」


 リオンは一切気にせず、真琴の頬に手を添え――誓いのキスを丁寧に落とした。


***


 式のあとは、騎士団総出の祝宴。


「副団長、おめでとうございます!」

「既婚者です!!」

「副団長、料理を――」

「既婚者です!!」

「……もういいから食べてください」


 真琴はその様子を、少し離れた席から眺めていた。


(リオン、すごく幸せそうだな……)


 すると、いつの間にか隣に来た団長が、満足げに腕を組む。


「どうだ」

「……国を挙げて祝われてる気がします」

「当然だ。副団長と、その伴侶だぞ?」


 真琴は少し照れながら、会場を見渡した。騎士たちの笑顔と盛大な祝福。そして――視線に気づいたリオンが、すぐこちらに来る。


「真琴、離れすぎだ」

「さっきまで、楽しそうに団員たちに囲まれてたじゃない」

「それとこれは別だ」


 当たり前のように腰を引き寄せられ、耳元で囁かれる。


「……もう、私の伴侶なんだから」


 重くて、甘くて、どうしようもなく幸せな声を耳にして、真琴は小さく息を吐きながら笑った。


「うん。僕の夫だね」


 その一言で副団長は、今日一番の笑顔を見せた。


***

 朝だった。正確には、朝になってしまった。真琴が最初に意識したのは――重い。物理的にも精神的にも。


「……リオン……?」


 掠れた声を出すと、腰に回されていた腕がきゅっと締まった。


「起きたか」


 即反応。しかも声が低くて、やけに満足げだった。真琴は天井を見つめたまま、静かに悟る。


(……あ、これ……完全に“初夜後の朝”だ)


 シーツはきちんと整えられているし、部屋も静か。でも、リオンの額は真琴のこめかみに触れるほど近く、手は昨夜と同じ場所にある。


「……リオン、近い」

「夫だから」

「まだ朝だよ」

「朝でも夫だ」


 理屈が強い。しかも離れる気ゼロ。真琴が少し身じろぎすると、リオンは小さく息を吐いて、耳元で囁いた。


「……一晩中、夢じゃないか確認していた」

「……」

「朝になっても、まだここに真琴がいて……安心した」


 重い。でも――。


(リオン……かわいいよなぁ……)


 真琴はそっと手を伸ばし、リオンの頰に触れた。柔らかな肌に指を滑らせると、リオンは目を細めて、優しくその手にキスを落とした。


「足りない……もっと、君を感じていたい」


 その言葉に、真琴の胸が温かく溶ける。初夜の余韻が、朝の光の中でさらに甘く広がっていく。


***


 問題は、その後だった。着替えを終え、二人で廊下に出た瞬間。


「……副団長?」


 通路の先にいたのは、早番の騎士団員。視線がリオンの首元 → 指輪 → 真琴 → 指輪 → 二人の距離と、完璧な軌道で移動する。


 一秒。


 二秒。


「……あ」


 その一言で、終わった。


「おはようございます!!!!!」


 なぜか直立不動。なぜか声がでかい。リオンは即、真琴を半歩背後に庇った。


「何か?」

「い、いえ!! その!! お幸せそうで!!」

「当然だ!」


 さらに別の団員が合流した途端に。


「副団長、今朝やけに機嫌が――」


 言いかけて、指輪を見る。


「……」

「……」

「……」


 三人目が、何も言わずにその場から走り去った。


「ちょ、待っ――」


 真琴が止める前に、廊下の向こうから叫び声がした。


「副団長が!!!!! 完全に既婚者の顔してる!!!!」


 数分後。騎士団内に、爆速で情報が回った。


***


 執務室。団長は二人の顔を見た瞬間、すべてを察した。


「……ああ」


 そして静かに言う。


「初夜、終わったな」

「団長!!」


 真琴が真っ赤になる横で、リオンは背筋を正す。


「副団長……」

「はい」

「返事が早い!!」

「昨夜、正式に“伴侶”となりましたので」

「聞いてない!!」

「報告書は後ほど」

「いらん!!」


 団長は額を押さえ、深く息を吐いた。


「……で」


 ちらりと真琴を見る。


「副団長は今、どんな感じだ?」


 真琴が答えるより先に、リオンが言った。


「非常に幸せです」

「それは見りゃわかる」

「一生、この朝が続けばいいと思っています」

「重い!!!!」


 団長の叫びが、廊下に響いた。


***


 その後。騎士団員たちは、やけに優しかった。書類は勝手に片付く。仕事は軽くなる。視線は温かい。そして――。


「副団長」

「はい」

「……昨夜は、おめでとうございます」

「ありがとうございます」


 真琴は横で、小さくため息をついた。


(……完全に、全員にバレてる……)


 でもリオンの手が、そっと指を絡めてくる。堂々と隠す気ゼロで。


「……いいんですか、仕事中なのにこんなに密着して」

「当然だ」


 指輪に視線を落とし、穏やかに笑う。


「私の伴侶だから」


 真琴は、観念して笑った。


「……重い夫だね」


 その一言で――リオンは今日一番幸せそうな顔をした。


「最高の褒め言だ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ