表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/90

番外編 各国からの贈答品

 翌朝、目を覚ました瞬間、違和感があった。


「……重い」


 腰に腕。というか、完全に抱き枕扱いされている。


「……リオン、起きて」

「起きている」

「じゃあ離れて……」

「無理だ」


 即答した直後、蒼い瞳を細めたリオンが不敵に微笑んで言葉を続ける。


「昨日、公の場で既婚者宣言をした」

「うん……」

「その後、真琴が隣にいることを再確認する必要がある」

「なんなのそれ、理由が重い!」


 そのとき。


 ――ドンドンドン!!


 扉が激しく叩かれた。その様子はまるで、これから悪いことでも起こるような雰囲気で。


「副団長殿!! 至急!!」


 リオンが、ようやく体を起こす。僕もそれに倣ってのっそり起きたものの、太い二の腕がしっかり腰に回っていた。


「どうした」

「……あの……その……」


 扉越しの声が、明らかに引きつっている。


「各国からの……贈答品が……」

「贈答品?」


 昨日の今日である。どうにも嫌な予感がした。


「……どれくらい?」

「……廊下が……ほぼ埋まりました」

「埋まりました⁉」


 ふたりで顔を見合わせて驚き、慌てて身支度をして扉を開けた瞬間――見えた。


 箱の山――宝石箱・木箱・金属箱。しかもでかいものが多数!


「……なにこれ」


 扉をノックしたであろう団員が、青い顔で説明する。


「ええと……“副団長殿の伴侶・真琴殿へ”という名目で……」

「伴侶って書いたの誰?」

「……全員です……」


 箱の札を見て、僕は言葉を失った。


『東方連合より、永遠の祝福を』

『北海王国より、護符と宝飾一式』

『南方諸国より、夫婦円満の香油』

『敵国(元)より、心からの謝罪と絹織物』


「え……敵国まで?」


 リオンが、満足そうに頷く。


「よし」

「よしじゃない!!」

「世界に真琴が私の伴侶だと、伝わった証拠だ」

「これ、伝わりすぎだよ!!」


 団長が、廊下の向こうから現れた。目が死んでいる。


「……副団長」

「なんだ」

「各国から“伴侶殿の好み”についての問い合わせが来ている」

「答えは一つだ」

「嫌な予感しかしない」


 リオンは、一切迷わず言った。


「私だ」

「……は?」

「真琴の好みは、私だ」

「質問の意味が違う!!」


 王様まで出てきた。


「……真琴殿」

「は、はい……」

「これはもう……外交案件だ」

「えっ」

「贈答品の受領、返礼、お礼状……」


 げんなりした表情の王様の手が、僕の肩にそっと置かれる。


「国を挙げて対応する」

「……僕、ただの菓子職人なんですけど……」


 リオンが、当然のように言う。


「私の伴侶だ」


 団長が、白目で言った。


「それが一番の問題だ……」


 僕は廊下いっぱいの箱を見て、ようやく自覚した。


 ――ああ。僕は今、王国最強騎士の“伴侶”として、世界に認識されているんだなって。


「……ねえ、リオン」

「なんだ」

「昨日の既婚者宣言……ちょっと、やりすぎじゃなかった?」


 リオンは、少し考えてから答えた。


「足りなかったか?」

「足りてる!! 十分すぎる!!」


 その手が、また自然に絡んでくる。


「安心しろ」

「なにが?」

「贈答品は、すべて私が守る」

「……そういう意味じゃないってば」


 でもその横顔は、とても誇らしそうだった。


 ――世界が敵でも、この人は味方でいてくれる……しかも重い。でもちょっとだけ、嬉しかった。


***

 ――結果から言うと、世界は本気で僕を守る気だったみたい。


「……ねえ、リオン」

「なんだ」

「これ……全部……僕宛て?」

「当然だ」

「“当然”の基準が怖い……」


 王宮の一室。長机いっぱいに並べられた箱、箱、箱。


 団長は壁際で腕を組み、もう諦めた顔をしている。


「では開封を始めるぞ……内容によっては検閲対象だ……」

「中身で検閲?」


 最初の箱。北海王国の紋章。ぱかっと開いた瞬間――。


「……え」


 銀色の外套。触れただけで、ひんやりと魔力が走る。


「これは防刃・防魔・防呪三重構造のマントだな」


 リオンが即解説した。


「真琴、寒がりだから」

「寒がり情報、どこから漏れたの?」


 団長が呻く。


「生活情報まで把握されている伴侶って、いったい……」


 次、南方諸国の箱。中身は――瓶、瓶、瓶。


「これは……香油?」

「“伴侶の精神安定用”だそうだ」

「誰の精神を想定してるの?」


 リオンが、一本手に取って匂いを嗅ぐ。


「……落ち着く」

「もう効いてる!」


 団長が呆れた顔で言い放った。


「いろんな意味で危なすぎる。副団長の使用制限を設けろ!!」


 次、東方連合。重い箱。中から出てきたのは――。


「……え、鈴?」


 小さな金の鈴。


「危険を察知すると鳴る護符だな」

「どういう仕組み?」

「真琴が怯えたら鳴る」

「僕基準!」


 団員がぽつりと呟いた。


「……副団長殿、それ常時鳴りません?」

「鳴ったら、真琴を怯えさせたものを全力で排除する」

「用途が怖い!!」


 次――元・敵国からの贈答品。全員、少し緊張する。恐るおそる箱を開けると。


「……布?」


 生地が柔らかそうな、見るからに上質な服。そして添えられた手紙。


『この服は、剣を向けられても引き裂けぬ強度です』

「なにそれ!!」


 リオンが、真顔で頷いた。


「理にかなっている」

「かなってない!!」


 最後の箱。どこの国か分からない無記名。恐々と開けた瞬間。


「…………」


 中にあったのは、分厚い書類の束。タイトル《副団長リオン殿・過剰行動時の対処マニュアル(真琴殿用)》


「これ……誰が作ったの?」


 団長が、そっと目を逸らした。


「我々だ……」

「国を挙げて何してるの?」


 リオンが、不満そうに言う。


「私は過剰ではない」

「“過剰”って書いてあるよ!!」


 そのときリオンが、静かに僕の手を取った。


「だが、安心した」

「え?」

「世界が、君を奪う気がないと分かった」

「奪う前提なんだ……」

「当然だ」


 リオンの指が執拗に僕の指に絡む。


「だが――」


 少しだけ、声が低くなる。


「奪おうとしたら、全員私の敵になる」

「重い!!」


 でも贈答品の山を見て、僕は苦笑した。


「……ねえ、リオン」

「なんだ」

「これ、全部“あなたの伴侶”って前提で選ばれてるんだよ」

「誇らしいな」

「そこは照れて!」


 リオンは、少しだけ口元を緩めて言った。


「守られているな、真琴」

「……うん」


 国に。世界に。そして何より――この人に。


 ……重い。でも贈答品より僕の肩に回された腕のほうが重いのは、きっと気のせいじゃない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ