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番外編 真琴、軍務局の“安全管理マニュアル”を見てしまう

「真琴殿、こちらでございます」


 案内された部屋の前で、僕はきょとんとした。


「えっと……団長に呼ばれたって聞いたけど、なんだろう。会議で出す守護菓子の差し入れの件かな?」

「い、いえ……本日はその……副団長殿に関する、書類の確認をお願いしたいとのことで……」


(――書類? リオンに関する?)


 嫌な予感がした。ここに来る途中で騎士団員が“僕を直視できない”のも、すごく嫌な予感がした。


「えっと……入りま――」


 扉を開くと、ラディス団長が満面の笑顔で待っていた。他にも知らない人達が椅子に座って、僕の様子を見つめる。


「やあ真琴殿! さぁ座ってくれ、これを見てほしいのだ!」


 机の上には分厚い資料が積まれている。


(……え。なんか……表紙に僕の名前?)


《真琴殿 安全管理マニュアル(第一稿)》作成:軍務局・王国騎士団


「…………」


 固まる僕に、団長は爽やかに言った。


「副団長リオン・ヴァルハートの精神状態を安定させるために、真琴殿の扱いを明文化したものだ」

「……副、団長の……精神?」

「うむ。つまり君の状態次第で、リオンの戦闘力と判断力が乱高下するだろう?」


(――お、おぉぉぉぉぉい!)


 団長は書類をペラッとめくり、まるで天気予報の説明みたいに平然と読みあげた。


「ほら、まずここ。“真琴殿の負傷は副団長の戦闘不能を招くため、細心の注意を払うこと”」

「えええ……!」

「そして、この項目も重要だ。“他男性と真琴殿が近接して会話する際は、副団長が暴走しないよう団員が監視に入ること”」

「暴走って何ですか?」

「嫉妬だ」


(――団長が真顔で言い切った!!)


「続いてここ。“真琴殿に頭を撫でられると、副団長の精神が異常安定化する”」

「それ、絶対軍務書類に書く内容じゃない!!」

「そう言うが、事実なのだから仕方ない」


(――いや、事実ならいいってものじゃない!)


 僕は震える指でページをめくった。


●副団長が真琴殿の不在で落ち込んだ場合、早急に真琴殿へ連絡し対処を依頼する。


「待って? 僕、完全に精神安定剤扱いに?」

「その通りだ」


(――やめてええええええええ!!)


●真琴殿が泣いた場合、副団長は即時、動揺・怒気・保護行動が同時発生するため、近隣に避難誘導を行うこと。


「避難? 僕が泣いたら避難されるの?」

「副団長が、周囲に危害を加える可能性があるからな」

「そんな物騒な!!」

「まあ、怒りの矛先は“泣かせた原因”に向かうから安心したまえ」


(――安心できるかああああ!!)


 勢いよく机を叩いた、その瞬間。


 コンコン。静かなノック音。団長が眉を上げた。


「おっと、本人が来たようだ」

「ほ、本にん?」


 扉が静かに開き――“死にかけている”顔のリオンが立っていた。


「…………真琴」


 声が死んでいる上に、目が泳いでいる。顔が真っ赤すぎて色が変わっている。


「り、リオン! あの、これ……」

「見ないでほしかった!!」


 リオンは頭を抱えて、その場に崩れ落ちそうだった。


「団長!! なぜ真琴に見せた!!」

「必要なことだからな」

「必要ではない!!」


 団長は、まったく気にしていない。


「真琴殿が内容を把握しておいた方が、副団長も落ち着くだろう?」

「落ち着かない!! むしろ死ぬ!!」


(珍しくリオンが叫んでる……よほど恥ずかしいんだ)


 僕はそっと書類を閉じた。


「リオン」

「……真琴……っ、見たのか……全部?」

「うん……僕のせいで、こんなに?」


 リオンはガバッと顔を上げた。


「違う!! 真琴が悪いのではない!!私が……その……弱くて……だな…………団長に書くなと言ったのに!」

「言ってませんよ?」

「団長ーーー!!」


(――団長が本気で楽しんでる!!)


「で、真琴殿。感想はどうだ?」

「か、感想?」


 僕は少しだけ照れながら、正直に言った。


「……なんか……そんなふうに思ってくれてるの、僕は嬉しかった」


 その瞬間、リオンがその場に崩れた。


「――っっっ!!」


 ガタン! と大きな音。騎士団最強の副団長、膝から崩れ落ちる。団長は「あーあ」と笑った。


「ほら、見たまえ軍務局諸君。“真琴殿関連で副団長が即死する例”を追加しておくように」


(――追加しないでぇぇぇえええ!!)


「り、リオン!」


 慌てて駆け寄ると、リオンは顔だけじゃなく耳まで真っ赤して震えながら、


「……真琴……君が嬉しいならいい……私の……恥は……どうにでも」

「どうにでもって言わないで!」

「もう……だめだ……今日は動けん……」


 強靭な騎士が、恋人の一言で完全に機能停止した。そんなリオンを見て、団長は満足げだった。


「よし。では“真琴殿の言葉によって、副団長が行動不能となる場合の対処”も追記しておこう」

「追記しないでーーーーー!!!」

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