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プロローグ-3 『初仕事と、あの世からのお尋ね者。』

 目にしたもの……それは薄く光をまとった、『未知の存在』だった。

 公園の一部分を覆い尽くすほどの数で、霊体のようにウヨウヨしていて、どう見ても『この世の者』じゃない。明らかに非現実的な存在を前に、もうカナデもマリエも、この件から足を引けなくなってしまった。


「いやいや!!た、倒すって……何!?意味分かんないんだけど!?うわぁぁぁっ!!!」


 当然の反応を示すカナデだったが、謎のウヨウヨは、そんな彼の元へ突如突進してきた。慌てて腕を前に構えるが、そんな子供騙しでは何も出来ずに、カナデは後方へと大きく吹き飛ばされる。


「うがっ!!い、いった……っ!!」

「バイト君!?ちょ、あ、アンタ達ね!私たち今日初陣なんだし、少しは手加減しなさいよ!!」

「いや、そんなの伝わるわけないだろ!」


 どこまでも当てにならないマリエにツッコむカナデだが、ウヨウヨは当然構わずに、二人に対して集団で襲いかかる。


「や、やばっ!!バイト君!ちょ、は、早く起きて起き……いやぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「ま、マリエさ、髪!!髪引っ張んないで!いたいいたいいたいいたい!!!」


 猛スピードで突進してくるウヨウヨ集団に勇敢に立ち向かう……ことはなく、全力で公園内を逃げ回るマリエとカナデ。あんなに戦う素振りを見せていても、所詮はどちらも未経験の素人。

 責任を持つこともしてこなかった女性管理職と男子高校生に、何が出来るというのか。


「マリエさん!!やっつける方法知らないんですか!?」

「そんなの、知るわけないでしょ!」

「は!?なんで!?」

「大学の授業サボってて、全然人間世界のこと聞いてなかったの!!」

「何ドヤってんだよ!アンタ、俺のマネージャーじゃないのかよ!?」

「名目上、はね!?」

「最低すぎるだろ!!」


 自分からバイトに誘っておいて、業務内容を何一つ理解していない。とんでもない奴だ。ここまでずさんな管理職がいる組織など、信用できるわけがない。これなら体育会系の元に行った方が明らかにマシだった。


「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……って、あれ?」


 また掠れた声で運命を嘆いた……とその時、ふとカナデは周囲を見て、街を行き交う人々の静けさに気づいた。


「この化け物……他の人には、見えてないんですか?」

「みたいね……確か、カイドウは『あの世からのお尋ね者』は、悪魔適性のある人間にしか見えない……とか、言ってたっけ」

「カイドウ?」

「私の同僚よ。もう、アイツってば……能力の出し方とかも、ちゃんと全部まとめてしっかりと教えときなさいよね……」

「能、力……」


 自分で知っとけよ……そう思わずにはいられなかったが、どうやら悪魔適性を持つ自分たちは、何らかの『能力』が使えるようだった。

 使い方は、分からない。だが、得体の知れない存在達から殺意を向けられる中、この場を切り抜けるためには、その能力を解放するしか手はない。


「明日月曜だし、普通に学校だし……こんな渋谷なんかで、死んでらんないし!ああ、もう!!やるしかないってことでしょ!」

「おっ!バイト君頼もしいね!このままみんなやっつけちゃって!!」

「ふざけんな!!人のこと巻き込んどいて!!アンタもちゃんと考えろ!!」

「うぐ……す、すんませ、ん……は、はい!」


 すると、これまでグルグルと円状に逃げ回っていた動きを止め、今度は二人でバラけるように公園上を走り出し、『あの世からのお尋ね者』達を撹乱し始めるカナデとマリエ。

 なんとか時間を稼ぎつつも、その限られた中で、何とかして能力を引き出さなければ。


「はぁ、はぁ……にしても、どうすれば、いいのかしら……」

「どうすればいいんだろう……考えろ、考えろ、俺……」

「うーん……あ、念じれば出るんじゃない?詠唱とか魔法とか、最近の漫画とかにも、そういうの多いじゃん?」

「えっと……こういう時って、よく漫画とかだと、念じれば出る系多いよな……」

「だから、そう言ってんじゃん!!え、聞いてないの、バイト君?」


 何やら言ってる声は聞こえたものの、カナデは無視し、近年の漫画のトレンドでもあった『無双系』を思いつく。

 念じれば叶ったり、最悪神様が勝手に色々やってくれたり、最早絵作りのための、ありふれたご都合テンプレだらけの画の様子が、ちょうど脳裏をよぎった。


「ちょっと、漫画なら私だって見てるよ、バイト君!まあ、流石に都合良すぎじゃない?とか、そんないかにもな奴いる?とか、気になる作品もいくつかあるけど……」

「ぐぬぬ……ダメだ、何も出てこない。ご都合の一つや二つ、せめて現実にも起こってくれよ!」

「だ、か、ら、っ!!私の!!話!!!ちょっとくらい聞きなさいよっ!!!聞いてくれたっていいじゃんっ!!」

「……いや、なんか面倒臭くなったから」

「面倒臭いってヒドっ……そんなに、信用、できない?」

「いや、出来ないよ!アンタが今日一日やってきたこと、全部、自分勝手な独りよがりばっかりだからな!!」

「うぐ、っ……ふ、ふん、分かったわよ!そんなに言うなら、っ、やってやる、わよ……っ!!」


 高校生のカナデに散々に言われ、泣きそうになりながらも意地を張る大人のマリエ。どっちが子どもか分からなくなる中、マリエは向かってくる『あの世からのお尋ね者』達と正面から対峙して、嗚咽を漏らしながらも目を瞑る。


「な、泣いてるし……てか、何か策思いついたんですか?」

「ひぐ、えっぐ……っく……こういう時は……一か八かのヤケクソでっ!!!」

「へ?」




「ピンチは……チャンスよぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!」




 次の瞬間、マリエは何を考えたのか、自ら敵に向かって突撃していった。勢いだけでどうにかなるとでも思っているのか。無策にも程がある、あまりにも唐突過ぎる自殺行為に、慌ててカナデもマリエの後を追いかけた。


「ええぇぇぇぇぇぇっ!?ま、待って待って!!流石に、それは考え直し……」

「おりゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」

「落ち着いて、落ち着けって言ってるでしょうが!!」


 全力疾走するマリエの服、スーツの裾を何とか掴むが、マリエは止まることを知らずに、そのままカナデごと敵の中心へと突っ込んでいく。既に四方八方を囲まれ、今か今かと獲物を狙う視線が突き刺さる。


「ま、マリエさ……っ!?やばい……もう、後にも引けない……このままじゃ!!」


 ウヨウヨ達が円型に集合し、その場で渦を巻くように一種の層を作り、カナデとマリエを閉じ込める。マリエは最早錯乱状態にあり、その層にぶつかってもなお走り続けている。

 円の筒のような牢屋の中、頭上から次々と降り注いでくるウヨウヨ達。そこにある二体の身体をひしゃげさせて潰し、自らの脅威である存在達を葬り去るべく、攻撃を繰り出す。


「……これ……本気で、やばい、んじゃ——」


 その瞬間、カナデは本能的に何かを抱く。普段過ごす上では、何気ない親との会話の中では、学校という普遍的な状況の下では、絶対に思うことのない感情。


「あ——」


 初めて、そこで確かな『死』を感じた、次の瞬間。






 渋谷アーバンの二人は、自らの責務を知ることとなったのだった。

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