43:波乱の幕開け
「ルシファー!! 」
そう言ってしがみ付いてきた体をそっと優しく自分の腕で包み込む。
「リリス、どうしてここに…? 」
リリスの存在を確認するために顔を近づけて、その温もりと香りを確かめる。
この子はまぎれもなくリリス、だ。
「1人がね…怖くなって。ルシファーが今どこに居るのか、リリス、絶対分かるの! だから、来たの…。……ごめんなさい 」
その瞳から涙が今にも落ちてきそうだった。
リリスは俺にわざわざ会いに来てくれたのに…泣かせたくない。
強くそう思った。
「リリス、俺は何も困っていないし、寧ろリリスとこんなに早く会えて嬉しい。だから謝らなくていい。それに俺の居場所が分かるなんて、リリスはすごいな 」
頭を撫でてやる。
泣かせたくない、という俺の気持ちが伝わったのか、心地よさそうに微笑むリリスの顔が覗けた。
……よかった。
「リリス、もう遅いから早く帰って寝るぞ 」
「うん! 」
そうしてすぐに部屋に戻り、無事調達した枕で二人並んで平和にすやすやと眠りについたのだ。
…のだが、しかし…この時俺は重要なことを忘れたままでいた。
その場に残された侍女たちは、あの現場をどのように理解するのか…。
何も知らない者があの現場を見たら、ほぼ全員があらぬ方向へ勘違いするだろう。
『無口でクールなはずのルシファー様が、まだ幼い客人の娘ととても親密な関係である。』と。
『確かにあの幼い少女は美しかった…。でも今まで誰とも関係を持たなかったルシファー様があんな幼い少女に気を許しなさった。それなら私も見初められる可能性があるかもしれない。』と。
噂に羽根や尾が付くのは当然のことだ。
しかしここはエデン一族の敷地内。
皆、我先に何とか気に入られて、いい暮らしがしたいと思っている者も少なくない。
例え、魔力がなかろうがなんだろうが、地位と財産を手に入れようとする者にとってエデン一族の一人である俺、ルシファーはいい駒なのだ。
伸し上がろうと考えている者にとって、この噂は絶好のチャンス到来の予言。
俺たちが眠りに就いた時にはすでに屋敷中の使用人に、噂という名の予言は知れ渡っていた。
そしてこの噂が今後とんでもない事件を巻き起こすことになる。
そんなことになるとはつゆ知れず、俺は横に居る愛おしいリリスを眺めていた。
熟睡しているリリスの柔らかな髪を何度も何度も撫でて愛でる。
心というものが俺の中に存在していると教えてくれたリリス。
それだけでなく、リリスはただ傍に居るだけで俺の心を満たしてくれる…温かいものにしてくれる。
言葉では言い尽くせない存在だと、改めて思った。




