21 地下トンネル
ザハラを出発してから、二日が経った。
レインたちは、北東へと向かっていた。次の裂け目の場所は、山岳地帯の地下にある、ドワーフの廃坑。かつては、大陸有数の鉱山として栄えたが、深淵の影響で魔物が溢れ、閉鎖されたらしい。
「ドワーフの廃坑、か。坑道は、複雑なんだろうな」
レインが地図を広げながら言う。ミアが、隣から覗き込んだ。
「ドワーフの坑道って、迷路みたいになってるんでしょ? 迷子にならないかな」
「大丈夫だ。俺の次元感知があれば、方向は分かる。それに——」
レインは、システムの表示を見た。
《クエスト:廃坑の裂け目を封鎖せよ》
《報酬:殺戮ポイント15,000 KP、スキル『暗視Lv1』》
《期限:なし》
《拒否:可能》
「暗視のスキルが手に入れば、坑道でも困らない」
「なるほどね。じゃあ、さっさと片付けちゃおう」
ミアが、意気込む。セレスティアが、苦笑した。
「焦らないで。坑道は、何が潜んでいるか分からないわ」
「分かってるって」
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廃坑の入り口に着いたのは、昼過ぎだった。
山の中腹に、大きな穴が開いている。周囲には、錆びた鉄道のレールと、打ち捨てられたトロッコ。かつての栄華を思わせる遺構だ。
「ここが、入り口か」
レインは、魔素支配で坑道の中を探った。深淵の魔素が、奥から溢れ出している。だが、それ以上に——
「……いるな。かなりの数だ」
「魔物?」
「ああ。坑道の奥に、密集してる。百体以上」
「百体以上……!?」
セレスティアが、息を呑む。レインは、頷いた。
「深淵の影響で、魔物が巣食ってるんだろう。だが、倒せばKPも稼げる。一石二鳥だ」
「相変わらず、前向きね」
リィエルが、少し呆れたように言う。シャドウは、黙って短剣を確認していた。
「行くぞ」
坑道の中は、暗かった。松明の炎だけが、頼りの光源だ。壁は、人工的に掘られた跡がある。天井からは、水滴が落ちる音。空気は、ひんやりとしている。
《暗視スキル未取得。視界不良》
「まずは、暗視のスキルを手に入れたいな。どこかに、魔物がいるはずだ」
レインが言うと、前方から、物音が聞こえた。小さな影が、いくつも蠢いている。坑道鼠——地下に棲息する、小型の魔物だ。
《坑道鼠を感知》
《推定脅威度:Dランク》
「丁度いい。倒して、暗視を手に入れる」
レインは、魔素の剣を形成し、坑道鼠に斬りかかった。坑道鼠は素早いが、レインの次元感知の前では無力だ。一体、また一体と倒していく。
《魔物を討伐しました。殺戮ポイントを獲得しました:30 KP × 15》
《坑道鼠討伐数:15/30》
「あと十五体、か。もう少し、探すか」
坑道を進むと、広い空間に出た。そこには、坑道鼠の巣があった。数十体の坑道鼠が、蠢いている。
「ミア、リィエル。援護を頼む」
「分かった!」
ミアの魔法具と、リィエルの風の魔法が、坑道鼠を次々と倒していく。レインとセレスティアが前衛で、残りを殲滅した。
《坑道鼠討伐数:30/30》
《クエスト:坑道鼠を30体討伐せよ——達成》
《報酬:スキル『暗視Lv1』を獲得しました》
《スキル『暗視Lv1』:暗闇でも、周囲の状況を把握できるようになります。完全な暗闇では効果が薄れますが、松明なしでも行動可能です》
「よし、暗視を手に入れた」
レインは、松明を消してみた。暗闇の中でも、壁の凹凸や、坑道の構造が、ぼんやりと見える。完全ではないが、十分だ。
「これなら、先へ進める」
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坑道の奥へ進むにつれ、深淵の魔素が濃くなっていく。壁の一部が、黒く変色している。時折、裂け目のような空間の歪みが見えた。
「裂け目が、近いな」
レインが言うと、シャドウが、前方を指差した。
「あそこ。光が見える」
坑道の先に、青白い光が漏れている。近づくと、そこは巨大な空洞だった。天井は高く、まるで地下宮殿のようだ。空洞の中心に、裂け目があった。以前のものより、大きい。
《深淵の裂け目を感知》
《推定脅威度:Aランク》
「大きいな……。だが、封鎖できないことはない」
レインは、裂け目に近づいた。だが——
《警告:強力な魔物の気配》
《推定脅威度:Aランク》
空洞の奥から、何かが現れた。岩石巨人——岩でできた、巨大な人型の魔物。深淵の魔素で、変異している。目に当たる部分に、赤い光。
「岩石巨人……! しかも、深淵に汚染されてる!」
「レイン、どうする?」
「倒す。あれが邪魔なら、裂け目を封鎖できない」
レインは、魔素の剣を構えた。岩石巨人が、咆哮する。空洞が、びりびりと震える。
「セレスティア、ミア、リィエル、シャドウ。俺が引きつける。その間に、裂け目を封鎖する」
「無茶よ! 岩石巨人は、Aランクよ!」
セレスティアが叫ぶ。レインは、首を振った。
「無茶じゃない。俺なら、できる」
レインは、岩石巨人に走り出した。岩石巨人が、腕を振り下ろす。レインは、次元操作で回避し、反撃する。魔素の剣が、岩石巨人の腕を斬りつける。だが、岩は硬い。刃が、浅くしか入らない。
「硬い……! だが——」
レインは、深淵操作を発動した。岩石巨人の体内の深淵の魔素に干渉し、動きを鈍らせる。
「今だ! 裂け目を、頼む!」
「分かった!」
セレスティアが、裂け目に向かって走る。そして、次元操作のスキルを使い、裂け目に干渉する。セレスティアは、次元操作のスキルを持っていないが、レインが付与した魔素の護符で、一時的に使えるようにしていた。
「閉じろ……!」
裂け目が、ゆっくりと閉じ始める。だが、岩石巨人が、それを妨害しようとする。レインは、岩石巨人の前に立ちはだかった。
「お前の相手は、俺だ!」
レインは、『剛力Lv3』と『怪力Lv3』を同時発動。魔素の剣を、岩石巨人の急所——胸の中心にある、赤い核に叩き込む。
「——砕けろ!」
魔素の剣が、核を貫く。岩石巨人が、悲鳴を上げる。体が、崩れ始める。
《岩石巨人を討伐しました》
《報酬:殺戮ポイント18,000 KP》
岩石巨人が、崩れ落ちる。その隙に、セレスティアが裂け目を完全に閉じた。
《深淵の裂け目を封鎖しました》
《深淵の裂け目封鎖数:4/10》
《報酬:殺戮ポイント5,000 KP》
「……やった、か」
レインは、その場に膝をついた。深淵操作と、剛力・怪力の同時発動の反動で、体が重い。
「レイン!」
セレスティアが、駆け寄ってくる。
「大丈夫か?」
「ああ。何とか。……裂け目は、閉じたか?」
「ええ。完全に閉じたわ」
セレスティアが、微笑む。レインは、立ち上がった。空洞を見回すと、深淵の魔素が、薄くなっている。これで、この坑道も、少しずつ安全になるだろう。
「戻ろう。ギルドに報告しないと」
「そうね。……でも、その前に」
セレスティアが、レインの腕を掴む。
「少し、休んで。顔色が、悪いわ」
「……そうだな。少しだけ」
レインは、空洞の隅に座り込んだ。ミアが、ポーションを差し出してくれる。
「はい、これ。飲んで」
「ありがとう、ミア」
ポーションを飲むと、体が少し楽になった。シャドウが、黙って隣に座る。
「……お疲れ」
「お前もな」
シャドウは、少しだけ笑った。その笑顔は、以前より、ずっと柔らかかった。
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廃坑を出たのは、夕方だった。
ギルドに報告すると、ドワーフのギルドマスター——ドルグが、感激して迎えてくれた。
「よくやった! これで、坑道が使える! 資源が、また掘れる!」
「裂け目は封鎖しましたが、完全に安全になったわけじゃありません。しばらくは、様子を見た方がいいです」
「分かってる。それでも、大きな前進だ」
ドルグは、報酬の金貨三十枚を渡してくれた。そして、こう付け加えた。
「これは、俺からの礼だ。受け取ってくれ」
そう言って、ドルグは、ドワーフ製の魔道具を差し出した。小さな腕輪で、魔素を込めると、防御結界を張れるらしい。
「これは、俺が若い頃に作ったものだ。今は使わないが、お前さんたちなら役に立つだろう」
「ありがとうございます。……大切にします」
レインは、腕輪を受け取った。セレスティアに渡そうかと思ったが、彼女は首を振った。
「レインが、つけて。あなたが、一番危険な場所にいるんだから」
「……分かった」
レインは、腕輪を左腕にはめた。魔素を込めると、微かな光が腕を包む。これで、防御力が上がるはずだ。
---
宿に戻った夜、レインは、システムの表示を確認した。
```
【ステータス】
名前:レイン・クロウ
レベル:15
HP:195/195
MP:60/60
STR:46
VIT:50
AGI:68
INT:70
DEX:52
LUK:13
──────────
殺戮ポイント:225,586 KP
スキル:ゴブリン語Lv3、剛力Lv3、怪力Lv3、魔素支配Lv2、集団指揮Lv1、飛行Lv2、鱗鎧Lv1、水中適応Lv2、権威Lv1、次元感知Lv2、次元操作Lv2、魔族言語Lv2、炎耐性Lv2、魔力操作Lv1、深淵耐性Lv3、深淵操作Lv1、次元耐性Lv1、暗視Lv1
```
(レベル15。KPも、かなり貯まった。そろそろ、新しいスキルを考えてもいいかもしれない)
レインは、ルミナに意識を向けた。
「ルミナ。俺のスキル、もっと強化できないか?」
『はい。KPを消費して、スキルのレベルを上げることができます。ただし、高レベルのスキルほど、多くのKPが必要です』
「分かった。じゃあ——」
レインは、KPを振り分けた。
《魔素支配Lv2→Lv3:10,000 KP》
《次元操作Lv2→Lv3:12,000 KP》
《深淵操作Lv1→Lv2:8,000 KP》
《残り195,586 KP》
体の内側から、熱が湧き上がる。魔素の流れが、より鮮明に見える。次元の歪みが、手に取るように分かる。深淵の力が、以前より滑らかに操れる。
(これで、残り六箇所の裂け目も、楽に封鎖できるはずだ)
「レイン、何してるの?」
ミアが、部屋に入ってくる。
「スキルの強化。KPを、使った」
「へえ。強くなった?」
「ああ。……少しな」
ミアが、ベッドの端に座る。
「ねえ、レイン。あたしたち、このまま裂け目を封鎖し続けるの?」
「ああ。残り、六箇所。全部封鎖すれば、深淵の影響は、かなり減るはずだ」
「そうだね。……でも、あたし思うんだ」
「何を?」
ミアが、少し真剣な顔で言う。
「深淵の裂け目を封鎖しても、深淵そのものがなくならないなら、また新しい裂け目ができるかもしれない。いたちごっこにならないかな」
レインは、少し黙った。ミアの言う通りだ。深淵は、常に存在する。裂け目を封鎖しても、根本的な解決にはならない。
「……だが、今できることをやるしかない。裂け目を放っておけば、魔物が増えて、人が死ぬ。それは、避けたい」
「うん。あたしも、そう思う。……だから、言ったの。もっと根本的な解決方法を、探した方がいいんじゃないかって」
「根本的な、解決方法……」
レインは、ザイドからもらった地図を思い出した。砂漠の奥深くに眠る、古代遺跡。深淵に関する古い記録が、そこにあるかもしれない。
「ミア。お前の言う通りかもしれない。裂け目を封鎖するだけじゃなく、深淵そのものをどうにかする方法を、探すべきだ」
「うん。そのためにも、古代遺跡に行ってみようよ」
「ああ。残りの裂け目を封鎖したら、古代遺跡を調査する。それで、何か分かるかもしれない」
ミアが、にこりと笑う。
「決まりだね。じゃあ、明日も、頑張ろう」
「ああ」
ミアが、部屋を出ていく。レインは、窓の外を見た。夜空には、星が瞬いている。その中に、一際明るい星——ルミナの星。
『レイン』
声が、聞こえた。
「ルミナ。どうした?」
『ミアさんの言う通りです。裂け目を封鎖するだけでは、根本的な解決にはなりません。ですが——』
「だが?」
『古代遺跡には、深淵の始まりに関する記録があるかもしれません。それは、深淵を閉じる方法につながるかもしれません』
「分かった。残りの裂け目を片付けたら、古代遺跡に行く」
『ええ。……レイン。あなたの選択を、私は支持します』
「ありがとう、ルミナ」




