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机の前に座る。


スマートフォンの画面には、 非公開にしたアーカイブ一覧。


初配信。


そこに表示されていたはずの動画は、 もう消えていた。


里愛はしばらくそれを見つめてから、小さく息を吐く。


『……難しいですね』


ぽつり。


『配信というのは』


机の端にはメモ。


・本名を言わない

・窓を映さない

・制服に気をつける

・住所につながるものを置かない


達筆な字で書き直されている。


少し考えてから、 配信開始ボタンを押した。


画面右上。


視聴者数 0


『……こんばんは』


前回より、 少しだけ慎重な声。


『ええと、改めまして』


『配信名、リュシアです』


『前回は、その……色々と失敗をしてしまったので、撮り直しました』


沈黙。


数秒後。


視聴者数 1


コメント。


> きた




里愛は小さく目を開く。


『……こんばんは』


コメント。


> 今回は大丈夫そう?




『はい』


『窓も閉めました』


少しだけ誇らしげ。


コメント欄。


> 偉い

学習してる

成長したな……




視聴者数 3


『あと』


メモを見る。


『本名も、言わないように気をつけます』


> 前回マジで危なかったからな

リュシアちゃんネット弱すぎる

がんばれ




『ありがとうございます』


ぺこり、と小さく頭を下げる。 画面には映っていないのに。


コメント欄。


> 礼儀正しい

育ち良すぎる

こういうとこ好き




その時。


コメントが流れる。


> 背後の額縁外して




里愛がぴたりと止まる。


『……え』


慌てて後ろを振り向く。


壁際。


小さな額縁。


学院の記章。


『あ』


椅子がガタッと鳴る。


『す、すみません……!』


慌てて外しに行く。


コメント欄。


> あっぶねぇ

またかよ

保護者ニキ助かる

ずっと見てるなこの人




里愛は額縁を抱えて戻ってくる。


少しだけ息が乱れていた。


『……配信って』


『思っていたより、見る場所が多いんですね』


コメント。


> みんな見てるからね

ネット怖いぞ

特にお前みたいなのは




里愛は少し考える。


『……?』


『皆さん、優しいですよ?』


コメント欄が少し止まる。


> あー

危なっかしい

その感覚怖い

守らなきゃってなる




視聴者数 8


前回より増えている。


でも里愛は気付かない。


ただ、 机の上のティーカップに手を添える。


『今日は、ちゃんと紅茶を淹れました』


『前回は緊張して、味が分からなかったので』


小さく笑う。


その静かな声に、 コメント欄の流れが少しだけ緩やかになった。

深夜。


匿名掲示板サイト《裏窓ログ》。


配信者、炎上、噂話。 今日も無数のスレッドが流れていく。


その中。


【今週見つけた新人配信者を雑に語るスレ part128】



---


241:名無しの観測者

リュシアまた配信してたな


242:名無しの観測者

即見に行った


243:名無しの観測者

アーカイブ消えてて草


244:名無しの観測者

撮り直してたな


245:名無しの観測者

「窓も閉めました」

↑かわいい


246:名無しの観測者

完全に保護対象扱いで笑う


247:名無しの観測者

でもまた特定しかけてたぞ


248:名無しの観測者

額縁やばかったな


249:名無しの観測者

あの指示厨また居たな


250:名無しの観測者

もう保護者だろあれ


251:名無しの観測者

反応速度が異常


252:名無しの観測者

配信開始数分で額縁気付くのおかしい


253:名無しの観測者

多分最初から画面止めて見てる


254:名無しの観測者

怖ぇよ


255:名無しの観測者

でもあの人いないといつか事故る気がする


256:名無しの観測者

本人が危機感なさすぎる


257:名無しの観測者

「皆さん優しいですよ?」

↑ヒヤッとした


258:名無しの観測者

あれネット慣れしてない人間特有の危うさある


259:名無しの観測者

悪意知らなさそうなんだよな


260:名無しの観測者

箱入り感すごい


261:名無しの観測者

逆に今までどうやって生きてきたんだ


262:名無しの観測者

多分ガチのお嬢様学校


263:名無しの観測者

所作が綺麗すぎる


264:名無しの観測者

あのティーカップの置き方だけで育ち見える


265:名無しの観測者

なんでお前らそんなとこ見てんだよ


266:名無しの観測者

見ちゃうんだよ……


267:名無しの観測者

なんか空気が静かなんだよなあの配信


268:名無しの観測者

配信ってより誰かの部屋覗いてる感覚


269:名無しの観測者

分かる


270:名無しの観測者

生活音がリアル


271:名無しの観測者

雨音よかった


272:名無しの観測者

あれASMRカテゴリ行け


273:名無しの観測者

でも本人そういうの分かってなさそう


274:名無しの観測者

絶対、雰囲気がウケてるの理解してない


275:名無しの観測者

普通に紅茶飲んでるだけだからな


276:名無しの観測者

なのに見れる


277:名無しの観測者

不思議な配信


278:名無しの観測者

なんか疲れてる時見たくなる


279:名無しの観測者

分かる

静かすぎて落ち着く


280:名無しの観測者

でもたまに怖い


281:名無しの観測者

それ


282:名無しの観測者

本人じゃなくて周囲が怖い


283:名無しの観測者

あの監視コメのせいだろ


284:名無しの観測者

なんか知ってる感じするんだよな


285:名無しの観測者

関係者っぽい


286:名無しの観測者

姉説まだ推すわ


287:名無しの観測者

配信慣れしてない妹を監視する姉

↑ありそうすぎる


288:名無しの観測者

でも普通姉でもあそこまで気付かん


289:名無しの観測者

慣れてるんだろ


290:名無しの観測者

何にだよ


291:名無しの観測者

観察


292:名無しの観測者


293:名無しの観測者

学校指定の教材も置かないで


294:名無しの観測者

いた


295:名無しの観測者

早すぎる


296:名無しの観測者

見てるだろこれ


297:名無しの観測者

絶対リアタイ監視してる


298:名無しの観測者

本人にDMしろよもう


299:名無しの観測者

DM文化すら知らなさそう


300:名無しの観測者

確かに


301:名無しの観測者

あの子、多分まだネットを“人のいる場所”って認識してない


302:名無しの観測者

それだ


303:名無しの観測者

だから怖いんだな



---


深夜3時07分。


スレッドはまだ静かに流れ続けていた。

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