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『香りの招待状』  作者: 西崎小春


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プロローグ

それは、何気ない書き込みだった。

深夜の東京。 スマートフォンの画面に浮かぶSNSの投稿欄。

小清水亜衣は、ほんの少しだけ迷ってから、指を動かした。

「最近、噂のLuxeAgehaってサロン行った人いる? なんか不思議な体験するらしいけど。」

送信。

投稿はすぐにタイムラインへ流れていった。

特別な意味はなかった。 ただの興味本位。

都市伝説のような話を、最近よく耳にするのだ。

東京のどこかにあるというサロン。

名前は――

LuxeAgeha。

完全招待制。

場所は非公開。

そして、そのサロンについて語る人間は、なぜか決まって同じことを言う。

「説明できない」

と。

亜衣はスマートフォンを机に置き、コーヒーを口に運んだ。

少し冷めている。

仕事終わりの深夜。 部屋の窓の外では、遠くの幹線道路を走る車の音が途切れずに続いている。

再びスマートフォンを手に取る。

通知はまだ来ていない。

当たり前だ。

ただの雑談のような投稿だ。

誰かが反応するとしても、明日以降だろう。

そう思いながら、タイムラインを更新した。

そして、亜衣は小さく眉をひそめた。

投稿が――

ない。

ついさっき自分が書いたはずの投稿が、どこにも表示されていない。

削除した覚えはない。

アプリの不具合だろうか。

亜衣はもう一度検索する。

自分のアカウント。 自分の投稿履歴。

だが、そこにも表示されない。

まるで最初から書いていなかったかのように。

亜衣は首をかしげた。

少し考えたあと、肩をすくめる。

「まあ、いいか」

SNSの不具合など珍しくない。

そう思い、スマートフォンを机に置いた。

そのときだった。

ふと、部屋の中に――

香りが漂った。

ほのかに甘く、 それでいて凛とした香り。

花のようでもあり、 木のようでもある。

どこかで嗅いだことがあるようで、 しかし思い出せない。

亜衣は部屋を見回した。

アロマは焚いていない。

窓も閉まっている。

それでも、香りは確かにそこにあった。

ほんの数秒。

そして、すっと消えた。

亜衣はしばらくその場に立っていたが、やがて小さく息をついた。

疲れているのかもしれない。

今日はもう寝よう。

そう思い、照明を落とす。

ベッドに入る。

部屋は静かだった。

遠くの車の音だけが、かすかに聞こえる。

やがて亜衣は眠りについた。

その夜。

東京のどこかで、

一通の封筒が 静かに置かれた。

黒い封筒。

表には何も書かれていない。

ただ中央に、

金色の蝶が一羽。

そして、その封筒は――

必要な人の元にだけ届く。

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