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中華帝国軍 富山上陸

●太平洋上空 マラネリ王国軍旗艦“エトランジュ”

「“ランフレクシブル”……か」

 艦橋に立つ殿下が真横を航行する大型艦を前に首をかしげる。

「工作艦……だったな」

「はい」と、艦長席に座るキユヅキ艦長が頷いた。

「少なくとも小官が見る限り、あれが戦艦とは思えませんな」

「うん……しかも、総大将はミシェル王子」

「不思議なことですな」

「ん?」

「次期国王が参戦するのはよしとしましょう。しかし王子は」

「……僕と同じ“見通者シーカー”だが、騎士ではない」

 そう。

 今、殿下が接触しようとしているフランス軍を率いる総大将、ミシェル王子は、殿下やレルヒェ、そしてエマと違い、騎士の力を持っていない。

 大将として君臨する以外に何も出来ない。

 なら、後ろに下がって“見通者シーカー”としての仕事に専念していればいいものを、何を考えて前線へ、しかも工作艦で?

 メサイアをもって来たというにしても、飛行艦の修理を目的とする工作艦で来る理由がわからない。

「メサイア母艦を派遣出来ないほど、フランスが財政難だと聞いた覚えもないが」


「入るぞ」 

 背後からの声に振り向くと、レルヒェとエマが艦橋に入って来るところだった。

「ミシェルが来ただと?」

「ああ」

 殿下は頷いた。

「嬉しいか?」

「バカを言え」

 殿下の横に立ってそこから見える“ランフレクシブル”を一瞥したレルヒェは答えた。

「あの冷血漢に惚れるのはミーハーか変人だけだ」

「な、何よそれは!」

 レルヒェに噛み付いたのはエマだ。

「ミシェルはカッコいいじゃない!背は高いし色白で、ああっ、あのクールな眼差しなんて最高っ!」

 胸の前で手を握りしめ、体をよがらせるエマの目はうっとりと潤んでいる。

「ああ……ここにもそんなのがいたか」

「あれで彼女がいないってんだから、信じられないわ!きっと心の奥に秘めた、そんな恋をされて」

「どうせ家柄しか取り柄の無いような、どこぞのボンクラ娘とつがいにさせられるのがオチだろうさ」

 大した興味も無い。といわんばかりのレルヒェだが、エマの横顔を見て、

「そういえば、エマ?まさか」

「ん?」

「ミシェル王子の所に子供産みに行きたいなんて言わないだろうな」

「ど、どういう表現よ、それ」

「惚れてるんだろう?」

「そ、そりゃ」

 エマは頬を赤くして答えた。

「あんだけカッコイイ、ミシェル王子を好きにならない方がおかしいのよ。女の子として」

「私が異常だと?」

「だ、だけどレルヒェだっていずれは」

「結婚なんて、あと10年位してから考えればいいことだ。私は国政の方が興味深い」

「王族はそれじゃ遅いのよ。今のうちにいい男にツバつけておかなきゃ」

「……怖い話してやろうか?エマ」

「へっ、何を」

「お前、今のフランス王に嫁ぐ度胸があるか?」

「あ、あるワケないでしょう」

 げぇっ。という顔でエマは舌を出したのも無理はない。

 今のフランス王は、でっぷり肥えた腹ばっかり目立つ、ビア樽みたいな体型にハゲた、年頃の娘にとっては、父親に持ちたくない中年男の典型例みたいな容姿をしている。

 性格は温厚で国民からの信望も厚いが、だからといって恋愛の対象と言われれば、年頃のエマとしては御免被るしかない。

「あの顔、思い出せただけで感謝して欲しいわ」

「そうか、ならミシェルは諦めておけ」

「何で?」

「あのフランス王、若い頃はミシェル王子にそっくりだったんだ」

「……」

 思考が停止したのか、呆然とするエマの横で、レルヒェは殿下に振り向いた。

「殿下?工作艦に奴らは何を乗せているんだ?」

「気になるか?」

「フランス人がこの戦場にどんな厄介モノを持ちこんでくれたか、考えるだけでぞっとする」

「上等のワインじゃないだろうな。こっちから出向くのはどうだ?」

「そうだな。アイネを連れて行こう。あいつの分析能力だって少しは役立つだろう……おい、エマ?いつまで凍ってるんだ?」




●ランフレクシブル 甲板

 本来、破損した飛行艦を修理するための浮きドッグとして建造された艦であるため、ランフレクシブルには普通に見られるような艦橋や装備はほとんど存在しない。

 幅60メートルの甲板には、飛行艦を固定するための大型ドッキングアームが壁のように左右に並ぶ。

 これで天井があったらまさしく巨大な工場だな。と、レルヒェは思った。

「マラネリの殿下まで来ているというのは、正直意外だったな」

 ミシェル王子は、無重力環境が維持された艦内から甲板に出た後、殿下達をエスコートするように歩く。

 華奢なほどスマートな容姿に、物腰の優雅さはさすがに生まれを感じさせる。

 何をしているのか、甲板のあちこちで機械の作動音が響き渡り、耳に集中していないと何を言っているのか聞きづらくて仕方ない。

 ツナギを着て黄色いヘルメットを被った整備兵達がグラインダーで何かを削っているのを珍しそうに眺めるエマは、甲板の半ばに置かれた巨大な物体に気付いた。

「王子?もしかして」

「ん?」

「この艦でここまで来た理由はあれですか?」

 赤黒い装甲に囲まれた金属製のドーム。

 それは言われなければこの艦の一部だと誤解したとしても当然。

 クレーンで装甲が外され、メンテナンスを受けるその内部は機械の塊。

 ただ、あまりに巨大すぎるだけに、それが艦の一部ではないと気付いたエマの勘を評価すべきだ。

「ああ」

 ミシェルは足を止めると、腰に手をやった。

 その態度は不遜。というと言い過ぎだが、自信に満ちあふれているのは確かだった。

「フランスが開発したアサルト・アーマー、“アニイラシオン”だ」

「アサルト・アーマー?」

 言われた方は、思わず目を見開いてしまった。

「あ、あれが!?」

 レルヒェと殿下でさえ驚く先にあるのは、あの北陸戦線でアイバシュラの巣主を焼き殺したアニイラシオンそのものだった。

「こんな機動性の悪そうな兵器……」

 うーん。

 レルヒェは顎に手をやりながら、思わず呻いた。

「主要武装は何だ?」

「機密……ということにしておこうか?」

「隣国の皇帝に対してずいぶんだな」

「ウソだ」

 ミシェルは肩をすくめて見せた。

「エマ王女もいる。手の内は見せるさ」

 頬を染めてはにかむエマをニコリと一瞥すると、

「新開発の巨大粒子砲だ。破壊力は数日前の実戦でも証明済みだ」

「実戦?」

 レルヒェがその言葉に反応した。

「これが実戦に出たのか?」

「ああ―――詳細は後で説明してやろう」

「粒子砲なら飛行艦にでも搭載すればよかったんじゃないか?」

「冷却システムの問題さ」

 殿下の問いかけに、ミシェルは頭を掻きながら答えた。

「コイツの冷却には水がいる」

「……水冷式だと?」

「空冷でも可動はするさ。だけど、数発でオーバーヒートする。確実に冷却するには大量の水が必要だ。だから、飛行艦では逆に使い勝手が悪くなる」

「矛盾だな」

「そうさ。巨大粒子砲は持ち込みたい。だが、どうやって砲を冷やすかとなれば話は別。その技術的な実証試験も兼ねて日本に送り込むことになった」

 ミシェルは静かに、だが、挑むように殿下に訊ねた。

「評価を伺いたいんだが?」

「―――設計図を見せてもらおうか?」




●山形県魔族軍陣地

「北陸のアイバシュラが巣ごとやられた」

「ほう?」

 ズルドの言葉に、ホーサーは目を小さく見開いた。

「巣を駆除したというのか?人類が」

「そうだ」

「ほう……やるではないか。人類も」

「まだ成長しきっていなかったとはいえ、アイバシュラの巣を潰すだけの力を人類が持っているとなれば、これはこれで驚異的なことではある」

「人類にもそれくらいの力はあるだろうに」

 ホーサーは煎餅をかじりながら言った。

「だからこそ、お主はここまで苦労してきたわけで」

「まぁ、そう言われれば、少しは救われるか……」

 ズルドは茶碗を手にしばらく考えてから首を横に振った。

「いや、どう考えても救われんわ」

「だろうな。北陸方面の動きは」

「人類は軍を集結させつつある。アレを破壊することに成功したんだ。人類側からすれば、戦意高揚にはもってこいの材料だろう。敦賀側には戦車を始めとした機甲部隊が集結中。対するこっちはメースを前に出してはいるが、本音を言わせてもらうと、妖魔共の更新に大わらわで、とてもではないが対処している余裕がない」

「メースは」

「伊那方面と静岡とこっち側と、回す所は放っておいても山ほど出てくる。何より補給と整備の手配はもう限界だ。志願兵なら、メース使いより補給担当と整備兵の方を歓迎したいところだ」

「整備も補給も無しで戦争は出来ぬよ」

「そうだ。数十キロ、数百キロ単位の戦域は魔界なら大した距離でもない。

 そういう意見もあるだろうが、現実は違う。

 魔界でそんな距離でメースがデカイ顔出来るのは、その戦いに戦争の全権を委任する交戦ルールが存在するからだ。

 そんなものは、元からルールがない人類相手では通用しない。

 辺境の最も奥地で新種の妖魔相手に戦争するのと同じ位の覚悟が求められるわけで……まぁ、こんな原則論をお前に言うのもどうかと思うがな」

「ふん。それで、どうするのだ?補給がないからといって、みすみす人類に土地を明け渡すほど、お主は慈悲深くないはずだ」

「当然だ」

 ズルドは煎餅をその巨大に放り込んだ。

 バリバリと口の中で煎餅が砕ける音がして、口の中に茶を流し込む。

「俺はここに慈善活動に来ているわけではない」

「ワシ等が出ようか?」

「いや―――兄貴には兄貴の考えがあるようだ」

「ガムロ殿が?」

「というかな?正直な話、俺には誰が考えついたのかがわからぬ」

 ずいっ。とズルドは花瓶の如き巨大な茶碗をホーサーに突きつけた。

「兄貴の差し金ではない」

「なら、中世協会の奴らの差し金か?」

「それも違うような気がする。兄貴らしいといえば、兄貴らしい気もするのだが……」

 湯飲みを置くと、ズルドは腕を組んで唸りだした。

「お主がそこまで考えあぐねるとは、何がある」

「人類を穴埋めに使うというのだ」

「何?」

 ホーサーの顔が不意に険しくなった。

「それはどういうことだ。ワシ等、義勇兵もおるというのに人類に人類を当てるとは!」

「毒をもって毒を制すという例えはあるが、わかるだろう?俺がどう判断を下すべきか悩む理由が」

「……まぁ、な」

 ホーサーは未だに眉間に皺を寄せ、茶を飲んだ。

「して?その人類はどこから連れてくるんだ」

「大陸だ」

「漢民族か」

「そうだ。先の戦いでも日和見を決め込んだ、あの変節漢共だ。

 欲を掻いて北米大陸の制圧にしくじった奴らには海で敵を阻止する力は無い。

 北米大陸の軍勢が奴らを攻め滅ぼすために、この弓状列島に橋頭堡を確保するのを阻止したい連中の立場を上手く利用したとも言えるが……」

「義勇兵より人類を使うというその姿勢が気に入らぬ。それがワシの立場じゃが、お主はガムロ殿なり、中世協会なり、とにかく上が決めた判断の何を不服とする」

「わからぬか?」

「言われねばわかりようがなかろう」

「大陸と北陸に出現した、あのアイバシュラの巣の出所がわからぬ中、他人の口車に乗ることが果たして賢明なのかが疑わしい」

「……」

 ホーサーは目をパチクリさせた。

「おい、あのアイバシュラ共は、天原商会の暴走ではないのか?」

「魔界でそんな噂はあるらしいがな。

 すでに天原はアイバシュラ養殖技術の特許侵害だとして、アイバシュラの巣を生み出した者に対する訴訟準備に入った」

「何だと?それはつまり、あれに天原商会は絡んでいないと?」

「そうだ」

「馬鹿な。あれほどの大量の巣を生み出すのにどれ程の費用と時間がかかると思う?資金力と行動性、そして技術、全てにおいて半端な企業や組織では出来ぬ芸当だぞ」

「気持ちはわかる。俺も、天原商会が介入を否定した時点で、奴らの茶番さえ疑った。

 実行犯のクセに被害者を装うのは奴らの常套手段だ。

 ところが奴らは今度ばかり本気だ。

 首謀者に関する情報提供者には2万ライデンの報奨金を約束した」

「2万だと?」

 ライデンは、魔界の通貨単位の中では最高単位。

 魔界の基本通貨であるガメルの上の通貨で、1000ガメルをもって1ライデンとなる。

 日本円に換算して1ライデンは10万円程。

 そこから換算すれば、かけられた報奨金は20億円相当。

 破格どころではない。

「魔界中の情報屋が目の色を変えているそうだ」

「当然だ。じゃが、2万もの大金、あのガメツい天原商会が本気で支払うか?」

「この宣言は、宣誓の広場に公示された。わかるな?あそこで宣言を出したことは、奴らも相応の覚悟が無ければ出来ないことだ。つまり、これは口先だけの情報ではない」


 宣誓の広場。

 そこ魔界中心都市に存在する広場の一つで、重大な契約事を取り交わす際に伝統的に利用される場所。

 商売人や何らかの契約を結ぶ者達が集うことで知られている。

 たかが広場に過ぎないと思われるだろうが、ここで交わされた誓いや契約は絶対に破れないという伝統が魔界には存在する。

 ここで宣言した以上、それを反故にすることは、魔界の常識からして許されない。

 というか、魔界での社会的な信頼性を自ら放棄するのと同じで、商社としては自殺行為に等しい。

 天原商会がそこで身の潔白を示す宣言を出した意味は軽視出来ない。


 それはズルドやホーサーという魔族にとっては十分にわかる話だ。


「……宣誓の広場でなぁ」

「だからこそよ。あいつらが絡んでいないとなれば一体誰が?そいつらが大陸で跋扈している中で、俺達はどこまで動いていいのか、正直疑心暗鬼なのだ」

「何か情報はないのか?」

「中世協会でさえ、当初は天原商会の仕業と信じて疑っていなかったそうだ。つまり、奴らでもない。無論、我々のはずもない」

「……むぅ」

「第三者がどうも悪巧みしているようだ。そいつらが俺達と手を結んでくれるならまだよしとしよう。だが、俺達をダシに使おうというなら、話は全く違ってくる」

「じゃなぁ」

 ホーサーは冷めた茶に顔をしかめた。

「天原を敵に回してまであれだけのことをしでかすとは、余程の覚悟があるのか、それとも単なる馬鹿か」

「馬鹿?」

「天原を軽く見て、今頃、青坊主になってるかもしれぬではないか」

「そこまで軽くはあるまいよ」

「何、ワシの楽観論じゃ。無視してくれて良い。して?その漢民族は使い物になるのか?」

「この弓状列島に北米大陸軍の橋頭堡を築かれたら国の滅亡を決めかねない。奴らがどれ程愚かでも、死に物狂いにはなるだろうというのが、兄貴の考えだ」

「飛べば鍋の蓋でも戦力に―――か」

 ホーサーはため息をついた。

「楽な戦いは、三界のどこにも存在せぬ……か」



●福井県上空 2千メートル

 すごいな。

 それがE-WACSに乗る有珠ありすの正直な感想だ。

 眼下に伸びた道路は土建屋と軍によって繰り広げられた日夜の突貫工事によって復旧した国道。

 かつては魔族軍の退却の際に地形が変わるほどの障害物を置かれていたが、今では最初から何も無かったのと同じ位、綺麗な道路が延びている。

「一般国道としても広く作りましたね」

 通常任務の他に情報分析など複数の仕事を求められる関係上、複数が搭乗するE-WACS搭乗MCの中の一人、情報分析担当の五十嵐志帆いがらし・しほ少尉がパネルを操作しながら言った。

「戦車部隊もこの幅なら楽でしょうね」

 その言葉を証明するかのように、車列を作って国道を走っていくのは八式戦車の群。

 自重38トンの金属の塊が土煙と共に猛然と走っている姿は上空からでも十分な見物だった。

「機甲部隊が前に出るんだ。メサイア隊でさえまだ都合が付かないというのにね……」

 この世界での戦場では、機甲部隊だろうが歩兵部隊だろうが、陸上でメサイア隊より前に出る部隊はあり得ない。

 敵がメサイアを繰り出せば壊滅が約束されているからだ。

 ところが、今回はまだメサイア隊は前に出ていないどころか、どこの誰が出るのかさえ、定かとはなっていない。

 そんなことを承知の上でだろうか。

 単に命令されたからだろうか。

 前に出て行く陸軍の将兵の気持ちを考え、有珠ありすは暗然とした気持ちになった。

「第9機甲師団が補充が終了したんです」

「第9?」

「新潟で壊滅した部隊です。魔族軍相手に民間人の撤退支援ではほぼ常に殿しんがりを務めさせられた」

「勇猛っていうか、スゴい経験した部隊がいるんだねぇ……」

 有珠は下を移動する車列に軽く敬礼した。

「当時の消耗率は87%だそうです」

「全滅じゃん……よく部隊として復活させたなぁ」

「そう思います。まぁ、妖魔相手では苦しいですけど。今度の敵は、リハビリ相手には丁度いいんじゃないかと」

「そう―――だね」

 有珠は笑って頷いた。

「人類の裏切り者相手には、丁度いいんじゃないかな」

「そういうことです。高度上げて下さい。これから日本海に出て、輸送船団を追います」

「了解」




●富山湾

 無事に残された港湾施設に横付けする大型輸送艦に掲げられた国旗は五爪龍をあしらった黄龍旗―――中華帝国所属を示している。

 そこから続々と揚陸されるのは、中華帝国軍でもアサルト・アーマーに分類されたばかりの飛鼠ひそ達だ。

 飛鼠ひその揚陸と周辺への展開が終了次第、陸戦艇と機甲部隊、さらに砲兵や歩兵が上陸を開始する。

 すでに日本軍は周辺には存在しないと知ってはいるが決して気が休まるものではない。

 制空権が確保されない中、上陸部隊が展開出来るのは、日本軍が何も自分達を恐れているわけではないことを自覚していない者は、少なくともマトモな指揮官にそんな輩はいない。

 もし、そうだというなら、それは政治将校だと思えば間違いない。

 指揮官達が恐れたのは、揚陸中に空爆を受けることだ。

 飛鼠ひそ達は対空戦向けには出来てはいない。

 肝心の対空火器は艦載されたものだけでそのほとんどがレーダー連動式、つまる所、狩野粒子影響下では役に立たない上に、高度1万メートルを超えた有効射程を持たない。

 富岳による戦略爆撃でも受けたら船団はあっさり壊滅する。

 それを恐れるなというほうが無理だ。

「メサイアはどうしたんだ!」

 湾の中で待機を命じられた輸送艦の甲板で苛立った声を上げたのは、戦車大隊に所属する李中尉だ。

 タバコを吹かしながらしきりに空を気にしている。

「こんなところで襲われたら終わりだぞ!」

「まぁ、落ち着けよ」

 横に立ち、李の胸ポケットからタバコを引き抜いたのは同僚の黄中尉。訓練校同期の間柄だ。

 東南アジア戦線でアメリカ軍から分捕ったという自慢のジッポライターから火を得た彼は、深く肺に煙を送り込んだ後、その煙と共に言った。

「俺達の所にメサイアがあると思わせているだけで十分なんだ。わかるだろう?日本軍だってそこまで馬鹿じゃない。メサイアの対空攻撃は高度1万だろうがなんだろうが容赦なく敵を撃ち落とす事が出来る。そんな脅威があるというのに、高価な爆撃機を投入できないだろうが」

「それを打ち破るだけの脅威がメサイアだろう?」

 李中尉は周囲を見回したあと、耳打ちするように言った。

「日本軍のメサイアはかなりだと聞いてるぞ?」

「属国のグレイファントムだけじゃない。そろそろ新型が来る頃だ」

「新型?」

 その疑問に答えるように、輸送艦の頭上すれすれを通過していったのは、巨大なメサイアの群だった。


 ロシア軍の白馬シュトゥーテ級をベースに開発・量産された中華帝国軍新型メサイア“山猫シャンマオ”級が、日本の大地を踏みしめようとしていた。



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