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模擬訓練 / 悩む者、支える者 / 稽古

 達人同士の勝負は一瞬で決まる。


 よく語られることだが、それ程、ティアリュートとシーラの勝負はあっさりとついた。


 ティアリュート騎から放たれた槍がシーラ騎のコクピットを直撃。

 パイロット戦死の判定が下された。

 それで、全てが終わった。

 シーラは負けた。

 実戦なら死んでいた。

 それで終わった。



「―――おい、爺」

 停止モードに入ってブラックアウトしたスクリーンを前に、ラドラーは納得出来ない。という顔で言った。

「これは何だ!」


「こういうものじゃて」

 ホーサーはニコリともせず、そう答えた。

 そのあっさりした答えの示す所が何なのか、彼には理解すら出来ない。


「こんなあっさり負けるなら俺だって弟子入り出来たはずだ!」


「……」

 ジロリ。

 ホーサーがラドラーの目を見た。

「……わかっておらんのぉ」


「何がだ?」


「今はこれで良いのだ」


「なっ?」


「ここからじゃよ……二人とも、ご苦労じゃった。荷物をまとめろ。家に戻るぞ」


 ホーサーはそう言うなり、管制室から出て行った。




「なかなかじゃな」

 シミュレーション装置から出たティアリュートを待っていたのは、ホーサーだった。


「……恐れ入ります」

 ティアリュートにしもホーサーのような大ベテランにねぎらいを受ければ悪い気はしないが、

「ワシが現役なら、とても一番槍は任せられんが」


「……はっ?」


「今の所はよしとしよう」


「お待ちください」

 ティアリュートはホーサーの背に訊ねた。

「先程のお言葉は、私はまだ未熟―――そういう意味ですか?」


「ほかにどう聞こえた?」

 振り返るなり、ホーサーはニコリと笑った。


「うっ」

 そうもあっさり訊ね返されると、ティアリュートも返事に詰まる。

 聞こえた。

 そう答えれば、同時に自分は未熟者だと自身で認めることになる。

 聞こえない。

 それでは、ホーサーの思うつぼだろう。

 ホーサーに一手の指南は得られるだろうが、それで終わるリスクが高すぎる。

「……」

 ティアリュートは、じっ。とホーサーの顔を見つめてから、無言で頷いた。


「それでよい」

 ホーサーは頷いた。

「お主の槍、あれはあれで、お主の手加減じゃろう?」


「……それは」

 見抜かれていたか。

 そう思うと、少し自分が恥ずかしい。

 相手が女だというから、誰に言われたわけでもなく、あまり得意でもない槍を武器に選択したのは、確かに相手に対するハンデといえばハンデだが……。

「むしろ」

 ティアリュートははっきりと言った。

「私の慢心です」


「慢心?」


「はい。剣を交えもせず、相手が自分より弱いという勝手な判断をしました。お詫びします」


「別に構わんわ」

 ホーサーはあっさりと答えた。

「実際、あいつは負けたんじゃから」


「……救われます」

 ほうっ。ティアリュートの口から安堵のため息が出た。

「次は剣をしっかり用意してくることじゃ」


「……あの」

 隣に設置されたシミュレーション装置から降りるシーラを横目に、

「あの、シーラという女性についてですが」


「何かあったか?」


「……いえ」

 ティアリュートは首をかしげた。

「正規軍時代はどこに?」


「知らぬ」


「―――しかし」


「知らぬよ。気になるのか?」


「ならない方がどうかしています」

 ティアリュートは驚いた様子で答えた。

「相手が王侯貴族だろうが国家だろうが、大金を積まれようが何されようが、とにかく弟子をとらないことで知られたあなたが、どういう心境の変化ですか?あの女性だけが何故?」


「……あの小娘が一人前になったら教えてやろう」


「それが交換条件ですか?」


「交換?」


「私に手ほどきしていただける」


「そうだとしたら?」


「それでもいいですが……あの娘は」


「ん?」


「私とどこかで剣を交えているはずです。それは、身体が覚えています―――私が、あの娘の素性に拘る理由は、これでご理解いただけましたか?」


「……覚えておこう」

 ホーサーは頷いた。

「明日、午前中はワシがあ奴の指導を行う。午後はお主が手ほどきする。それでどうじゃ?」


「光栄です」


「……うむ。明日の午後の結果を見て、お主に弟子をどれ程任せるかを考えるとしよう」


「……まだ信頼を置かれる立場にはないと?」


「指導者としてはな。それに、お主も指導を任されている者がおるじゃろう?ダユー殿からの書状に書いてあったぞ?」


「……ああ」

 ティアリュートはしばらく視線を彷徨わせ、やっと思い出した。という顔になった。

「忘れていました。ユースティアに任せっぱなしでしたね」





●エトランジュ艦内シミュレータールーム

 バシュッ

 空気が抜けた音がして、シミュレーターのハッチが開いた。


「ここにいたか」


 殿下が、中から出てきた金髪の少女に話しかけた。

 メサイアの操縦は大変な体力と精神力を必要とする。シミュレーションを終えた少女の額には玉のような汗が浮かんでいた。


「てっきり、天狗になってるかと思ったが」


「馬鹿なことを」

 少女―――レルヒェはアイネからタオルを受け取ると、汗を拭った。

「たった一度の実戦で勝てたからといって、次も勝てるという保証にはならないだろう?」


「よくわかっている」

 殿下は、レルヒェの意外な反応に、少しだけ驚いた。と言う顔になった。

「誰かに言われたのか?」


「ゲームやマンガの世界ではよくあることだ」

 レルヒェは真顔で答えた。

「一面をクリア出来るといっても、二面をクリア出来る保証にはならん。年中ゲームをやっていれば、骨身に染みる」


「君らしいというか……」


「それに」

 レルヒェは言った。

「例え一度でも皇帝が負けたとなれば、とんでもないことになるからな」


「わかってるなら」


「下がれと言うならお断りだ」

 レルヒェはきっぱりと言い切った。

「私は遊戯ゲームをしに来ているんじゃない。皇帝としてここにいるんだ」

 コツコツ。

 レルヒェのブーツが床を叩く。

「連邦議会には、すでに戦力派遣に消極的な発言が出始めている。このままでは、帝国は日本戦線ここへ戦力を派遣出来なくなる」


「……」


「短い視点―――つまり、魔族軍が日本征服だけを考えているというなら、別にどうということはない。世論の示すままにしてもいい」


「……おい」


「だってそうだろう?」

 レルヒェは殿下の前で腰に手を当てた。

「私達君主の最も大切なことは何だ?自国を守ることだ。

 極東の島国なんてお互い地球の反対側って位、遠い所で国が滅んだからって何だ?

 それでドイツやマラネリにどの程度の犠牲が出る?」


「それはそうだが」


「モノの言い方は悪い。確かに悪い。

 だが、本質は突いているはずだ。

 我が国にとって、日本を守る意味があるのか?

 極東の島国のために、何故、ドイツ人が膨大な戦費を支払い、貴重な人命を犠牲にしなくてはならない?

 それが、派遣反対派の言い分であり、私はそれだけなら否定することさえ出来ない。

 殿下なら出来るか?」


「……」

 不服そうではあるが、殿下は首を左右に振った。


「そうだ。我々君主は神ではない。

 ただ、かつての先祖が、君主となるべき時代に君主に上り詰めた、単なる成り上がりの子孫でしかない。

 つまり、我々個人は単なる凡人だ」


「凡人は世論に従っていれば良い―――と?」


「違う」

 レルヒェはアイネにタオルを戻した。

「世論を作るんだ。長い視点で問題とすべきは、この戦線に跋扈している魔族軍ではない。大陸で増殖を続けている妖魔達だ。

 このまま、極東での問題として妖魔の存在を放置すれば、将来において絶対的な禍根として残るに違いない。

 何故?

 増殖した妖魔達が西進を始めたら、モスクワ、東欧、そして我が国が喰われないという保証はどこにもないのだ。

 この時代の君主として、我々の子孫達に、君主としての義務を放棄したなどと、私は言われたくない。

 だから―――」


 レルヒェの眼に浮かぶ覚悟を殿下は確かに感じた。


「私はドイツ皇帝として、この日本戦線を早期に平定し、大陸への橋頭堡をこの列島に確保、しかる後に大陸へと軍を進め、いかなる犠牲を支払っても、ドイツへの妖魔侵攻を阻止しなければならんのだ!」


「……正論だ」

 殿下は頷いた。

「どんなゲームの受け売りが出てくるかと思ったが、マトモな言葉が聞けて安心した」


「ふん。二次元と三次元の区別はつけている」


「それでいい。世論の反応はどうだ?」


「……良くない」

 レルヒェは肩を落とした。

「もっと、戦力増派へ好意的な反応を示してくれると思ったけど……」


「どう出た?」


「正直、皇帝が“遊んでいる”程度の反応さ」


「遊んでいる?」


「ああ……」

 グッ。

 レルヒェの戦闘服のグローブが力強く握りしめられた。

「私が、戦場へ遊びに行った。10歳の小娘に過ぎない私が、敵を撃破出来たのは、周囲のバックアップのおかげであって、私の功績ではない―――そう言うことだ!」


「それが、一般的な見方だろうなぁ」


「何だと!?」


「君の熱意は、口にしてもらえればわかる。

 だが、それを知らない一般国民の立場からすれば、君という皇帝が、天皇参戦に刺激され、その熱に浮かされて周囲を伴って参戦したとしか見なすことは出来ないだろう。

 いいか?熱意だけで国民は動かない。

 レルヒェの参戦なんて、君がゲームで遊んでいるのと同じ、いや、出撃に必要とした膨大な費用を考えれば、大人しく宮廷でゲームでもやっていてくれればよかったと、非難するだろう」


「私はっ!」


「世論を動かす美談にしようとしても」

 殿下は冷たく言い放った。

「世論はそう採らない」


「何故っ!」


「……君が幼いからだ」

 殿下は言った。

「僕だって、新型メサイアのデータ収集という大義名分と、職権を委任出来る政策集団どれいが存在するからこの場にいられるようなものだ」


「私は皇帝だ!」


「そう」

 殿下は頷いた。

「正確には、皇帝を名乗る“少女”―――だ。シックルグルーバーはどうした?あの狐は?」


「……宰相も反対しているだろう。何も相談もせずに出てきた」


「あいつを味方につけなかったのか!?」


「無理を言うな。あの頑固者を説得することなど、私に出来るものか」


「……」

 ハァッ。

 殿下は肩を落とした。

「……いいかい?レルヒェ」

 その声は、身内を諭す優しい声だ。

「戦争は、何も敵と殺し合うことだけを定義しない。補給、内政、外交、その範囲は政治の全方面に及ぶことは、むしろ君の方がわかっているはずだ」


「わかっている!」

 俯いたレルヒェは怒鳴った。

 震える顔に大粒の涙が光った。

「わかった上で、ここに来ている!

 だが、このまま宮廷で私に何をしろというのだ!

 宮廷で大人しくしていれば、状況が変わるのか!?

 わからない!

 シックルグルーバーは、私に何をしろというのだ!」


「……難しい所だな」

 殿下は、ハンカチをポケットから取り出しながらため息をついた。

「あの宰相が“鍵”だ。

 君の派遣を暗に認めたことを、君への応援ととるか、それとも、君に一度痛い目にあって、尻尾を巻いて逃げ帰って欲しいと思っているか……」

 殿下は振り返って、後ろに待機していた武官に言った。

「おい、ドイツ大使館に緊急電を打て。宰相の腹の内を調べるのだ。それと」


「それと?」


「スイス大使に、母上に動いてもらうよう上奏させろ。レルヒェちゃんは母上にとって実の娘同然の存在だ。母上経由でドイツ政府へ圧力をかけてもらうのだ。

 ……もっとも、母上ほど聡明な御方なら、もう既に動いていらっしゃるかもしれないがな」






●同じ頃 ドイツ帝国 ベルリン


「お体の方は、もう大丈夫なのですか?」

「近頃は安定しておりまして。医師からも外出の許可を頂いております」

「……重畳」


 ベルリンで最高級の格式を誇るカフェの一角。

 開店当初から使われているという、歴史が刻み込まれたテーブルを挟んで妙齢の男女が二人、向かい合いで座っている。

 二人の前には紅茶の入った白い白磁が置かれ、心地よい香りのする湯気が立ち上っている。

 金髪碧眼の女性は、スラリとした知的な容姿を白いスーツに包んでいる。

 顔色は冴えないが、その影が女の色気として見る者を魅了する。

 男は黒髪黒眼。短い口ひげを生やし、背は高く、しっかりとした体格を持つ。

 マラネリ王国皇后、つまり、殿下の母であるエトランジュ陛下と、ドイツ帝国を動かすシックルグルーバー宰相の二人だ。


「今回、私をお招きいただいた件につきましては」


「陛下のことでご相談が。本来ならば、私めがサナトリウムに出向くべきでしたが、何しろ多忙の身。ここに場所を設けるのが精一杯のことで」


「存じております。医師団までご準備頂いて」

 エトランジュは、優雅な仕草で首を窓の外へと向けた。

 通りの目立たないところに止まっていた白いバン2台がその視界に入っている。

 中にはシックルグルーバーが手配した医師達が待機している。

 ただ、それを彼はマラネリ側には伝えていない。


「慧眼、恐れ入りますな」

 シックルグルーバーは、この女性がただ者ではないことを何年も前から知っていた。

 知っていながら尚、こうして、その才能の一辺でも露わにされると驚くしかない。

「まずは貴国からのメサイアの貸与に感謝を」


「息子の判断ですのよ?」


「いや。先だってのデュミナスの件もあります。さらに最新鋭騎を貸与いただけたとなれば……」


「まぁ」

 エトランジュは口元を軽く手で覆って笑った。

 ただ、そんな仕草だけでも色気を感じる程、エトランジュは優美な存在にシックルグルーバーには見えた。

「私は何もしていませんよ?」


「……ですか?」


「ええ。子供達のことです。あの子達はあの子達なりに考えているのです」


「しかし」


「心配ですか?」


「当然です!」

 シックルグルーバーは頷いた。

「陛下はお立場がわかっていない。

 殿下のような男子でしたら、戦場に立つことはむしろ武勲としたでしょう。

 しかし、陛下はか弱き女の子です!

 ああ。そう言えば、北米戦線でご子息はかなり戦果を上げられたと」


「お褒めにあずかり、恐縮ですわ」


「ええ。陛下が男子で、先の陛下が他に殿下や皇女に恵まれていたなら、私も胸を張って殿下と共にくつわを並べることをよしとしたでしょう。

しかし、陛下は我が国ではたったお一人の存在で―――」


「君主はいつでも天上天下お一人の存在です」


「しかし……っ!」


「跡がいない。それは確かでしょう。ですが、それは息子も同じです。男子なら戦場で死んでもよいと?」


「いえ、さすがに」


「レルヒェちゃんは聡明な子です」

 エトランジュは言った。

「いろいろと考えて、あの子なりに判断した結果でしょう」


「……どうも」

 ハァッ。

 しばらくの沈黙の後、シックルグルーバーは肩を落とした。

「ご生誕の頃から存じ上げているせいか、私も情が移ったのでしょうなぁ」


「……」


「あの子―――そう呼ばせてください。私にとっても娘のような存在で……いや、手のかかる分、子供は可愛いものでして」


「それはそうですよ。私も腹を痛めて産んだからわかります」


「……だから、あの子には姫として大人しくしてほしいのです。

 騎士ならば戦場に出なければいけないというルールはないはずだ。

 政治は我々、技術者集団テクノクラートが身命を賭して行っている。

 政治も外交も経済も安定している。

 かつてのような、衣食住を求めたデモや暴動は遠い過去のことになった。

 ドイツは安定しているのです!

 だというのに、あの子は何が不満で戦場になんて出るのですか!」


「安定しているからこそ―――ですよ」

 エトランジュの言葉の意味が、シックルグルーバーには理解出来ない。

まつりごとが安定していなければ、あの子は絶対にドイツ国外に出ようとはしなかったでしょうね。あの子が外に出たということは、いわばあなた達への信任の証のようなものでは?」


「背中を我々に任せてくれている―――と?」


「です♪」


「……だからといって」

 シックルグルーバーは天を仰いだ。

「いくら何でも」


「国の現在いまは、あなた達に任せ、あの子はほんの少し先を見ているだけ。

 ドイツ国内の反応は、皆、宰相閣下のような反対を?」


「いえ?」

 シックルグルーバーは首を左右に振った。

「派遣戦力が足りないんじゃないか。民間で応援団を出させろとか……総じて言えば、アフリカで人類同士で争っている場合じゃない―――世論はそんな方向に傾きつつあるのは事実でしょうな」


「レルヒェちゃんの狙ったところに?」


「そう。私の望む正反対の方向へ」


「……ふふっ」


「笑い事ではありません」


「―――失礼」

 エトランジュは口元に零れる笑みを浮かべて言った。

「もし、私にも娘がいたら、或いは、殿下が娘だったらどうしたかな……そう思いましてね?」


「恐らく」

 シックルグルーバーは憮然として言った。

「その方が、陛下も私めの心情をよくご理解頂けるのでは?」


「亡き陛下のご意志をうかがってみたいものですわ」


「……私のように反対したと思います。娘を持つ父親とはそういうものです」


「でも、あの子が下した決断は、尊重すべきではありませんか?父親代わりとして、そして、宰相として」


「……」


「あの子は悪い子ではありません。本当に聡明な子です。聖書にもありますよ?

 健やかなる木に悪の実はならず。

 正しき実のなる歪んだ木もなし。

 あらゆる木の本性はその身が示す。

 ……あの子という実が示す、この国という木は良き木となる。

 それが、信じられませんか?」





●極東戦線 大日本帝国 山形県内 第三軍施設

 ズズンッ!


「また負けたか」


「ふぅむ……」


「爺よ。悪いが、あれは跡取りにするには器が……」


「いや」

 ホーサーは言った。

「問題はティアリュートの方じゃ」


「は?」

 ラドラーはあきれ顔で言った。

「勝ったのはあの娘の方だぞ?」


「本当にそう思うか?」


「……というと?」


「被弾2発に対して、敵への命中は30発近い」


「よいことではないか」


「……」


「な、何が悪い」


「1騎仕留めるのに30発も命中させるバカがおるか」


「―――あっ」


「じゃろうが。じゃが、シーラは確実にティアリュートを追い詰め始めている。それから逃れるように、戦闘時間は延び、仕留めるまでにティアリュートは手間取っている」


「……爺、シーラという娘に、何を指導している」


「手合わせ以外、何も」


「何も?」


「ああ」


 二人の目の前でシミュレーターのハッチが開いた。

 靴の音を派手に鳴らせて先にシミュレーターから降りたのはティアリュートの方だった。

 一瞬、遅れて降りようとしていたシーラを凄まじい形相で睨み付けると、ホーサー達の前に近づくなり、

「訓練、終わりました」と、敬礼した。

「申し訳ありません。本日は、多忙に付き、これにて失礼させていただきます!」

 そう言うだけ言うと、返事も待たずにシミュレーター施設を後にした。



●夕刻、ホーサー宅

「私、何かしたんでしょうか」


「なぁに」

 心配するシーラに、卓袱台に乗った皿から魚の煮付けをつまむホーサーは言った。

「あやつもお主と同じで、まだまだ修行が足りんということじゃ」


「……はぁ」

 正座して食べていたシーラは箸を止めた。

「私が失礼なことをした。というわけではないのですね?」


「ああ。むしろ礼節を欠いたのは向こう。心配は要らぬ」


「……あ、あのっ!」


「なんじゃ?」


「お願いがあります」


「願い?」


「はいっ!」


「何じゃ」


「私に、もっと稽古をつけてください!」




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