66分の1
ぽん爺、ゆき、コーリーが春香を待つこと20分が過ぎた。
「どうしたの?春香ちゃんは?」
一軒家から空が出てきた。
「空さん!」
ゆきが、空の元に駆け寄った。
空は、ゆきの顔色に違和感を感じ、ぽん爺をギロっと睨む。
「ぽん爺、春香ちゃんは?」
「ドルテインの契約中じゃ。」
ぽん爺が答えると、空の顔色が一気に曇る。
「ジェイスの指示なの?」
「そうじゃ…」
空は、ゆきの心配そうな顔を優しく見つめた。
「ゆきちゃん大丈夫だよ、春香ちゃんはちゃんと戻ってくる!信じてあげて。」
そう言ってゆきの頭を優しく撫でた。
「うん…」
コーリーはその様子を見て、心から春香の帰還を願った。
◇◇◇◇
「あなたは、コイン66枚(レベル66)の試練まで辿り着きました…会話の解放をします。」
シニカは、静かに語った。
春香は、ふーっと息を吐いた。
「話せる!ありがとう、シニカさん!」
「…桐生 春香、ここまでの試練に辿り着いた者は初めてです。怖くないのですか?」
春香は、シニカの目を見て答えた。
「怖くないです。」
「契約なので、蘇生などの魔法は一切受け付けませんよ?分かっていますか?」
「はい!」
「…何故そこまで自分の命を軽視出来るのか…お聞きしてもいいですか?」
シニカの質問に、春香はちょっと考えてから答えた。
「私、ゆきとかコーリー君みたいに早起きも出来ないし、頭も悪くて…でも、みんな頑張ってるのに私だけみんなの足引っ張ったり、そんなの嫌で…餓者軍倒せなかったら、家族もチャンタとかピトーとかも、国の人とかもきっと死んじゃって、だから私が出来ることだったら何でも挑戦するの!だから怖くないです!」
春香の言葉を聞き、シニカは黙っていた。
「試練は必ず乗り越えてみせる!シニカさん、試練お願いします!」
「…人間の"覚悟"というものですね。とても興味深い…いいでしょう、覚悟というもので乗り越えれるなら乗り越えてみなさい、桐生 春香。」
シニカの周りにコインが、大量に円を描いて回りだした。そしてコインは回りながら春香の前に止まる。
そして、最初に出てきた大きな鎌が春香の首元近くにふわ〜っと移動する。
「ドルテイン試練66です、この66枚のコインの中から当たりを1枚選びなさい、桐生 春香。外れた瞬間この鎌であなたの首を落とします。」
春香は、大きく深呼吸をした。
(お父さん、お母さん、私を守って!!)
そして春香は、無造作に1枚のコインを掴んだ。
その瞬間!春香の目の前が闇に包まれた。
…うふふっ、桐生 春香あなたは、本当に面白い人間ですね…
シニカの声がうっすらと聞こえた。
(…何も見えない…私…死んじゃったのかな…ゆき、コーリー君ゴメンね…)
春香の意識は、薄れていった。
━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━
━━━━━━
━━
…るか!
「春香っ!!」
ぼんやりとした意識の中、春香は声を聞いた。
(ゆきの声?)
「春香っ!!お願い!起きて!!」
春香が目を開けると、目の前にゆきの泣き顔が見えた。
「ゆき?泣いてるの?」
春香の声を聞き、ゆきは春香を強く抱きしめる。
「春香ぁ!!もうっ!心配したんだからっ!!」
「お帰り春香ちゃん。」
空がニッコリと微笑んだ。
「良かったです!お帰りなさい春香さん!」
コーリーは涙目だった。
「みんな…私、生き…」
「!?」
その時、春香の口が意志とは別に勝手に閉じた。
「ふぇふぇふぇ、春香ちゃんドルテイン取得したようじゃのぅ…大したもんじゃ。口が勝手に閉じたじゃろ?ドルテインの契約内容は、誰にも話せんのじゃ。」
「そうなのね!じゃあ!言わない!」
「ふぇふぇふぇ、言おうと思っても言えんから大丈夫じゃよ。」
「春香ちゃん、ドルテイン取得おめでとう!ちょっとビックリしちゃったよ!本当に戻って来れて良かった…」
空も春香を抱きしめた。
「本当に良かったよお…」
ゆきは中々泣き止まない。
「ふぇふぇふぇ、明日からドルテインの使い方教えんとのぉ。」
「うん!ぽん爺さんお願いします!ゆきーもう泣かないで!」
突然、大きな黒い影が全員をすっぽり包み込む。
皆思わず見上げると、巨大なドラゴンが上空に気球のように浮かんでいた。
「あ!ドラゴンのガイルさんだ!」
春香が声を上げた。
「ジェイスさん、帰って来たんですね。」
コーリーが呟く。
グワアアーーーーーーーー!!!!
ドラゴンのガイルが雄叫びを上げると、ガイルの背中からジェイスが飛び降りた。
「うわあ!!落ちた!」
コーリーは思わず目を瞑った。
10メートル以上の高さから飛び降り、華麗に着地するジェイス。
ガイルは、飛び去っていった。
「ジェイスさん、お帰りなさい!」
「ふぇふぇふぇ、お帰り。」
「あわわ、お、お帰りなさいジェイスさん。」
「ジェイス様!お帰りなさい!」
「お帰り…」
「よお!ただいま!春香ドルテイン取ったか?ふはは!」
その瞬間、空の回し蹴りがジェイスの顔面に直撃する。
「ぐはぁ!!」
ジェイスは、吹き飛び岩にぶつかり悶絶する。
「うわあ!!」
コーリーが叫ぶ。
ゆき、春香、ぽん爺は呆然と見ていた。
「ジェイス!!春香ちゃんにドルテインなんて私は聞いてないよ!!」
ジェイスに怒りの声で叫ぶ空。
ムクっと起き上がるジェイス。
「いてて…まぁ、空に言ったら止められるからな…そこは許せ!ふはは!」
「開き直ったわね!こんな可愛い子に!悪魔と契約させて!!」
空の皮膚の色が赤くなっていく。
「まぁまぁ、落ち着くのじゃ空。」
「ぽん爺!!あんたもだよ!!止めれただろ!!」
「ひぃぃぃ!!」
「おい、空とりあえず落ち着いて…げぶっ!!」
ゆき、春香、コーリーの目の前で、ジェイスとぽん爺は、空にボコボコにされたのだった。




