第4~9回 対決
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現在に戻ります。
どうだ!前回のが3年前の俺とマーガレットだ。
3年前と現状を比較してどうだ?
昔のあの状態から今の軽く悪ふざ合える関係まで修復できたのだ。
まさに、奇跡としか言いようがないと、分かってもらえたか?
俺は、頑張ったんだ!
そうだ、俺は本当に頑張ったのだ~!!ううっ……。
「それでは、学院の中庭を使い、こちらの柵に居る大型犬、中型犬、小型犬を各一匹づつ、向こうの柵へ移動してもらいます。先に終えた方が勝ちとします。よろしいですか?」
「ええ、いいわ。」
ジェームスの説明に自信たっぷりに返事をしたのは、学院の最高学年に在籍する前王弟の娘、公爵令嬢である。
俺は先程から、ソコにばかり目がいってしまう。
ああ、よかった、俺だけじゃない。
皆、ソコばかり見ているようだ。
この令嬢、髪の毛を飾りやなんやらで大きく盛っている。
盛っているのだが……重くないのだろうか?
だってね、頭に船、船も乗ってるんだぞ!?
目茶苦茶、髪に絡まってる。
うん、そうだよね。皆、見ちゃうよね。
分かるよ、口開けたまま見ちゃう気持ち、よく分かるよ。
あれ、本当に凄いよね~!
芸術は爆発だ!
シャララーン。
失礼、つい興奮してしまいました。
オホン。
そんなことより、今は剣術対決から3日後の犬対決の場で、気合いを入れなければいけない時なのだ。
なるほど、なぜ犬対決なんて考えを思い着いたのか、彼女の後方に居る人物を見て理解した。
彼女のすぐ真後ろの応援団の中に居る小さい令嬢には見覚えがある。
彼女は乗馬対決の際に、シロツメクサの花畑付近で、木に服を引っかかっていた令嬢だ。
おそらく、乗馬対決をした伯爵令嬢の取り巻きに紛れ、俺の弱点を探っていたのだろう。
そしてあの話を立ち聞きし、意気揚々と公爵令嬢に報告したに違いない。
クククッ、おかしくてたまらない。
きっと勝った気でいるはずだ。
ぞくぞくするなぁ~。
「双方、位置についてください。用意はいいですか、それでは始め!」
ジェームスが始まりの合図を出すと、公爵令嬢は、汚いわ、臭いわと言いながら、フリルがふんだんに付いた服で子犬を追いかけ始めた。
だが、重い頭と高いヒールの先が土に埋まり苦戦している。
まあ、そうだろう。予想通りだ~。
あんな物が頭の上に乗っているのだ、動けるはずがない。
彼女は側妃様を崇拝していて、これでもこの対決の為に派手さをかなり抑えた服装にしていると、後ろのギャラリー達が話しているのを聞いた。
これでかなり抑えているのかと、俺は驚いた。
怖いもの見たさで、いつもの服装を見てみたいと、ほんの少し思ってしまったのは内緒だ。
まあ、そんなことより対決である。
対決は、すでに始まっているのだが、俺は動かずにいる。
突っ立っている。
それを見た公爵令嬢と告げ口した令嬢が、目線を交わし笑みをこぼした。
はっ、今の見た?ねぇねぇ、見た?
絶対に、私たち勝ったわ!とか、勝利を確信しちゃって、笑い合っちゃったよね??そうだよね!
まじか、まじか~。
俺はその瞬間、内心大爆笑していた。
程なくして、公爵令嬢が地面に押さえつける様に子犬を両手で掴んだ。
それを確認した後、俺はゆっくりと行動を始めた。
ここにいる犬は、どう見ても訓練されている。
貴族相手に危害を加える事が無いようにと訓練を受けた犬が用意されたのだろう。
それならばと、俺は犬の入っている方の柵の入り口を大きく開け、ゴールの柵の方へと歩く。
ゴールの柵の前まで来ると柵の入り口に手を掛ける。
さあ、ショータイムだ!
シャララーン。
そして、指笛を大きく鳴らした。
ピューイ♪
その音に犬たちが一斉に反応し、最初いた柵から勢いよく飛び出す。
そして、近づいてくる彼らの目の前で、ゴールの柵を俺が一気に開けると、そこへ吸い込まれるように 公爵令嬢が掴んでいる小型犬以外の全ての犬たちが入っていった。
呆気にとられるギャラリーたち。
「さあ、終わったよ。」
俺がそう言うと、
「え、あ、うん。ウィリアムの勝~利~。」
と、ジェームスが慌てて言い放った。
「こ、こんなのおかしいわ。犬に全く触っていないじゃない!!」
公爵令嬢が悲鳴のような声で言い放つ。
「おかしい?何処が?これは、君が決めた対戦内容だよ。それには、犬に触れなければならないと言うルールは最初から無かった。だから、何も問題はないよ。」
ヘンリー殿下が冷静に、公爵令嬢の言葉を否定する。
「こんなのって、こんなのってない。ウィリアム様は犬が苦手なはずでしょ?私が必ず勝てるって言ったじゃない!嘘つき!お前が、お前が嘘の情報を持ってくるからいけないのよ!!」
その発言にビクッと跳ねあがり体を硬直させたのは、先程の小さな令嬢。
そう、公爵令嬢が言葉の刃を向けて睨む目線の先に居る、盗み聞きをしていた令嬢だ。
「も、申し訳ございませんでした。ごめんなさい…ごめんなさい、すみませんでした。」
頭を抱えしゃがみ込み、告げ口令嬢は小さな声で謝り続けている。
その令嬢を白けた目で見てから、俺は公爵令嬢に話し掛けた。
「彼女は嘘をついていませんよ。確かに私は、犬が苦手でした。先日、思い出話を幼馴染としていたので、その話をそちらの令嬢が隠れて聞いていたのでしょう。それを貴女に報告されたのでは?だから、犬が苦手という報告は嘘ではないのですよ。ただ、今はどうかと言うと、ほら、こんなに仲良しで大好きですけどね。」
そう言って、俺は大型犬を撫でまわしてみせた。
お~し、わしゃわしゃしちゃるぞ~。
クックッ、あの目……全て人任せなのに、たいぶ悔しそうだな。
その様子を見た公爵令嬢は歯をギリギリさせる。
捕まえていた小型犬が緩んだ手の隙間から公爵令嬢の胸を蹴って逃げ出した。
蹴られた場所を抑えてプルプル震え、もういいと強く言い放つと公爵令嬢もその場を去っていった。
その後ろを告げ口令嬢が必死に追っていく……。
「凄い。まさか、あんなにも犬に触れられるようになっていたなんて、驚いたわ!」
マーガレットが俺に近寄り、興奮して笑顔で話し掛けてきた。
え、笑顔だ!!メグスマイル!
飛び切りの笑顔だぞ!
俺に向けた、俺だけの笑顔……メグスマ万歳!
クゥー、可愛いにも程がある。
「メ、メグが教えてくれたんじゃないか。犬は一緒に遊びたいだけで怖くないって。あの直後は、犬は本当に苦手だったけど、メグの言葉からもう一度犬を触ってみようと思えて一歩踏み出せたんだ。」
俺は少し顔を赤くして話す。
「私のお陰だなんて……私、そんなことをあなたに言ったかしら?」
そう言いうと、マーガレットは褒められて照れたのか、顔を赤らめ背けた。
絶対に覚えてるやつー。
はああ、そんなマーガレッドは、とても愛らしい。
俺はその素晴らしい表情を心のアルバムに追加した。
うん、俺は大満足だ。
***
その後も、3日開けての対決は次々に行われていった。
第5回刺繍、第6回楽器、第7回語学力、第8回暗記そして、第9回にポーカー。
もちろん、全てに俺は勝利した。
したのだが……それらの対決を行うごとに、俺は少しづつ苦い記憶を思い出すこととなる。
反省する為に、昔を思い出そうとする事が日に日に増えた所為なのか、俺は対決と共に記憶の断片が甦るようになっていた。
それは、この対決と同じことを、昔、マーガレットに勝つまで挑んでいた苦い記憶だった。
なぜ忘れていたのだろうか?
その忘れていたマーガレットに勝負を強要する記憶が、回を重ねるごとに断片的であるが蘇ってきていたのだ。
そして、なぜ昔の俺は彼女に勝負なんかを仕掛けていたのかを疑問に感じるようになっていた。
そこの記憶はまだ思い出せていない。
もやもやするこの気持ちを消し去りたい。
早くこの不快感を取り除きたい。
そう感じ、もっと記憶を思い出そうと試みることにした。
俺は自身の記憶の深層を探った。
切っ掛けはなんだったのか??
出会った頃の幼少期は割と仲よく遊んでいた。
どのあたりだったか、強烈な不快な思い出があった。
確か、ラックランド伯爵領の小さな湖で、俺が13歳の時に溺れた思い出だ。
溺れたのを助けたのが、俺とその日仲良く遊んでいた泳ぎの得意で若干10歳のマーガレットだった。
この時、俺よりも幼く小さな女の子に助けられたという事実が、俺の自尊心を深く傷つけた。
なんで、俺より小さな女の子にって強く感じてしまっている……。
傷ついた俺は自分の精神を保つために何をどう考えたのか、何事にも彼女に勝つべく、勝負を挑むことにしたのだった。
そう、会うたびに……何度も、何度も、俺が勝てるまでそれは繰り返したのである。
そうだ、この時から何故か頑なに俺はずっとマーガレットに勝負を挑み続けた。
いつも彼女に勝てれば満足する。
……小さな女の子に。
それの繰り返しだった。
はあ、これが理由。
こんな理由だなんて。
昔の俺は、なんて浅はかなのだろうか。
穴があったら入りたい。恥ずかしい。
あれ?でも、なぜ挑まなくなった??
最後の記憶は……確か、15歳になる少し前のあの日、なかなか勝つことの出来なかったポーカーで、完璧に勝ち越せるようになったと勝利して息巻いた時だ。
気分が高揚した俺は、マーガレットに何か言ったはず。
そう、何かを…確か…あれは…あれは。
「お前は俺に何一つ勝てやしない。だから俺より劣っている。弱い人間だ!」
あ、思い出した!
そうだ、いびつな笑顔を浮かべて、あの時、俺はマーガレットに言い放ったんだ。
その後も、マーガレットが何も言い返さない事をいいことに、俺は暴言を続けた。
「もう、お前には興味がない!ああ、最初から無かったのかもしれないな。まあいい、これからは…………お前と勝負することはないだろうから…………お、お前はつまらない奴だからな。もうお前は必要ない。俺はお前無しで、別の面白いことをする。」
そう言い終えると、俺は勢いよく駆け出し、ドアを開け、部屋を出て行った。
その時の場面を途切れ途切れに思い出す。
そうだ、そうだった。
言った、確かに言っている!?
俺はマーガレットに酷いこと言いまくっていた!!
血の気が引いた。
その時の細かな表情や感情を全ては思い出せない。
しかし、これだけは確実に言えるだろう。
絶対にこの時にメグは傷ついたと。
「どうした?ウィリアム?9連勝だぞ。もうあと28日だ。あと残るは7戦だぞ?喜ばしいな。」
フレデリックがそんな俺の心情などお構いなしに嬉しそうに声を掛けてくる。
俺の様子に何かを感じ取り、ジェームスが近づいてくる。
「顔色が悪いね、ウィリアム。ああそうか、ハハッ、ついにあの日の記憶を思い出してくれたのかな?」
ジェームスが口角を上げて、したり顔で聞いてくる。
ああそうか、これらの対決内容は、俺の記憶を思い出させる為にジェームスによって、うまく操作されていたのか。
俺があの時の事を思い出すように…。
ジェームス、思い出したよ。
傷、つけてたよ……。
「ああ、断片的だが思い出したよ。俺は随分と酷くメグの人格を否定した様だ……悪いことをした。」
俺は声を震わせ、白状する。
「今さら後悔しても遅いぞ!メグはあの時、酷く傷ついたんだ。一時期笑わなくなり痩せて、見ていて痛々しい時期もあった。もう精神は持ち直しているが、お前の更なる裏切り……お前は最低な、身勝手|男|《ヤロー>》だよ。」
「え?更なる裏切り?」
ジェームスの言葉が突っかかる。
その言葉の真意を聞こうと口を開く前に、ジェームスが放つ。
「ハッキリ言って、俺は妹をお前のような者の所へ妹を嫁がせる気は微塵もないからね。次の対決は、本の知識対決だ。相手は社交界でも有名な本好き令嬢、自身も本を執筆しているそうだから、かなりの強敵だから心してかかるように!おそらく、気を緩めれば、お前は負けるぞ!!」
そう言い放つと、ジェームスは踵を返し去っていった。
強敵だとー!?俺が負ける!?
握る拳に力が入る。
絶対に、絶対に負けられない!
シャララーン。
対決は、犬から始まり、刺繍、楽器、語学力、暗記にポーカーでした。
この回に登場した公爵令嬢の家は、公爵家ですが、四大公爵の一つではありません。
ジェームスはウィリアムが嫌いなわけではなく、妹の味方なだけなんです。
いい奴なんですよ。




