俺、自覚する(前半)
お読みくださいましてありがとうございます。
過去を思い出している回です。
あれは、俺がマーガレットを落とすと決めてから半年以上経った頃である。
学院には、俺より3つ下のマーガレットも14歳から通っていたのだが、性別も違うし、年が離れている為、授業で一緒になることは滅多になかった。
だが、俺はマーガレットを観察し情報を得るために、ここ半年ほど暇な時間をみつけては、彼女の様子を見に行っていた。
そして気づいた。
シャララーン。
マーガレットは学院休日の翌日、必ず放課後に居残りをし、一人で図書室へ向かうということに。
休み明けの放課後に図書室でいったい何をしているのか??
これこそ、重要情報なのでは!?
俺はその日、その事を探るために、マーガレットが来る前に図書室に侵入し先回りし、本棚の影に身を潜めていた。
一つ言っておく、これはこれからの作戦を立てるための情報収集の一環であり、決して彼女を見張っているわけではない。
もう一度言う、俺はマーガレットをつけ狙っているわけではないし、追い回してもいない!
そこに上機嫌のマーガレットが入室してきた。
キタッ!?
本棚の影で俺は息を潜める。
座る位置が決まっているようで、一直線に部屋の奥にある小さなテーブルへと向かっていく。
そのあとマーガレットは、テーブルの上に本とノートを広げて、勉強を始めた。
あら?ちょっと拍子抜けであった。
しばらく眺めたのち、何が起こるでもなく勉強に励むマーガレットを見続け、何だ、ただの勉強であったのかと安心し、俺の肩の荷が下りた、その時である。
入り口の扉から学生ではないのだが、若い背の高い細身の男性が図書室へ入ってきた。
すると、彼を目にしたマーガレットが勢いよくテーブルの上の物を片付け始める。
なんだ?どうした?
俺に緊張が走る。
男も慣れた様子で、マーガレットの座る奥のテーブルへと進んで行く。
誰だあいつ?
ひょろっとしているあいつ、見覚えがある奴だ。
確か春から働き始めた文学教師のギルバート・バクレーと言ったか。
なんだ?どういう事だ!?
あいつと待ち合わせていたのか?
あんな、あんなに冴えない、ただ背が高いだけの男だと!?
えっ、どんな関係だ?まさか……!?
胸騒ぎが止まらない。
バクレーがマーガレットに近づき、言葉を交わす。
あんな……笑っている……。
あれ?どうしてこんなに俺の心臓は脈打っているんだ?
なんで締め付けられるような痛みがするんだ!?
俺は、息をするのを忘れていた。
忘れて、2人が言葉を交わし着席するまでを、ただひたすら見続けていた。
ガタっと音がして我に返り、ガバッと勢いよく息を吸い込んだ。
一気に酸素が体内に入り、頭が晴れていく。
音の正体を掴むため後ろを振り向くと、ヘンリー殿下が居た。
正直、彼の顔を見てホッとした。
気持ちがほんの少し安らいだのだった。
ヘンリー殿下が口元に一本指を立てて、俺の隣へ寄ってくる。
それを見て頷き、俺は静かに向きを戻し、観察を続けた。
図書室は静かにと注意書があるのに、バクレーとマーガレットの2人は楽しそうに小声で口元を隠し耳打ちして会話している。
周りも慣れている風景なのか特に何も言う様子もないようだ。
なんだ、あれはなんだ!?
俺は何を見ている?
あのマーガレットの頬を紅潮させながら話す顔は……笑顔が……俺には向けられたことがないぞ……。
そんな可愛らしい顔を、そんなしょぼい男に向けるなよ!!
俺に……あれ?なんだ?俺にって?
その時、バグレーが突然立ち上がり、席を離れる。
マーガレットも静かに立ち上がり、一緒に退出しようと荷物を抱えようとするのだが、それをバグレーが制止している。
断片的にだがそう聞こえた。
急いで行ってくるからと、ここで待つように促しているようだ。
忘れ物でも取りに行くのか、バグレーがいったん図書室を出ていく。
そのバクレーを見つめるマーガレットの目が、俺に好きだと告白してきた数々の女達が一方的に向けてくる熱い眼差しと同じ、眩いものをみるような恋する目、待ち焦がれる気持ちを堪える目、溢れんばかりの恋する感情の目であることに、衝撃を受けたのである。
「あれは……2人は付き合っているのかな?」
ヘンリー殿下がマーガレットの方を見て、小さく呟く。
「なっ!?!?」
俺が馬鹿なことを言うな!と思わず大きな声で叫びそうになったのを、殿下に口を強く押さえつけられたので、言葉は発せらずに済んだ。
「あっ、あぶなかった……静かに、図書室だからね。それに彼女にはバレたくはないだろう?」
殿下が小声で諭す。
俺は首を縦に大きく振った。
ヤヤヤ、ヤバかった!
ばれちゃうとこだった。
殿下、殿下ナイスだよ~。
よくやったと手で合図し、涙目でシャララーンする。
そこにバクレーが小さな箱を持って戻ってきた。
マーガレットに渡し、席に着く。
マーガレットは嬉しそうに受け取り、中を確かめた後に口を両手で覆い感激していた。
それから二人はしばし歓談し、2人で図書室を後のしたのだ。
なんだ?あの二人は……なんだ?
俺は、今の光景にショックを受けていた。
黙ったまま、しばしその場に立ち尽くした。
少し時間を空けてから、ヘンリーに声を掛けられ、ウィリアム達も図書室を出る。
そして、一言も発することなく、いつもの部屋に移動した。
次回、後半に続く。
移動中は我の心、ここに在らず状態。




