第68話 ゴーレム娘、改造結果
58 ~ 69話を連投中。
4/7(日) 15:30 ~ 19:30くらいまで。(前回実績:1話/20分で計算)
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「う~~ん…………タチアナさんに回復してもらったはずなんだが、なんか違和感が…………」
右手を首筋に当て、首を捻りながら廊下を行くのは、次男ディアス・テモールである。
治癒魔法は大きなケガを急速に回復してくれるが、最後の最後までは回復してくれない。そこは自分の治癒力で回復するしかないのだ。
イメージで言うと95%までは急回復するが、残りの5%は自力でゆっくり回復させる感じ。
そして打撲は大抵残り5%に当たる。
本人は覚えていないが、全身満遍なく ド突かれていたため、違和感が強く残っているのだ。
……………………計画通り!!
そんなこととは露知らず、時々立ち止まって伸びをしながら進んでいく。
目的は食堂…………ではなく、ルーシアナたちの迎えである。
ディアスも軽く汗を流して着替えた訳だが、さすがに男と女では掛かる時間が天と地ほども差があった。すぐに両親たちやギルド長の集まる部屋に行ったのだが、『そろそろ食事の準備も終わりそう』ということで呼びに行かされたのだ。
メイドたちを除けば、あの集団の中ではカースト最下位なので。
まぁ、それでも本当に面倒であるのならば、メイドにでも指示すればいいことだが、それをせずに自分で行うのは理由があった。
「それにしてもあの移動…………やはり、疑似空間転移の応用か?うーん……なんとかヒントでも貰えないものか…………」
脳筋ですからね。色のある理由ではなかったようです。
ディアスとしても、あの魔法の欠点には気が付いている。
あれは『距離を縮める』魔法だ。素早く移動しているように見せ掛けて、その実 速度は上がっていない。
だから攻撃動作に使っても、早く届きこそすれ、威力はない。威力は速度に比例するからだ。あれでは武器を押し当てることしかできない。
だがやはり利点は多いし、なにより最後の防御に使って見せた『距離を広げる』ことによる衝撃波の無効化。
あれは素晴らしい。あらゆる遠距離攻撃を無効化する可能性を秘めている。
近接系の剣士に取って、遠くから一方的に撃ち込まれる矢や魔法は、どんな戦場でも頭を悩ませるものなのだ。
それを回避せずに、接近だけで無効化出来る。こんなに楽なことはない。
「それにまぁ、面白かったしな」
実を言えばこの男。本気は出していなかった。
ルーシアナがナツナツと連携して闘うことを知っていたので、一対一で行った今回の模擬戦では自主的に同程度のハンデを課したのだ。具体的には、いくつかの基礎的なスキル以外の使用を禁じた。
別に手加減というわけでもない。普段の訓練でも似たようなことはする。
スキルを使わずにその技を使うことで、スキルを使った際の精度が上がりやすくなるし、派生スキルを閃いたりすることもある。
それにディアスは副長。指揮官だ。
本当に本気を出すなら、部下を率いていなければ真実 本気とは言えないだろう。向こうも本領は対人戦ではなく対魔獣戦。
そもそものジャンルが違う。手合わせするなら何かしら擦り合せが必要だろう。今回のように。
その上で『面白い』と思ったのだ。同世代に近い強さのライバルがいないのも大きいが。
そんなわけで、ルーシアナがどう思っているかは知らないが、ディアスとしては結構気に入った。
何かしら理由をつけて会いに行きたいと思う程度には。
『ここか…………』
そして辿り着く。
そこは数ある部屋の中でも、特に奥まった場所、客人用のエリアにある更衣室だ。
コンコンコン…………
「おーい。俺だ。そろそろ昼食が出来るが、まだ時間が掛かりそうかー?」
「…………………………………………」
「あれ?」
声を掛けるが、返ってくる言葉はなかった。
ディアスは困ったように左右を見回すと、もう一度扉を叩く。
コンコンコン…………
「もしもーし」
「…………………………………………」
やはり返事はなく、人が動いている気配も感じない。
「部屋を間違えたか…………?」
セレスやルーシアナならともかく、メイドが無視するとは考えにくい。あの二人がイタズラを仕掛けたとしても、だ。
コンコンコン…………
「…………入るぞー」
さすがのディアスも、女性が着替えている (はずの) 部屋に入るのは、それなり緊張している模様。言い訳は利きませんからね。
静かに扉を開けると、そこは確かに自分の家の更衣室だった。
アクセサリや化粧道具がそのまま残されており、使用中であることが窺われる。
「どこ行ったんだよ…………トイレか?」
デリカシーが…………
どこか安心したように、けれど呆れ口調をメインに部屋の中に足を踏み入れる。
すぐ戻って来るだろうと、考えたのだ。
そして、ふと窓際に視線を向けて――――
「…………………………………………」
呼吸すらも忘れて固まった。
更衣室の窓は採光のため大きいが、外からの視線を遮るため、すぐ外に背の高い生垣が立ち、木漏れ日のような陽光を室内に降り注がせている。
その、光の中に、それはいた。
淡緑色のシンプルなドレスに身を包み、静かに瞳を閉じて弛緩している。
頭の傾きに合わせて細く艶やかな絹糸のような金の髪が、顔と服に懸かっており、しかしベールのように細い髪はなんら隠すことは出来ていなかった。
薄く開いた唇からは呼吸音は聞こえず、髪にひとつだけ付けられた細かい花の髪飾りと合わせて、人ではなくもっと高位の存在が戯れに俗世に降りてきたような錯覚を自然と信じさせる。
「…………………………………………」
言葉は出なかった。呼吸も止まっている。
風に揺れる木漏れ日でさえ、この奇跡の風景を壊してしまうのではないかという懸念に、ぴくりとも動けずにいた。
「……………………んぅ……」
「!!!?!!!!!?」
ルーシアナの漏らした小さな声に、大袈裟に慌てる。だが、そのお陰で少し現実感を取り戻した。
…………………………………………
ルーシアナは起きない。少し姿勢を変えて転た寝を続けている。
だが、そのせいでサラサラと髪が流れ落ち、顔の大部分を隠してしまっていた。
「…………………………………………」
少しだけ取り戻した現実感に押され、ゆっくりと動き出す。
顔が隠れたことに残念を思ったら、自然と動き出していた。
…………………………………………
正面に膝をついた。
なるほど。この位置ならば顔がよく見える。
そして、ここまで近付いてようやく呼吸音が聞こえてきて、確かに現実のものだったと、当たり前のことに安堵のタメ息をつく。
そのまま本能のまま顔に懸かる髪に手を
「なにを。して。い、る、の、か、な?」
ビッッッックーーーー!!!!!!!!
地獄の底から響くような声と、心臓を貫いた殺気に一瞬で我に返る。
己の人生にして、最速の振り向きでもって、背後に向き直った。
▽体捌きのレベル上昇を確認。
▽《転身》を取得。
▽詳細確認推奨。
なんかスキルを覚えた気がするが、今はそれどころじゃない。
扉の前には、セレスを先頭に、バークレー、セリーヌ、ニコール、ジット、タチアナ、メイドたちが並んでいる。
全員不自然に無表情である。
「あ、いや、その……」
「なにを、しているのか。と、問うたのよ?」
「(ひいいいいぃぃぃぃ!!!!!!!!)」
ヤバイヤバイヤバイヤバイ!!!!
何がヤバイのか。ハッキリと命がヤバイ。
冷や汗と脂汗とよく分からない汗がダラダラと流れた。
セレスが左手を上げると、まるで部下のようにメイドたちが進み、ルーシアナを起こす。
「お嬢様。お嬢様」
「ふぇ?…………あ、おはよう。終わった?」
「はい♪とてもお似合いですよ」
「そうなの?ありがとう」
「では、こちらへどうぞ」
「うん」
メイドに連れられてルーシアナが行く。
途中でディアスを不思議そうに見上げていくが、メイドたちに促されてそのまま進んでいった。
それをタチアナとセリーヌが、ディアスから隠すように囲う。
「ルーシアちゃん、見違えたわ~♪」
「そうね~♪とっても綺麗よ」
「ホント?服に着られてる感じになってない?」
「そんなことないわよ~」
「私のお古だから不安だったけど、むしろ今の装飾をゴテゴテ着ける服より、貴女の魅力を引き出してるわ。よくやったわね、貴女たち」
「ありがとうございます!!」×メイドたち
それらを背にセレス、バークレー、ニコール、ギルド長 が歩を進める。
「ねぇ。アレ、どうしたの?」
さすがに疑問に思ったルーシアナが、ディアスを指差して問う。
『ナイスだルーシアナ!!!!そのまま話を進めて何もされてないと証言してくれ!!!!』
微かな光明に縋るようにルーシアナを見るが、
「いいのいいの。ちょっと時間が掛かるから、あっちへ行ってましょう?」
「え?でも、昼食じゃ…………」
「大丈夫よ。ちょっと遅れるって言ってあるから。もし我慢できないなら、お菓子でもどう?」
「食事前にお菓子はいいよ……飲み物だけでいい」
「承知しました。ではこちらへどうぞ」
ダメだった。ルーシアナはセリーヌとタチアナさんに連れられて室外に出ていってしまう…………
バタン…………
扉の閉まる音が無情に響く。
ルーシアナに気付かれないように絞っていた殺気が、一気に解放されて、この部屋の室温がガクッと下がった気がした。
「……………………あの」
「貴様に許されたことは二つだけだ」
「はい…………」
「真実を話すこと。釈明すること。まずは真実を話せ」
「はい……………………」
罪人を尋問するときの定型句ですね、分かります。
なお、『釈明』とは相手の誤解を解き理解を求めることで、『弁解』つまり『言い訳』になってしまうとさらに立場は悪くなる…………
「えーとですね……」
いつの間にか周囲を四人に囲まれ、中心で正座しながら説明を始めるのだった…………
恋愛系の話に展開はしませんので悪しからず。




