第50話 オズ VS. 残存戦力①
33 ~ 57話を連投中。
3/21(木) 9:00 ~ 19:00くらいまで。(前回実績:10話を4時間で投稿)
word → 貼り付け → プレビュー確認、微調整 → 投稿してますので、時間が掛かります。
申し訳ありません。
ブックマークから最新話へ飛んだ方はご注意ください。
ルーシアナたちがシステム内で本来の予定とは全然関係の無い、ベーシック・ドラゴンとの戦闘を開始したころ、現実世界のオズは敵の侵攻に対応していた。
「【五点断顕】。Read…………Invoke」
中枢システム区画を遮る最後の扉に対し、時空魔法による魔法障壁を重ね掛けして敵機の侵攻を阻む。
ゴッ!!ガッ!!ドッ!!ガッ!!…………
尋常ではない激音が連続して、魔法障壁が不気味に瞬く。
衝撃でイカれた術式に、強引に魔力を流して魔法障壁を維持しているのだ。一撃が加えられる度に術式の破損の度合いが高くなっていくが、攻撃に隙間が見つけられないので魔法障壁を張り直すことが出来ない。
「参りましたね……」
五柱で魔法障壁を展開し、四柱で術式の修復を進め、後方でルーシアナから送られる魔力をそれぞれに分配しながらオズは独り言ちた。
「まだ目覚めませんか」
ルーシアナが目覚める気配がない。そして魔力の供給速度が落ちている。
予想では夢魔は消耗しているはずなのですぐに倒せると考えていたのだが、何かイレギュラーがあったのだろう。システム内で戦闘中だ。
ナビには『敵襲あり』と連絡を送っておいたが、あちらに集中しているため、こちらの詳細な状況は分からないだろう。
ナビはこちらの残魔力を見ながら、魔力を送っている状況だ。
ジリジリと残魔力が減っていく。消費量が供給量を上回っているのだ。
「まぁ、予想外はこちらも同じですが」
もう一度 敵機の情報を確認する。
『人型殲滅用デバイス試作型 HJD-00049。人型防衛用デバイス RSD-77459をベースに、兵装を絞り、代わりに基礎出力を大幅に強化した機体。単機戦闘力の向上を狙った試作機』
「全く、あのオタク共め……」
あの試作機は、本来この施設に存在するような機体ではない。
整備部門の中にああいう物を『研究資料』という名目で持ち込む連中がいたのである。戦争も無い時代に『殲滅』のためのデバイスの、何を研究したのかは定かではないが。
まぁそういう平和な時代だからこそ、本来兵器であるそれらに芸術的価値を見い出し、鑑賞目的で集める連中がいたのかもしれないが、問題は未だしっかりと稼働することである。
どうも一部の自己判断型修復デバイスに整備を投げていたらしい。持ち主がいなくなっても、淡々と整備を続けていた。
オズがこの施設の管理AIとはいえ、個人の所有物まで管理している訳ではない。修復デバイスの作業履歴とて、一日だけで膨大な量の記録が提出される。疑問に思って仔細に確認でもしない限りは、気付きようがなかったのだ。…………今回のように。
オズがあの試作機に気が付いたのは、中枢システム区画へ繋がる扉のひとつが破壊されたことによる。
残った追従型汎用デバイスで破壊できるはずがないのだ。
慌てて監視システムにアクセスして試作機を確認。同時に作業履歴を見直して、あれの由来を断定したところである。
夢魔がシステムを乗っ取った際、あれらにも起動指示が出ていたが、非正規に整備されていたため各部の劣化は著しく、まともに起動出来た機体は存在しなかった。
だが、整備を投げられていた自己判断型修復デバイスは、独自に判断を進め、複数の機体から無事な部品を寄せ集めて一体だけ再起動することに成功したのだ。
アレらに『コレクションとしての整備』と『道具としての整備』の違いを判断する機能はなかったようだ。当たり前だが。
結果としてこの施設の最大戦力が蘇ってしまった。
せめてもの救いは、一体だけであること、他デバイスと連携は取っていないこと。
「それでも勝率は五分五分ですか……」
現在のボディはオズの専用デバイスであるが、ベースは汎用デバイスである。
特別に強化されてはいるが、それでも限界はある。
……………………数の利を活かす他無いですね。
覚悟を決めた。
壊れかけた魔法障壁へ最後に魔力を流すと、扉の正面1m程の位置に改めて魔法障壁を張る。
敵機が扉を破壊したなら、その勢いのまま飛び込んでくる可能性が高い。そこを狙って、五柱で合体魔法を仕掛ける。
使用する魔法は【五点圏攣】。地魔法による物質崩壊である。
本当は時空魔法による物質消去の方が確実だったのだが、時空属性特化の白デバイスは魔法障壁を張っているので仕方がない。
敵機の攻撃が魔法障壁と扉に加えられる。
三発で魔法障壁が砕け、二発で扉が歪み、最後の一発で扉が吹っ飛ぶ。
扉は斜めに展開した最低限の魔法障壁に流されるように右後方に吹っ飛んでいき、間髪入れずに漆黒の機体が通路から飛び出してきた。
だが軌道がおかしい。扉の枠に思い切り肩をぶつけつつ、強引に中枢システム区画へ身を踊らせる。
『【五点断顕】解除。陣形変更、敵機を囲み次第【五点圏攣】』
中枢システム区画へ飛び込んできた敵機 (『黒人形』と呼称) の様子がおかしい。こちらの罠を読んでいたとしても、扉枠にぶつかりながら侵入してくることに違和感を覚える。
今は飛び込んだ勢いままに右側の床に転がり、引き攣ったように痙攣しながら、立ち上がろうと苦慮している。
黄円筒を先頭に赤・青・緑・橙が黒人形を囲み、【五点圏攣】を発ど
「!?」
魔法を発動させようとした瞬間、黒人形は両膝を抱えるように勢いよく折り曲げると、顔面に膝頭が当たって上半身が持ち上がり、真上に飛び上がるように両足で床を蹴りつけた。
床を蹴った黒人形は、その衝撃で左後ろ上空に吹っ飛んでいき、壁に当たってぐしゃりと床へ落ちた。
『バランサー 及び 出力調整機構に異常あり』
しっかりと稼働なんてしていなかった。
恐らく黒人形のシステムは今も様々なエラーコードを出力し続けているだろう。満身創痍の状態だった。
だが。
『危険です』
性能が上の試作機であろうとも勝率を五分五分と予想したのは、相手が必ず最善の動きを選択するという前提があったからだ。簡単に言えば相手の動きを高精度で予想できる自信があった。
…………その前提が崩れた。黒人形にしてみれば、最善の動きを選択しているつもりなのかもしれない。だが、現実には全く最善ではない。そのくせ、その攻撃力は一撃でこちらを破壊し得るのだからいただけない。
結果として黒人形は数多のフェイントを駆使する強敵と相成った。いや、元々 強敵ではあったのだが、その質が変わった。己にとって不利な方に。
一先ずアレは最善で動かない。ならば最も危険な位置が最も安全である。
そう結論して戦術を組み直し、紫・白・月白・紺で囲むように移動させる。
黒人形は壁に手を付きながら、『ギギギ……』と軋む音を響かせながら立ち上がると、右腕を刀剣状に変化させた。
「【四点輝閃】。Read…………Invoke」
月白をメインに光魔法を発動させる。瞬間的に集束した魔力が強い光となって月白から発射される。レーザー光線だ。
光速を持つレーザー光線は発射と同時に着弾する。避けようはなかった。
キュボォ……!!
黒人形の背後の壁を灼く。
黒人形は発射の直前、体を半身にして その射線上から身を逸らしていた。
『危険!!』
最善の動きだった。
そして歩むような動きで、しかし強力に瞬発すると、一歩で月白を剣の間合いに入れ、床からの斬り上げで両断した。
背後から紺がドリルアームを伸ばして加速し、白が紺を【積層断空】で防御し、紫が黄と連動して合体魔法発動のために位置取りする。
一瞬だった。
斬り上げた右腕を返す刀で白を真っ二つにすると、続いて紫に向かうべく足に力を入れ、あらぬ方向に吹っ飛んでいったのは。
黄たち五柱の上を抜けて飛び、柱に当たって頭から床に落ちる。ダメージなし。正常に動かないが、自滅することはない。
『常に異常ではないのですね……』
危険度がさらに上がった。まさしくフェイントを駆使し、隙を狙う強敵だ。
通常の戦術へ組み直す。最善で動き得るなら、最善で動くと仮定した方がいい。その上で合体魔法を当てるしかない。
有効打が直接攻撃か、合体魔法の集中型しかない目算なのが痛い。魔力が無尽蔵にあるなら、異常な行動を取っても範囲攻撃で巻き込めるのだが。
黒人形を囲む前に立ち上がられてしまった。前衛に紫、その後ろに橙を置き、後衛は三対三に分かれて半円状に散開する。
紫・橙を囮に内側に誘う。端から来られたら紫・橙が前進して後衛と黒人形を挟む。
黒人形がぎこちなく構えると、素直に真っ直ぐ来た。上段からの斬り下ろし。紫を全力で回避させつつ、橙をドリルアームで進ませる。これらを囮に黒人形の左右後方に紺・青が回り込む。
紫の回避はギリギリ間に合わない。左上から中心まで真っ直ぐに剣が入る。だが、軌道を敢えて不規則に進ませていたことが功を奏し、『ギャリ……』と刀身を噛んだ。
動きを止める紫を足場に、橙がドリルアームを翳して黒人形に肉薄する。同時に
『【三点灼炎】。Read…………Invoke』
『【三点鈍破】。Read…………Invoke』
微妙に焦点をズラした合体魔法が発動する。
これならばどれかは当たる…………!!!!
黒人形の撃破を確信した瞬間。
黒人形は左腕をやはり刀身へ変化させると、迫る橙にカウンターで突きを放つ。宙に跳びつつあった橙はモロに攻撃を喰らってその中心に穴を開けた。そして紫が噛む右腕を強引に外側に振ると途中で刀身を消す。
放り出された紫は、左で補助をしていた紺にぶつかると、発動途中であった【三点灼炎】の術式が砕けて消え、【三点鈍破】は捻った身の背面装甲を浅く破壊するに留めた。
『!!!!』
まだ、攻撃は終わっていない。
右に体を開いた黒人形に向かって魔法を半端に止められた赤が加速する。狙いは首元、最も装甲が薄い。それを見た黒人形は跳ねるために両足に力を込めるはず。
発動中の【三点鈍破】に魔力を込めて維持時間を延ばした。
黒人形は、一度目は正面左側に跳んだ。二度目と三度目は後方左側。
正面、または真後ろに跳ぶべきところで、常に左側にズレている。恐らく右足の出力調整が上手くいっていない。特に跳躍レベルの出力調整が。
前からは赤のドリルアーム、後ろには【三点鈍破】。
選択は上空へ向いた右腕方向への跳躍か、頭方向への跳躍か。だが、右腕方向へ跳んだら右足を強く蹴りすぎて頭方向に跳んでくる。
いずれにせよ、頭方向にいる己の方へ跳んでくる。それをカウンターで狙う。
……………………刹那の時。
黒人形は脱力したように床へ倒れ伏した。
……………………は?
一瞬、思考が止まる。あんな動き、最善でも最善からの異常でも起こり得ない。
エネルギー切れで止まった?それとも致命的にシステムエラーした?
…………どれも違った。
黒人形は倒れたまま左腕を振り上げ、刺さったままだった橙ごと赤を真っ二つにし、そのまま床を転がって【三点鈍破】の下を潜り抜けて右側に移動すると、回転運動を乗せた右踵蹴りを青に喰らわせ、バンザイするように振り上げた両腕の剣で黄と緑を貫いた。
――――やられた……!!!!
機体の異常に合わせて行動を最適化していた。跳躍時において右足が無いものとして行動していたのだ。そう考えれば床に倒れ伏したのも頷ける。
片足で跳躍回避は無理だ。あれは最善ならぬ最良の選択だったろう。
黒人形がゆっくりと立ち上がる。己の補助デバイスは全滅だ。
すでにナビへは『全滅。至急覚醒せよ』と連絡は済んだ。
『ルーシアナ』様はすぐに目覚めるだろう。己は攻撃を受けぬよう退くべきだ。
…………………………………………足のローラーは動かなかった。
エラーコードは出ていない。ただ命令がいっていないだけだ。だからローラーに命令を出した。
黒人形の進路を遮るように止まる。アームを伸ばして進路を遮る。
……………………ふむ。
「知っていますか、黒人形」
黒人形は止まらない。
「人間は心と体が異なる行動を取ることがあるそうです」
近付いてくる。
「驚きですね。機械にもあるようですよ。ここを退くべきと判断しているのに、体が動かない」
剣の間合いに入った。
「不思議ですね。それでもこの行動は『正しい』と自信を持って言えるのです」
黒人形が無造作に右腕を斬り下ろした。
一瞬だった。




