第36話 ゴーレム娘と字名
33 ~ 57話を連投中。
3/21(木) 9:00 ~ 19:00くらいまで。(前回実績:10話を4時間で投稿)
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チコリちゃんとこの工房『フィンメル・アルバ』を後にした私は、ギルドへとやってきた。
受付にいるセレスに手を振って挨拶し、Dランクの掲示板の前へ移動する。
ベーシック・ドラゴンの討伐は、最低でもCランククエストとなるため、昇格ポイントが入らなかった。
Dランクの私では本来受注出来ないクエストだからだ。(そのランクの冒険者と一緒に受けるのは別。この前のルーカスたちの時みたいな)
これは無謀な冒険者が高ランクの討伐対象に手を出したりしないようにするための対策のひとつであり、無理したところでランクアップ出来ないようになっているのだ。
Cランクに上がるのに必要な昇格ポイントは1,000。
ルーカス達と納品したダーチョの卵のお陰で、Eランクを飛ばしてランクアップしたものの、『超過した昇格ポイントは、次ランクに半分だけ持ち越す』というルールのため、Dランクにはそれほど持ち越せなかった。
現在、約200。残り800である。
一度のクエストで獲得出来る昇格ポイントは一桁上がったが、必要ポイントも一桁上がったので、あんまり意味がない……
そんなことを考えながら掲示板を眺めていると、周りの声が聞こえてくる。
「おい。あの娘……」
「ん?…………あ、人形遣い?」
「やっぱり?」
「拝んどこうぜ」
「ああ」
…………………………………………私、御利益ないからね?何も起こんなくても怒らないでね?
ベーシック・ドラゴンを倒した後に、ギルド長が冒険者たちに秘密にするように言った、囮の秘密『ルーシアは人形遣いである』という情報についてだが、次の日には大体の冒険者に広まっていた。
あ・い・つ・ら・は!!!!!!!!
せめて一週間位は黙っときなさいよ。
まぁ、囮なんだから広まった方がいいんだけど。一応ポーズでギルド長が犯人を探しているが、まだ見付かっていない。
多分、バラした本人も酔っ払ってたか何かで、バラした記憶がない可能性が高い、とのこと。
尋問用の『真偽を判定する魔法』を使っても分からなかったらしい。バラした記憶がないから、嘘をついた自覚がなく反応しないのだ。…………もっとも、精度は良くないのだが。
その情報にさらに、私と上手いこと関わってランクアップを果たしたルーカス達の情報と、傲慢不遜に関わってああなった誰か達の情報が混ざり合って、『因果応報の人形遣い』とか良く分からない字名で呼ばれようになった。
善意を持って接すれば善意を、悪意を持って接すれば悪意を返すというような。当たり前の話なんだが。
そして、善意=幸運、悪意=不運 に変化するのは一瞬で、最終的に『誠意を込めて祈れば良いことがある。ただし迷惑を掛けるな』みたいな内容に落ち着きつつある。
『ただし~』部分は頑張って潜り込ませた。セレスたちギルド員さん達にも手伝ってもらって、なんとか。
これがなかったら、『触るとさらに幸運度アップ』とかに超進化してた可能性も否めない。セーフ。
というわけで、かなり際どい所を多くの冒険者に見られてしまったが、私の知名度が急上昇した以外はそれほど目立った変化は起きなかった。
…………………………………………話を戻そう。
Dランククエストを確認する。
・上薬草の納品 (常設)
・食用肉の納品 (常設、ベイル山他)
・ダーチョの卵の納品 (常設、ガアンの森奥地)
…………………………………………
・ベイル鉱石の納品 (武器工房 トール・ペイン)
・竜草の納品 (錬金術師 ヘロシン)
・ベイル・ドロトトスの討伐 (冒険者ギルド)
…………………………………………
以前も説明したが、Dランククエストになると、その活動場所が一気に広がる。
場所毎に分けて貼ってくれるので、探すのにそんなに苦労はしないのだが、なんだか選択肢が多過ぎて途方に暮れる印象を受ける。
内容自体はこれまで通り、収集・討伐系がメインだが、他の街への護衛とか荷物の運搬とかもある。
それはともかく、ちょっとガアンの森に用があるので、何かついでに出来る依頼でもないかと思ったけど、常設のダーチョの卵以外 ガアンの森で出来る依頼は無さそうだった。薫茸の納品も出ていない。
諦めてEランククエストを確認だけして、ガアンの森に向かうことにした。
…………の前に。
「セレス~」
「どうしたの?依頼は?」
「武器が出来るまでまったりしてる。今日はガアンの森のEランククエストやってるから」
「了解。気を付けてね」
「ドラゴンが出なければ大丈夫~」
「笑えんわ」
保護者に行き先を告げて出発した。
ガアンの森 奥地、の少し手前。
この前、ベーシック・ドラゴンを倒した広場の先で、私たちはあるものを探している。
「この辺、だったよね?」
『あぁ。間違いない』
「ホントにあったの~?」
『映像記録は見せただろう』
「そうなんだけどさ~……」
「ナツナツ。《魔眼》は?」
「常時発動中。怪しい魔力の流れみたいなのはないよ~?」
『そうか……』
「う~ん……」
「や、確かにあったって。一瞬ベーシック・ドラゴンのこと忘れたもん」
「『戦闘中に相手を忘れんな』」
「ご、こめんなさい……」
この前のベーシック・ドラゴン戦まで、話は遡る。
ベーシック・ドラゴンの竜砲を、木を駆け登ることで回避した私。
途中で足場としていた大木が倒れ始めたため慌てて跳躍したが、勢い余って森の上に飛び出した。アラクネの跳躍力舐めてた。
その際一瞬だが、視界の端に白く細い一本の尖塔が伸びているのが見えたのだ。
一瞬であったため詳細は確認できなかったが、私が足場にした大木の倍程度の高さがあったように思う。
思わず顔を向けると、尖塔は周囲の風景ごと もにゃり と歪んで見えなくなった。
「もにゃり?」
「もにゃり」
「…………『ぐにゃり』では」
「『ぐ』の感じはなかったのよ。『ぐ』は」
「はぁ……」
『おい。どうでもいい話は終わりにしろ』
「「ひどい!?」」
まぁ、それを探しに来たのだ。ちなみにやたらとやる気だったのはナビである。男の子め。
「ダンジョンかなぁ……」
『なんとも言えんな』
「ちょ~っとイメージと違うけど……」
この世界に『ダンジョン』と呼ばれているモノは三種類ある。
ひとつめは、『廃墟』。かつての村や街の他、洞窟等に盗賊が作っていた居住区画に、魔獣が住み着いたもの。かつての住人の遺物の他、近隣の珍しい魔獣が住み着いていることもある。
ふたつめは、『地形型魔獣』。内部に貴重な鉱石や魔石などを産出しており、食虫植物のように魔獣や人間を呼び込み、余剰魔力やそこで死んだ生物の死体を取り込む。余程危険でなければ、手厚く保護されている。
みっつめは、『神の試練』。突如として冒険者などの前に現れ、その人が条件を達成するか、未達成で外に出ると消えてしまう。そこで手に入る物は、鉱物や魔石の他に、魔道具や魔法薬、武器防具など、明らかな人工物が見付かることも多い。しかも、その当時の文明というか技術力に対して、ギリギリ手が届くレベルの物が見付かり、まるで神が人類を上へ引き上げようとしているかのように見えるため、そう呼ばれている。
私は『神の試練』なんじゃないかと思ったんだけど……
「『神の試練』はさ~、なんかこう……もっと勿体振って現れるんじゃない?」
「勿体振って……」
『言いたいことは分かるが、他に言いようは無かったのか……』
「え~……通じたんならいいじゃ~ん」
肩の上で口を尖らせるナツナツ。可愛いですね。
まぁ、つまり戦闘中にひょっこり現れるのではなくて、休憩中とか探索中とか、ある程度冷静に判断できる状況で現れるんじゃないか、ということだ。
今回なんか、ドラゴンのことがなくても入りようがなかったし。
……………………よく考えたら、『神の試練』だったら消えてしまった時点でもう入れないじゃん。何を探しに来たのよ、私……
「『…………………………………………』」
あ!!二人も今気付いたな!?
二人の沈黙の雰囲気から、なんとなく察した。
『そ、そんなことは……』
「や~……な~んか見落としてるな~と思ったんだよね~……」
「…………………………………………帰りますか」
『ま、待て待て!!せっかく作ったんだから、一度くらい使ってもいいんじゃないか!?』
「まぁ、確かに」
作ったのは私だが。
現在、下半身は『アラクネ型下半身部パーツ』に換装しており、周囲の木々を使って巨大な蜘蛛の巣を作り上げていた。
『アラクネ型下半身部パーツ』は、当然ながら蜘蛛糸も出せる。サイズに合わせて極太の蜘蛛糸だったので、私でも普通にぶら下がれる程度の強度がある。
……………………乙女になにさせとんじゃい。
出来上がった蜘蛛の巣の目的は、トランポリンだ。
要するに、森の中を歩いて探しても見付からないから、あの時を再現して森の上に飛び出そうということである。
適当な高さまで木を登ると、蜘蛛の巣目掛けて飛び降りる。
二度三度四度……とジャンプを繰り返し、段々高度を上げていく。
「ナツナツ」
「はいよ~。『木々の枝葉よ~。避けて~』」
「かっるい」
ナツナツの妖精魔法により、上方の枝葉が幹に巻き付けるように退いていく。
出来た空白目掛けて、全力で飛び上がった。
ばひゅん…………!!!!
溜め込んだ張力とアラクネの跳躍力の合わせ技で、前回よりも高く飛び上がる。一瞬でガアンの森上空だ。
眼下に広がる緑と天上に広がる蒼に、思わず言葉が漏れる。
「本日は晴天なり。風はなく暖かな陽気に包まれ、過ごしやすい一日となるでしょう」
「なに?そのセリフ……」
「天気予報」
……………………信楽 流紗の記憶だな、これ。
この世界に天気予報はない。前々世の記憶は、かなりどうでもいいものが思い出されることが多い。
あ~……でも、背中に当たる陽光がぽかぽかで気持ちいい……
……………………落下しなければ、このまま寝てしまいたいな。
『無茶言うな』
「そろそろ落下に移るよ~」
無情なり。
首を下に向けてガアンの森を一望すると、《感覚調整》で知覚速度を上げ、眼下の景色を仔細に確認していく。
『なんか怪しいところある?』
『無いね~……』
『無いな……』
『……………………帰りますか』
『帰ろ~』
『ま、待て!!…………ほら!!あの時は『パイルバンカー型両腕部パーツ』を取り出していただろう!?今回もやってみよう!!』
すでに女性陣が飽き始めているため、ナビが必死だ。
『まぁ、探しに行こうって強く推したのはナビだからね~……私はのんびりしたかったのに~』
『ナツナツ先輩!!あとちょっと!!あとちょっとお願いします!!』
ナツナツ先輩が不機嫌になっている……
ナビのためにも、早めに終わらせよう。
『パーツを呼び出すから、知覚速度戻すよ。一応換装するけど、すぐ戻そう』
『分かった。連続起動の準備はしておく』
『よろしく』
知覚速度を戻すと、体が上昇力を失って下へ引かれ始めたところだった。
素早くハーフコートを脱ぎ、[アイテムボックス]へと収納する。
「いくよ」
▽部分形装選択:パイルバンカー型両腕部パーツ
▽展開します……
▽通常型両腕部パーツ、パージ
システムボイスが脳内に再生されると同時に、両腕が付け根から外れ[格納庫]へと格納され
『ルーシアナ!!』
「ちょ……!!不味いって!!」
「へ?」
突然の二人の声に間抜けな声を返す。
その間にも、部分形装シークエンスは順調に進み、両腕がパイルバンカーへと換装していく。
驚愕の表情をしているナツナツの視線は背後へ。その視線の先を追っていくと、
「……………………あった」
探していた白く細い尖塔が、10m程の距離にあった。
瞬時にナビが知覚速度を限界まで上げる。
『なに!?こんな近くにあったの!?隠蔽魔法かなにか!?』
『違う!!異相空間だ!!ルーシアナの《異空間干渉》に影響を受けて、境界が揺らいだ!!』
『異相空間ってなにーーーー!?』
『そんなことより不味いって!!この距離で異相空間が閉じたら、どうなるか分かんないよ!!』
『うえぇぇ!?開いたのは大丈夫なのに!?』
『ルーシアナ!!女は我慢だ!!攻撃を撃ち込んで吹っ飛ばすぞ!!』
『聞いたこともない表現来た!!』
『妖精魔法で空気弾を撃ち込んだから!!しっっっっかり喰らって!!』
『じごしょうだくーーーー!!!!!!!!』
ゆっくりとした視界の中、パイルバンカーの換装が終わると、みるみる内に世界がもにゃりと歪んでいく。《異空間干渉》が終わって、異相空間とやらが閉じていくのだろう。
直ちに二度目の《異空間干渉》が発動するが、歪みの進行は止まるだけだ。歪みは戻りそうにない。
『くっ……!!連続で影響を受けたから、歪な形で平衡している!!』
『ヤバイの!?ヤバイんだよね!?』
『ヤバイ!!』
『空気弾くるよーーーー!!!!』
換装したばかりのパイルバンカーが肩から外れると同時に、ナツナツの放った空気弾が全身に満遍なく当たり、『パイルバンカー型両腕部パーツ』を空中に残して体を吹っ飛ばしていく。
『グッ…………ッッッハァッ!!!!耐えたあぁぁぁぁ!!!!耐えましたよ私!!!!』
両腕が無いため急所を防ぐことが出来ず、その衝撃に一瞬意識が飛びかけたが、何とか踏みとどまった。
涙で歪む視界を瞬きではっきりさせると、流れる景色が私が後方へ移動していることを教えてくれる。尖塔の方だ。
『あれ!?なんでこっちの方!?離れるべきでは!?』
『逆側に飛んだら掴まる場所ないでしょ!!』
『あ、そう言われればそうか…………あれ?』
ふと気が付くと、『パイルバンカー型両腕部パーツ』は視界から消えており、見覚えのある人間の両腕がそこに残っているのが見えた。
……………………私の両腕だ。
『ちょっとーーーー!!!!!!!!私の腕ーーーー!!!!!!!!』
『換装中だったからな……展開座標を確定した後に吹っ飛ばされてしまったから、取り残されてしまった』
『モロに境界付近に残っちゃったね~……』
『ちょっと!?『残っちゃったね~……』じゃないでしょ!?どうすんの!?』
『諦めろ』
『諦めて』
『わ~~~~ん!!!!!!!!マイア~~~~~~~~ム!!!!!!!!』
両腕は私が見ている前で歪みに呑み込まれ、何処かへと消えていってしまった…………
『マイ……アーム…………』
『気に入ったのか。その表現』
『そんな余裕はありません』
『それより尖塔にぶつかるけど、受身取れる?』
☆ム☆リ☆
次の瞬間、後頭部に響く衝撃にあっさりと意識を刈り取られた。
その日。ガアンの森上空に数秒だけ現れた白き尖塔は、姦しく騒ぐ小娘をその内に取り込むと、誰にも気付かれることなく再び青い背景に溶け込み、姿を消してしまったのだった。




