第37話 ゴーレム娘と天人の遺跡
33 ~ 57話を連投中。
3/21(木) 9:00 ~ 19:00くらいまで。(前回実績:10話を4時間で投稿)
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ついーー……………………ぷちっ。
ついーー……………………ぷちっ。
天を衝く尖塔の壁面を、クリノリンスタイルのドレスを纏った貴婦人のような人影が降っていく。
それは大地と水平に身を倒し、一定の速度で降下すると、一時停止。何かが千切れるような小さな音がすると、再び降下を開始する、という不思議な移動手段だった。
……………………まぁ、ルーシアナです。
「こんなの人には見せられないわぁ……」
『当たり前だ』
「『こういう人形です』って説明は出来ると思うけど、ヒかれる可能性は高いよね~……」
『下半身が蜘蛛で尻から糸が出てるからな』
「…………ナビ、ギルティ」
「お前、後で説教な」
『しまった!?』
ナビには女性の機微というものを学んで欲しい。女性に『尻から糸出てる』とか言うな。あと、正確には尻からは出てない。
後輩の教育は先輩に任すとして、そろそろ塔の根元に到着する。
「それにしても両腕が戻ってきてよかった」
『戻ったというか、予備品だがな』
「最初に言ったでしょ?マイアナがフレッシュゴーレムにした理由は、『万一回復不能な大怪我をした場合、新しいパーツに取り替えることで、後遺症なく元に戻せる』って。通常型パーツの予備はたくさんあるから大丈夫よ」
「そんなのもう忘れてたよ……」
『ルーシアナが気付かないだけで、腕と脚は毎日ローテーションしてたんだぞ。たまに使わないと傷むし』
「傷むとか言うなや。食材か」
『どちらかと言うと、オーブンとかコンロとかの調理器具のイメージだな』
「ナツナツ」
「腹パンな」
『ナツナツパイセン!?』
どうやってするんだろう……
そんなやり取りをしていると、塔の根元に広がる建物の屋根に到着する。
「高かったなぁ……」
感慨深く尖塔を見上げるが、立ち位置の関係で塔の天辺は見えなかった。
足元には、二階建ての大きな建物。尖塔と同色の真っ白の綺麗な建物だった。
人の気配は全く無い森の中なのに、汚れひとつない。
「ガアンの森にこんな施設が隠れているとは……」
ナビ曰く、『天人の遺跡 = 廃墟系ダンジョンではないか』とのこと。
そのような結論に至った理由を語る前に、まずは『天人』について説明しよう。
この前、結果的に私が『人形遣い』と認識されることとなったため、その情報を求めて図書館に調べものに行った。
その際、以前取得した《天人の鍵》というスキルが気になったので、同時に『天人』についても調べたのだ。
『天人』というのは、太古に栄えた種族のことで、今の人間社会からでは考えられないくらい高度な文明を持っていたらしい。彼らはある時 忽然と姿を消してしまい、またその痕跡も長い年月の間に風化してしまったためか現存しているものはないため、現在では伝説というかヨタ話として語られている。
その中のひとつに、『天人は時空魔法を得意とし、異相空間内に様々な施設を建造していた。見つからないのはそのためだ』というのがある。
つまり、『異相空間内』にあり『未知の技術で造られている』ものがあった場合、『天人の遺跡』である可能性が高い。
ひとつめの『異相空間内』は、説明不要だろう。ヒドイ目にあったばかりだ。
ふたつめの『未知の技術で造られている』も、このような異相空間が無人で維持できていることが、未知の技術の証拠である。まぁホントに無人かどうかは、これから調べるのだが。
以上より、ナビはここが『天人の遺跡』ではないかと考えているのである。
『もうひとつ根拠はあるぞ。先程から《天人の鍵》が半発動している。外ではどうやっても発動出来なかったのに、だ』
「つまりこの遺跡に反応してるんじゃないか、と?」
『あぁ』
「ナツナツ?」
「ん~……色んなところに魔力の反応はあるけど、なんかあの辺から魔力波みたいなのが出てる」
「魔力波?」
「なんか薄く全体的にもやってる」
「もや…………」
『それか?』
その『魔力波』に反応しているのかな?
それはさておき…………
「どうしようか?」
『どうしよう、とは?』
「このまま探索する?一旦引き上げる?」
時間的にはまだ余裕があるが、危険度が不明なためそれなりに準備をした方が良いかもしれない。
もし長引いた場合、セレスたちも心配するだろうし。
『それなんだがなぁ……』
「ルーシアナ。ちょっと境界付近まで行ってみて。《異空間干渉》で境界が揺らぐか確認したい」
「ん?いいけど……………………あれ?もしかして出られないフラグ?」
『予想では』
「出られないかな」
「…………………………………………」
不思議とパニックにはならなかった。
それは二人の声にあまり緊張が感じられなかったためか、おじいちゃんの遺した《天人の鍵》が発動しているからか……
建物の外壁を、塔と同様の方法で降りる。整備された幅広の道があったので、それに沿って境界まで行った。
「この道もすごいね。石畳みたいな感触だけど、脚に返ってくる衝撃が少ないよ」
「それに繋ぎ目が一切見当たらない…………まさか、一枚岩ってわけでもないよね~……」
『となると、人工的に造ったわけだが……このサイズをこんな滑らかに造れるものか……?』
ひとつの事柄を取ってみても、天人の遺跡である可能性が上がっていく…………
石畳にありがちな、『コツコツ……』といった音がしない。そのくせ、踏んだ感触は硬質でしっかりとしたものなのだから、訳が分からない。
境界に辿り着く。
そこから見えるガアンの森の風景はセピア色にくすんでおり、明確に内と外を区分している。
手を伸ばすと、ある距離から徐々に抵抗が強くなり、境界面でそれ以上進まなくなった。
硬さは感じない。空気の壁があったらこんな感じの感触だろうか。
その境界面は、遺跡を中心に約10mの円を描き、上空へは真っ直ぐに上へと伸びている。空は青く見えているため、上空で閉じているとしても、想像を絶する高さまで伸びているのだろう。
上を見るのはやめて、正面に視線を戻した。
「ナビ。予定通り、扉を開くだけにしよう」
『分かった。途中でシークエンスを一時停止する』
「よろしく。…………いくよ」
▽部分形装選択:なし
▽展開します……
パーツ選択なしで[格納庫]への扉を開く。
先程はこのタイミングで境界が揺らぎ、異相空間と現実空間が繋がったらしいんだけど…………
『展開、一時停止』
「……………………何も起こらないね」
「魔眼にも術式同士が影響する気配がないかな~……」
『やはりか……』
その後、実際に換装してみたり、下半身部パーツを戻したりしてみたが、結果は同じだった。
「どういうこと?」
『遺跡の術式か、《異空間干渉》の術式か。どちらかは分からないが、お互いに影響を受けないように最適化したらしい』
「予想としては、遺跡の術式かな~。ざっと調べた感じ、《異空間干渉》の術式に更新は見られないし」
『今日、上で連続換装した際、二度目の方が空間の歪みが直りにくかったろう。あの時は連続で行ったせいで変な風に平衡したと思ったのだが、二度目の方が影響力が低くなっていたと考えた方が辻褄が合う』
「なるほど」
詳細は分からんけど、《異空間干渉》で無理矢理 脱出するのは出来ないらしいことは分かった。
「じゃあ、どうする?妙に落ち着いてるけど」
『あぁ。この施設、明らかに人型サイズの存在が使用することを前提として造られているだろう?』
「まぁ、確かに」
建物から降りる際、窓から中を覗いたら、妙に広い部屋に机とか椅子とかがあったからね。
その家具類は人間サイズの大きさだった。
「メンテナンス目的かも知れないけど、入ってくる必要があるの。なら、出る方法だってあるでしょ?」
「…………楽観視し過ぎじゃない?」
『最悪、強制的に術式を書き換えて脱出は出来る。ただし、二度と入れない可能性が高い』
「先に言いなさい、そういうことは。つまり最終手段を取る前に、正規の脱出方法を探そうってことね」
「そんな感じ~」
最終手段があるなら、そんなに慌てなくても大丈夫そうね。最終手段が最良手段って説もあるけど。
「リミットは?」
『ふむ。…………人が生きていく上で必要な物は、衣食住だな?』
「衣!!」
「着てます。予備も[アイテムボックス]にあります」
「食!!」
「一年くらい余裕です。種もあるから栽培も出来ます」
「住!!」
「実家があります。整備も終えてます」
…………………………………………
『ここで暮らせば楽に今生を全う出来るのでは?魔獣もいなさそうだし』
「一瞬考えたけど、それは最終手段……」
こっちの最良手段説は否定したい……




