第11話 ゴーレム娘、目を付けられる
「その辺に座ってろ。チョロチョロすんなよ」
「はーい」
チョロチョロも何も、興味の引かれるものはありませんて。
ギルドの二階は飲食店、要するに酒場だった。
グレイス君はすぐに厨房に引っ込むと、料理の仕込みを開始する。
タタタタタタタ……
だんっ!! だんっ!! だんっ!!
ジャージャージャー……
なかなか小気味の良い音が響いている。
……………………暇だ。
私は《異空間干渉》を用いて、[アイテムボックス]に収納していたコップと果実水を取り出すと、コップに注いで ひとくち口に含み、背もたれに体を預けた。
『ルーシアナ~。私も欲しい~』
『隠蔽魔道具は着けた?』
『大丈夫~』
ナツナツはポケットから這い出ると、机の上に移動する。
私は、ナツナツ用の小さいカップを取り出し、そこに果実水を注いであげた。
ニコニコと嬉しそうにカップに口を付けるナツナツの胸元には、百合の花のようなブローチが付いている。
なんとびっくり、これこそが隠蔽魔道具である。
元々はギルドが『他人に見られたくないモノ』を運ぶ際、その『モノ』に付けることで、他人から認識出来なくなるというものらしい。
欠点は、そこに『ある』と思って意識を向けられると、効果がないことか。
まぁ、それは仕方無い。そうじゃないと、運搬者が運搬物を紛失する事態になりかねない。
セレスが持ってきてくれた隠蔽魔道具は、当然 人用のサイズだった。
そのため、ナツナツが身に着けると、まるで胸当てのようなアンバランスなものとなってしまった。
とはいえ、効果が高く大きいものはあっても、これ以上 小さなものは無いとのこと。
そこで、私の《どこでも錬金》により加工したのだ。
錬金術は、単純に小さくする分には 素材が不要となる。逆に、大きくする場合は必要だが。
ついでに、形状を百合の花っぽくしてプレゼントした。
だって、元々の形状が、ギルドのシンボル型で可愛くなかったんだもん。
素人仕事だけど、結構うまく出来たんじゃなかろうか。
『うまー』
『それはよかった』
『でも、冷たければ もっと良かったんだけどなぁ~』
『それは、私に冷やしてってお願いかい?』
私は簡単な水魔法を使って果実水を直接冷やすと、もう空になっていたナツナツのカップに注いであげる。
そんなことをしながら時間を潰していると、入口から女性が数人やってくた。
「お疲れ様でーす」
「おぅ」
「代理~。食材のチェック終わりました~」
「分かった」
…………グレイス君、代理、と。
脳内のグレイス情報を更新しておく。
多分、店長代理か 料理長代理なんだろう。本物は誰なんだろ?
その数人を皮切りに、ポツポツと従業員さんらしき人たちが集まり始めた。
「……………………」
「……………………」
すれ違い様に、私の方を怪訝な顔で見ていかないでください。見せ物ではありませんよ?
何人かの従業員が疑問をそのままにしていったが、ついに そのうちの一人が我慢できずに解消に動いた。
「代理!!」
「なんだ?」
「隠し子ですか!?」
「帰れ!!!!」
……………………隠し子。
「じゃあ、誰ですかその子!! 私と言うものがありながら!!!!」
「ねぇよ!! お前はただの従業員だろうが!!」
「いずれ伸し上がりますから!!」
「それは俺を蹴落とすってことなんだがなぁ!!!?」
『ワハハハハ』と笑い声が巻き起こる。楽しそうな職場ですね。
……………………ここは乗っておくべきだろうか?
「パパー。何のお話ー?」
「誰がパパじゃーーーー!!!!」
「やっぱり隠し子だったーーーー!!!!」
『わーーーー』と盛り上がる従業員。キレるグレイス君。カルシウムが足りないね。
「そいつはギルド長とセレスから預かった赤の他人!!!! 席を無駄に潰す厄介者だ!!!! 分かったら仕事しろ!! あとややこしくすんな!!」
「え~~……つまんな~い。そんなだからモテないのよ~?」
「うるっさい。去ね!!」
従業員が散らばると、グレイス君は苛立ちを隠さずに こちらへやってきた。
「お前、黙っとれと言っただろうが」
「言ってないよ。『チョロチョロすんな』とは言われたけど」
「言葉の裏を読め 裏を。あと、商品を勝手に飲むな」
と言って私の果実水を奪う。
いやいやいやいや。自分とこの商品くらい把握しておきなさいよ。
「それ私のだよ」
「はぁ? お前 手ぶらだったろうが。どこに持ち歩いてたんだよ?」
「魔法で収納してたに決まってるじゃん。それに よく見てよ。瓶にラベルも何も無いでしょう? そんな商品がある訳ないじゃない」
「ぐ……言われてみれば……」
まぁ、グレイス君から見たら、こちら側にラベルがあると思ったのかもしれないけど。
なかなか返してくれないので、新しいのを取り出した。
先程の物とは中身が違います。
「うお。マジかよ……」
「そんな珍しい魔法でもないでしょう?」
アイテム袋でも代用出来るのだし。
「そりゃそうだが、お前くらいの年齢で、軽く扱えるやつはそうはいねぇよ」
「ふーん?」
…………………………………………
「ねぇ」
「ん?」
「何歳だと思ってる訳?」
「…………………………………………さて、仕事に戻るか」
「私は15だーーーー!!!!」
「「「「「えーーーー!!!?」」」」」
近くで聞き耳を立てていた従業員数名も、同様に驚愕の声を上げた。
「なに。何歳だと思ってたの?」
「いや、それはその……」
「言え」
「…………………………………………10」
「おらぁ!!!!」
「ぐはぁ!?」
空になっていたコップを投げ付けた。一応、木のコップだったとは 言っておきます。
グレイス君の額に当たったコップは後方へ飛んでいき、たまたまそこにいた従業員さんがキャッチする。
「いってぇなこの野郎!!!!」
「うっさいバカーーーー!!!!」
おじいちゃん……もうちょい年相応に見えるように調整してくれても、良かったのよ……?
ギャーギャーギャーギャーとグレイス君と言い合いをしていると、新しく店に入ってきた男性従業員が大声でグレイス君に話し掛けてきた。
「グレイス、大変だ!!!!」
「なんだよ!! 今から、このクソガキに教育的指導をしてやるところだ!! 後にしろ!!」
「さ・せ・る・か~~……」
グレイス君が私を捕まえようと伸ばす腕を掴まえ、ギリギリと押し合う。
くそ~……さすがに姿勢が悪い……
「そんなことどうでもいいんだ!! ウェイトレスのエミリー、サザンカ、ドロシー、ハーシー、ユエルが辞め、コックのアイザックが休みだ!!!!」
「多すぎだろバカ野郎!!!!」
確かに、すでに出勤してる人数とほぼ同数だ。
「代わりはいないのん?」
「いない。この前、急に辞められて募集を掛けてるところなんだよ」
「……………………職場環境が良くないのでは……?」
「ちゃうわ。小遣い稼ぎ感覚の奴が多いから、あの辺の連中はしょっちゅう入れ替わるんだ。それがたまたま重なっただけだ」
「予想できるなら対策しとこうよ……」
「うっさい、検討中だわ」
果たしてそれは、いつから検討中で、いつ頃 検討が終わる予定なのかしらね?
グレイス君も私と戯れている余裕は無いと悟り、対策を考え始める。
「アイザックの代わりは、バグシー、ヘレン、テトラで頼む。普段の成果の見せ所だ」
「「「はい!!」」」
従業員の休みを告げた人 (バグシー?)と、ウェイトレスさんらしき人、三名に調理を指示する。
「それと、休みのパメラとエクシアに連絡を。休出 出来ないか頼んでくれ」
「分かった」
バグシーが踵を返して、酒場から出て行った。
「後は~……」
ガシガシと頭を掻いて、次の対策を考え続けるグレイス君。
まだ、ウェイトレスが予定の半分しかいないからね。代理は大変だ。
「…………………………………………」
と、悩むグレイス君と目があった。
「なに?」
「……………………就業最低年齢は確か13だったな」
「そうですね。代理」
「無駄に席を潰されてるより、動いてもらってた方がいいよな」
「悪い笑顔ですね。代理」
「世話を任されているということは、退屈しないように作業をさせてもいいよな」
「屁理屈も理屈のうちですね。代理」
「収納魔法は、ウェイトレスに向いてると思わんか」
「それは適任ですね。代理」
「……………………嫌な予感」
予感どころか確信が走る。
腕を組んで、理由を積み上げていくグレイス君に気取られないように距離を取った。
トスッ。
「あれ?」
いつの間にか、背後には従業員さんが一人。他の人は、私を囲うように整列していた。
そして、抑え込まれる、我が体。
その後の展開を予想して慌てふためく私に、不自然に爽やかな表情のグレイス君が立ちはだかる……!!
「嬢ちゃん、名前は?」
「知らんで預かってたのか!!」
「『シランデ・アズカッテタノカ』か。よし、シランデ。暇だろ?」
「そんな名前な訳ないだろーー!! え? なに!? 進むの!?」
「そうかそうか。そんなに暇か。じゃあ、職場体験していくか?」
「え? なに? 職場体験?」
「大丈夫だ。ちゃんと給料は出す。特別手当てもつくぞ。全員な!!!!」
「yeeeeeeeeah!!!!!!!!」×5
「ひいいぃぃぃぃ!!!! 引くほどハイテンション!!!!」
「着替えさせろ!! 後はどうとでもなる!!」
「なるかなああぁぁぁぁ!!!?」
そうして私は、恐ろしいハイテンションの集団に連れられ、ムリヤリ給仕服に着替えさせられたのだった。




