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第12話 ゴーレム娘、弱味を握られ長期契約

― 回想終了 ―


そんな訳で、ウェイトレスをしている今日この頃。


おじいちゃん、私は元気です。


「へいお待ち!! 肉の干物となんか汁!!!!」


「ビーフジャーキーにコーンポタージュだ!!!! っていうか、さすがにわざとだろ!!!!」


バレたか。だが、人をムリヤリ働かせるのが悪い。


私の仕事は、席を回って注文を取り、料理人に伝え、出来上がった料理を届けるだけ。

うん。至って普通のウェイトレスだ。


このお店は酒場にしては珍しく、テーブルが升目状に揃っているので、『1‐4』みたいな感じでテーブル番号が割り振られており、初めてでも料理を運ぶ場所が分からないことはない。

また、料理もメニュー表に『鶏‐6』みたいな感じで番号が振られていて、お客さんも番号で覚えているらしく、注文された料理を聞き取れないこともなかった。


「出来たぞ!! 持ってけ!!」


グレイス君が、カウンターに料理を乗せる。トロトロの半熟卵がかかったオムライスである。

だが、その数がおかしい。一気に20も並べるとか、何を考えているのか。


まぁ、それもこれも私のせいだけど。


「はいよ~」


カウンターの端から端へ。少々、大袈裟に給仕服を(ひるがえ)して通り過ぎた。

そして、私の横を料理が通り過ぎる瞬間に、お皿の下に[アイテムボックス]へと繋がる虚空を開くと、『スッスッスッ……』と音もなく料理が消えていく。


「おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」×たくさん

「いいぞぉ、もっとやれ~~~~!!!!」×たくさん

「あはははははははは!!!!」×たくさん


何が面白いのか 私にはさっぱりだが、客席は大いに盛り上がった。

客席にいる大部分の人からは、私の胸に当たった瞬間に料理が消えているように見え、まるで料理が胸の中に収納されていくように見える…………らしい。

タネも仕掛けも、丸分かりの芸でしかない。


だが、酒の回った頭には受けた。一躍 時の人である。


ちくせう……


料理の前を通り過ぎる際に、一緒に置かれた給仕先が書かれた札は回収している。

そして、料理はすべて同じなのだ。順に回って出せば良い。


「へい お待ち!! なんか黄色いドロドロン!!」


「オムライスだバカ野郎!! せめて 旨そうな表現にしろ!!!!」


「あっははははははははは!!!!」


「ドロンドロンう~~めぇ~~え~~ぞぉ~~!!!!」


私の適当なネーミングに、ツッコミを入れられる精神状態を保っている者は、ここにはいない (厨房は除く)。

懲りずにツッコミを入れて笑いを取るグレイス君は、芸人の才があるね。


「いらっしゃい!! なんにしやしょう!?」


新しく席に着いた団体さんに、注文を取りに行く。


「よう!! さっき振りだな!! 遭難の嬢ちゃん!!」


「え!? ……………………あ!! 門番のおっちゃん!!」


そこにいたのは、本日 街に入る際に会った門番さんだった。


「ははははは。おっちゃんはやめろ。なんだ。冒険者はやめてウェイトレスになったのか。似合ってるぞ? 天職かもしれん」


「違うわ!! カードが発行されたのが遅かったから、クエスト受けらんなかったの!! だから、お小遣い稼ぎ!!」


「なんだ、ドモン。知り合いか?」


門番さん (ドモンさん?) の隣に座る同僚らしき人が、メニューを片手に話し掛ける。


「さっき、引き継ぎの時 話したろ? どっかの村から歩いてやって来た、剛の者だ」


「いや、馬に逃げられて森で遭難した挙げ句、命からがらここに辿り着いたって聞いたぞ?」


「そうとも言う」


「反論したいけど、出来ないな~……」


まさしく、そんな言い訳をしたわけだし。


「まぁ、俺たちからしてみれば、犯罪者じゃなければ問題なしだ。村だろうが、秘境だろうが、天空だろうが、どこから来ても歓迎するぞ。

カードが作れたなら、ここの魔道具でもシロだったんだろ」


「明日、一応報告だな」


「忘れなきゃな!!!!」


「ちげぇねぇ!!!!」


「あっはははははははは!!!!!!!!」×たくさん


団体さんで笑うと、声量もとんでもないな。

ちょっと引き攣り笑いで誤魔化していると、ドモンさんが顔を近付け、


「人形はちゃんと仕舞ったようだな?」


と、こっそり言った。

やっぱりこの人、妖精だと気付いてないね。なら、ここで心配は潰すべき。


「誰にも言わないでくださいよ? 私の村じゃ、誰も何も言わなかったんだもん」


「ん~~? ど~~しようかな~? …………強い酒でも飲めば、忘れるかもしれんぞ?」


「このダメ大人!! …………じゃあ、このフラム・ガッシュで」


「もう一声」


「この野郎。クリスタル・フォジオ」


「よし!!」


注文書にたっかいお酒を記入し、『ルーシア払い』としておく。

まぁ、出来るのはこのくらいかな。あんまりしつこく念を押しても、怪しまれるだけだし。

続いて他の人の注文も受ける。が、


「あれ? ちょっと待ってください。お~い、代理~!!」


「なんだー? 尻でも触られたか~? だが、それは気のせいだ。クソガキめ」


「ギルド長ー」


「冗談だ!! 早く用件を言え!!」


「猪料理って、まだいける?」


そう。なんか先程、厨房の方で『今日は猪出過ぎ!! そろそろ無くなるぞ!!』みたいなやり取りが聞こえたのだ。


「あー……無理だな。代わりの料理を注文してもらえ!!」


「それでいいのか、料理屋……まぁ、そんな訳で猪料理はSold Outです」


「マジかよ!!!!」


「もう、俺の腹は猪待ちなんだよ!!」


「なぁ!! 猪喰わねぇと、今日は終われねぇよ!?」


「なんか無いのか。尻尾でも!!」


生きにくい胃袋してんなぁ、この人たち。あと、尻尾て。しゃぶる気か。


「そう言われても ねぇもんはねぇよ!! 肉持ってきたら 作ってやんよ!!」


ごねる門番さんたちを見かねて、グレイス君が面倒臭そうに代案を提示する。

多分、こう言えば諦めると思っているのだろう。


「おい、ドモン!! ちょっと、ひとっ走りしてこいよ!!」


「俺かよ!?」


「一番下っ端だろ~?」


「階級は上なんだがなぁ!!」


年功序列が強いらしい。いいのかそれで。


そんなことを思っていると、ドモンさんはこちらを向き、


「そうだ!! 嬢ちゃん、森を彷徨(さまよ)ってたんなら、猪くらい持ってないか!? 持ってたら、譲ってくれ!!」


とんでもないことを言い出した。

それを聞いた周りの同僚も、大声で笑い出す。


「あはははははは!! お前もそれは『多分嘘』って報告してたろうが」


「それに、冒険者にもなってない子供に、猪とはいえ狩れるかい!!」


「そりゃそうだが、そんな嘘吐()くくらいなら、証拠として出せる程度の肉くらい持ってるかもしれないだろ!!!?」


ドモンこの野郎。ホントに嘘だけど。


「なんだ、そうなのか?」


軽くドモンさんを睨んでいると、後ろからグレイス君の声が降ってきた。


「…………サボり?」


「違うわ。お前、ホントに猪肉 持ってんのか? 持ってんなら、売ってくれ。まだまだ稼ぎ時だってのに、食材切らしてたんじゃやってられん」


一応、食材を切らしてるのがよくないことだってのは、自覚あるんだね。


「んーー…………いいけど、解体してないよ?」


「ここですりゃいい。それより、ホントに持ってんのかよ」


「まぁね」


うん。持ってる。二匹ほど。

ここに連れて来られる前に、ギルドに納品されていた素材をちらっと見た感じだと、このくらいの大きさなら、出しても騒ぎにはならないだろう。多分。


「おぉ!! ホントか!? よし、それならここに出してくれ!! ほら、お前らも机 動かせよ!!」


私の気が変わる前に話を進めようとしているのか、ドモンさんが急いで作業スペースを空けさせた。


「ちょっと待て。おーい、誰か 床保護しろ~!!」


「はいよ~」


ウェイトレスさんの一人がやってくる。


「それと解体出来るやつ~」


『ザッ!!』と音を揃えて、客を含む全員が立ち上がる。


「客はいらねぇよ!!!!」


「代理~。人手もないし、お客さんにやってもらった方がいいと思うよ~」


「……………………そういや そうだな。よし、そことそこ。解体頼む。報酬は全員に料理一品な」


「よっし!!」×4


奇跡的に選ばれた4人のお客さんがガッツポーズした。酒より飯な連中だ。

まぁ、酔っ払いにやらす訳にはいかないしね。


ウェイトレスさんが、魔法で床を保護したのを確認し、猪を取り出した。


ズドン!!!! …………なんて音は立てませんよ。静かに出しました。


『おぉ~……』という、驚嘆の声が響く。


「……なかなかの大物だな。血抜きは?」


「したつもり。それと、あともう一体あるけど」


「買った!! ギルドの買い取り金額の、1.5倍でどうだ?」


「いいよー」


グレイス君の言い値に軽く了承すると、悪い顔をされた気がする。

ボられたかな? まぁ、食材にしようと思ってたやつだから、ギルドと同額でも良かったけど。


指名された人たちは、懐から解体ナイフを取り出すと一気に解体していく。

さすがに本職とは比べられないが、なかなか綺麗に解体されたのではないだろうか。


切り出された塊肉を収納して厨房へと運ぶのは、私の仕事だった。

解体してくれた人たちは、さすがに血で汚れてしまったので、水と風魔法を組み合わせた洗浄魔法でざっと綺麗にしてあげた。


「ふむ……思ったより新鮮だな」


「分かるの?」


解体された肉……というか、(はらわた)を見て呟くグレイス君。


「お前。俺は料理人だぞ。目利きが出来なくてどうする」


「いや、料理人は腸で鮮度の見極めはしないでしょ……?」


え? 違うの?


そんなことを思っていたら、グレイス君が吼えた。


「よし、お前ら!! 猪の頭と内臓料理を追加だ!! 頭はサービスだから、自分で取りに来いよ!!!!」


「ウオオオオオオオオォォォォ!!!!!!!!!!!!!!!!」×たくさん


余計なことを!!!! さらにテンション上がってんじゃないの!!!!


その熱気に思わず引いていると、『チョイチョイ……』と、腰についた飾り紐を引かれる。


「ん?」


振り返って見ると、ドモンさん達がギラついた瞳でこちらを見ていた。


「ひぃ!!!!」


「嬢ちゃん、ありがとうな!! そんな訳で猪料理 全種一通り持ってきてくれ!! あと、とりあえずビール6つな!!」


「か、かしこまりましたーー!?」


そんなに食うの!? 猪料理20種類くらいあるんですけど!?


「こっちも!!」


「こっちもだ!!」


「はいー!!!? ただいまぁー!!!!」


「忙しくなるぜ……」


注文書をグレイス君に渡して次に行く。あれ!? 他の人どこ行った!?


あと、グレイス君は戦場に向かうような表情で厨房に戻っていった。





「…………………………………………」


「…………………………………………」


「…………………………………………」


「…………………………………………」


「…………………………………………」


「…………………………………………」


「…………………………………………」


「…………………………………………」


「…………………………………………つかれた」


「お疲れさん」


死屍累々(ししるいるい)と机に突っ伏すウェイトレスさんに紛れて同じように死んでいると、後ろからやってきたグレイス君に頭をポンと叩かれる。


「…………グレイス君もお疲れ」


「そうだな~……今日は、なんでこんなに人が来たのか……なんにせよ、お前がいてくれて助かったぜ」


「お肉の補充も出来たしね~」


身を起こして労いの言葉をかける。

あの後、追加でウルフと鹿も出す羽目になった。

収納魔法の容量的に、ちょっとやり過ぎた感があるけど、その場のテンションに流されてしまった……全体を通して見てた人は、ここの従業員くらいだから、大丈夫だと思いたい。


「それにしてもお前、収納魔法の容量すごいんな。まさか、追加があるとは思わなかったぜ」


…………さっそくか。


「あ~……グレイス君? 収納魔法の容量は秘密ね。しばらくは目立たずやってきたいから……」


「お前、それは今更だろう……少なくとも、我がギルド飯店の名物娘として広まることは、確実だぞ」


「ぐっ…………そ、その認識は諦めて受け入れることにする。収納役として目をつけられたくないだけ」


「ふーん……」


「だから秘密にしてね」


「…………週一」


「あん?」


「週一で入ってくれるなら考えてやろう」


「……………………この野郎」


人の弱みにつけこむとは、器の小さい男じゃ。


だが、メリットもある。

チラリと机の上に目を向けると、


「あはは~~♪ 満足じゃ~~♪」


ナツナツがおかしなテンションでグルグル踊っていた。


妖精の種族特性『定期的に騒ぎを起こす』に、今日のドンチャン騒ぎが該当したらしい。

というか、ナツナツは私が働いている間、ずっと天井の方にいて、妖精魔法でお客さんの感情を(あお)っていたのだ。ノリで。

つまり、先程のグレイス君の言葉『今日はなんでこんなに人が来たのか』の答えは、『ナツナツがいたから』に尽きる。


…………まぁ、デメリットは少ない。お客さんの財布の紐が緩くなるだけだが、緩くしないつもりならこんなとこには来ないだろうし。

ナツナツのためにも、ここで働くのは大きなメリットだ。

その理由に『グレイス君に脅されて』というのは、色々カモフラージュにもなる……はず。


「私はいいけど、暫定保護者の許可が欲しいかな」


「あいつらか」


「あいつらよ」


グレイス君と一緒に目を向けると、残った食材をかき集めて作った料理を囲んで、ギルド長とセレスが盛り上がっていた。


「まだ食うのかよ……」


「私が働くの、あの二人が来るまで予定だったと思うんだけど」


「帰さなかったから関係はないな」


「外道め……」


まぁ、あの二人は給仕しなくてもいいからどうでもいい。よくない。


「グレイス君から頼んでね。面倒」


「なら、来週も頼むぜ」


「断られる可能性を考慮しないの?」


「説得するから大丈夫だ。だから、みんなも言うんじゃないぞ」


「う~い」×8


仲良いな。


「ホレ。あんたらも食事をしたらどうだね。疲れたろう」


会話が一段落したタイミングで、在庫を処理していたおばちゃんが料理を満載してやってきた。


「今日は大儲け出来たからね。サービスだよ!!」


「yeeeeeeeeeeeeah!!!!!!!!!!!!!!!!」×8


「まだ元気なの!?」


ウェイトレスさん達が餓鬼(がき)の群れと化した。

あまりの迫力に食事にありつけないでいたら、グレイス君が取り分けてくれた。油断すると摘ままれるけど。


そんなこんなで、長い一日がようやく終わりを迎えたのだった。


「あはははははははは~♪」


……その前にナツナツを止めよう。


『食事中に猪の解体ショーってどうなん?』って思ったけど、

マグロの解体ショーに置き換えてみたらいけると思ったので、こんなことになりました。

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