✝噂✝
「ったくからかいやがってー… あ」
歩がふと 思いついたように声を上げて捺が聞き返す。
「わ びっくりした。何よ急に、 歩」
「わり 柚杞たち知ってるか?近頃のあの噂」
「「うわさ?」」
「噂…?ああ 例のアレのことね」
噂という単語で理解する捺とは違って、
そろってハテナマークを引き出す俺たちに少しばかり声をひそめて歩が続ける。
「帰宅部のお前らはあんま知んねぇかもしれないけど……
実は近頃ある犯罪組織がこの辺動いてるって話だ」
「犯罪組織…?」
「一体どういう…」
いいかける葉月の言葉を最後までは聞かず、歩がその続きを続ける。
「関係があるかって思うだろ?葉月ちゃん それがな…」
「それがあたしたちと同年代って噂なのよ 」
「え…?同年代って同い年…?」
「その 犯罪組織がか?」
「そうそう…って まじかよっ⁉」
驚く俺たち以上に、この話を最初に振った歩が驚きの声を上げる。
「うん だから今すっごい噂になっててー…って
歩、あんたが話始めたくせに知らなかったの?」
呆れたようにため息をついて、隣の歩を捺が横目で見る。
「う…。ていうか いくら部活でも野球部は他とは違ってそういうの話してる時間もないんだよ
朝練だろ?昼休みの練習だろ?それから放課後だろ?
そんでそのあとー…」
「はいはい 忙しそうよね みてりゃそんなん分かるよ」
指折りで数える歩に捺がそういって遮る。
「だろ⁇ じゃあ城山先輩に今日の部活はー…」
「びっしりよろしくってお兄ちゃんに伝えとくよ」
「ええー‼これ以上はほんとねぇって ‼」
「へへん ばーか 言っちゃおうっと♪」
楽しそうに逃げていく捺を
歩が本気で追いかける。
相当、これ以上きつい練習は耐えられそうにないようだ。
そんなことを頭の隅で考えながら俺の頭は
もうひとつのことが巡っていた。
俺たちと同年代の 犯罪組織ー…。
声を先ほどより 少しひそめてそばにいる葉月にささやく。
「葉月 」
「うん 櫻井さんの言ってた情報に近いね」
「もうちょっと 探ってみるか」
ー…昼休み
「よーし 4時限目終わりーっと 葉月 屋上行こうぜ」
葉月の頭の上にぽすっと手をついて、葉月が答えながら席を立つ。
「うん 今日はねー柚が好きなたこさんウインナー入れてきたんだぁ」
弁当の入ったランチバッグをもって、笑いかける葉月に思わず顔がほころぶ。
「お やった…!」
「やったね♪ 葉月ちゃんのたこさんウインナー 俺も頂戴☆ 」
「おまっ… なに俺の声にかぶせて当たり前のようについてきてんだ歩‼」
「あ 歩君だー 歩君も一緒食べるー⁇」
「えっ‼まじ⁉いいの⁉ じゃあ俺も混ぜてもら…おぉ⁉」
と、そこでなにかに歩むが後ろが軽く押されてそのひょうしにつまづきかけて何とか踏みとどまり歩がふりかえる。
「おぉ⁉ じゃ、ないわよ あんた昼の練習あるでしょ」
「げ 捺…‼」
「わ なっちゃん♪」
俺たちについていこうとした歩の腕を、捺が引っ張る。
「ごめんね葉月 歩のことは気にしないで
柚杞と二人で食べてきて ほら いくよ歩‼」
「えー 今回だけでいいからお昼くらい休ませてくれよ
城山先輩にうまくいってよ な? な? 頼むよ‼」
「えぇー? なにいって…」
「頼むー お願いっ‼これほんっとお願いっ‼」
歩が手を合わせて必死に捺に懇願する。
ていうか、どれだけ練習嫌いなんだよ…歩のやつ。
「んー…しかたないなぁ じゃあ、その…よ、四人で食べよ…?」
なにやら頬を少し赤く染め、うつむき気味に歩にいう。
ってあれ⁇
なんで 顔赤いんだ捺?
まさか捺って歩のこと…
ほうほう。わっかりやっすいなぁ。
そんな捺にも気付かずに単純に歩が喜ぶ。
「おう! それだけでいいのか よし四人で食おう‼
野球のない昼休み やったー♪」
「人数増えて お弁当もきっとおいしくなるね」
「だな☆」
そうして捺、歩を加えていつもの屋上へと階段を上がり
先頭を切って歩いていた歩が一番に扉を押し開け吹きつける風を受けながら気持ちよさそうにひとつ、深呼吸をする。
「はー 気持ちいいー 」
「今日もいい天気だねー 歩くん」
「おう こんななかで弁当食べるなんて夢みたいだ」
「あー… 歩くんたち野球部はすぐ食べてすぐ練習だもんねー
なんだか 大変そう」
「そうなんだよ~ だからゆっくり食べられるお昼ご飯が憧れでー…」
歩のすぐ後に屋上についた葉月が、仲良く談笑している。
(おいおい…。
あいつー 葉月から離れろよ。)
自分でもよくわからないまま、そんなイライラが募り始める。
心なしか隣の捺も浮かない顔で前の二人の様子を見つめる。
「なぁなぁ葉月ちゃんって どんなのがすきー?」
「あたしはー あ 甘いのすっごい好きなんだ」
「あ 俺も俺も‼シュークリームとかバニラとか…
男のくせにっていわれちゃうんだけどね」
それを知ってか知らずか、葉月たちの会話はさらに盛り上がっている。
「えー すきだったらすきでいいんだよー おいしいもんね」
「おおー わかる人がいてよかった~ そうそう‼そういえば…」
「「ちょっと 失礼‼」」
「捺…」
「柚杞くん…」
止まらない二人の甘党談義にわざとらしく咳ばらいをして
割って入り会話を無理やり中断させる。
思わずかぶったその声に葉月たちがようやく俺たちの存在を思い出したような顔をする。
(くそー 歩のやつー‼
葉月と二人で盛り上がりやがって…‼)
「そろそろご飯食べようよ
歩あんた 部活サボったっていっていいの?」
「う… ごめん」
先に座りはじめる俺と捺に続いて葉月が俺の横に
ゆっくりと腰を掛ける。
「じゃあ俺も…」
「ちょっと待て 歩は捺の隣だ」
自然な感じで葉月の左隣に座ろうとする歩に
俺は捺の隣に座るよう促す。
「えー⁇ なんでー⁇」
「いいから おとなしく座る‼」
「…? 別にいいけどさ」
捺の気持ちも気付かない歩が、
疑問符を浮かべたまま捺の隣に腰を掛ける。
歩には見えないように俺が捺に向かって左目を軽くつぶると、
捺が照れたようにうつむく。
うまくくっつけよ、二人とも。
よし。
この恩は 情報で返してもらおう。
「ってわけで さっそく食べるか」
「お そうだったそうだった♪こっちが本命☆いっただきまーす」
それぞれがそれぞれの、俺は葉月が作ってくれたブルーの弁当を葉月から受け取ってふたを開ける。
タコさんウインナーにミニトマト、みずみずしいサラダにたまごやき。
色とりどりの綺麗に敷き詰められた弁当が、さらに食欲をそそり早速お箸を伸ばしながら捺たちにずっとひかかっていたことを聞くべく話をふる。
「そういやさっきの話なんだけどさぁ…」
「「さっきの??」」
主語をなくした俺の言葉に捺と歩が、小首をかしげる。
「ほら さっきいってたじゃんか
例の犯罪者の"うわさ"ってやつ」
「あー… あれね あれがどうかしたの?」
「いや 同年代っていってたからか妙に興味わいたもんだから…
あのうわさって歩たちどこで聞いたんだ?」
「んー… あれは部活の人がいってたのよ ね?歩」
「ん? ああ… なんか先輩たちも何人か怪しげなやつを見かけたとか…」
「まじっ!?」
「…見かけてないとか」
あ、あれ……。
「なんだよ。はっきりしないな」
「だって しょうがないじゃん。
あいつら、神出鬼没っていうし…」
俺がため息をひとつついて見せると、好物であろうタコさんウインナーを頬張りながら、ほんの少し口を尖らせていう。
「そうだよ~。あ そういえばその犯罪組織なんだけどね
さっき おもしろいこと、聞いちゃった」
「おもしろいこと??」
「おもしろいことってなに? なっちゃん」
捺の楽しげな口調に好奇心をくすぐられたのか、先ほどまでおとなしく弁当を口に運んでいた葉月までも思わず口を開く。
「それがねー…
ほら さっきあの犯罪組織って同年代っていったでしょ?」
「ええ? ああ… うん」
そう。
明かしてしまうなら俺たちがこの情報でなにか引っ掛かるのもたぶん
俺たちと同年代である、という事実が大きいだろう。
「なんとそのメンバー、うちの学校の生徒じゃないかって噂なの!!」
「え!?この学校の!?ほんとなの!?なっちゃん!!」
「えぇ!?ちょっ、捺それどこ情報だよ!?」
「ふふん♪お兄ちゃんからなのだー☆」
興奮する歩に、自慢げにピースサインを出しながら捺が答える。
「なるほど 城山センパイ、こーゆー情報早いもんなぁ
地獄耳ってゆーの? どんなに情報網広いかわかりゃしない」
「そうねぇ 例えば『歩がここでサボってましたーっ』とか、ね
誰がいうんだろーねぇ」
「うぇっ… 心のそこからごめんなさいっ!!」
「うん 素直でよろしい」
横目でいたずらにからかう捺に対して、
歩が情けない悲鳴を一つ上げてあやまる。
「捺、それって確かな情報なのか?」
「お 柚杞。結構食いついてくるね~。まぁ 確かに犯罪組織なんて噂が自分の学校にあれば嫌でも気になるんだろうけど」
質問には答えずに、捺が楽しそうに笑う。
正確にいうと俺たちがこの情報に関して調べているのは、
好奇心もあるが何より特殊捜査員として与えられた『情報収集』という地味でありながらも立派な俺たちの使命のため。
しかし、一般人であり、大切な友人である、事情も知らない二人にわざわざそんなことを明かす必要はない。
「まぁ そんなとこだな それでどう?」
「うーん…噂だから確かとは言えないかな」
「そっかぁ~」
「そんな深刻そうな顔しないでよ~
あくまでもうわさだし、誰かが面白がってたてた作り話かもしれないんだもん。それに 犯罪組織っていっても殺人だとかしてるわけじゃなくて
イタズラみたいな軽いものなんだから」
「うーん… そう…、だな」
頭を抱えてうなる俺を落ち込んでいるとでもとったのか必死に弁解する捺。
この話が事実なら俺たちは、警察部隊の一部として見過ごすわけにはいかない。
しかし、噂であったなら噂であったで俺たちは任された情報収集がまた手掛かりのない0からのスタート。
どっちであっても俺たちにとっては困るもんだ。
「ごめんね 今度またお兄ちゃんに聞いたら教えてあげるよ」
「ん… 頼むよ」
この話があくまでも単なるうわさであり、信憑性はないものとわかり肩を落とす俺を気遣ってか、捺がそう約束してくれた。
(やっぱり噂だけじゃそう簡単にたどれるもんじゃないな…)
キーンコーンカーンコーン…。
そんなのんびりとしたお昼時間の終わりを、校内校外に響き渡る鐘の音が知らせてくれる。
「あ 鐘なっちゃった そういえばあたし、日直だから次の授業の準備頼まれてるんだった…‼ごめん 先いくね」
「待てよ 俺もいくって 手伝ってやっからさ」
食べ終えた弁当箱を片手に駆け出そうとする捺の手を掴んで、歩がいう。
「え…? でも柚杞たちいるんだし 一緒に戻ってき…」
「いいから 行くって お前はすぐ一人でやろうとするんだから、ほっとけますかての」
「え… でも、でも…」
嬉しさのあまり、というやつだろうか。
なおも食い下がり捺は、目線を俺たちに向けて助け船を求める。
「いいよ 二人とも先にいきなよ 俺たち後から追いつくから」
「…~っ!
…ありがと じゃあの、歩、手伝い お願い…シマス」
「 いえいえ どういたしまして☆」
緊張のせいもあってか敬語になってしまっている捺に、歩はくすくす笑いながらその後を追い、二人は先に教室の方へと姿を消した。
「青春だねぇ あのお二人さんも」
そんな彼らの背中を見送って、そんなことを思う。
「ん?何か言った?」
「んーん、別に。
さ 俺たちも教室に戻ろうか」
「? うん?」
俺のひとりごとを聞き取れなかったらしい葉月が小首をかしげて、聞き返すが答えることはせず俺は葉月の背中を軽く押すと一緒に教室へと戻った。




