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パワー・オブ・ワールド  作者: ふくあき
ー超えていくべきもの編ー
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第二章 第十話 Nod If You Understand

「――随分と、ストレスが溜まっていた様子で」


 地面を徘徊する巨大な影。それによって呑み込まれた建物は、既に十を超える数となっていた。ビル群だった区画は既に半壊といった状態で、地表からの視界もかなり良好となってしまっている。

 そんな中で、ジェスターは残されたビルのうちの一棟から身を乗り出して下を覗き見る。そこには相変わらず回遊を続ける巨大な魚のような姿と化した魔人が悠々と泳いでいるのを目にすることができた。


「さて、そろそろ反撃といきましょうか」


 ジェスターはその体躯を折り曲げて膝をつき、地面に手を当ててビルを丸ごと変化させていく。


「――|種も仕掛けもございません《ジャック・イン・ザ・ボックス》」


 ビルの周囲から巨大な包装紙が現れ、全体がプレゼント箱のように包まれていく。当然ながら足元の影が次に狙っているのはこのジェスターが立っている巨大なビルであり、リボンによって装飾がなされる前に、一口で飲みこんでいく――


「――|愉快に断ち斬りましょう《ジャック・ザ・リッパー》」


 地表に飛び出し、ビル全てを飲み込んだ巨大な影。しかしジェスターの一言によって、それはまるで縦に真っ二つにされたかのように綺麗に二つに分かたれていく。


「ひとまず一撃、といったところでしょうか」


 バシャリ、と泥が散らばるような水音と共に影は分散して散ってゆき、地面には巨大な血だまりのような黒い影がひとつ落ちている。


「――空間断裂タチキリの上位互換、まずまずといったところか」

「造作もございませんよ。この程度、挨拶代わりです」


 影はエコーがかった声でジェスターに対する称賛を述べた後、再び持ち上がって一つの形を成していく。それは魔人を核として取り込んだ、巨大な怪物の姿。

 無機質な金属と、生物的な肉の混合体キメラ。それは生命というものへの冒涜する心が無ければできないような、歪で奇妙な存在。

 下半身は根を張るように地面の影と繋がっているが、上半身は真っ直ぐにジェスターの方を向き続けている。


「さて、まだまだ使っていない技は多いんだ、遊ばせてもらうぜぇ!?」


 異形の怪物はその手に大鎌を生成すると、それを両手でしっかりと握りしめて大きく横に振りかぶる。


「――【異空間断絶ディメンションリッパー】ァッ!!」


 横に一閃。たったのその一撃が、残っていたビル群全てに巨大な斬撃の跡を残していく。

 ジェスターはその一撃を回避したか、あるいは無効化したか、轟音を立てて倒れ行くビル群の合間の空間に平然と立っている。


「断絶……文字通り絶ちましたか」


 まるでそこに足場があるかのように立っているが、ジェスターの足元には何もなく、中空に浮かんでいるまま。風によって浮かんでいる訳でもなく、慌ただしく布地が羽ばたくこともない。そしてそれがジェスターにとっての普通の事であり、特段といった力を使っている訳でもなかった。


「甘ぇよ。――【流動式渇望淵孔リキッド・ブラックホール】ッ!」


 怪物が右手を前にかざすと、まるで無重力内を漂う一滴の雫のような黒色の液状球体が出現する。

 それと同時に全ての重力の優先順位が、地面ではなくその球体へと変更されていく――


「くっ……事象の書き換え、あるいは変換ですか」

「違うなァ……これが俺の決めた定義ルールだッ!!」


 崩れていくビルだけではなく、一体にある建造物を全て地面から引き剝がして球体に取り込んでいく。

 物体を飲み込むごとに重力は更に増してゆき、地面を舗装するアスファルトですら吸い込まれていく。

 液状に蠢く黒穴ブラックホールを中心に、徐々に広がっていくクレーター。それはやがて遂に一つの区画を制圧するにまで至っていく。


「クククク、ハハハハハハ……ヒャーハハハハァッ!!」


 “位相”をずらさなければ、世界線をずらさなければ。今頃どれだけの人間が異次元空間に引きずり込まれ、消え去っていったことだろう。魔人に残された僅かな人間性とでもいうべきか、あるいは善性とでもいうべきか、いずれにしても実際の力帝都市には一切の被害は出ていない。

 しかしこの世界(位相)においてその被害は甚大そのもので、一つの区画に飽き足らず更にクレーターは広がっていく。


「さぁどうする!? テメェならこのくらいは軽くいなせると思っていたが――」

「無論、その通りでございます」


 突然として静止する世界。吸い込まれていく地面の欠片も、大口を開けて高笑いする化け物の不気味な顔も全て、その瞬間で固定されていた。

 そして――


「――|何でもアリということで《ジャック・オブ・オール・トレーズ》」


 その一言で空間に亀裂が走り、そして砕け散っていく。そうして新たに場面が切り換えられたさきで展開されていたのは、怪物を取り囲む幾重もの刃の包囲網という光景。その一つ一つの大きさは、人間が背負う中で最も大きな大剣バスターソードに分類されるもの。


「我々のような魔に属する者が嫌う法儀礼済みの銀の剣にて。これにてお終いです」


 ジェスターが指をパチン、と鳴らした途端に、全てが動き出す――


「――ッ!?」

「ひとまずガワには死んでもらいます」


 全身を神聖なる剣で貫かれ、異形の怪物は悲鳴を上げて倒れていく――

 ――筈だった。


「……クク、クカカカッ! クキャハハハハッ!!」


 まるで子供が笑い声をあげるかのような、ケタケタとした笑い声が怪物から漏れ出てくる。

 そうして怪物は崩壊とともに、内側に留めていた闇の奔流を吐き出していく。


「――【堕落崩壊(フォールンエンド)】」

「ッ!? 自らの暇潰しの為にそこまでしますか……!」


 建物崩壊の後に来たる瓦礫の入り混じった暴風のごとく、闇の奔流は全てを飲み込んでさらに勢いを増していく。

 そうして力帝都市全域を闇が占めていったところで、ジェスターは指を鳴らしてその光景を一瞬にして元の力帝都市の光景へと切り替える。

 ――まるで最初から何もなかったかのように、ジェスターは元のビルの屋上に立っていた。空の色も元の青空で、どこまでも透明感が続いている。唯一違うところといえば、先ほどまでの余裕から一変して冷や汗をかいているような、余裕というものが消し飛んだ表情をしているところであろう。


「……流石に可能性を一つ潰してまでの暇潰しとは、相変わらずスケールが異なることで」


 いつの間にか、ジェスターの目の前には同じく最初から何もしなかったかのように魔人がビルの縁に腰かけている。


「元々あの世界(位相)は終わった世界だ。いくら壊しても問題ない」

「……市長が“勝利”し、全てが止まった世界ですか?」

「ああ。もう動かなくなった世界に止めを刺してやったに過ぎない」


 動かなくなった世界――その言い回しにジェスターは引っ掛かりを覚えた。


「動かなくなった世界……つまりは時が止まったという事でしょうか?」

「ちょっと違うな。もっと分かりやすく言うべきか?」


 魔人はゆっくりと立ち上がってジェスターの方を振り返ると、ただ一言だけこう述べた。


「――終わり(エンディング)を迎えた世界、ということだ」


 魔人はそう言って、ただひたすらに空を仰ぎ見る。


「……終わらせるわけにはいかねぇよ。絶対にな」

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