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パワー・オブ・ワールド  作者: ふくあき
ー超えていくべきもの編ー
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第一章 第六話 逆さまの塔

「――つまりは詩乃の親父さんが、詩乃を連れ戻しに来たって事か」

「あれ? でも澄田さんのお父さんって――」

「ああ。オレと本気の殺し合いをするような仲だ」

「…………」


 屋上の惨状は、誰の目から見ても凄まじいものだった。そこだけピンポイントで高ランク同士の戦いが繰り広げられたかのような、どこを見ても戦いの傷跡が無い所が見当たらないような、凄惨な光景が広がっていた。


「……これ全部、あいつの仕業か?」

「ああ。テメェの娘がいるかもしれないことも考えて、オレが片手で止められる程度の出力に抑えてはいたらしいが」

「うっひゃあ、これは流石にあたしでも防げないワケだ」

「テメェは単純に物理を勉強しろバカ。電子の動きを反転させても意味ねぇんだよ」

「はいはい、すいませんでしたーっと」


 魔人とのちょっとした反省会もそこそこに、榊真琴――もとい、榊マコは周囲の確認だけをしてその場を去ろうとする緋山の背中を引き留めようと声をかける。


「ちょっ、緋山さん!? あたしより重傷なんだから、あんまり歩かない方が――」

「関係ねぇ。詩乃が連れ去られているんだ、取り戻しに行く」


 魔人の手助けもあったとはいえ、欠損した腹部の再生が追いついていない。肉体としての欠損ではなく能力者として砂の一部の欠損と置き換えることで致命傷は免れたものの、それでも身体が欠けていることに変わりはない。


「土手っ腹に風穴開けられたヤツが、イキがってんじゃねぇぞ」

「あんただって、詩乃の保護者じゃなかったのかよ」

「オレはあくまで保護者代理に過ぎない。それは最初に話していた筈だ」


 魔人はあくまで澄田詩乃を預かっていた立場に過ぎず、それも本来の親が出てきたとなれば手放すのは当然のことだった。そしてそれを何より魔人自身がそれを望んでいる。


「ヤツなら娘を追ってここまでたどり着いてくれる……オレはそう見込んだからこそ、澄田詩乃を引き取った。そしてヤツはオレとの決着をつける為にここまで来た。その時点でオレの手からは既に澄田詩乃は離れてしまっている」

「っ、あんたはそれでいいのかよ!? 十年以上も面倒を見てきたってのに、それを簡単に――」

「言った筈だ。オレの今の目的は神崎剛毅との完全決着だと。その時が来たってだけだ」


 それまで気に掛け過ぎていたレベルにまであった澄田詩乃への興味が、まるで最初からなかったかのように失われている。そんな冷酷なまでの魔人の掌の返しぶりに緋山は更に苛立ち、ますますもって急ぎ足でその場を去ろうとしたが――


「――勝算はあるのか?」

「あぁ? 何がだよ」

「テメェの目的は澄田詩乃の奪還。ならば父親の神崎剛毅との激突は避けられないが」

「っ、さっきは油断しただけだ! 今度は――」

「今度は勝つ、か。ならば……」


 ――急激に体にのしかかる重圧プレッシャー。それは感じる者に否応なしの死を予感させるような、押し付けられる負の感情。

 魔人の背中から生える三対の黒翼は完全に伸びきり、その羽ばたき一回一回が嵐のごとき殺意を乗った暴風となって緋山達二人の身体を駆け抜けていく。


「これを受けて立っていられたのなら、それを認めてやるよ」


 ――【殺戮ノ翼ベルセルクウィング】が、本格的な起動を開始する。


「――【虐殺飛翔体ジェノサイドストライク】」

「なっ!?」


 魔人の手に生成された暗黒球体は流線形へと引き延ばされ、そしてそれはまるで弾道ミサイルのような殺意に満ちた形状へと変貌していく。


「50%だ……50%、耐えられるものなら耐えて見せろ……」

「えっ、ちょっ!? それって全力の半分の力は出力されるってコト!?」

(クソッ、アホの榊の説明は置いておくとして、こいつは……予想はできていたがバカげていやがる……!)


 緋山励二が今まで引き出してきた魔人の力の最高記録は10%――それを遥かに上回る力を今、目の前の存在が形にしようとしている。


「くっ……」

「怯んだな? 緋山励二。先に言っておくがあいつはこの50%のオレ程度なら、平然と殴り合いができるぞ」

「なっ……!?」


 自分が行おうとしていることが、いかに自殺行為に等しいものだったのか、魔人はただ淡々と事実を突きつける。


「先に言っておくが、今まではお情けで蘇生までしてやっていた。だがこれを放つからには、テメェが死のうがオレは何もしねぇ。ここでくたばるか、神崎剛毅に今度こそ消し炭にされるかの二択だ」

「…………」


 遠回しに聞かされる、“諦めろ”という言葉。

 ――それまで緋山励二が守ってきた約束は果たされた。澄田詩乃の父親が帰って来たことによって、それは完遂された。

 しかしその結果がこれで良かったのか、緋山励二は既に答えを持っている。


「……どの道、俺は誰にも負けられねぇ。詩乃と付き合う時の条件って、その筈だったよな?」

「…………」

「だったら何も変わらねぇよ。それを受けて立つのが、俺に課された約束だ」

「……言いたいことはそれだけか」

「ああ……それだけだ」


 言葉としての次の返事はなく、代わりに暗黒の飛翔体が緋山に向けて発射される。


()ってこい、緋山励二――」


 ――テメェ向かうべきは“バベルの塔”じゃねぇ、“万魔殿パンデモニウム”だ。

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