朝霧の丘
まだ空が白ける前の、薄暗がりに包まれた静かな町にひとつのエンジン音が鳴り響いた。
それから数分後。
ほんのりと空の色が変わったころ、一台のバイクが速度を落としながら、小高い丘の上に現れた。
その丘からは、直人の生まれ育った町を見渡すことができる。
この丘は直人が小さな頃からの、秘密の場所だった。
朝霧に包まれた町は、静寂に包まれて、太陽が昇るのを待っている。
その風景を心に焼き付けるかのように、持って来たカメラでパシャリと、一枚だけ撮った。
少し町を眺めてから、バイクの荷台に括りつけた荷物の中にカメラをしまって、もう一度だけ町を見た。
「直人、本当にいいの?」
直人は、その声に向かって頷く。
もう心残りは無い……。
「さよなら。」
直人はバイクを走らせ、17年間住んだこの町を後にした。
丘からバイクで走っていくと、広い道に出た。
「これからどこ行くの?」
丘の上で問い掛けて来た声が言った。
「どうしようか?僕は目的を達すればどこでもいいんだけど。ディムはどこか行きたい所、ある?」
直人はバイクに向かって答えた。
「別に無いなぁ。行きたい所。」
さらりと言うディムに苦笑しながら、直人は答える。
「それじゃあ、気ままに行こうか。」
そう言いながら、直人はアクセルを開けていき、スピードを上げた。
このバイクの名前はディム。
3年前──
前の持ち主に捨てられ、気がつけばゴミ処理場の山のような粗大ゴミ置場にいたところを直人に拾われた、ある意味幸運なヤツである。




