第18話 この苦しみを受け止めるのは(後編)
『それ』を見て、自分の体がどうなっているか、漸く理解した。
その後の事はよく覚えていない。
気がついたらいつの間にか自室で寝かされていて、どこか虚ろだった意識が覚醒してくると共に、酷く胸が苦しくなってきた。
何もかも、わけが分からなかった。
未だ収まらぬモヤモヤも股から血が出たという事実も、男であったはずの自分に生理なんてものが来てしまったことも、こんなに感情が荒れ狂ってることも。
それに、鶴来なんかと一緒に住む羽目になってしまったり大鎌の男のこともセイバーが使えなくなった事も、こんな体になってしまって体力や腕力が落ちたりしたこともそれら全てを解決出来ない自分の無力さも。
いつからか『仕方ない』と割り切れていたはずの事までもが、脳裏に蘇り心を軋ませる。
(なんなんだ、なんなんだよこれ)
頭の中で動揺と憤りと苦しみと悲しみと……そして恐怖が混ざり合っていて。
そしていつしかもう何かを考える事すら嫌になってきたから、ただ何もせずぼーっとして時が過ぎるのを待っていた時に、あの馬鹿はやってきた。
「……鏡華?」
あいつの声が聞こえた瞬間、突如怒りの感情だけが火に薪をくべたかの様に燃え上がった。
「えっと……大丈夫――」
「……んだよ」
「え?」
何で自分ばかりこんな目にあってるのに、お前は何も変わらないんだ。
理不尽な怒りだと分かってはいても今の自分にはどうしても止められず、気づいた時には自分の中に溜まっていた、ドロドロとした『何か』が口を継いでひたすらにあふれ出してきていた。
「なんなんだよお前は!いつもいつも勝手なおせっかいばかりして!もううんざりなんだよ!早く出ていけ!」
「お、おいどうしたんだよいきなり!」
先程とはうって変わって声を荒げた鏡華に、鶴来は驚きを隠せない。
しかしそんな鶴来の動揺を意にも介さず鏡華はうつ伏せのまま叫び続ける。
「本当にむかつくんだよお前の顔を見ていると!こっちの気持ちも知らない癖にいつも能天気そうにヘラヘラと!」
「なっ、そんなヘラヘラしてないし!ていうか気持ちなんて教えてくれなきゃ分かんないだろ!俺頭良くないんだか、ら……」
何故か徐々に尻すぼみになっていく鶴来の声。
驚愕に目を見開く彼の視線の先では、鶴来の言葉の途中で振り返っていた鏡華が、涙を流しながらまるで憎悪に歪んだ様な顔で彼のことを睨みつけていた。
「なんでっ……なんでお前なんかに……!」
鏡華は自分でも何を言っているのか、何を言おうとしているのかそれすら理解出来ぬまま衝動に、自分の中の『何か』に身を任せて搾り出すように言葉を吐き出す。
「きょ、鏡華……」
動揺と心配に揺れる鶴来の瞳が、鏡華の正体不明の『何か』を刺激する。
噛み締められた歯がぎりりと音を鳴らす。
「その目がっ……哀れんでる様なその目も声も何もかもが!もう見たくない、聞きたくない!」
もはや泣き叫びとも言える声でそう言うやいなや、鏡華は枕の傍に置いてあるデジタル時計を鷲掴みにする。
「うぁああああ!」
そして言葉にならない叫びと共に、一切の加減を加えず時計を放り投げた。
その向かう先は、当然。
「――っ」
がしゃんっ!
一度大きな音がして、時計は鶴来の額から滑り落ちた。
「あ……」
音をたてて床に落ち、僅かに転がった時計。
鏡華は、時計が鶴来の額にぶつかる音と床に落ちてぶつかる音を聞いて、漸く僅かにだが理性を取り戻した。
床に虚しく佇む時計へと、鏡華の目が無意識に移る。
本来白色のデジタル時計だったはずのその角には今、僅かに赤い染みが付着していた。
「っ……!」
アレだけ熱くなっていたはずの感情が急に冷えて、自分が何をしてしまったのかを漸く自覚した。
(違う、こんなことをしようと思っていたわけじゃ……)
でもそれなら自分は一体何をしたかったのだろうか、何を言いたかったのだろうか。
分からない、自分の事なのに何も分からない。
でも誰かを傷つけたかったわけじゃないのは確かだ。幾ら嫌な奴だからって、ただ衝動に任せてこんな事をして良いわけは無いのも分かってる。
なのに、それなのに。
鶴来の顔を見ることが、自分が傷つけてしまったであろうその姿を見る事が怖くて、ただ俯いて小刻みに震えることしか出来ない鏡華の耳に、自分を呼ぶ鶴来の声が届いた。
「鏡華」
鏡華は反射的に顔を上げてしまう。
「あっ……」
しまったと、そう思った時には既に鶴来の顔が視界に入ってしまっていた。
一瞬、鶴来の憤った表情を想像してしまい青ざめそうになる鏡華だったが、焦点が合い、彼の表情がはっきりと見えた瞬間、思わず間の抜けた声を上げてしまった。
「――え?」
「もう終わりか?次はちゃんと受け止めてやるぜ!」
僅かだが額を切り、出血しているのは鏡華の予想通りだった。
だが、表情の方は全くの予想外でにかっと笑いむしろ楽しそうとさえいえるものだ。
「な、なんでそんな……」
笑っていられるんだ。
震えた声でそう続けようとした鏡華の言葉を遮る様にして鶴来は笑顔のまま語り始めた。
「うちの家訓みたいなのに拳は口ほどに――じゃなかった、『拳は口より物を言う』ってのがあってな?とりあえずなんかあったらこれで大体解決するんだ。分かりやすくて良いだろ?」
そう言いながら鶴来は拳を握って見せた。
意味が分からないといわんばかりにぽかんと口を開けた鏡華に気づいたらしく、鶴来は指で頬を掻き少し困った顔をした。
「あー……なんつうか俺ってさ、自分で言うのもなんだけど馬鹿で考えるの苦手だから、多分色々分かってやれてないんだ。さっきもこのみにデリカシー無いだなんて言われたし。でもまぁ分かってやれなくても受け止める事ぐらいなら、そんな俺でも出来ると思うからさ」
そう言った後、床に落ちた時計をひょいと拾い上げると、鶴来は話を再開した。
「だからこういう形でも全然良いからさ、どんどん吐き出しちゃえば良いんだよ。俺、体の丈夫さには自信あるから、これくらいなら幾らでも受けられるぜ?なんなら悪口とかでも良いし。俺馬鹿だからな、大抵のものには打たれ強いぜ!」
びしっと親指を立ててサムズアップを決める鶴来。
「お……お前……」
そんな、どこか得意げにも見える鶴来の姿に、鏡華の中に先程までの『何か』とは違う、ある一つの気持ちが芽生えていく。
(なんだ、この気持ちは……)
いつの間にか涙も止まり、先程まで胸の中を埋め尽くしていた『何か』も何処かへと失せていた。
そして今、代わりにこの胸に灯ったものは。
(ああそうだ、これは――)
「むかつく……」
「え?」
鏡華は一息吸い込むと、腹の底から思い切り叫んだ。
「あああああほんっとうにむかつくー!!」
「えええ!?自分で言うのもなんだけど、俺今結構良い事言ってなかった!?」
「黙れ馬鹿!」
「えっ」
唐突な罵倒に困惑する鶴来をガン無視して、鏡華は大声で喋り続ける。
まるで今までの色々を、溜まりに溜まった鬱憤を、全て吐き出すかの様に。
「何が『受け止める』だ、馬鹿の癖に一丁前に人の心配しやがって!お前にそういう余裕のある態度取られると癇に障るんだよ!」
「えっえっ」
「ちょーっと背が高くて力も強いだけで良い気になるなよ!炊事も洗濯も掃除も全部俺――じゃなくて私の方が出来るし頭だって良いんだ!」
「お、おう……」
「そもそもおっ――私の本気さえ出せればなぁ、お前なんて片手だけで捻れるんだからな!」
「本気?えっ何それ」
「ああもう何もかもがむかつく!もう知らん寝る!邪魔だから出てけバーカ!」
鏡華は台詞が言い終わるとほぼ同時にそばにあった枕を、時計を投げた時と同じ様に加減せず思い切りぶん投げた。
狙う先も同じく鶴来の顔面だ。
「うおっと」
しかし今度こそ眼前で、先程の宣言通り両手で枕を受け止めた鶴来がそれを視界からどかした時には、既に鏡華は夏用の薄い掛け布団に包まりダンゴムシの様な丸まった体勢になっていた。
鶴来は両手で受け止めた枕を見つめる。
上手くは言えないが、最初投げられた時計にはドロドロとした嫌な気持ちみたいなのが込められていた気がする。
しかし今手に持つ柔らかい枕からは、何と無くだがいつもの彼女らしいものを感じた。
次に鶴来は枕から鏡華の包まっている布団へと視線を動かす。
たまにもぞもぞと僅かに動く以外は、特にこれといったアクションは無い。
(確かに全部吐き出せとは言ったけど、本当に言うだけ言ってきたなぁ。ま、でも――)
なんだかよく分からないが、とりあえずは丸く収まった様な気がするからまぁいいか。
鶴来はそっと枕を床に置くと、なるべく音を立てない様に、ゆっくりと扉を閉めて部屋を後にするのだった。
時刻は既に夕方の5時を回っている。
窓から差し込む夕焼けの光に照らされた布団の塊が、何やらもぞもぞと動き出していた。
そして一瞬布団が盛り上がったかと思うと、勢い良く布団が落ちて中から黒髪の少女が一人。
この部屋の主である、竜胆鏡華だ。
「んんーっ……あれ、ここは……」
鏡華は一度体を伸ばして軽く解した後、ぼんやりと回りを見渡す。
「そうか、俺は……」
鶴来と言い合った、というか半ば一方的に言うだけ言って寝たという事を思い出した鏡華の目にある物が留まった。
自分の寝ている敷布団の傍にあったそれは、鏡華には見覚えの無いシンプルなチェックの手提げ袋と、何やら文字が書かれている一枚のメモ用紙だった。
(一体誰がこんな事を……)
首を傾げながらも、鏡華はメモ用紙を手に取り目を通す。
それには見知った差出人の名と、手提げ袋の中身についての説明が記されていた。
『余計なお世話かもしれないけど、もし必要なら使ってね。使い方を書いたメモも袋の中に入れてあるから。お代金の事なら気にしなくていいわよ?代わりに鏡華ちゃんの寝顔の写真を一枚頂いたから このみ』
「全く、あいつは……」
呆れた声音でそんな事を呟きながらも、何故だかまんざらでも無さそうな柔らかい笑みを浮かべる鏡華。
今ならこのみがコンビニで言っていた言葉の意味がよく分かる。
つまり彼女は発言こそふざけてはいたが自分よりも先に、自分の状態を察していたのだろう。
鏡華が手提げ袋の中身を覗くと、所謂『生理用品』が、使用法の書かれたメモ書きと共に入っている。
(今回は、このみにも随分と助けられたな……)
もしもコンビニにこのみがいなかったら、彼女が自分の状態を察してくれていなければ、今頃どうなっていたのだろうか。
そう思うとぞっとする。
「また今度何かお礼でもしなくてはな……」
『何がして欲しい?』などとこのみに聞いたら間違いなく無茶振りされるだろうから、とりあえず手作りの菓子でも送ればいいか。
そう結論付けた鏡華の脳裏に、次に思い浮かんだのは鶴来の姿だった。
「…………あ゛ー……」
腹の底から出したかの様なため息と共に項垂れる鏡華。
その心の中では、先程鶴来に吐き出してしまった台詞の数々が反芻されていた。
「あーもう……凄い恥ずかしい奴だな、俺……」
右手で覆い隠した額は、羞恥心のせいか随分と熱くなっていた。
子供みたいに泣いて喚いて八つ当たりまでして。
今思えば生理なんて、個人差はあれど少なくとも自分の場合はたかだがなんかモヤモヤして股から血が出るというだけ……だけというのもなんだが、そんなたいした事でも無いはずなのに、何であそこまで大騒ぎしていたのだろうか。本当に恥ずかしいし、実にかっこ悪かったと思う。
それでも悪い気がしないのは多分、心の中が随分とすっきりしたからだろう。体の方のモヤモヤはまだ残っているが。
(……『悔しかった』のかな、俺は)
冷静になった今、漸く少しは見えてきた、自分の中に溜まっていた『何か』の正体。
それだけでは無かったのかもしれないが、それでも恐らく大きく占めているものではあるだろう。
大鎌の男に負けた時も、自分が非力でセイバーも持てない無力な存在になってしまったと分かった時も、自分が巻き込まれたはずの事件に自分が関われないというその事実も。
そして自分の方が上だったはずの鶴来に助けられたり、力の差を見せ付けられたり心配されたりする事も。
全部悔しくて、それでもやはりどうしようも無くて。
割り切った事も割り切れなかった事も全部が心の中に溜まっていて、それが今回、生理をトリガーにして爆発したという事なのかもしれない。
「『受け止める』……か」
鶴来はその言葉の通り鏡華の発言も、それだけで無く怪我をさせてしまった事でさえも許容した。
そんな鶴来のおかげで、胸の内を全て吐き出せたのは確かだ。
それを認めるのもやはり『悔しかった』が――。
(またそういうのが溜まって来たら、あいつに八つ当たりでもすれば良いか。受け止めるだなんて言ったのはあいつだし。、まぁそれはそれとして……)
とりあえず、今やらなきゃいけない事があった。
「はぁ……でもこれも何というか、『悔しい』な……ま、でも誰に借りようと借りは借り、か……」
そう言って若干嫌そうな顔をしながら、鏡華は部屋を出るのだった。
「あれ?鏡華、もう良いのか?って何その箱――」
「おい少しかがめ馬鹿」
何故かキッチンに居た鶴来の前に、こちらも何故か手に木箱をぶら下げ、突然現れるなり有無も言わさずぶしつけにそう要求してきた鏡華。
彼女は言うだけ言った後、自身もその場にしゃがみこんで木箱から何かを取り出そうとしだした。
「え?えっと……こうか?って痛っ!」
状況が飲み込めないも言われるままに屈んだ鶴来の額に、鏡華は何も言わず右手に持った何かを押し当ててきた。
同時にその押し当てられた部位に痛みが走る。そこは、少し前に鏡華が投げた時計で傷ついた部位だ。
鶴来が何事かと思って自分の額から離れた鏡華の右手を見てみると、彼女がその手に持っていたのは恐らく鶴来の血で僅かに赤く染まったであろうガーゼだった。
(もしかして……)
鶴来がある仮定を考え付いた時には既に鏡華は絆創膏を一枚、木箱から――恐らく救急箱だろう、から取り出して鶴来の額に貼り付けた。
「これって……」
鶴来がその意図を確かめる様に鏡華に目線を合わせるが、彼女はそっぽを向いて、途切れ途切れに言葉を紡ぎだした。
「その……なんだ……その傷は、えっと……すまなかった。それと……あー……そのー……」
鏡華の頬が恥ずかしそうに赤く染まり、しかしその表情は苦虫を潰したかの様に歪む。
そんな微妙な表情で何かを言いよどむかの様に黙っていた鏡華だったが、しばらくすると蚊の鳴くような声で一言呟いた。
「……………………あ…………ありがとう、鶴来」
「…………」
豆鉄砲を食らった鳩の如く、ぽかんと口を開けて硬直した鶴来。
そんな彼の姿を見た鏡華は、無性に居た堪れなくなってその場から逃げ出したくなった。
というか逃げ出そうと踵を返し早足で歩き出した。
しかしそんな鏡華の背後から、鶴来がぽつりと漏らした一言が、鏡華の耳に届いてしまう。
「……今、名前で呼んでくれたよな?」
予想だにしなかったその一言に、今度は鏡華が硬直した。
そんな馬鹿な。と思いながら、今しがた自分がした発言を反芻する。
『……………………あ…………ありがとう、鶴来』
確かに名前を呼んでいた。無意識にだが呼んでいた。
その事実を理解した瞬間、鏡華は弾かれる様に振り向くと慌てて弁解を始める。
「い、いやちょっと待て!これはたまたまであってだな!別にお前に心を許したとかそういうわけじゃ――」
「傷作ったかいはあったな!」
「今すぐにでももう一つ作ってやろうか……!」
「ちょっ、それはさすがにでかいって!」
鏡華が両腕で木箱を持ち上げて投擲しようとする姿勢を見せると、鶴来は慌てて両手を突き出しながら鏡華に静止を求める。
「受け止めるって言ったのはお前――ん?」
突き出された両手を見て、鏡華はある疑問を抱いた。
「お前、その指の傷は……」
何故か鶴来は額の傷の他に、両手指にも幾つかの切り傷を作っていた。軽いものばかりで、既に出血も止まっているようだったが。
見覚えの無い傷に疑問を覚えた鏡華に、鶴来は照れくさそうに答える。
「ああこれか。いや実はさ、お前寝てたから、代わりに今日の晩飯作ろうと思ってやってみたんだけど、全然上手くいかなくてさぁ」
「なんでキッチンに居るのかとは思っていたが、そういう事か……」
よく見ればコンロに鍋が載せてあったり台所の上や流しに置きっ放しな調理器具や何やらで、台所全体がえらくごちゃごちゃしている。
竜胆家の食卓を預かる者としての血が騒ぎ、整理整頓がしたくなってうずうずしてきた鏡華はふと、ある事に気づいた。
「おい鶴来……」
「また名前で呼んでくれたな」
「あっ、しまった!ってそうじゃなくて……お前、バイトは?」
鏡華の言葉から若干の間を置いてその言葉の意味を理解した鶴来は、見る見る青ざめていく。
慌ててポケットからスマホを取り出そうとするも、どうやら入っていなかったらしく「どこだ!どこだ!?」と言いながらあっちこっち首を回し、そして漸く見つけたらしくリビングの机に向かって急いで駆け寄った。
「うわっやばい携帯にすげぇ数の着信が!てか何でマナーモードにしてたんだ俺!あっ、繋がった!もしもしいや違うんですよこれには深い事情が――えっ、今から!?しかも遅刻分はただ働き!?えっ、いやあのー出来れば勘弁すみません冗談っす!今行きます!」
「本当に馬鹿だな……」
キッチンで呆れる鏡華に向かってリビングから半ば叫ぶような声で鶴来が言う。
「そんなわけで俺ちょっと行ってくるから!やばいやばい急がないと!」
冷や汗を掻きながら、鶴来が慌ててリビングを出て行く。
しばらく扉の向こうでどたばたと騒がしい音が聞こえた後、竜胆家に静寂が戻った。
一人静寂に佇む鏡華ははぁ、と一度ため息をついて鶴来が作りかけのまま置いていった料理を見渡した。
「あいつなぁ……これどうするって火かけっぱなしじゃないか!ああもう!」
鶴来が消し忘れていったらしくコンロに灯りっぱなしになっていた火を、鏡華は慌てて消した。
「……そういえばあいつ一体何作ってたんだ?」
火を消してほっとしたのもつかの間。
コンロに乗っていた鍋の中身が気になった鏡華が蓋を開けて中を覗く。
中で作られていたのは、香ばしいスパイスの香り漂うカレーだった。
どうやらルーを入れて煮込んでいる最中、つまりほぼ完成している状態の様だ。
鏡華は台所の上に置いてあったお玉を手に取り、鍋の中からカレーを一すくいして少し啜ってみた。
少し前に、一緒に作って教えたカレーの味と殆ど同じだった。台所に置きっ放しになっていたルーの箱を見ても、やはり前と同じ物だ。
そういえばあの時は野菜の大きさがまちまちだったなと思いつつ鍋をもう一度覗いてみると、野菜の大きさこそは前よりも均一に近くなってはいたが、今度は全体的に一回りかふた回り程小さくなっていた。
「確かに大きさがバラバラだとは言ったが、だからと言ってこんなになるまで合わせようとする必要はないんだがな……」
なんというか本当に不器用で真面目な奴だなと、鏡華は身のごっそり削げた野菜達を見て思う。
「……ま、今日の礼と詫びという事もあるし、また今度気が向いたら教えてやるか」
苦笑……では無く、どちらかと言うと満更でも無さそうに軽く微笑みながらそう呟く鏡華。
鶴来がまた米を炊くのを忘れた事に気づき、その微笑みがいともあっさり崩れるのはそのすぐの事であった。
【今日の戯言コーナー】
TS物としてはわりと定番な生理ネタ消化回後編。生理に関しても例の如く電子の海に漂う数多の文献を自分に都合の良い様に解釈して扱ってますので現実との差異があるかもしれませんが、まぁ生理には『個人差』とか言う言い訳ありますし無問題ですよねとかそんな汚ねぇ解釈。
それはそうとこういうあれこれをがっつりとやる系統のTS物の宿命として、性差に関するあれこれの描写はある程度必要なわけでして、そういう情報は大概、今私や読者諸兄の目の前にある箱がソースとなるわけですが、そういうのを調べる度に思うことがあるわけですよ。
「ああこの履歴はある意味エロサイトのそれよりやべぇよな」と。
いやまぁ『女性 下着』とか『女性 パンツ』とかならまだ健全な性癖の範疇かもしれませんが、『女性 生理』なんか出て来たら「お前は一体何処へ向かっているんだ」と心配されるレベルですよ。家族会議で「一体生理の何処に興奮するんだ」と尋問されるそんな地獄絵図もワンチャンなので、TS物書く作者の皆様は履歴の管理に厳重の注意を払う様気をつけましょう。
それにしてもここしばらくで一番戯言っぽいこと書いた気がする!すっげぇしょうもねぇ話!




