東京旅行記⑥
シバの耳がぴくっと動いた。
「時間がない早く決めるのじゃ!!」
蓮矢は両手で自分の頬をたたいた。
「わかってる辛いのは俺だけじゃないもんな!」
涙を拭いてすぅっと息を吸った。
「待ってろよ!!!ひかるーーーーーーーーーー!!!」
夜の街に蓮矢が叫んだ。
「うるせぇぞ金髪!」
そう怒鳴られた。
「すみません、、」
少しばつが悪そうに蓮矢は言った。
「なはは!さっきのが嘘みたいじゃな。さぁ行くぞ捕まっておれ!」
「ほんとだよ。悲しむ暇も痛がる暇もねぇ」
シバが服を着たまま小さめの動物の姿になり蓮矢を乗せた。
「まぁ悪くないか」
移動は一分もかからなかった。
夜の街なこともありシバは思う存分飛び回ることができた。
光の元に到着してシバは人の姿に戻った。
「なぁシバさん。俺手を怪我してんのね」
「うぬ。それがどうした。」
「捕まるのいたすぎんだよぉぉおぉ」
蓮矢の手の傷はいまだに血をにじませていた。
「そんなことより光を見てみ」
「そんなこと!?」
そう言いながら光の方に目を向けた蓮矢。
「は?」
茉莉の時のように黒い靄が光を覆っていた。
しかし、今回はしっかりとした形を成しており、先ほどよりも嫌な感じがした。
「何あれ?」
「悪意じゃよ。あれに霊が引き寄せられるようにやってくる」
「さっきの蜘蛛みたいになるってこと?」
「悪意にさっきは弱い霊が集合して形を成したに過ぎないのじゃ。今回はどうなるのじゃろ」
「なんでそんなのんきに言ってんだよ!」
そういって蓮矢は光のもとへ走った。
ガツッ
蓮矢は何かに勢いよくぶつかり後ろに倒れた。
「え?」
「結界じゃよ。何者かが、わしらからの干渉を避けることでさらに悪意を増大させてより強靭な力を得ようとしておると考えるべきか」
「俺霊感ないはずなのに入れないの?」
シバは目をゆっくり閉じた。
「お主は先ほどその傷を作ったな。武器として使っているものには悪意がつきやすい。お主は一時的に霊能力に目覚めたんじゃろうな」
「じゃあ誰なら入れるんだ?」
「わからぬ。悪霊が張った結界ならわしでも簡単に壊すことができるが、、これはいったい」
光が振り向いた。
目の輝きが一切なくなった。
「ねぇシバ、俺が誰かに憑かれていると思ってる?」
「どうじゃろうな。結界内にまでわしの能力は届かない」
「へー。」
「お主が作ってるのか?」
「わかんない。でも言うこと聞いてくれそうだよ。シバは中に入れてあげようと思ったのに。結局レンの味方か。俺を置いてどっか行っちゃうなら入れてあげない」
そう言って冷たい視線をシバに送る。
「やっぱ俺のとこ来るべきじゃなかったじゃん!」
「わしだってまともな判断できぬ時はあるんじゃ!」
蓮矢が頭を掻きむしった。
「あーもうわけわかんねぇ。わけわかんねぇ」
そう言い続けていると傷口から黒いもやが現れた。
(これ使えるんじゃね)そう思った蓮矢はふぅっと息を吐き嫌な記憶に思いを巡らせる。
「何をしておるのじゃ!」
「ちょっと待ってろ」
次第に、手に黒いもやが集結した。そして形を成してきた。
「あれは、、、」
シバは蓮矢を見て、驚いた。
そしてそれをまとわせて結界のもとへ走り出す。
「およびですかご主人様!」
そう言って一つ目のスライムのようなものが現れた。
蓮矢は急ブレーキをかけた。
「は!?なんだお前」
「ご主人様が霊力をくれたから、わたしこんなに成長できた!」
そう言って蓮矢の手で手をバタバタさせる霊。
「何をしておるのじゃ、、、」
「ねぇお遊びはそこまででいい?」
光がびっと指を蓮矢たちに向ける。
「うわっ」
突風が吹き荒れる。
「うにゃわわわ!!ごしゅじんさまぁぁぁ」
そう言って霊が飛びそうになっている蓮矢は霊を抱えるようにして飛んでくる石や枝から守っていた。
「ははっ今日は散々すぎる。」
「シバ!こいつ頼む」
そう言ってシバに霊をシバのに預ける。
「わしが手を貸さなくてよいのか?」
その言葉に蓮矢は振り返った。しっかりと自信に満ち溢れた、光の宿る目。
シバは、その目をしっかりととらえた。
「もう五年の仲よ。痴話喧嘩に他人を巻き込む気なんてさらさらないよ」
そう言った蓮矢は笑った。
笑顔はいままでの蓮矢からは感じなかった強さがあった。
少しでも気を抜いたら飛んでいきそうな突風へ一歩一歩歩いていく。
そして、光の結界の前にたどり着いた。
そして一発殴った。
「あーほんとに意味わかんねぇ。いろいろありすぎだろ今日」
光の冷ややかな視線が蓮矢を突き刺す。
蓮矢は殴り続ける。
「うざってぇ。」
ガンッ
「やってらんねぇ。」
ガンッ
「なんも知らないくせに」
ガンッ
「俺だっていろいろあんだよ」
ガンッ
「なのにてめぇは俺のこと嫌うし」
ガンッ
「くそが」
光の眉がぴくっと動いた。
拳に血が滲み始めていた。
「こちとら地べた張って生きてんだよ」
ガンッ
「てめぇのそのいい子ちゃんぶってんだか何だか知んねぇけど」
ガンッ
「引きずり降ろしてやる」
蓮矢は睨み返す。
「何とか言えよ!悲劇のヒロインくそ野郎!!!」
ガァンッ
最後に思いっきり結界を殴った。
(ちくしょう、、、!まったく傷も入んねぇ)
そこからずり落ちるように蓮夜は膝をついた。
「やってらんねぇ」蓮矢は地面を睨んだ。
「諦めたら?」冷たい声が蓮矢の耳に届く。
「諦めだ?俺がつくわけねーだろ」
そういって顔を上げる。
目と鼻の先に光がいた。
「なんでまだ、活き活きしてるわけ?」
不快そうな光の顔。蓮矢は状況が呑み込めずに顔を上げて固まる。
「ねぇ地獄に落ちてよ」
そう真顔で言う光。
「なるほど、それが本心か」そう言って笑う蓮矢。
「うぜぇんだよ」そう言って光は蓮矢を殴る。
「いたっ」そういって蓮矢は後ろに倒れこむ。
そこに光は馬乗りになる。
「ご主人様!!!」シバの手から霊が離れようとする。
「落ち着け。よい!」自分に言い聞かせるようにシバは言う。
光は蓮夜を殴り続ける。
「なんだ?本気で殴れねぇのかよ」そう言って蓮矢は挑発する。
「、、、っ」光はその言葉にひるんだ。
その隙に蓮矢は光の胸倉を掴んだ。
光はギュッと目を閉じる。
蓮矢は光を抱きしめた。
「俺は諦めねぇよ。お前に地獄に落とされようと。嫌われようと。そこから這い上がってやるから。」
光の瞳が揺れた。
「だから、今、俺らに頼れなくても、本心が言えなくても必ず助けてやる。そういう未来を俺は」
光の目がきらっと光った。
「諦めねぇから」
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