東京旅行記③
「聞いてくれるか」
打ちあがってくる花火の音もかき消すような雰囲気の中で蓮矢が語りだした。
* * * * *
ー5年前ー
「蓮矢、今日から借金の片をつけに来た。奴が来る。いい感じに使ってやれ」そう父が言った。
「わかりました。お父様。」
父は裏社会の人間だ。今では一番勢力の強い集団となっている。
ホスト経営などの裏で、闇金を行い取り立てや、薬の密売などもしている。
俺もいつか後を継ぐらしい。だから今は父が経営している店で、ホストをしている。
借金の片をつけに来るやつなんて何度も見てきた。
どうしようもないアル中や、パチンカス、ホス狂いみたいな狂ったやつか、死んだ顔をしてギリギリ生きてるやつばっかだった。
今回もおんなじ様な奴が来ると思ってた。
だけど違った。
泣きはらした目をしていたが輝きが消えていないやつが来た。
俺は目を疑った。
「今日から、よろしくお願いします!」
そいつは、恨み言一つ吐かなかった。
ただただその瞬間に興味が湧いた。
それが悪かった。
「俺はレン。俺も今年から入った新人だ!よろしくな!」
俺は素性を隠した。知られたら話してくれなくなると思ったから。
「初めまして、僕は蒼葉 光と言います。」
普通の人だった。ただそれだけだと思った。
「お前はなんでここで働こうと思ったんだ?」
内容はなんとなく知っていたが聞いてみた。人は誰だって暗い部分はあるのだから悪態の一つぐらいつくと思っていた。
「僕っすか?僕はお金が欲しいからですよ」
そう言って笑っていた。
光は、そう言っているが使い古したバッグと、よれた服を着ていた。
自分で借金を作るような人に見えなかった。
顔は整っていて性格も良いが闇金からお金を借りるバカってわけでもなかった。
ただ気になってずっと観察していた。
品行方正、眉目秀麗、何も問題なかった。
お客さんと不当なやり取りも、他のホストからお客さんを奪うこともなかった。
準備をしている光をじっと見ていたら、
「僕のこと気になってるんですか?」
そう言ってニヤッと笑った光に少し惹かれた。
「別にそんなんじゃねーよ」そういって、机の上の自分のバッグを引っ張たら光のバッグも落ちた。
中から風邪薬が出てきた。それも一瓶。
「お前、、まさか」そう言ってみた光は、少しだけうつろな目をした。
すぐにはっとなり、
「なんです?風邪気味なんです」そういって少し笑った。
「本当か?」
「なんでそんなに心配してるんです。」そう言って気丈にふるまう光が少し嫌いだった。
「あと敬語。いい加減やめろよ」何も言えないまま光のもとを去った。
何か隠しているのはわかるのにそれが何かが計り知れない、その雰囲気がさらに俺の気を引いた。
ある日
「なぁ来週の日曜日俺に付き合えよ」そう光に言った。
「俺あんまお金ないぞ?」そう言って財布を見る。
「いーよ俺が出すから」
「本当か?」
その言葉は少しだけ冗談じゃなく疑いがこもってたように感じた。
光はなんだかんだ付いてきてくれた。
ドライブへ行くと、光はずっと外を向いていた。
「ライトはこの町にずっと住むつもりなのか?」
「ないと思うよ。俺はばぁちゃんたちのそばに居なきゃだし」
「へー」
「なに?俺がいないと寂しいの?」
「ちげぇs、、、」
ピロピロピロ
光のスマホに電話がかかってきた。
光は少しだけ怪訝な顔をした。そして通話に出なかった。
「いーのか?」俺はそう聞いた。
「いーんだよ。じぃちゃんだったし」
「家族嫌いなのか」
「、、、そうじゃない」
少しだけ沈黙が流れた。
「なぁレン」
「なに?」俺はなるべく優しい声で聴き返した。
「、、、いや。なんでもない」
光は黙った。
光と関わりだして増えていく心のもやはどんどん大きくなっていた。
光を知るのが怖いのと、光のことを知りたいという気持ちがどんどん交差していった。
光は少し迷って口を開いた。
「俺はさ、良い人間じゃないからさ、何かを許すことができないのかもしれない。」
なんの話かは分からないだけど必死に何かを吐き出しているのはわかった。
「お前は良いやつだよ」それだけしか答えれなかった。
「もし、お前が大切な奴を守るために嘘をついてたとして、それを吐きだしてしまいたいぐらい今が辛かったら。お前は言う、、、?そのことを言ったら相手が傷つくのはわかってるとしてな?」
頑張って言葉にしていたのか、光の言葉遣いはたどたどしかった。
俺は答えられなかった。
だって、自分と正反対だから。
自分を守るために相手が傷つく嘘をつき続けてるんだから、、、
そのまま沈黙のまま海にたどり着いた。
「海かぁ!久々だなぁ!」さっきの話しが嘘かのように光が言った。
「そうだな気持ちいな」俺もそれに合わせた。
「あっそだ!じぃちゃんに電話折り返さないとだ。少し行ってくるわ」
俺は息を飲んだ。
そう笑顔で言って振り返る瞬間、少しだけ見えた。光の感情をなくしたような顔が脳裏に焼き付いた。
俺は良くないと理解しながら光の後をついていった。
「なーにじぃちゃん。俺は元気だよ」光は笑顔でいる。
「心配しなくていーんだよ」まだ笑顔だ。
「借金のやつまだ心配してんの?大丈夫だって俺が上手くやるって」
電話では見られないはずなのにずっと笑顔を保っていた。
「ん!おっけー。またねぇ」そう言って光は電話を切った。
光はスマホを砂浜に投げつけて、思いっきり舌打ちをした。
そして自分の腕を何度も自分の手で殴っていた。
光はよくものにぶつかるとか言って小さな痣を付けていることがよくあったが、そういう事だったと
理解した。
光が戻ってきそうなので俺はトイレに行ってたふりをした。
「いやぁじぃちゃんってば本当に心配性だなぁ」
何事もなかったかのように光は笑った。
それからも、俺らは何度も遊びに行って親友と言えるまで仲良くなった。
* * * * *
「完全に状況はわかっているわけじゃないけどな。多分あいつはおじいさんが親父に騙されて、多額の金利で借金を負わされて、それを黙って全部肩代わりしたんだろうな」
シバは黙って聞いていた。話の途中一度だけ後部座席を見てその後は一度も見なかった。
「俺は、どうすればよかったんだろうな。事情を知ったくせに。そんだけ傷つけてるってわかってたくせに、失いたくなくて、黙っていて、親父が怖くて助けられなくて。だったら最初から近づくなって話だよな。裏切り者の分際で」
蓮矢の目には涙が溢れていた。たくさんの感情が混ざり合った涙。
花火の光に照らされてまるで宝石のように輝いていた。
窓を見ていたシバはゆっくりと蓮矢の方を向いた。そして、後部座席に目を向けた。
蓮矢はバックミラー越しに後部座席を見る。
光と目が合った。
「えっ、、、」
蓮矢は思わず声を漏らした。
光はそっと口を開く。
「そうだよ。近づくなよ。裏切り者が」
花火の音でかき消されそうな小さな声のはずなのに、その場からそれ以外の音が消えたような気がした。




