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開幕前夜

「すっごい。風やなぁ」

翡呂は翠の方を見る。

「どないした?」


「いや、なんでもないよ?」


「お前何かに憑りつかれてるんちゃう?」

翡呂は翠に違和感を感じる。

「どうゆうこと?」

「いや、、なんもないで」

翡呂は黙った。

「ねぇ、私さ」

翠が言いよどんだ。

「なんや?なんでもいいや?」

翡呂は優しい声で言った。


翠は立ち上がった。そして、翡呂の前に立つ。


ーうにゃ

ーはいです!


翠の狼のような耳を出した。

翡呂は驚いたように口を開けた。


「きれいやな。さすが俺の相棒や」


最初の言葉がそれだった。

翠は固まった。

「ゆうてみ?これでも兄貴分やで?」


「そっか」

残念そうな顔でそう言った。

「なんで悲しそうなん?」


少しして翠は口を開けた。

「私の事、大事なの?」

「当たり前やろ」

翡呂が即答する。


「私は嫌いだよ」


返事をするように翠が言った。


「今日はありがとね。またね」

翠は翡呂の横を通って、部屋の方へ向かう。


「嘘下手になりすぎてへん?」

翠は振り返った。翡呂は振り返らなかった。

「何のことかわかんないね」

翠は元の姿に戻った。


「ばいばい。お兄ちゃん」

ボソッと翠がそう言い放った瞬間に翡呂が振り返った。


(一人で飲む酒は嫌やなぁ)

翡呂がそうぼやきながら空を見る。

ぼーっと横になって、空を見上げる。


「ほんとに手の焼ける妹や」


翡呂は立ち上がった。

ゆっくりと自分の部屋へ行った。


ふと、誠の様子が気になって、翡呂は見に行った。

それぞれの部屋が割り当てられている。誠と蓮矢と阿響斗は近くにあり、翡呂と翠は帰って来なかった時期が長かったため少し遠い場所にある。

渡り廊下を歩いて、その場所へ向かう。


ふと、目の端に何かが映る。

蓮矢の部屋が開けっ放しになっていた。


「蓮矢はん?」

そう言って扉から顔を出す。

蓮矢は椅子の上に座って、机に突っ伏してた。

「お疲れさまやで」

小さくそう呟きベッドへ移動させようと近づいた。

蓮矢は目が開いていた。

翡呂は少しビクッとした。


「起きてたんか?」

うつろな目が翡呂を捕らえた。


「ひっ俺に近づくな!」


蓮矢はビビったように、手を動かした。

その手は翡呂の顔に当たった。

「いたっ」

そのことに気づいた蓮矢は

「あっちが、俺」

蓮矢は、そのまま過呼吸になり始めた。

「どうしたんや?苦しいんか?」

翡呂は、さすがに動揺していた。

「わかんない。ごめん。ごめん、、、なさい」

蓮矢の目には”絶望”しかなかった。


翡呂の手は震えていたが、ギュッと拳を握りしめた。

(ちゃんとしろや!今、俺が動揺してなんになるんや)

翡呂は、しゃがんで蓮矢の手を握った。


「まずは息をしーや」


「ひっ」

蓮矢は動揺したように立ち上がった。

その拍子に蓮矢は後ろの棚に頭をぶつけそうになった。

「危ない、、、」

とっさに翡呂が手を引いた。

バランスを崩した蓮矢は翡呂の方へ倒れこんだ。


「うわっ」

何とか、しゃがんでいたのもあり頭をぶつけたりはしなかった。


「ごめん、、、なさい」

ずっと連呼している。

翡呂は蓮矢の頭を撫でる。

「大丈夫。大丈夫やで」


(困ったなぁ。俺も、もうそろ。頭が限界なるて)


翡呂は以上に高い共感性を持つから、相談役になりやすい。

だが、その分疲労をためやすく吐きだし口も少ない。


度重なる問題に対応しきれなくなっていた。


ーそれは、翡呂だけじゃなく、蓮矢も翠も誠もみんな同じだった。


「そんな悲しまんといてや。俺まで泣けてくるわぁ」

そう言って優しく笑う。

「ごめn」

「息ちゃんとできとるか?」

蓮矢の言葉を遮った。


「俺は仲間や。敵ちゃう」


蓮矢の息が落ち着いてきた。

「そうや。よう頑張ったな」

そのまま疲れていたのか眠りについた。

「世話の焼ける奴ばっかやなぁ」

そう言いながらもしっかりベッドの上にのっけて、少しの間様子を見ていた。


急に頭に手が乗っかった。

「うわっ!」

翡呂は小さく驚いた声を出した。

そこには誠がいた。

「酔いはええんか?」

「ああ、醒めた」

誠が蓮矢の方を見る。


「ありがとう。弟が世話になった」


「気にせんでええよ」

「強がるなって」

そう言って誠は笑みを浮かべた。

「ほんとに俺のことよう見てんやな。俺の変化気づくの南野はんと誠はんくらいやで」

「そう言われると嬉しいな」

「何があったか知らんけど、泣いてたんだろ」

翡呂は手を前髪に当てた。

「へへっなんでわかんねん」

「約束守ってるだけだよ」


ーずっと見ててやるから、安心しろ


「助かってるわ。ありがとーな」

そう言って翡呂は笑った。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆

次の日珍しく愛漸が狼雅の部屋へ行った。

「狼ちゃん♡」

「なんだ?」

「もうそろ。後継者決めたらどうなの♡」

「まぁ、お前にあいつらを基本全部頼んでるしな」

狼雅は、考えるような様子をした。

「じゃなきゃ。そろそろ誰か死ぬわよ♡」

「必要な犠牲だ」

「そんなこと言わないの♡」

二人の間に沈黙が流れる。

「頼めないかしら?」


雰囲気を破るように、廻が現れた。

「廻ちゃん♡珍しいわね」

「廻、何しに来た」

廻は愛漸を指さした。

「お前も、後継者さっさと決めろと?」

その言葉に頷いた。

「わかった。明日だ。早い方がいいんだろ」

「ってことはもう決まっているの?♡」

「まぁな、大体な」

廻も頷いた。


「甘い奴らだな」

狼雅はあきれたような声を出した。

「誰が言ってんだが♡」


そして狼雅が立ち上がる。

「全員に広めておけ!いいな」

「御意」

廻は頷いた。

部下たちが一斉に散っていく。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆

「蓮矢様!お父さんから返信来てない?」

阿響斗が蓮矢の部屋へ訪ねてきた。

「、、、、あっえっと」

昨日からの疲れでうまく切り抜けることができず、詰まっていしまった。

「え?どうしたの?」

上手い切り抜け方がわからず、


「書かないって、、、」


蓮矢の動揺ぶりに本当なことだけは阿響斗に伝わった。

「なんで、、?僕、分かり合おうと、思って手紙、ちゃんと書いたのに」

蓮矢は首を横に振った。

「ご、ごめん、、、」

「蓮矢様は悪くない!」

蓮矢に手伝ってもらっているのに、悲しませている。そのことに阿響斗が罪悪感を抱いた。


「蓮矢様!僕が直接会いに行く!」


そう言って阿響斗はキラキラした目で蓮矢に言った。

「そうか、ありがとう」

「心配しないでね!」

そう言って阿響斗は部屋から出ていった。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆

「あら♡翡呂いいところに」

歩いていた。翡呂を愛漸が引き留める。

「明日、後継者争いが終わるわ♡」

翡呂が目を見開いた。


翠の昨夜の態度と言い全てがつながった気がした。

(すべて、見越してたのか、、、)


そして平静を装って。

「もうか、早いなぁ」

「翡呂は誰につくの?」

翡呂は考え込んだ。

「南野はん、俺は思うてるよりあんたの子供みたいや」

そう言って笑った。

それを聞いて愛漸はゆっくりと笑顔を作った。

「お父さんって呼んでもいいのよ?」

「お断りや。くそ親父」

そう言って笑う。


「誌穂に伝えないとね。素敵な子たちに育ったって」

「照れくさいなぁ。でもな、」


長髪が目の前にたなびく。


「まだ、もう一人の家族を連れてかんとなぁ」

「そうね♡」

血のつながりも、家族として迎えられたわけでもない。

ただ、ちぐはぐだが、確実に少しずつ形になっていく。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆

阿響斗は霧の部屋にいた。

手には手紙を持っていた。

体に大きな黒いもやを守っていた。

「明日まで、我慢だね」


霧は昨日の夜から不在だった。

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