隣の祠には①
「姫より、シャンパンタワーをいただきました!」
今日はホストクラブ<Act Paradise>通称:アクパラのホストのライトの卒業イベントがあった。
今回のイベントの収益は200万円ほどだった。
「皆さん俺のために今日はありがとうございました!」
無邪気な笑顔でそう言い切り、ライトはホスト人生の幕を閉じた。
「はーやっと終わったぁ!」
上京して5年ついにホストを卒業した。
その足取りで仲間と打ち上げを行い。次の日には田舎の実家に帰る予定だ。
「どーよエースのこと付き合うの?」
ナンバーワンホストのレンが話しかけてきた。
「ねーよ!お前みたいに色恋やんねぇんだ」
そう悪態をつくように言った。
「けっ、お堅いねぇ。お前のそのルックスなら枕やアフターとかめちゃめちゃしたら、よゆーでナンバーワンになれんのに」
「誉め言葉として受け取ってやるよ」
ライト(本名:蒼葉 光)は、アクパラの中でもトップでイケメンだった。しかし他のメンバーと異なり色恋営業など一切行わなかったため、ナンバーワンになることはなかった。
だが光はそれすらもどうでもよかった。
(田舎の静けさが恋しい。)
その気持ちだけが5年もの間ずっと光の心に残っていた。
* * * * *
次の日一番早い新幹線で東京から逃げるように出て行った。
東京の部屋の中にあるものは全部捨てていた。
一つのスーツケースだけが5年間光がそこにいた事実を証明していた。
光は田舎にある実家についた。
祖母は毎回「出ていくときと帰ってきたときは隣の祠さ、挨拶するんだよ。」っと言ってたので、家に入る前に祠の方へ行き手を合わせ目をつぶった。
「遅くなりましたがただいま戻りました。これからこの町に住まわせてもらいます何卒お願いします」
「くるしゅうない」
(、、、、は?)
目を開けたら目の前に青色の柴犬がいた。
「は?」光が漏らしていた言葉で柴犬が顔を上げ、完璧に目が合った。
「は?」柴犬が口をあんぐり開けて呆然としていた。
沈黙が流れる
「なっなっなっ何だお主!!!」
柴犬が吠えた。
「いやいやいやこっちのセリフだ!」
それに答えるように光が言った。
「お主わしが見えておるのか?」
「うん。とても」
柴犬はじっと、光を見た。
そして、何かを思ったのか少し考えた素振りを見せた。
「ほほぉ、わしが見えとると言うことはわしのそばにおらんと三日以内にしぬぞ?」
「へ?」
突然の出来事と突然の事実にとんでもなく混乱している光に柴犬が言った。
「わしにおいしい飯を毎日用意しろ。そしたら助けてやる。」
しかたなく柴犬を連れて実家に帰った。幸い、祖父母はいなかった。
「なにがいい?」
「何でもよい!われは犬の見た目をしておるだけで何でも食べれるのじゃ!」
そう言ってウキウキで椅子に座る柴犬。
冷蔵庫を眺める光は鶏肉を取りだしながら言った。
「じゃあ唐揚げな」
そう言って下味をつけていく、5年間一人の時はほぼ自炊をしていただけあって慣れた手つきで料理に取り掛かっていた。
「俺は光。お前名前は?」
「名前か、特に付いてないな。好きに呼ぶとよい」
「じゃあ、シバな?」
「シバ、、、か悪くない。あとわしは高貴な存在ぞ。様をつけろ」
そういう癖に柴犬の口角が少し上がって嬉しそうに見えた。
「シバは神様か何かなのか?」
ちらっとシバの方を向いた。本当に不思議な見た目をしている。柴犬の茶色の部分が水色になっていて。尻尾は狛犬のように迫力の毛並みで深い青色だ。
「そんなすごくはない。わしはこの土地に古くから住んでるただの獣じゃ」
あと様をつけろっと言っているシバの言葉を片耳に光は呟いた。
「売ればいくらかな」
「なんっということをいうのじゃ!!!」
柴犬は机の上に上り思いっきり光を威嚇した。
「冗談だよ冗談」光は笑いながら揚げ物を始める。
いい匂いにつられてか。シバの尻尾も威嚇してるくせに左右に揺れている。
(うれしいのか)
感受性豊かなシバをみて光は口角が緩む。
シバは椅子に座り直し今か今かと楽しみに尻尾を揺らしている。
「はい、お待ちどうさま」
置いた唐揚げに誘われるようにシバは食べ始めた。
「うまい!うまいぞ!!!光よ!」
「お気に召して何よりです」
そう言ってむしゃむしゃ食べてるシバを眺め少しだけ幸せな気持ちになった。あっという間に食べ終わり光は片づけに向かった。
片付けが終わって、祖父母に見つからないうちにシバを光の部屋に押し込みエアコンをつけた。
東京は窮屈で、ついてくのに必死で季節を感じたりすることなんてなかった光は久々に夏を感じた。シバはというとエアコンを始めてみたのか興味津々でエアコンの下で跳ねていた。
「久々に夏を感じるな」
そうつぶやいた光にシバは振り返った。
「なんじゃお主、日本におらんかったのか?」
不思議そうに見つめるシバ。
「違うよ。いたよ。だけど季節を感じる余裕なんてなかったってこと」
「ほぉお主何をしてたんじゃ」
(きっとシバはホストと言っても伝わらないな)
そう思った。
「んーとよく言ってお客さんを幸せにする仕事。悪く言ってお客さんにお金を払わせるためにいい気分にさせている仕事」
「なるほどなぁそりゃ大変な仕事じゃ、遊女みたいなものか?」
「まぁそんなもん」
(こいつは何も知らなくていいなぁ)っと本気で思ってしまった。
「ってことはたくさんのおなごをここに連れてきたのか?」
「ないよ。もうたくさんだ」
そう言って目を閉じた。
暴力を振るわれたことも、暴言を言われたことも、ストーカーされたこともあった。
別に仕事上割り切ってはいたがこの先、新たな人と関わる気なんて光にはなかった。
「ぐ、、うぐ」
シバが急にうなりだした。
「どした?」心配になってシバを撫でる。
(ふわふわだ)
光はそのさわり心地に感動した。
「お主、さては毒を盛ったな?厠はどこぞ」
そう言う割にシバは動けそうもない。
「お前、、、まさか。ちょっとまて!」
急いでシバを担いでトイレへ向かった。
「えっとお前どうやってトイレするの?」
トイレの便座の前でおろおろしている光をよそにシバは光の手から降りた。
「ぶ、、無礼者わしと一緒に厠に入ろうとするなぞ。百年早いわ」
そう言ってシバは一人で器用にドアを閉じて入っていった。
光は冷汗をかきながらぽつりと言葉を零した。
「お前、、霊なのにうんこするのか」
「直接表現が過ぎるぞ光」
トイレの前にいるのは失礼だと思った光は、その場を自室に向かった。
その途中、便座に座る柴犬を想像して噴き出していた。
「もどったぞ、、」シバの耳は完全に垂れ切っていた。
「なぁシバは霊なんだから人間にも化けれんの?」
げっそりとしたシバは
「できぬこともないが今は幼児にしかなれんぞ?」
「おっけ。すぐやってみて」にっこりして言う光に不思議そうな目を向けるシバは変化する。
「はっ」
目の前には青髪に犬の耳と大きな尻尾のついた小さな子供がいた。
子供は自分の体を見て目をキラキラさせた。
「なんと!調子が戻ったぞ!」そう嬉しそうに尻尾を揺らした。
「体質もまんまそのものになるのかよ」
光は笑いながら言った。
唐揚げは犬には毒となりかねない。犬の形をしているからお腹を下したと思った光は、人の体にすることでうまく消化できると思った。
「もちろんぞ!」得意げに答えた。
「さて、子供服あるかな、、、」
もちろん、シバは裸である。
「ちなみにさ、尻ちゃんとふいたか?」
そう言った途端シバは顔を真っ赤にして、もう一度トイレに駆け込んでいった。
小さいころの服を押し入れから出している。光は小さいころ親に捨てられたらしい。
そしてここに連れてこられたときは服はボロボロだった。小さいころだが少しだけ記憶にある。
だけどその服を捨てられそうになると泣いて離さなかったらしい。
その時の服と祖父母からもらった服、両方とももうボロボロで汚れがついていた。
その時奥から袴が出てきたちょうど尻尾ぐらいの位置に穴が開いた。
(まぁこれでいっか)
そう思った光は、それとトイレから戻ってきて「ちゃんとふいておるぞ!」と言っているシバを持って、お風呂場へ向かった。
そうこうしていると光の祖母が定期検診を終えて帰ってきた。
「あらぁ、見ない間に大きくなってぇ」そう言って祖母が光に歩み寄ってきた。
「ばぁちゃんこそ元気そうでよかった!」光が嬉しそうに言った。
「あっごめんね?ちょっと小腹すいて冷蔵庫のもの勝手に使っちゃった」
「そうなの?いったん確認するわねぇ」そう言って祖母はキッチンへと向かった。
それを見届けて反対方向の自分の部屋へ向かった。
エアコンの下でテレビをみてながら尻尾をゆらゆらさせているシバに向かって
「いいか?絶対に部屋から出るなよ?」
「光よ!これを見よ!小さい板の中で人が動いとるぞ!」
シバが全く聞く耳を持たず、光は頭を悩ませた。
まるで隠し子を隠しているようだ。
「ひかるー?アイス食べる?」ばあちゃんの声が響いた。
その声に、びくっとなった光は急いで扉の前を陣取ろうとした。
「アイスってなんぞ!!!」
その隙間をシバが抜けていった。
「あら?この子は?」
祖母はびっくりしたように小さい子を眺め頭を撫でる。
急いで言い訳を考えている光をよそにシバはちらっと光を見てから。
悪そうな笑みを光に向けて
「光の子供ぞ!!!」
と言い放った。
祖母は口を開けたまま動かない。
(しまったやられた)
急いで切り返そうとしてシバをにらんだが、そこには人とは思えない耳としっぽがあった。
その瞬間これは嘘だとバレるだろうと思った。
しかし祖母は
「あんたぁ、なんでそんな大事なこと連絡さしてくれなかったの?」
世界の時が一瞬止まった




