肝試し配信
「秋分点たるてんびん座に犯が起こりかけています」
「・・・星食?」
「この天変により貴方を中心に変化があります、身辺に気を付けなさい」
縁側で星空を見上げながら、母は柳へ警告をした。母親の言う「犯」がどういったレベルの話かはわからないが、彼女は時折こういった星読みの占いをする。
星食という言葉を否定しなかったので、てんびん座の何かしらの星が隠れるのだろうが、それが占い的にどういう意味があるのか解説をしてもらえたことはない。今回もそうだろう。そして実際それらの警告は時折あるものの、意味を成しているのか、いないのか柳自身には不明だ。ただ母曰く、警告をするという選択が大事なのだという。
それはそれとして。
「母さん、現代の秋分点はおとめ座だよ」
首振り現象について説明するのは野暮だろうから、端的にそう指摘すれば、母はにこやかなまま首を傾げて、あららぁ~?ととぼけた。
母はまだ平安の世の中に生きているのかもしれない。
そんなわけでいつも意味深なこと言ってくる母の星占いの精度は、息子である柳にも未だによくわかっていない。話半分で聞き流して、夏休みを謳歌していたのだが、中盤になって母の忠告を思い出してしまった。
「肝試し配信やりたいんよねぇ!!」
弩級の面倒ごとだ、と柳は白目をむいた。
◆
大体三人でよくいるものの大野や小野にそれぞれの交友があるように、柳にも一応その他の交友関係がある。内訳は同じ科学部だったり同じクラスだったり、そして目の前の彼女のように新聞部の暴走機関車のあだ名をほしいままにする人間だったりする。
「あたし、新聞部の島村藍って言います!時期外れの転校生くんに突撃取材!」
まだ教室で挨拶をした程度の柳に対して勢いよくメモ帳とスマホを掲げてそう言った過去の彼女は一年で既に学校の名物みたいな扱いだった。そんな彼女に押されてタジタジとしている柳に、周囲は同情したり好奇心で注目したりと言った様子だった。これがなんだかんだ自然と周囲に馴染むことが出来る土壌となった気がする。その時に彼女の巧みな口車で個人情報があらかた抜かれたものだから、大野や小野よりも先に連絡先を交換していたと言える。
それから何かと豆な彼女はクラスが違う割に連絡を絶やすことなく取っているのだが、その彼女がごく自然な会話の流れで、しかしこれが本題だと肝試しについて切り出した。
「え、なんで・・・」
「あんなぁ、どうも高校生の姉さんら中心に心霊スポット巡りをする配信が流行ってるみたいなんよ、それを真似して友達も最近ちょいちょいホラー配信の類をしてて、あたしもやってみたいなぁって思ったんよ~!」
一も返事してないのに怒涛に十以上のものを浴びせられる説明に、柳は圧倒されながらも内容を咀嚼する。なんでそんなもの流行ってんだ、ぐらいしか感想がない。曖昧に濁すような返事しかできず、とりあえず目の前のカフェオレを飲むことに集中する。
今回呼び出されたのは隠れ家カフェに行ってみたいが一人で入る勇気がないからついて来て、というものだった。この手のお願いは度々あって、毎度中学生にしては敷居の高い雰囲気の店構えで、確かに一人では入りにくいところばかりだ。
今回の店はメニューにご飯はなくデザートプレートしかなかったので島村は桃のケーキ、柳はブドウのタルトがそれぞれの皿に乗っている。クラシカルでガーリーな内装、落ち着きのある店内で、現在心霊スポットについて熱心に語られている。柳はブドウのタルト美味いな、と現実逃避をしていた。
「とこい神社とかどう?」
「馬鹿野郎、流石にやめとけ」
せっかくの美味しいタルトの味も吹っ飛びそうな危険なことを言う島村に、黙っていた柳は全力で嫌な顔をする。島村は、あら意外と言わんばかりにパチパチと瞬きをして驚きを露わにした。
「柳がそんな風に言うの珍しいなぁ、ほなどこがええと思う?」
「行くの決定なの」
「決定、決定。実は夏休み前から話出ててなぁ、盛り上がって皆で行くことになってんの」
「それでなんで俺も行く流れになってんの」
「だってぇ、松井くんも行くから来て欲しいなぁって」
「松井が?なに、いじめ?」
「あぁ~!人聞き悪いわぁ、國澤くんと魚崎さんが揉めて松井くんが巻き込まれたんよぉ」
「何そのメンバー、それを盛り上がったとか表現する島村にドン引きなんだけど」
柳はあっけらかんとした島村に呆れながら言う。柳と同じクラスなのでその三人の容姿は一応わかるが、とてもではないが仲がいいとは言えない三人である。何故揉めたのかも想像できない。同じ科学部の松井とて、友人というのに浅すぎる関係であった。敢えて言うなら二人一組になって、と言われたら組む相手だ。
「國澤はなんか派手なので、魚崎ってぱっつんの女子?」
「うろ覚えがひどい。國澤くんは不良やから教室おらんこと多いし仕方ないけど、魚崎さんは不思議ちゃんやし印象強いやろ?」
「一気に登場人物増やされてもね。俺覚えられないから」
「二人だけやん!ていうか君のクラスメイトやで!」
そう笑われたものの、人の名前と顔を一致させるのは苦手だ。魚崎が不思議ちゃんと当然のように言われたのもさっぱり心当たりがない。柳は魚崎が喋っている姿を見たことがないと思っているし、國澤だって見る度髪の毛の色が変わっている気がする。
島村が熱心に喋り続けるものだから、彼女の皿にあるケーキは未だ半分にもなっていない。それをぼんやりと眺めつつ一応耳を傾けていると、揉め事の内容は一応理解できた。
どうやら島村が高校生のホラー配信を話題にしていたタイミングで松井が過剰にビビり、対して國澤が幽霊なんているわけねぇじゃんダッセェ!といきり散らかし、そして何故か魚崎が幽霊はいるし、私は見えるもの!と割って入ってきたらしい。
何それ地獄かよ、と柳はこっそり思った。その混沌とした状況を面白がることができるのが島村で、頭に血が上っている今だ!と配信したいから参加して!と約束したらしい。
(不思議ちゃんってそういうことね・・・)
「たぶん集まったらまた國澤くんと魚崎さんが喧嘩すると思うからさぁ、ちょっとでも緩衝材になる男子欲しかったんよ!松井くんは頼りないからぁ」
なんでそんな問題児だけ集めて配信とかするの、と思ったが聞けば更なる勢いで説明されそうで黙って置いた。
「・・・大野と小野誘っていい?」
「別にいいよ、でも小野くんサッカー合宿で大野くんは里帰りでしょ?」
「・・・うわ、キモ」
思わず漏れた暴言だが島村はニコニコ笑って残りのケーキを頬張った。
皿は空になったし、そろそろ静かな店内でマシンガントークが響いているのも、どうにも尻の座りが悪い。
「一応候補はこんな感じなんだけど」
この辺りで心霊現象が起きると有名なスポット一覧にしたらしいメモ帳をスマホで見せられて、柳は軽く目を通す。見覚えのある地名だらけで、正直こんなにあるのかと意外に思う。どうやら柳が参加することは決定のようなので、出来るだけ面倒くさくない場所を選びたい。柳の意見が通る時に通しておきたい。こういった交渉事が上手いからこの島村という女は厄介なのだ。妥協できる絶妙な強引さがある。
とこい神社は嫌、踏切も無理、病院は厄介そう、廃墟も危険そうだ、と選択肢を却下していきようやく指を止めた。
「墓場なら・・・」
「おお、乗り気になってくれた?」
「断らせる気ないくせに・・・」
「ところでなんで墓場にしたの?」
「墓がある時点でほぼ確供養されてるから」
「えー!何それ面白くなーい!」
ついでに管理された私有地なら騒げば追い出されるから、とは言わなかった。
既に会計を終えた二人は店の外へ出ており、島村はさらに賑やかになった。あれでも遠慮していたのか、とため息を飲み込む。
「う~ん、だとしてもこの陣野町の墓地は別だよ!絶対本当の心霊現象!」
「何かあるの」
「墓地の角にある魔の交差点・・・去年も墓地にトラックが突っ込んでいったみたい」
魔の交差点、ならばそれは墓地が問題ではなく交差点が心霊スポットなのではと柳は思ったが一旦神妙な顔をしたまま黙った。大体の原因は見通しが悪いだとか信号が古いだとか視覚的原因があるもので、ましてやこの辺りは山道が多いので自然と坂が続いたりする。
「フェード現象が原因じゃないかって思った?でも墓地の場所はそこそこ盆地やの。それに問題は事故った時の運転手の証言」
「生きてるんだ」
そういう怪談系、運転手も死んでるんだけどな。
「運転手はね、墓地に引っ張られたって言うの」
柳はふぅん、とだけ返事した。その後も話を盛り上げたいのか墓地に誘導された、金縛りがあったとか言われたが、どんどん嘘くさくなるので、柳はなんだか大丈夫かもなと安心してしまった。
とりあえずネットで生配信はやめよう、とだけ提案をしてその日は終わった。
その後すぐに全員と連絡を取ったらしく、陣野町霊園肝試しなるトークグループに招待され、日取りと場所などスケジュールを組んだ連絡が回って来た。仕事が早い、と柳はため息が出た。
◆
「なんでなん、配信しねぇなら証明にならねぇじゃん」
「いやぁ、何もなかったら演出いれたいんよねぇ、絶対ぐだっちゃうし!あ、松井くん顔出し嫌やろ?ぼかし入れるから安心したって!」
「・・・あ、うん。おおきに・・・」
「私は動画も反対よ、不謹慎だわ。遊びで幽霊を刺激するなんて危ないでしょ」
「馬鹿じゃねぇの、ならなんで来たんだよ」
集合場所に到着したものの、既に何か空気が不穏。一番遅い到着になってしまったようだ。まだ十分前なんだがな、と角からこっそり覗き込み尻込みしていると、島村に目ざとく見つけられて大げさに呼び寄せられた。全員の視線が一斉に柳へ向いた。
「どうも・・・柳透です」
「いや知ってるわよ、同じクラスでしょ」
おそらく魚崎という女子が呆れたようにそう言った。私服なので断言はできなかった。前もって島村がメッセージアプリでグループにしてくれていなければ、名前もすぐに忘れてしまっていただろう。そのレベルなので柳は魚崎の言葉に沈黙を選ぶしかない。
「・・・俺は國澤、喋ったことねぇよな」
「ないね、ていうか授業きてる?」
「ちゃんと参加してるのは国語と体育ぐらいだ」
そんな中で名乗ってくれたのは赤いメッシュの入った國澤で、案外気安く喋ってくれる。小野と同じタイプかなと思った柳は警戒を少し下げた。ちょっと格好つけた変な標準語が面白くて、割と嫌いじゃない。会話の弾んでいる二人を見て松井はドン引きしているが、島村は満足そうだ。
「よっし!集まったね。さっきも言ったけど動画を撮りながら墓地内を散策!一周したら魔の交差点として有名なトラックが突っ込んできた所行こう!」
「なんてこと!墓地を荒らすだけでなく魔の交差点まで?!あそこには事故で亡くなった小学生や女性の幽霊が常にいるのに」
「だーからそんな面倒くせぇこというなら帰れよ」
「何言ってるの!私は貴方たちのせいで通学路がひどいことになるのを阻止しにきたのよ!見張りよ、見張り!」
「はぁ?お前お祓いできるみたいなこと言ってたじゃねぇか是非してくれよ!ハアッ!ってよぉ」
島村の宣言によりヒートアップした魚崎と國澤に、元気だなと柳はぼんやりしていたが島村の視線を感じて仕方なく仲裁にはいる。松井が二人を避けるように柳の背後に立っているのも含めて懸念通りである。
「魚崎さんは結局ついてきてくれるみたいだし、まぁとりあえず歩こうよ」
日も暮れてきたし、といえば二人は空の色を確認して首を傾げた。松井も不思議そうだった。
「え、もうこんなに暗いん・・・はやない?」
「そんな時間経ってないだろ、まだ六時だ」
そういって國澤はスマホの画面を見せてくれた。集合が六時、まだ十五分経ったぐらいだ。戸惑う様子をみせた三人だったが、島村はにこやかに笑ってスマホを構えていた。既にカメラを回しているらしい。いい暗さだと言った。
「この辺りは日当たり悪いんよなぁ、昼間でも結構暗い!雰囲気でるやろぉ?」
「夏の夜長に六時集合なんてって思ったけど計算通りってこと?」
「それもあるけど、あんまり遅いと補導されそうやしねぇ」
島村の言葉に、どこか今回の肝試しはそこまで本格的なものではないという空気が広がる。柳も松井も若干の安堵が顔に出た。人通りの少ない墓地ではあるものの山の中でもないし、と笑顔さえ見せた。面白がることができそうだ、という雰囲気になったがしかめっ面をしたままなのは魚崎だった。
「あぁもう本当空気の悪い」
「魚崎さん、体調悪くなったら言ってなぁ~」
「私より自分たちの心配をしたら?数珠の一つくらい持ってないの」
ふん、と腕を組んで魚崎さんは先頭に立って歩き出した。その後ろ姿を楽しそうに島村がカメラを向けていて、國澤は嘲笑する仕草を見せた。
「島村さんなんで魚崎を誘ったんだろ・・・」
「エンタメ的には必要だってことじゃない」
松井がぼやくのを柳が小さく返して、三人の後を追った。松井は幽霊を怖がっている節はあるものの、足取りはしっかりとしていて大人しく着いて行っている。柳も同じタイプなのでわかるが、幽霊よりも前の三人と揉めるほうが面倒くさいし怖いと思っているのだろう。
「はーい、こちらペット用の霊園エリア~最近拡張されたばっかなので綺麗」
島村が動画用にカメラへ向かって説明しているのを聞きながら、周囲を観察すると確かに見慣れない特殊な墓が多かった。つやつやした犬だの猫だのの石像つきだったり、石にはあんこ、だのカラアゲ、だのペットの名前らしき文字が並ぶ。食い物が多いな、とペットを飼ったことのない柳は思った。
「金のかかってる所とそうでない場所がわかりやすいな」
「ここらはちゃんと雑草とかないしね」
「まったく、お盆の時期だっていうのに手入れをちゃんとしないなんて」
魚崎は嘆かわしい、これでは成仏できないだろう、と階段下にある“金のかかってない所”を眺めてそう言った。そこはペットエリアと違って空気がどんよりとしていそうな鄙びた雰囲気があった。単純に古いのと、もはや放置されている墓が多いのだろう。綺麗な花が飾られ掃除された墓とそれ以外がよくわかった。
「まぁ、まだお盆の半ばやし、これから来るんちゃうかなぁ」
魚崎のキツイ言葉をフォローするような島村のおかげで國澤も突っかかることを止めて、階段を降りていく。下のほうが、より肝試しっぽい絵面だと笑った。
「赤ん坊の泣き声?」
島村の言葉に皆が顔を上げて耳を澄ました。たしかに赤ん坊の泣き声のようなものが聞こえる。これは全員がそうだろうと顔を見ればわかった。
「発情期の猫ちゃうかな」
「いいえ、夏は猫の発情期じゃないわ、ましてや野良猫でしょ」
松井の言葉を否定したのは魚崎で、その言い方が気に食わないと言いたげに國澤が口を挟んだ。
「だったら普通に赤ん坊つれた家族がその辺散歩してんだろ、何マジな顔してんだお前ら」
「いいえ、水子の幽霊よ。わかるもの」
「おいおい、幽霊なら全員が聞こえるってのおかしいだろ俺に霊感はねぇよ」
魚崎が頑なに幽霊を主張して、國澤と意見が対立する。島村は少し様子見でレンズを向けていて趣味が悪い。二人の言い合いはヒートアップして、肝心の赤ん坊の泣き声がやんでいることにも気づいていない。
「とりあえず一周しよう、それからなんだっけ魔の交通事故現場?」
「魔の交差点ね、あそこ何回か事故で破壊されたからってフェンスとか壊れたままなんよねぇ」
「あぁ、雑に紐とかでバリケードしてるところやろ」
松井の視線の先を辿れば少々樹木が鬱蒼としているが駐車場らしき場所があった。魔の交差点の道路一つ挟んだ先にも第二駐車場があるらしく、随分広いなと思った。とりあえず若干凸凹とした地面を踏み鳴らして墓石と墓石の間を通っていく。端の方は雑草が生い茂っていて、地面も湿っぽい。
「意外と卒塔婆とか少なーい」
「あっちに纏まってるっぽいけど」
きちんと立てる場所が設けられているようで、立派な墓の後ろには整列した卒塔婆があった。だが島村としては絵面的に不気味な乱雑に刺されたものがよかったのか、残念そうだ。魚崎はまだ不満そうに何か呟いていたものの、ちゃんと三人を追ってきているらしく、さらに後ろを國澤がダラダラと歩いていた。
「結構暗くなってきたし、足元気を付けて~って、あれ國澤くんは」
「はぐれた?」
「飽きて帰ったんじゃないの」
全員が首を傾げて少しだけ道を戻ってみようかとした時だった。
「ひょわああああ!!!」
松井の悲鳴に驚いて肩をそびやかした。振り返れば松井が腰を抜かして前のめりに倒れていた。首に手を当てて、ヒクヒクとしゃっくりをするような呼吸をして後ろを振り返っていた。
「えっ何ごと」
「國澤がぁ」
姿を消したと思った國澤が平然と立っていて、手には制汗スプレーがあった。
「ちょっと首にシュッてしただけだぜ、ビビりすぎ」
「いやビビるわ!ていうか冷たぁ!はぁ~もう最悪や」
松井が膝の汚れを掃いながら常にない勢いで文句を言う。國澤はそれを面白そうに笑って制汗スプレーを振った。まぁ悪戯の範疇だな、と少し松井に同情しつつも柳は黙っていた。島村もケラケラ笑っていたし、その場の空気は悪くなかった。
「本ッ当にセンスないわね、何が面白いの?墓石に隠れてお供えを倒したらどうするのよ」
文句を言うのはやはり魚崎で、並んだ墓石の隙間を通って不意打ちしたのが不謹慎だと言う。通り道として想定されていない場所を踏み荒らすのは当然非常識だから、正論ではあるが、それを今真正面から言われて國澤が素直に謝るかと言えば、そんなはずもない。
「はぁ?そんな鈍くさく見えてんのかよ、お前じゃねぇんだわ」
「なんですって!祟られても知らないわよ!」
既に見慣れた言い合いに、柳はすぐに止めに入ろうと思ったがふと淀んだ空気を感じた。鼻がひくっと異臭を感知して動いた気がした。
「なんか、臭くない?」
「そう?言われてみれば」
「生ごみ、やろか。この辺って夜に収集するっけ?」
「しないわよ、というか住宅ちょっと離れてるからここまで臭いは来ないわ」
「俺はわかんねぇな、食べ物のお供えが腐ったんじゃねぇの」
各々が鼻を鳴らして考えを喋った。
どこかジメっとした場所だ、線香などで独特の臭いがある。そんな中でのツンとした、しかし妙に甘ったるい臭いが薄く全体に漂っている。
國澤が言うようにお供えが腐った可能性も生ごみのポイ捨ても十分にあると思う。
しかし、妙に気味が悪い。
「・・・まぁ、とりあえず離れよっか」
臭いが濃いところに行かなければいい、と島村も頷いて全員が再び歩き出す。魚崎と國澤は松井を挟んで言い合いをまだしていた。松井は既に二人に怯える様子はなく、むしろうんざりとした表情だ。
「お祓いと呪いは紙一重、あなたを呪い殺すことだってできるのだと分かっての発言かしら」
「ははぁん、それでおめぇはちまちま毎日誰かを呪ってんだろ、今のところ誰も死んでねぇみたいだけど」
「あっ」
島村がカメラを向けて声を上げた。嬉しそうに振り返って彼女は言った。
「ここだよ、魔の交差点!」
トタンで一部塞がれているものの柵が壊れてそのままな箇所、そこから交差点が見える。松井が言うように黒と黄色の紐で立ち入りを禁止しているようであるが、あまり効果があるようには見えない。
「トラック突っ込んでそのままって、本当にそのままなんだ」
「丸見えだね」
目隠しの木立もいくつか折れたのだろう、中途半端に伐採された跡が見えた。魔の交差点ねぇ、と柳は柵の向こうを見つめた。普通の横断歩道、駐車場、フェンス、特別ななにかがあるようには思えなかった。
(しかし、臭いがきついなここ)
周囲を見回すも、生ゴミらしきものはない。先ほどまで文句を言っていた皆はもう鼻がバカになっているのか何か気にしている様子もなかった。
「ねぇ、これ柿の木だよね」
柳は臭いのキツい場所を探して、その木が他の木と少し違うのに気づいた。低木が多いのに、その一本だけ妙に高く、枝先が細い。植物に詳しくはないが、家の庭にある柿の木に似ていた。
「あー、たぶん。でも実がなってるの、見たことないけどなぁ」
島村は木を見上げて、しなだれる枝のどれにも花や果実がついていないのを確認する。もちろん今は時期ではないとはいえ、なにもついていないのも不思議だった。彼女の言葉に同意を示す様子が他の三人から出て、柿じゃないのかと納得しそうになる。当てずっぽうであるものの、柳の中ではほぼ柿であると確信していたので、ボタンをかけ違えるような気持ち悪さがあった。
「柿じゃないでしょ、庭に柿の木を植えるなっていう迷信あるじゃない」
「そんなのある?どこ出身?」
柳は自宅の庭に柿の木があるので、魚崎の言葉に首をかしげた。國澤は逆に違和感を持っていないのか、ここって後から拡張したんじゃなかったか、と話を続けた。島村もそういえば、とたどたどしくこの場所について思い出していく。
「迷信の話で思い出したけど、この木は元々ここにあったわ。その時は掘っ立て小屋みたいなんもあったかなぁ、確か隣が墓地って理由でなかなか土地が売れんかったらしい、んで結局墓地側が買い取ったんよ。でも柿の木を伐るのは縁起が悪いからってそのまま」
「ほな柿やないか」
柳が頑張って使った関西弁は島村をくすりと笑わせるには十分だった。
改めて見回して、墓からは少し離れているし、有効活用されているわけでもなさそうな場所だと思った。少し離れた所に裏門があり、このまま出ることも可能そうだ。
「あっ、ていうか一周してからここに来るつもりだったのに!一直線にきちゃった!」
島村は予定外だと焦ってそう言った。
「別にええやん、どうせ来る予定やったし」
松井がそういえば、島村はそれもそっかと気を取り直して、カメラを構え直し改めて回れてない場所を行こうと先導した。皆若干やる気をなくしつつもだらだらとついていったが、魚崎が動かない。まだ柿の木の前に立っていた。
「魚崎さん?」
「・・・」
「おい、何ちんたらやってんだよ!魚崎!」
柳が声をかけても反応がなく、國澤が怒鳴ってはじめて気がついたようだった。寝ていたのを起こされたみたいに瞬きをして、離れたところに島村たちがいるのを見て、状況を理解したらしい。國澤に反発するように、わかってるわ、と強く返すも、どこかばつが悪い表情をして早足に柳を追い抜いていった。
その後は飛び回る蚊にうんざりしながら墓地を抜けた。
何か異常現象が起こることも不審人物に出くわすこともなかったが、すっかりと暗くなった夜道というだけでそれなりに非日常だと思えるものだ。誰かにとがめられることもなく解散し、ホラー配信だとか肝試しというより夜のお散歩程度だったが、割と全員が満更でもないと言いたげな顔だった。話題が豊富な島村が喋り続けて、十分に楽しませてくれたのもあっただろう。
彼女は解散時に動画編集して送るねー!と楽しそうに帰宅していった。
平和に終わってよかったよかった、という感想は次の日あっという間に覆された。
◆
臨時で作られたグループに、さっそくとばかりに島村から動画が投下された。それは短く、まだ編集は完了していない様子だったので不思議に思う。
動画はちょうど赤ん坊の泣き声のような音声入っているところで、あぁそういえば猫の発情期がどうとか、そんな話をしたなと思う。だが島村はメッセージでどうしよう、と戸惑いが示されていた。
島村:動画の確認してるんやけどさ、ずっとこの赤ん坊の泣き声みたいなの入ってるんよ
柳透:ずっと?
島村:そう、聞こえるって私たちで話してた時だけじゃなくてずっと。
島村:そりゃ動画的には面白くなるけど。ちょっと怖くてさ。
柳はなんと返すべきかと思った。
松井:周波数がちがったか・・・
島村:私ら若いやろが!蚊の音うるさすぎたやん!
松井が大笑いしている犬らしきスタンプを送っていて、柳は松井も関西人だな、と感心した。文字では中々雄弁じゃないか、と思って柳も便乗してスタンプを押しておいた。その後島村は短い動画をいくつか連投した。
島村:そうだ、見て!火の玉!
動画に共通していたのはちらちらと揺れる明かりのようなもの。火の玉と言われたらそう見えるし、スマホのライトだと言われればそうかもなと思える程度のものだった。だが確かに暗い画面のなかでそれは目立った。柳は街灯じゃないの、と思わず送ってしまった。
松井:火の玉の正体は死体のリンだっていうのが実証されたなぁ
面白がるような松井のメッセージに、ビビりだけど怖い話は好きなタイプだったかと今さらながら何故島村の強引な肝試しについてきたのか納得してしまった。
魚崎:ちょっと、なんで私だけこんなボカシいれられてるの。別にいいけど。
そのタイミングで今まで黙っていた魚崎のメッセージが入った。指摘を見て、改めて動画を見直すと全員の顔にぼかしがかかっているのに加えて、魚崎だけ妙にノイズが入っている。夜の画面なので目立たないといえば目立たないし、映像の乱れとして恐怖を際立たせるにはいいのかもしれない。演出の一つだろうか、と思ったが島村のレスポンスは遅い。
島村:本当だ・・・全員分にボカシは設定したけど他は何もしてないのに
島村:元の映像自体に変な映像の乱れがある。ごめん魚崎さん。ちょっと編集する。
魚崎からの返信はなく、島村はもう一度ゴメン!というメッセージを送っていた。既読無視、という状態に魚崎のヒステリーが見え隠れしていて柳は会話から抜けたい気持ちを抑えつつ、完成したらまた教えてよと送ってメッセージアプリを閉じた。
「結構ちゃんと心霊動画になってるじゃん・・・」
あー、やだやだと柳は嘆くようにして自身のトーク画面から動画を削除した。
それから一日二日程度、その週が終わるよりも前に島村から連絡がきた。
電話していい?という内容で、珍しいと思った。
島村は用件をしっかり伝えてこちらの返事を促すタイプで、非常に話が早い。これは緊急か、と思い柳から先に電話をかけた。
「急にごめん、ちょっと相談というか・・・」
歯切れが悪い。なんといっていいかわからない、という迷いがある口ぶりだった。
「端的に言えば魚崎さんがいなくなったから探して欲しいって話なんやけど」
「どういうこと?纏まりなくていいから説明してよ」
「國澤くんから連絡があったんよ、その話の要領掴めてなくって。今から合流するつもりやから、よかったら来てくれへんかな」
國澤と魚崎の名前が出てきて時点で、あぁこの間の肝試しかと察する。島村の真剣な声に、仕方がない、と指定された場所へ行った。通話を終えた後のメッセージには御礼と、少しの事情説明が書かれていた。
曰く、魚崎が墓地に行った以来夢遊病になっているということだった。
「昨日も、一昨日もなんだ。夕方ぐらいになるとフラフラしてどっかに行こうとすんだよ!」
「その時はどうしたの」
「腕掴んだり、でかい声出せば起きるっていうか、気づくから・・・」
「・・・今日いなくなったの何時?」
「さっき、窓から茜がパジャマみたいな恰好で歩いてんの見えて、飛び出してきたけど、見失った。わかんねぇけど、でもあの墓地のせいだって思っちまって!すぐ島村に連絡したから・・・五時とか」
「そうやね、五時過ぎに國澤くんが連絡くれた」
茜って誰、と柳は思ったりしたが、まぁ魚崎のことなのだろう。確かにあの時魚崎はぼんやりしていた気もする。島村はスマホの時間をみて、唸った。もう六時を過ぎる。本当に夢遊病で一時間も行方不明ならば不安だ。
「まぁ、肝試しのせいって話なら、とりあえず周辺探しつつ墓地行こう」
「やっぱりそうなのか?!」
「いや、知らないけどアテがないんだろ。俺は上の筋から行くから、君ら下のほうから向かって」
「了解、ほらっ國澤くんは信号のとこの筋、私はコンビニ横の筋からまっすぐ墓地に向かうから!」
島村は調子を取り戻したようで、てきぱき指示をしてから三手に分かれた。松井にも連絡はしたようだが既読にもならないらしく、人数としてアテにはできない。魚崎のパジャマみたいな格好がどんなのか聞いたが焦っていてよく覚えていない、と國澤は言った。白のTシャツに黒のジャージぐらいの印象だったということだが、あまり信用しすぎないほうがいいだろう。
柳は走りつつ見かける人間を確認していく。時折スマホをいじっていない人間に声をかけてフラフラ歩いている女の子がいなかったか聞くが、目撃情報は得られなかった。
もうすぐ墓地につくな、と坂を下っていくタイミングでスマホが震えて、島村の名前が表示されていたので通話を押した。
「見つかってないけど、裸足の女の子が通ったと思うって言うてるおっちゃんおった!私がおる道通ったと思う!」
墓地へ向かったのは間違いなさそうだな、という結論となり、肝試しの時と同じ集合場所で落ち合うこととなった。柳も走ったものの既に二人が待っており、國澤は車が通り過ぎていくのを見る度ハラハラと不安そうな様子で、すぐに墓地内を駆け回りそうだった。
合流せずすぐに向かってもらってもよかったのだが、この不可解な事態に少々腰が引けているのは全員一緒らしい。走った際に乱れた息を整えたのと同時に提案する。
「・・・魔の交差点のとこ行こう」
「そ、そこやんね、やっぱり・・・」
察していたらしい島村も不安そうだった。時間はもう七時前、夏とはいえもう暗く、そしてやはりこの墓地はさらに薄暗く思えた。じっとりと纏わりつく湿気が不快だった。
三人は足早に、そして時折魚崎の名前を呼びつつも真っすぐ魔の交差点へ向かう
「火の玉も、あの柿の木周辺に映ってたよね」
「か、関係あるかな。松井くんは科学的にリンがって・・・」
「そりゃ、まぁそうだけど・・・それって土葬の話だよね」
島村はハッとしたような顔になった。今の時代の、こんな住宅街や駐車場に囲まれた墓地で、土葬が行われているわけもない。先走って前のほうにいた國澤は聞き捨てならないといわんばかりに振り返って、じゃあやっぱり幽霊・・・、と震えた声を絞り出した。
「さぁね、誰かが勝手にペットの死体でも埋めたかもしれないし」
魔の交差点前の柿の木はすぐに見えた。木の根元に人影があるのもわかる。魚崎の姿に國澤は走り出して、彼女の名前を呼んだが反応はない。ぼんやりと樹上を見上げる姿はぼんやりとしていて、成程正気ではないと思わせた。
「おい、お前どういうつもりだよ!裸足でこんな・・・!」
肩を掴んで無理やり引っ張るも、まるで首が座ってないかのようにぐるんと不安定に倒れていく。國澤も予想外だったのか、慌てて魚崎を受け止めて、その顔を覗き込んだ。島村も軽く彼女の頬を叩いてみたが視点は定まらない。
「・・・ど、どうしよう」
力なく倒れ込む魚崎に、困惑と焦りが広がる。走ったせいか息が上がったままだ。必死に声をかける國澤は気づいていないだろうが、柳は耳鳴りのように聞こえる赤ん坊の声に、仕方なく立ち上がった。
魚崎が立っていた柿の木の根元へ、柳も立ってみると土が少し盛り上がっているのが足裏に感じた。この暗さでは土の色で判断できないが、他の地面よりも少し柔らかいこの感覚は、わかる。
「何か埋めたんだな」
「最近土を掘り起こしたってこと?」
「それが死体だったとか、そういうことか?!」
「どうかな。でもこの柔らかさ・・・埋めたものの体積が減ったっていう感じだ」
田舎の腐葉土の柔らかさを思い出しながら柳は足元をじっと見つめた。魚崎は気絶したのか、大人しく島村に凭れかかっている。國澤は少し落ち着いたのか、柳の方へきて、どうすんだ、と凄んできた。
「掘り返すのか」
「・・・悩んでる。魚崎さんがここで何をしにきたのかもわからないし、でも、またここに戻ってきちゃう気もするし」
「・・・呼ばれてるってことなのかな」
島村の言葉に、首を傾げる。どういうことか続きを待つと、えっと、と言いたいことを纏めつつ柿の木を通り越して破られたままの柵を指差した。向こう側に見える魔の交差点。信号のチカチカとした灯りが見えるが、車の姿はまばらだ。
「ハンドルがひっぱられて墓場に突っ込んだって話やったやん、もしかしてそうなんかなって」
「・・・ごちゃごちゃ言っててもわかんねぇよ。何が埋まってるか知らねぇけど、それが原因だっていうなら」
そう言って國澤は木の根元を手で掘り返し始めた。柳も釣られて掘り返しだす。根が邪魔で手元も暗く、何があるかよくわからない。ただ土を掘り返していった。爪に石が入り込み、指先は痛む。上手く掘れないが妙に体力がいる。
掘るほどにぶわっと腐敗臭が広がり、穴の中からおぎゃぁあああと叫び声が響いた。
「はは、生ごみくせぇ・・・まじでゴミだったら殺す」
「ついでに赤ん坊の泣き声で頭がくらくらする」
「これ全部心霊現象でいいんよね、なんかもう心霊現象じゃないって言われた方が怖いんやけど!」
跪いて男二人が地面を掘っているのを手伝おうと島村も近づいて来たが、狭くって混ざりにくいのだろう、遠巻きに声をかけてくる。地面に寝かせた魚崎に上着をかけてやった後はどうしたらいいかわからないようだ。
「島村、救急車呼んどいてよ。魚崎が目を覚ますかわかんないし」
「わ、わかった!」
「おいっ!」
國澤は大きな声を出した。視線の先には二人で掘った穴がぽっかりと空き、この暗さも相まってまるで深い落とし穴か何かに見えた。柳も見下ろした。島村もスマホを持ったまま恐る恐る近づいて覗き込んできた。
「これ・・・骨だろ」
「・・・ペットじゃなさそう、だね」
スマホのライトが照らすその白い石の塊のようなものは、露出した部分の土を掃えば、まだ先が埋まっているのがわかる。細長く、もろくなったそれは、大腿骨に思えた。予想はしていたとはいえ、全身が強張るのは避けられない。
浅くなる呼吸を意識的に深くする。先ほどまで響き渡っていた耳鳴りのような鳴き声もなくなり、住宅街のざわめきも風の音さえない。音が周辺から消え、自身のどくどくとした脈打つ血管の音ばかりがする。
「警察を・・・」
指示を出そうと顔を上げると、島村は驚愕の表情で固まっていて、気づけば背後から眩いばかりのランプと、バカみたいにでかいブレーキ音が響き渡る。
「危ないっっ!!!」
國澤が真っ先に動いたのだと思う。
柳の首元がぐんと引っ張られ、地面へなぎ倒される。バキバキと金属と木と地面、擦れて折れて、そういう衝撃音が響き渡って、静かになった。
それは唐突で、理解が追い付かない事態だった。
柳がこすれた頬を抑えつつ顔を上げると、國澤が島村と魚崎を守るように覆いかぶさっていた。柳のことも國澤が助けてくれたようだ。
声を掛ければ島村と國澤から返事があり、無事そうだと一息つけた。振り返れば、黒い乗用車が柿の木へ突っ込み、止まっていた。根本から折れそうになっている柿の木もいつ倒れ込んでくるかわからないし車のガソリンが漏れていないかどうかも心配だ。
「運転手助けなきゃ」
「救急車と警察、私呼ぶから!」
「お前危ねぇから離れてろ!」
柳は震える脚でなんとか立ち上がり、車へ近づいた。ここできちんと行動できたのは、乱暴にでもドアを開けようと車の窓を割り、大声を出していた國澤のおかげだった。運転手は眠っているようにも思えたが、よくわからない。エアバッグはきちんと作動していたし、命に別状はなさそうだった。
この車も柿の木に呼ばれたのかもなんて考えは一旦置いて、三人はただ必死だった。
暫くして救急車とパトカーがやってきて、ひどい疲労感とともに事情聴取のことを考えて、柳は面倒くささに投げ出したくなった。
結局、友人が夢遊病のようになっていて探しに来たら車に突っ込まれたという事実だけを告げることとなり、肝心の魚崎に記憶もなく、睡眠外来か何かを受けることとなった。柿の木の話は、柳は黙っていたものの國澤と島村は説明したらしい。訝しげな警察に確認をされ、柳はただ頷いた。
結局、柿の木の下からは死体が発見される。
「妊婦さんやて、死体」
「・・・赤ん坊だけじゃなかったんだ」
島村は、どこから情報を持ってきたのか知らないが柳へそう教えてくれた。
今回の島村おススメの喫茶店はレトロを売りにしたお洒落さと古さの目立つ店内だった。SNSでバズったか何かで落ち着きある内装とは違って女性客のきゃっきゃとした賑やかさと常連客の野太い男性客の声で、案外雑音が多い。少々デリケート会話も、周囲を気にせず話ができた。
「殺人か死体遺棄か、色々調査中らしいけど・・・前の土地の持ち主に事情聴くらしいわ」
「そりゃ、そうか。掘り返された死体は・・・」
「墓地の人がちゃんと供養しはるってさ」
どことなく、よかったねと緩んだ頬に、島村の安堵が滲んだ。死体を見つけて欲しかったのかなぁ、なんてぼやく島村へ返事はせず、柳は魚崎と國澤は、と気になっていたことを聞いた。グループのメッセージを見る限り平気そうだが、詳しいことはわからない。
「大丈夫そうやでぇ~魚崎さんもすっかり大人しくなっちゃって・・・でも國澤くんもついているし」
「・・・あのさぁ、魚崎さんと國澤って」
今まで聞きそびれていたものの、島村はどうにも魚崎と國澤がセットとして当然であるように扱っていることに、柳はそろそろ確信が持ちたかった。しかし、もしや繊細な事情があるのでは、と思うとなんと言うのが適切なのか、島村へ訊ねようとして躊躇する。そんな柳の遠慮した態度を島村はニヤリと笑って、内緒話をするように声をひそめた。
「実はあの二人、小学校一緒らしいんよねぇ」
「あ、そうなの」
「しかも家が隣なんやて」
「・・・えーと・・・幼馴染みたいな」
「やと思うよぉ~。魚崎さんは霊感ごっこしたり、國澤くんは不良になっちゃったりしてるけど、お互いまだ気になってるみたい」
本人たちに聞いたとかではなく、周囲の情報をまとめた結果らしいが、確かに今回の騒動での二人を見ていれば察するに余りある。柳はなんとも平和な話題に心の底からため息を吐いた。
「・・・つまり俺らはホラーだったけどアイツらはラブコメだったってことだ」
島村は随分面白そうに笑った。




