第53話 付き添い、じゃない!?
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「あのー、水瀬さん? きちんと説明してくれるんですよね?」
水瀬の背中を追うように、俺は問う。
彼女には色々と聞きたいことがあるのだ。
色々とあるからこそ、まずは彼女の口から必要最低限の説明をしてもらう義務がある。
そんな俺の問いに対して、水瀬はいつも通りの調子で応える。
「え? 何がですか?」
「いや、何がですかって……。説明義務があると思うんだが?」
「えっと……。すみません、どのことでしょうか?」
乾いた笑みを浮かべる水瀬。
マジか、こいつ……。
これ以上は時間の無駄だ。俺の問いに応えてもらうことにしよう。
「悪い、説明下手だった。どうして俺の通っている学校を知っているのか。それを説明して欲しかっただけなんだ」
「あー! なるほどですね! すみません、急に押し掛けるようなことになってしまって」
俺たちの歩みが止まることはない。
水瀬がそのまま言葉を綴る。
「簡単な話ですよ。お兄さんの制服を見ればすぐにどこの学校かなんて分かります」
「そんな簡単なものかね、制服なんて似たり寄ったりだろ。そう簡単に判別がつくとは思えないけどな」
「女の子って衣類には物凄く敏感なんですよ? だから、これぐらい普通です。美彩さんに聞いてもらったらすぐに分かりますよ」
「美彩に、か……」
正直、分かる気がしない。
Tシャツに短パンの美彩に聞いて、何かが分かる気がしないのは俺だけじゃないはずだ。
問い質したら、実はうちの妹はズボラでしたという事実しか残りそうになくて怖い。
「悪かったな、探りみたいな感じになって」
「いえ、実際は押し掛けたみたいになったのは紛れもない事実ですので、お兄さんは謝らないでください!」
「水瀬がそういうなら……。でも、わざわざ学校で集合する必要なかったんじゃないか? 俺の家で集合とかでも」
「今日、美彩さんがお兄さんの家に行くって言っていたので、バッティングしないように校門前で待つという選択を取りました」
「なるほどな。てか、俺聞いてないんだけど……」
要するに、帰ったら美彩がいるということか。
帰ったら、何かしら面倒くさいことに巻き込まれることは間違いなさそうだ。
というか、今日プレゼント買って帰ったら普通にバレそうじゃね?
俺のせいで水瀬のサプライズプレゼントも台無しになりそうで、帰るのがちょっとだけ怖くなった。
「それだけお兄さんのことが大好きなんですよ。兄妹仲良いのはとっても素敵なことだと思います!」
「どうなんだろうな。居心地が良いだけじゃないのか?」
「女の子にとっての居心地の良い場所ってとても大切なことなんですよ? 美彩さんの家庭環境を変えるのはお兄さんだったらいいなと、私は思っています」
「……まあ、そうだな」
俺もできることならそうしてやりたい。
でも、俺は学生であり、未成年であり、子供だ。
大人の社会に介入できるほどの影響力はないし、何かを変えるだけの変革力もない。
……そう、今の俺ではどうすることもできないのだ。
美彩のそばに寄り添って、談笑をして、ストレスを軽減してあげることしかできない。
「……その話、美彩から直接聞いたのか?」
「はい。それを聞いたのが昨日の話です」
「話題がタイムリーすぎる」
「全部聞きましたよ。お兄さんのことも、お兄さんと美彩さんが送ってきたこれまでのことも、そして……美彩さんの家庭事情も。でも、ショックだったんです」
「ショックって、何が?」
そしてようやく、前を歩いていた水瀬の足が止まった。
倣うように、俺も歩みを止める。
いや、倣うようにというのは少し違う。
俺の足は、反射的に、無意識的に、必然的に止まったのだ。
だって、こちらを振り向く水瀬の表情が、あまりにも切なそうだったから……。
「ねぇ、お兄さん。教えてください——————」
そして水瀬は、今にも泣きだしそうな声色で言葉を綴る。
「——————美彩さんの、本性を教えてください。私、美彩さんのこともっと知りたいんです」
水瀬の言いたいことはよく分かる。
だってそれは、俺が欲しくても届かなくて、届かないと知って諦めてしまった気持ちだから。
それでも……。
「それは俺の口から言うべきじゃない。それはちゃんと、筋を通して美彩から直接聞くべきだ」
「……ふふ。お兄さんなら、そう言うと思っていました」
目元の涙を拭って、水瀬が再度口を開く。
「お兄さん。私は美彩さんと心の底からの親友になりたいんです」
「そっか」
「だから、お兄さん。私に協力してくれませんか?」
「あぁ、別に構わんよ」
そっぽを向いて、俺はそう応えた。
これ以上、泣いている女子は見てられん。
それを察したのか、水瀬が微笑みながら俺に提案する。
「お腹空きましたね。どこかのカフェにでも入りましょうか」
「そうだな。このままだとお腹と背中がくっついてしまいそうだ」
「お兄さん、そんな冗談言うんですね。面白いです」
「いや、昨日も冗談を言ってたと思うんだけど……」
「そうでしたっけ? すみません、覚えてないです」
「まあ、いいんだけどさ……」
ふふっと微笑む水瀬が何とも可愛らしい。
そして俺と水瀬は、再び歩き始める。
今度は隣にしっかりと並んで。
「そういえば私、今日のデートが初めてなのでしっかりエスコートしてくださいね?」
「……デ、デート?」
「えぇ、男女の二人だけで買い物だったりご飯に行くのはデートになりますよね?」
「そうなる、のか? ……いや、そうなる、のか」
ということはつまり、これは付き添い、じゃない!?
水瀬はこのデートが初めてだって言ったけど、俺だって初めてだからな!?
でも、ここは年上らしくしっかりエスコートしなくてはな。
とりあえず、俺は最初の仕事であるお店探しから始めた。
先ほどの自分の想いが、今もまだ胸の奥で引っかかったまま……。




