第52話 付き添い……だよな?
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水瀬との約束の時間がやってきた。
土曜日の最終授業が終わり、俺は身支度を始めながら考える。
連絡先を知らないのに、どうやって集合しようか、と。
集合時間はもちろん、集合場所すら決めていない。
何も決めてない状況で集合できる確率は、一体どのくらいあるだろうか。
俺なりの見解を示すなら、恐らく十%ぐらいだと思う。いや、もう少し多いかもしれない。
要は、五十%を超えることはないというわけだ。
……いや、もしかしたら、俺が知らないだけで水瀬なりの考えがあるのかもしれない。
だとすれば、俺は何も考えないでありのままでいよう。
そう固く決心をして、俺は荷物を持って立ち上がる。
「あれ、部活行くの? 随分とやる気だね……。何か心境の変化でもあった?」
後ろの席に座る花音が気怠そうに話しかけてきた。
「お前はもう少しやる気があってもいいかもな」
「それなー」
「いや、お前のことだけどな」
「ちょっと待って。私も今から準備するから……」
「あーいや、俺は今日用事があるからこのまま帰るわ」
次の瞬間、花音の荷物を片付ける手が止まる。
それからわなわなと震え出したと思ったら、今度は身を乗り出して言葉を放った。
「私を、攫って!」
「いや、攫わないけど」
「どうして!」
「どうしてって……」
これから女の子とお出かけに行くからです。なんて面と向かって言えるわけがない。
そんなことを済ました顔で言えるなら、俺はとっくにプレイボーイになっている。
言葉選びに悩んでいる俺を畳み掛けるように、花音が言葉を続ける。
「私を攫うだけいいんだよ!? どうしてできないの!?」
「……」
「何とか言ってよ! まさか——————」
言いかけて、花音は後に続く言葉を止めた。
そう、俺が言葉選びで悩んでいる間に状況が一変したのである……。
「——————ひーめのん!」
「ひいっ!」
「もう、「ひいっ!」は流石に酷くない? もう少し普通に反応してよ」
「あ、桜花さん。お疲れ様です」
真顔やめろ、真顔。
「それがひめのんの普通なんだ……。ところで、二人は何話してたの?」
「いえ、大した話ではありません。それより、何かお話でも?」
「その設定、まだ続けるんだ……。んとね、授業終わったし、一緒に帰ろーって思って!」
「…………え? 帰っていいんですか?」
「今日は土曜日だしね! 部活は土日祝休みってことで!」
すると花音は、突然桜花に飛び掛かった。
「春ちゃーん! 大好きっ!!!♡」
「ちょっ! ひ、ひめのん!? 急になに!?」
「春ちゃんっ、春ちゃんっ、春ちゃんっ!!!」
桜花の胸に顔をぐりぐり押し当てる花音。
目のやり場に困って、俺はついそっぽを向いてしまう。
てか、分かりやすすぎだろ花音。
「ひ、ひさるん。助けて……」
「それは、無理な相談だな……」
「えぇ……」
「ねね! これから春ちゃんって呼んでもいい?」
「別に、構わないけど……。てか、本当に色々とどうしたの?」
「えへへ、別に! そしたら、みんなで帰ろっ!」
そう言って花音は、桜花から身を離して再び身支度を始める。
一緒に帰るのは、水瀬と接触するリスクが高くなるのは明白だ。
となれば、校門まで一緒に行って、それから予定があると言って別れればいい。
頭をフル回転させて考えたけど、安全策でいくならこの手段しか思いつかない。
そして俺たちは、下駄箱で外履きに履き替えてから正面玄関を出る。
四月の下旬だと言うのに、今日は若干冷えるな。
そんなことを考えながら歩いていると、脈絡もなく桜花が口を開いた。
「あれ、なんだろう」
「ん?」
桜花が指差す方を見てみると、校門前でなんだか人集りができている。
どこかの部活が、何かの活動でもしているのだろうか。
「どこかの部活が、何かの活動でもしてるのかね?」
「……まさか、お前と同じことを考えることになるとは。マジでショックだわ」
「おいこら、それはどういう意味だ?」
「そのままの意味だ。お前と一緒だと思われるのは、俺の意思がどうも許してくれないようでな」
「おいこら! 上等だこら!」
花音は自分の学校鞄を使って、俺のことをボコスカ殴ってくる。
そんな俺たちのやり取りを他所に、桜花が何かを思いついたように言葉を放つ。
「そうだ、今度私たちも校門前で声掛けとかしてみよっか! 直接仕事には繋がらなくても、部活の宣伝にはなるだろうしね!」
花音の手が止まる。
俺の思考が止まる。
そして、俺と花音の目が合う。
何故だろう。さっきまでは花音と一緒だと思われるのが嫌だったはずなのに、今はその感情が一切ない。
段々と、日が経つにつれて、俺は俺が分からなくなっていく。
「えっと、春ちゃん? 何もそこまでしなくてもいいんじゃ……」
「ダメだよ! こうしている間にも悩みで苦しんでいる人は必ずいるはずだから、早く周知してもらわなきゃ!」
桜花、どんな人生送ってくればこんな完璧な女の子になれるんだよ。
花音だって、自分本位で酷いこと口にしてると自覚してるから黙ってしまっている。
だけど、俺は知っている。
そんなアプローチの仕方ではダメだと、きっと花音も知っているはずなのだ。
だけど今は、自分のことで精一杯だからその答えには辿り着けない。
だから、俺が花音の代わりに口にしなければならない。
今ここで意思を示さなければ、きっと今のこの関係は、永くは続かないから。
「桜花、あのさ——————」
言いかけた、その時。
「——————あ、お兄さん!」
聞き覚えのある声が、校門の方から聞こえてきた。
反射的に声のした方へ視線を向けると、そこにはダークブルーの長髪に銀色のティアラカチューシャを付けた白いワンピースの美少女——————水無川水瀬がこちらに向かって走り寄ってきていた。
突然の出来事にフリーズしている俺の手を取った水瀬は、まるで王女を攫う白馬の王子様のようで……って、例えるなら逆か。
「お兄さん! 早くデートに行きましょう!」
状況が追いつかないまま、俺は水瀬に攫われるように学校から抜け出した。
……え?
付き添い……だよな?




