第50話 変なおっさん、再び現る。
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何事もなく部活を終えた帰り道。
軽快な足取りで一人歩いていると、薄暗い路地裏から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「おや、偶然だね。これからお家にお帰りかい?」
アッシュグレーの髪に無精髭のおっさん。
おっさんは建物に寄りかかりながら、堂々とタバコを吸っていた。
正直、こんな変なおっさんは知らない。……と言いたいところだが、残念ながらつい最近知ってしまったのだ。
しかもこの身なりで元教師だという……。
とてもじゃないけど、教師だったようには見えない。
「……路上喫煙は禁止ですよ」
「堅苦しいこと言うなよ。俺が吸いたいから吸っている。みんな大好き基本的人権の尊重ってやつさ」
「多分……というか、絶対に基本的人権の尊重の使い方間違えてますよ? もしその理屈が通るのなら法律云々必要ないじゃないですか」
「そう。法律っていうのは、本来必要のないものなのさ」
そう言ってから、おっさんは深くタバコを吐く。
このおっさんの言っている意味を、俺はまるで理解できなかった。
「法律は必要ですよ。でなければ、一体何が『正しさ』を決めるんですか?」
「逆に聞こう。今の『正しさ』は、本当に正しいという証明をお前はできるのかい?」
「それは……」
おっさんに言われて、俺は口籠る。
いくら思考を巡らせても、返す言葉が見つからない。見つかるわけがない。
だって、そんなの……。
「できるわけないよな? 決めたのはどこの誰かも分からない、所詮は赤の他人様なんだからさ」
「……それじゃあ、誰が決めるんですか? 何が正しくて、何が間違っているのか。法律はある程度の規則がないと統一性が取れない。社会に生きるって、そういうことじゃないんですか?」
「ははっ! お前は賢いな。本当に高校生かよ」
愉快そうに笑いながら、おっさんは後に言葉を綴る。
「そうさ、法律っていうのは人の統一性を保たせるためにある。だけど、それは同時に個人の尊厳を奪う縛りでもあるのさ。右に倣えの生き方なんて窮屈でしかないだろ?」
「自分の思うことは自分にとっては正しい。だから法律なんていらない。そういうことですか?」
「理解が早くて助かるよ。赤の他人が決めた正しさが、必ずしも正しい結末を迎えるとは限らないからね」
そしておっさんは、遠い空を見つめながら深くタバコを吸い込む。
「……法律がなくなったら、みんなやりたい放題になると思いますけどね」
「そうはならないさ。必ず正義感に満ちたヒーローが勝手に現れて、俺たちの知らないところで勝手に断罪してくれる。法律が人を腐らせていると言っても過言ではないんだよ」
「……元教師の教えだとは到底思えませんね」
「そりゃ元教師だからな。夢を教えるのは教師の役割であり、現実を教えるのはそれ以外の人間だ」
それからおっさんは、タバコの火を消すようにサンダルの平でグリグリと踏み潰す。
ポイ捨てまでするんだ……。とことんダメなおっさんじゃん。
「それで、今日はどうしたんだい?」
「いや、別に話すことなんて一つもありませんけど。というか、今日もそっちから話しかけてきましたよね?」
「違う違う。そうじゃなくて、ほらさっき軽快に歩いていたじゃないか。何かいいことでもあったのかと思ってさ」
なるほど、そういうことか。
てかこのおっさん、色々と問題あるけど人の機微を見抜くことには相当長けているな。
自分自身では表に出さないように隠していたはずなんだけど……。
「別に、何もありませんけど。もしあったとしても、あなたには言いませんよ」
「本当に可愛くねぇガキだな。目に見えて答えは出てるのによ」
「それならわざわざ言う必要ありませんね。では失礼します」
それだけ言い残して、俺は早急にこの場から立ち去ろうとした。
……そう、立ち去ろうとしたんだ。
でも、おっさんの言葉を耳にして思わず立ち止まってしまった。
「お前、間違えたな」
「……何を間違えたと言うんですか?」
「お前のした行いが間違いだって言ってんだよ」
「それは言われなくても分かってます。俺のした行いがどう間違いなのかっていうことを聞いてるんです」
今日の一件で、俺の身の回りの問題は解消された。
これ以上我部が近寄ってくることもないだろうし、花音と桜花との関係も良好だ。
何一つ、問題なんてないはず……。
「お前がしたのは、目先の問題を解消しただけだ。先々の問題を解決したわけじゃないんだよ」
俺の思考を読むように、おっさんが言葉を紡ぐ。
そしておっさんは、ポケットからタバコを取り出し、火をつけて再び吸い始める。
「俺は言ったはずだ。結論を急げば、その刃は必ずお前に向くってな。だから近い将来に何かが起こるだろうな」
「……デタラメですね。そもそもあなたの発言には何の根拠もない」
「俺自身が根拠そのものさ。……まあ、気が向いたらいつでも相談に乗ってやるよ。なんせ社会に出たら今どきの高校生の話なんて滅多に聞けないからな」
「遊び感覚で他人の相談に乗らないでください。てか、相談した記憶ないのに上から目線でペラペラと……普通に迷惑です」
そう吐き捨てて、俺は今度こそこの場から立ち去った。
「予言してあげよう。きっとお前は、俺のことを頼ることになる」
なんか聞こえてきたけど、俺の足が止まることはなかった。
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