第11話ドSスキルの暴走
鋭いレイピアの切っ先が、俺の喉元に突きつけられる。馬鹿は会話しても縛っても治らないらしい。
「そっちがその気なら……痛い目見ても文句はないよな?」
鞭を引き抜き、地面に叩きつける。
554:セーフティエリアの床にヒビ入ったんだがwww
555:アルベルト終了のお知らせ
「なんとおぞましい武器だ。退治してくれる!」
アルベルトは億さない。レイピアを構え、突き技。俺は鞭を下から振り上げ、レイピアとぶつかる。
バキンッ
鈍い音とと共に弾かれたのは俺の鞭の方。想定外だ。
「イリス様のドS鞭が押された?!」
「アルベルト様は宝剣、レイピアの使い手ですので」
解説に割り込んできたのはアルベルトと共に倒れていた獣人族。いつの間にか意識を取り戻していたらしいが、縛られたまま二人の戦闘を傍観している。
「スキルは【騎士】。しなやかな切っ先から放たれる攻撃の範囲は極狭ですが、その分威力は凝縮され、何者をも貫く剣となります。加えて宝剣レイピア。キルシュタイン家に伝わる"騎士王が使っていた"高価な武器ですので、そこいらの剣じゃお話になりません」
「そうさ……何者をも貫く、僕の正義の剣の前に平伏すが良い!ファイヤープロムナード!」
アルベルトがレイピアを突き出す。俺の鞭にぶつかった瞬間、赤い光を放って大爆発を起こした。
俺は数メートル吹き飛ばされ、岩壁に叩きつけられた。
「ぐっ」
追い打ちをかけるようレイピアの切っ先が襲う。鞭をしならせ切っ先を逸らす。
だが再び鈍い音と共に鞭が弾かれ、ガラ空きの体にレイピア、三連突き。
「しまっ……」
体を捻る。間に合わない。レイピアが肩を貫いた。
いってぇえっ!クソッコイツ強いっ!
「イリス様!!」
「アヤを怖がらせる悪魔め!我が宝剣にて眠らせてやる!ファイヤープロムナード!」
突き技が早すぎる。斜め下から抉るように突き出されたレイピア。鞭で弾いたとて無駄。赤い閃光と共に殺しきれなかった衝撃が全身を襲う。
岩壁に叩きつけられ、倒れ込む。
「フン。他愛もない。こんな雑魚に捕らわれ、アヤもさぞ辛かっただろう。ドブネズミはドブに沈んでおけばいいものを」
ガッ
アルベルトのブーツが俺の頭を踏みつけにする。
「ぅぐっ」
キン、キン――
なんだ?!頭が痛いっ!割れるッ……俺は、踏まれてる……?
――この俺が、雑魚に踏みにじられている?
締め付けられるような頭の痛み。歯ぎしりをしながら鞭を握りしめる。
「まだ動くか?全く芋虫のように無様なものだ。この美しき僕の宝剣を前に、地面に額を擦り付け、平伏すがいい!!」
アルベルトがレイピアを振り上げる。赤い閃光。踏みつけにされた頭。見下す視線。
頭の中に自らの声が響く。
『平伏す?誰が?俺が?……いや、お前だろ。組み敷け。俺の前に。そして従え。無様に縋りつけ――!』
お、俺の声?……頭が痛いっ……い、いや、体中、が、痛い!力が、溢れ、てくるっ!
「イリス様を足蹴に……許さない」
「待ってエレミア。イリスの様子が変よ……」
「ゔぐっ……ッぁ、ぐっ」
アルベルトの声も聞こえないほど耳鳴りが酷い。体よりも頭が痛む。
胸を中心に血流を伝って鞭を持つ掌に力が集まって――
「っ!」
バチンッ
鈍い音と共に、うねる鞭がアルベルトの足を弾いた。
「ふん、しぶといヤツめ。もう一度僕の宝剣の餌食にしてやる」
「平伏せ、俺の前に。逆らうこと、は、許さない」
頭痛は消え失せ俺という人格は頭の奥底へ。
顔をあげると、アルベルトの瞳が怯えを見せる。
「っな、なんだ、その目はっ」
「組み敷く。許さない。従わせる……」
大きく足を踏み出し、鞭を硬く握る。湧き上がってきた力が鞭に収束し、右腕が震えた。
「雷迎」
鞭に渦巻く黒い雷。一帯の石つぶてが巻き上がる。
今ならなんでも思い通りになる。
万能感に見舞われ、笑みが止まらない。
「ちょ、ちょっと待て!こんな中層階止まりの男に、こんな力……ありえない?!」
先程まで堂々と立ち向かってきていたアルベルトだが、すっかり青ざめている。
体も震え見るからに戦意喪失だ。その姿を見て、俺は喉から出る笑い声を抑えられなくなっていた。
556:イリス暴走モード?結構やばくね?
557:アルベルト様逃げてー!!
鞭を薙ぎ払う。今度はレイピアが弾かれ丸腰に。怯えるアルベルト目掛け、振り下ろす。
ガォンッ
鞭でアルベルトの体を地面に叩きつける。クレーターができるほどアルベルトの体がめり込み、一撃にて沈める。
「ガハッ……ッ」
吐血し、白目を向いたアルベルトの頭に足を乗せる。
これだ。これが俺のしたかったこと。やはり俺は組み敷く方が性に合っている。楽しい。楽しい。
「さっきまでの威勢はどうした?もっと喚いてくれ。じゃないと、分からせがいがないだろう?」
「ま、まぃっ、た……も、やめ……」
「ッ!ダメよイリス!それ以上はっ」
アヤの声は聞こえない。頭の中はもう一人の俺の声ばかり響いていた。
組み敷く、従わせる、支配する、殺す
鞭をアルベルトの首めがけ振り下ろす。
生まれて初めての、破壊衝動。
ガチンッ
俺の鞭を弾いたのは、エレミアの真っ白な魔剣。
「……エレミ、ア」
正気に戻ると共に、両頬を包まれた。
「駄目ですよイリス様。感情に任せて鞭をふるうなんて、ドSの名折れ。私の大好きなイリス様のドSは、理性と美に溢れた芸術品なんですから」
「………………何言ってるんだ?」
正気に戻った。




