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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第三章:日進月歩

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218:Cランク試験 2/11



 side:新浜


 一体この二人はどういう経緯でパーティーを組むことになったのだろう。いやその前に、パーティーメンバーがいるとは聞いていたが【水魔法】を使えるほどとは聞いてなかった。しかし今は試験中。聞きだしたりすることはマナー違反だ。私もマナーは守らなければならない……いやしかし問い詰めたい、小一時間問い詰めたい。


 何よりも、安村さんだ。この間九層で戦っていた時はスキルなんて持ってなかったはずだ。それがどうだろう。威力といい速さといい、使いこなしていると言っても過言ではないレベルで熟練している。これはいったいどういう事なんだろう。最短でモノにしたとしても、最後に会ってから四日かそこらでスキルというものは身に付くものなのか。


 運が良く二人分のスキルを拾った、という解釈で良いんだろうか。むしろそれだけの鉱脈が小西ダンジョンには埋まっているという事だろうか。ますます私も小西ダンジョンに行かなければならない。一体あそこにどれだけのポテンシャルが秘められているのか。


 ますます気になって試験に集中できない……これは困ったな。安村さんたちがCランク試験を受けると聞いて喜んで手を挙げたのはいいが、逆にこんなにストレスを感じる事になるとは思わなかった。あぁ、聞きたいし言いたい。


 この二人なら十一層どころか十四層まで潜れそうだ。もうこの時点でCランク探索者として認定してもいいくらいだ。だがそれだと、安村さんの一挙一動を間近で見れるという役得も無くなってしまう。あ~私はどうすればいいんだ……


 ◇◆◇◆◇◆◇


「ねえねえ、安村さん」


 小声で文月さんが話しかけてくる。


「なんだい文月さんや」

「新浜さん、すごく悩まし気に見えるんだけど何かあったの? 」

「多分、スキルフルオープンにして戦ってたところを見て色々聞きたいことや確かめたいことがあるんだろうけど、試験中の都合上それは出来ない事になってるから、多分己の中の欲望と戦ってるんだよ。そっとしといてあげなさい。すくなくとも七層までは」

「あ、七層ならいいんだ。ちょっと長めの休憩取るから? 」

「それもあるし、八層以降はお互いこのまま潜ると問題が出そうだしそこで息抜きは必要だよね」


 このまま悩まし気なポーズを取りながらクネクネしている新浜さんを見るのもそれはそれで楽しそうだがちょっと可哀想だ。七層に着いたらぶっちゃけタイムといこうじゃないの。


「とりあえずここまで来て十二時か。速足で来て正解だったな。ゆっくりしてたら本当に戦闘時間が一時間ぐらいしか残らない所だった」

「予定ではあとどのくらいで七層に行く予定? 」


 地図を見比べながらざっと計算する。


「四層で一時間、五層で二十分、六層で一時間ってところかな。七層で移動するのに四十分ぐらいかかるから休憩できるのは……三十分ぐらいになっちゃうか。いつもより割と厳しいな」

「お肉焼いて食べる時間ぐらいはある? 」

「そのぐらいならあるからそこで腹ごしらえと行こう。一応おにぎり買ってきたから簡単に焼いておにぎりと肉で済ませてしまおう」


 クネクネし続ける新浜さんに同じ内容を伝える。現実に帰ってきたのか、了解との返事をもらう。


「それじゃ行きますか。七層に着いたら長めの休憩を取りますので、その間で体を休めましょう」

「解りました。じゃあ行きましょうか」


 四層の階段を降りる。新浜さんが先に言っていた通り四層もそれなりの探索者が居るようで、耳を澄ますと戦闘を行っているような音が聞こえる。これは先に行ったパーティーが先ぶれを出してくれているのかな。


 戦闘時間は時間はかからないだろうものの、歩くことだけに集中できるのは体力を温存するうえでも大事だ。横道から出てこない限り戦闘する機会はあんまりなさそうだ。……と言ってるそばからソードゴブリン一、ゴブリン四の団体さんの出動が始まった。火事ですか、救急ですか。


 救急車五台お願いします。死傷者は今出ました。二十秒ほどで戦闘は終わり、ゴブリンの魔結晶二つを手に入れる。無いよりマシ、無いよりマシ、と考えながらドロップを拾うと次へ進む。新浜さんは……まだ悩んでいる様子だ。


 五層側の階段までさらに三回の戦闘を行い、ヒールポーションこそ出なかったもののゴブリンの魔結晶は追加で二つ拾った。


「ここまでの稼ぎがおよそ二千円。まぁ清州ではいつもの事か……」

「清州ダンジョンは本当にモンスターが少ない……いや、人が多いですね」

「小西ダンジョンだと四層でもうちょい稼げるんだけどな。さすがに前に同じ方向へ行く人が居る上にさらに狩ってる他人が居ると、ダンジョン自体が広くてもどうしてもね」

「小西ダンジョンはそんなに人が少ないんですか」


 新浜さんが興味ありげに口をはさむ。


「小西ダンジョンだと……大体自分だけですね。七層に泊まって四層でひたすら狩り続けると中々結構な収入になるんですよ」

「熊手で? 」

「さすがにそれはないです」

「そう……ですか」


 何故か残念そうな顔をする新浜さん。この人、俺のファンなんじゃなくて本当は熊手のファンなんじゃないか? それはともかくとして、五層にたどり着いた。


 見渡す限り何もない。あるのは階段と、我々の前を行っていたであろうパーティーが見えるだけだ。


「何もないですね……これを歩くのは精神的によろしくありませんね」

「それも一つの試練という事にしとこう。俺はもう慣れたよ」

「私もです。せめてもうちょっと湧きが良ければいいんですが、どうしても五層で戦いたかったら階段と反対側へ行く事ですね」


 五層の六層への階段へ行くルートと真逆方向には三本ほど木があり、そこにはダーククロウが良く茂っているらしい。今までいろんな都合上寄り付くことは無かったが、今後は行く可能性があるかもしれないな。


「とにかく歩こう。何なら走ってもいい。走れば五分で着くぞ」

「走りましょう。走ってその分七層で休憩しましょう。新浜さんはどうですか? 」

「構いません、お付き合いしましょう」


 三人で軽く走る事になった。まず最初に自分がペースを作り、文月さんがそれに乗せ、新浜さんが更にそのペースに追いつく。これで三人ともステータスブーストが使える事が新浜さんに伝わったと思う。


 五分ほどで五層を走りきると、息を整えてから六層に入る。六層は五層ほど楽ではない。だが前のパーティーが処理してくれている分幾分かは楽が出来るはずだ。このまま楽に七層までたどり着けるとよりいいんだが。


 六層に入ると前のパーティーの背中が見えた。前のパーティーの背中が見えるという事は、その後ろである我々の目前にリポップしている量は非常に少ない事になる。走らず歩いてきてたほうがまだ狩りのチャンスはあったかな? ちょっと失敗したかもしれない。


 とりあえず一本目の木までに三匹いることは確認された。その三匹をこちらへ誘導する。


「ちょっとここで一つ手品を」

「お、何ですかスキルの応用ですか。私たち見てるだけでいいんですか」

「まぁ、ちょっと見てて」


 ワイルドボアのほうへ無造作に近づいていく。当然ワイルドボアはこちらに近づいてくるわけで、どんどんスピードを上げながらワイルドボアが俺に迫ってくる。


 衝突の瞬間に雷を纏い、ワイルドボアに反撃の雷撃を浴びせる。ワイルドボアはその一撃で黒い粒子と還り、ドロップの肉を落とした。他二匹も同様に俺が纏った雷にぶつかって消滅していく。足元に残ったドロップを拾う作業を終え、振り返る。


「どう? 」

「それが新技? ん~……眩しすぎるかな。後はまぁ、突っ込むのを止めます」

「……」


 新浜さんがまたフリーズしている。十秒ほどそのまま放置しておくと、ようやく現世に帰って来たらしい。


「ラクソウデイイデスネ」


 片言の日本語に変化していた。よほど何か思う所があったのだろう。あえてそこに言及せず、先へ進む。


「ん~、【水魔法】で似たような事できませんかね」

「足元をカッターで覆っておくみたいな? 常時出しっぱなしで足元ビチャビチャになりそうだけど」

「ダメかぁ……まぁ何か面白い応用方法を考えておきます。そしてびっくりさせて見せます」

「そういう方向性の勝負じゃないんだけどなぁ」


 そういいつつ、上空を旋回していたダーククロウに雷撃を一つお見舞いする。頭の上で消し飛んだダーククロウは俺に向かってフンではなく魔結晶を落としてくる。無事キャッチするとバッグに入れる。


「そういう離れ業も使えるようになりましたか。こっちより便利そうですね、交換しません? 」

「交換すると七層の布団の洗濯も俺の仕事になるのかぁ」

「布団……とは? 」


 新浜さんがしきりに気にしている。そういえば新浜さんは全然今の小西の様子を知らないんだな。


「布団がね、置いてあるんですよ。ダーククロウの布団。みんなが使いまわして寝てるんで、たまに文月さんが洗濯してくれてるんです」

「誰の布団です? それ」

「誰が置いたか解んないんですよ。ご自由にお使いくださいとある日突然」

「布団……探索者共有の布団……ねぇ……」


 ますますパニックを起こしている。これはこれ以上いじるとショートするな。先へ急ぐふりをしよう。


「木に止まっているダーククロウは今回は触らずに行きます。時間がかかるかどうかではなく、ドロップの嵩を少なくして行きたいので」

「解りました。警戒範囲外を行動する事にしましょう」


 試験担当者だったことを思い出したようにまともに戻ってきた。このまま何もせず七層まで行こう。


 二本目の木、清州茂君への間はモンスターが何も出ず平和な行程だった。


「清州の六層も二本目の木は茂君なんですね」

「小西もそうなんだよね」

「茂君……あぁ、ダーククロウが生い茂ってるから? 変なネーミングセンスですね」

「そうでしょう? でも、羽根を収穫するには良い木なんですよ。一発でまとめて取れるので」

「やるなら帰りにしましょう。行きは急いで帰りゆっくりのほうが私たちらしくていいです」


 新浜さんはえ~アレ一発で狩れるの? という顔をしている。まあ帰りにでも存分に楽しんでもらおう。三本目の木には五匹ほどダーククロウが止まっているが無視。代わりにフンを落としてきそうな上空を飛び回っているダーククロウだけ狙って雷撃を飛ばしていく。


 前をあまり見ずに上空警戒を続けていたおかげか、前にワイルドボアがリポップしていた。文月さんに確認を取る。


「やる? 多分休憩前に殴れるのあれだけよ」

「やる。ここまで暇で暇で仕方なかった」


 やる気らしいので任せる。文月さんは元気にワイルドボアへ突撃していき、【水魔法】を使わずに槍でワイルドボアを退治。何かを拾って帰ってきた。


「ただいま。魔結晶出たよ」

「一匹なのに気前が良いな。記念にもらっておきなさい」

「いえ、普通に査定に出します」


 普通に査定に出すらしい。とりあえず魔結晶は預かっておく。さっき拾ったお肉は休憩中に焼いてしまうか。


「今日は余計なもの持ってきてないからボア肉のタタキと焼きおにぎりぐらいしかできないけどいい? 」

「いいよー。作ってもらうご飯に文句をつけるつもりは無いので」

「新浜さんはどうします? 」


 新浜さんの分も一応用意できると言えば用意できる。その分量は減ってしまうがついでに作るので手間はかからない。予備のお肉もあるし。


「多分他のメンバーもテントに居るでしょうからそっちで取りますし、一応試験担当者として袖の下と疑われる行為は慎むつもりなので」

「そういえば試験中でしたね」

「忘れてたんですか。のんびりしてますねえ」


 あえて突っ込むまい。なんだかんだ言いつつ七層への階段へたどり着いた。階段を下りたら長めの休憩だ。時刻は十四時。走った分と戦闘が少なかった分早く着いた。これは一時間ぐらい休憩できるな。まずはここまでの疲れをちょっと癒そう。



作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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[一言] ふむ 熊手を媒介に雷魔法を使ってみるのも楽しいかも 杖みたいに敵が出ると抜いて攻撃する方向へ突き出す 声で呪文を唱える必要がない分 仕草で攻撃法や方向を周囲の仲間へとアピールすれば万が一の事…
[良い点] いじられてる新浜さんとマイペースな安村さんが面白い [一言] そのうち魔石も雷や水で拾ってきそうな勢いや
[一言] 雷まとって無敵モード ボルテッカー?
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