217:Cランク試験 1/11
トイレを済まし一階受付に行くと、文月さん以外にも見慣れた顔と共に他にも受けるであろう探索者が数名集まっていた。
「全員集まられたようですので、今よりCランク昇級試験を開始します。それぞれに試験担当者が付きますので、その方に従ってください」
指示に従い、それぞれに担当官が割り振られる。今回昇級試験を受けるのは自分を含め五組。結構多い気がするが、基幹ダンジョンでしか受けられないと考えるとそう多い訳でもないのか。
試験担当官がニコニコしながらこちらににじり寄ってくる。
「お待たせしました。今回あなた方の試験を担当する新浜です。よろしくお願いします安村さん」
「よろしくお願いします新浜さん。こんなタイミングで再会するとは思いませんでした」
「Cランク以上の探索者はCランク試験の試験担当者になることがあるんですよ。特に我々は清州ダンジョンがベースですので、より任命されやすい訳です。で、試験を受けるパーティーが五つ、人数も五人でちょうど良いって理由で我々が今回試験担当者をそれぞれ担当するって事になりました」
新浜さんが事情を説明してくれた。小西ダンジョン付きの俺は試験担当者になることは無さそうだな。
「文月さん、こちら清州ダンジョンで度々お世話になっているパーティーのリーダーの新浜さんだよ」
「それで顔見知りだったんですね。初めまして文月です」
俺に見せたことのない丁寧なお辞儀で新浜さんに挨拶する文月さん。ちょっと新鮮だな。
「それでは今日の試験の内容ですが……安村さんの実力をある程度知ってるので、十層潜って帰ってくるぐらいは多分面白みが無いと思います」
面白みがあるとかないとかで試験内容を決めていいのか。若干不安になってきたぞ昇級試験。
「まぁ、それでいいのかと思われるかもしれませんが、このランク帯の探索者だとお互い顔見知りってそう少なくないんですよ。なのであまり気にしなくていいですよ」
新浜さんはこっちの考えていることを読み解くように解説を進めていく。
「よくやるのは十層までたどり着いて探索を維持できるかどうかとかですが……正直そこにはあまり不安を感じていないので、せっかくなので思い出に残る昇級試験にしましょう。……というわけでお題です」
試験内容の発表が来るようだ。何をやるんだろう。
「Cランク探索者権限として、お二人を一時的に十一層の探索に加わることを許可します。十一層でオークの肉三つとオークの魔結晶をそうですね……五個集めて無事に帰還する。期限は今から明日の午前十時までとします」
二十四時間もくれるのか。これなら各階層一時間かけて潜って一時間かけて帰ってきてもまだちょっと余るな。だがフルに時間を使う必要は無いな。既定の分集めてさっさと帰るほうを選ぶか。
「質問があります。試験担当者は付いてくるのですか? 」
文月さんがもっともなことを聞く。確かにそれは気になる所だ。
「はい、良い質問です。その通り私も同行します。ただし、基本的に私は自分の身しか守りませんし、お二人では危険だと判断した場合試験を中断させることもありますのでそこだけは考えておいてください」
「つまり、新浜さんを護衛しながら十一層で狩りをしてここまで帰ってくる、ということでいいんですか? 」
「仰る通りです。まぁ知らない仲ではないですし気楽に考えて行きましょう。休憩のタイミング等もそちらに一任します。ただ、トイレとかは行かせてね」
思ったより楽が出来て更に楽しみだった十一層にも突入して良いらしい。試験としては面白い、護衛任務ではあるものの探索という感じがする。
「他に質問が無ければ出発しますが……あ、一つ付け加える事があります」
新浜さんが注意事項を促してくる。なんだろう。
「一応守秘義務というものがありまして、この探索の間に私が見たり聞いたり言ったりしたことは絶対に口外致しません。ですので己のできる限り頑張ってください。ただし試験内容にそぐわない行動をしたと判断すればそこで試験は中止します。以上です」
つまり、何しても不問に帰すということか。コッソリスキル隠し持ってても良いですし使って良いですしわたしは知らなかったフリをしますということだ。
さて、大問題が生まれた。保管庫スキルを黙っているかどうかだ。文月さんと目が合う。
(どうするの? 保管庫使っちゃう? )
(守秘義務があるとはいえさすがにちょっと……恩義ある人だけどこれは隠しておこうかなって)
(じゃぁ保管庫は使わないって事でOK? )
(バレないようにする)
無言の目での会話が終わった後、二人新浜さんに向き合う。
「それでは試験開始です。さぁまず何処まで行きましょう? 」
「とりあえず三層の四層側の階段まで直行してそこで数分休憩、その後七層まで直行。その後は残り時間を見ながら再度確認するという事にします」
「解りました。付いて行きますのでよろしくお願いします」
試験が始まった。まずは五分ほど地上を歩いてダンジョン出入口に向かい、探索者証を提出する。
「あの、Dランクなんですが、試験のために一時的に十一層に潜る事になりましてですね」
「私が試験担当者の新浜です。Cランク権限で二人を十一層へ連れて行きます」
「承りました。お二人がランクを逸脱して下層へ潜っても処罰の対象にはならない事、ここに保証します」
と、探索者証にクリップで「特例」というカードを付けた。アレが付いてれば問題なしと認められるらしい。ん? ということはランク逸脱して下層に潜ったら探索者証に変化があるのか?
とりあえず疑問を持ったまま清州ダンジョン出入口でいつものつぷんという感触と共に内部へ入る。一層の広小路通りを少し早足で歩きながら、新浜さんに質問をする。
「試験とは関係ないのですが、探索者証って許可範囲より下に潜るとバレるものなんですか? 」
「試験とは関係ないのでお話ししますが、許可範囲外に入った時点で探索者証の色が黄色くなるんです。なので先ほど見てたでしょう? 「特例」って札を一緒にしておくことで問題なしという事になります」
なるほど、簡単そうに見えて合理的だ。黄色い探索者証が出た時点でバレるわけだ。
「ますます探索者証の作りが不思議ですね。死んだら本当に赤くなるんですかね? 」
「私は直接見たことが無いので何とも……そうなるから死ぬなよ、としか言われてません。ただ黄色い探索者証は見たことがありますので、信ぴょう性は高いんじゃないでしょうか」
赤くなるのは見てないけど黄色くなるのは見たことあるからおそらくそうだろう、か。かといって実際死んでみるわけにもいかないしな。そういう事にしておこう。
「さて、これも試験と関係ないのですが……そこにスライムが居ますね」
新浜さんが指さした先には一匹スライムが跳ね出てきていた。おそらく次に出る言葉はアレに違いない。俺はグラディウスを持ち替えると腰の熊手に手をかける。すたすたとスライムに歩み寄ると、スライムを潮干狩る。
「試験とは関係ないですが、潮干狩りをお見せしました。こういうことですか? 」
「試験とは関係ないですが、とても良いものを見させていただきました。さすが熟練者は手際が違いますね」
俺と新浜さんはニヤリと微笑み、そのあと拳をぶつけあった。
「あのー、どういうことです? 」
経緯がさっぱりわかっていない文月さんだけが首をかしげている。これは説明が必要だろうな。
「新浜さんは俺のファンなんだってさ」
「このくたびれかけたオジサンの? 」
「そう、この……ってまだくたびれてないぞ。むしろ最近は快眠効果で若返ったぞ」
「仲が良さそうで何より。さぁ次行きましょう。またスライムが出るかもしれません」
三人楽しげに言い合いをしながら一層の道を二層へ向かうが、一部の人には残念なことにそこから先スライムに出会う事は無いまま二層への階段へたどり着いた。
「まぁ、他の階層にもスライムが居ますからその時また見れますよね」
そういいつつ残念な新浜さんの背中をポンポンと支えながら二層へ降りる。意外と小さな背中をしている。平日とはいえ清州、人口過密なダンジョンだ。小西ですら最近は二層でモンスターを見かける事が少ないのだから、より過密な清州でエンカウントすることはさらに少ない。
しかも今は試験中で他のグループも居る上に、少なくとも皆七層へ向かうだろう。若干出遅れたスタートになった我々にはモンスターを倒すというお鉢が回ってくる可能性はかなり低かった。
ただひたすら歩いて二層で出会ったのはグレイウルフ二匹のみで、それも文月さんの【水魔法】で一瞬にして黒い粒子に還られてしまった。ドロップお肉。七層で焼いて食うか。バーナー念のために持ってきてよかった。一瞬新浜さんの顔に驚きが出るが、試験担当者としての責務を優先したのか何も聞かずにそのまま前に進み続ける。
三層への階段を降り、そのまま四層側の階段へひたすら歩く。試験会場まではまだ遠い。
「なにも居ませんね。やっぱりスライムドロップ確定以来こんな感じなんですか? 」
普段清州に来ない文月さんが新浜さんに訊ねている。
「そうですね、ドロップ確定する前は平日ならもう少し見かけるぐらいでしたが、三層までは御覧の通り人だらけでリポップ自体行われてないんじゃないかという話です」
「なるほど。小西ダンジョンも似たようなものです。四層からは空いてるんですけどね」
「清州ダンジョンだと四層も割と混んでいますよ。ゴブリン卒業した探索者が自分を鍛えるには五層より四層のほうが手ごたえがあるので……というより五層も普段モンスター見かけませんし」
確かに五層の次への階段までの近さとかリポップ速度を考えると、四層で戦い続けるほうがうま味も多いだろう。ヒールポーションを安定して取れる事は収入として大きい。俺もそうだ。
ゴブリン三匹の団体さんとエンカウントした。文月さんを抑え、俺がやるという表情。任せたという文月さんの答えの表情。そしてチェインライトニング。ゴブリン三匹が一瞬にして黒焦げになり黒い粒子へ還る。ドロップは魔結晶一つだけ。
そして新浜さんが凄い顔になっていた。きっと、いつ使えるようになったんですか? とか二人ともスキル持ちかよぉ! とか色々聞いたり話したりしたいに違いない。でもそれをぐっとこらえて職務に専念しようというその心がけは立派だと思う。
ドロップを拾うと前へ進む。四層への階段はもう目の前だ。着いたらここで五分ぐらい休憩と行こう。
作者からのお願い
皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。
続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。





