1489:らんららんららんで一週間
引き続き芽生ちゃんをよろしくお願いします。
side:相変わらず文月芽生
入庁してから三週間が過ぎました。この一週間でやることがずいぶん変わりました。具体的には書類仕事が増えた。普段の自分の担当パーティーは出力、つまり帰りの荷物運びだけに駆り出されることになったため、それ以外の行程や探索の順調さや日程については今泉君に一任することになりました。
パーティーリーダーとして今泉君の管理能力は充分であると言えたので、これからよろしく! ということで全行程を管理してもらって、私は帰り道に連絡してもらうことでリヤカーを引いてエレベーターで七層に下り、荷物を引き取って時間待ちをした後一層へ上がってみんなの稼ぎをきっちり四等分する、という仕事以外は手ぶらの状態になっています。
今泉君曰く、こうです。
「今まで付き添いだけしてもらってほぼ無給で働いてもらっていた分、エレベーターの上下だけ手伝ってもらうだけになった分こちらも気持ちが楽になりました。数時間七層で待機してもらうことは暇でしょうが、それでもほぼ丸一日文月さんの仕事が減ったことになりますし、文月さんしかできない仕事があるはずなのでそちらに集中してもらうほうが合理的だと考えます。なので荷物の上げ下げだけよろしくお願いします」
おかげで泊まりがけで浅い階層をうろちょろする、という行為はしなくてよくなりました。かといってその間に何もしないわけにもいかないので、私のやることは自分で見つけることになります。つまり、探索者育成のマニュアル作りや身体強化のやり方の言語化など、色々な書類作業に手を回すことになったのです。
特にマニュアルについては私一人の知恵で作り上げることもできないため、他のパーティーのメンバーとも目を通し合うことでより実態や実験方法に間違いや解釈違いがないかを確かめながらの作業になります。おかげで毎日帰ってくる各パーティーとも顔を合わせる機会が増えたため、それ自体は悪いことではないと思いますねえ。
「やっぱり身体強化の覚え方については個人差があるのでいくつかのやり方、というか試行方法を並べ立てて、それのどれかで引っかかってくれれば残りも徐々に覚えていけるのでないかということで、本当にいくつかのやり方、脳への覚えさせ方を並べ立てていこうと思うのですが」
阿南さんに相談してみて、高野君のパーティーメンバーにも同じくその通りに身体強化を施してもらうことにしました。どうやらその中のいくつかの項目についてはそのやり方でうまくいったらしく、マニュアルの文章は出来るだけ多くのことを記載しておくことにしました。
それぞれ自分がどういう動作から順番から身体強化を学んでいったのかの実例を元にしておくことで他の職員が探索者として学んでいきたいという事態が起きても問題ないでしょう。
遅くても来年には同じマニュアルを使って身体強化を学んだり、探索を続けていくうえでどのような階層をどういう風に回っていくことでより早くより強くなっていくことができるのか。
それらを文章化することにより、実際に行っていない行動についてもある程度予測できるようにしておくのもマニュアル化に必要なことだと考えます。全てを覚える必要はないが、その通りにする方が効率的に探索が出来る、という意味ではこれも有用なケースの一つとして積み重ねを続けていこうと思いますねえ。
巽さんには一応マニュアルの下書きの段階でこういう形で進めていこうと思うのですが……と添削をお願いしようと思ったが、意外な一言によりその目論見は失敗しました。
「いやあ、僕もダンジョンには潜ったことがないからね。休日に気晴らしがてら探索したくなったら是非参考にしたいから、出来るだけいいものを作ってくれると嬉しいね」
そういえば巽さんは内勤組だったんだな、というのを思い出したのはこの時でした。つまり、上司はあてに出来ない、あてにできるのは実際に稼働しているパーティーと、それと自分の経験のみです。
マニュアル化が行き詰まった時は、みんなが休みか行きの日の際に一緒に潜ってエレベーターで現状最下層である六十三層まで潜って探索、荷物を何度か往復しながらリヤカーに積み込んではまた戻って戦闘をして……と、洋一さんがいれば余計な手間がいらない荷物の往復という作業をこなしつつ、気晴らしの戦闘を行っています。
そういえば、久しぶりに土竜の人たちにも会えました。那美さんは相変わらず元気そうでしたし、新藤コンビ以外のメンバーの方々にも挨拶することが出来ました。やはり、顔つなぎは大事ですね。今のところ私以外はこの階層まで下りてくることは遠い先の話になりますがどうかよろしくお願いしますと挨拶もしておいた。
やはり、ダンジョン庁のヘルメットは目立つらしく、あちこちで噂にもなっているそうです。ちゃんと広まってくれているのはありがたいことですね。今後も色々な人に出会う可能性もありますから顔は出来るだけ広く持っておく必要があるのですが、それが一番必要な阿南さんは現在四層でゴブリン爆破しないダッシュの真っ最中。
とてもじゃないけれど六十三層まで潜って下りてくることはできません。その分私が最下層の最先端探索者と顔つなぎをしておくことで、私がいなくても文月芽生から話は聞いている……という形で連絡が取れるようにはしておきます。これも大事な下準備という奴ですね。
◇◆◇◆◇◆◇
今日も机仕事をしていると、仕事から逃げてきた真中長官と探索課の中でしっかりと出会います。
「お仕事おさぼりですか? 」
「流石に書類仕事をやり過ぎたんでね。ちょっとした休憩だよ。そっちは順調かな? 」
仕事の手を止めて、ここまでの仕事の内容や他のパーティーの進捗、今自分が何故一人だけ部署にいるのか、等を説明しつつ、マニュアル化し始めている内容や装備に関すること等について報告をします。
真中長官はうん、うん、と頷いては、違和感のあるところについては逐次訂正をくれるので助かります。しかも内部資料用としてスライドを使ったりしなくていい段階なので、本当に下地部分をさらっと流す程度にまとめて報告をしています。
「なるほど、たしかにマニュアル化さえできていれば、最悪監督役がいなくてもパーティーで人数が揃えば探索業務を回すことが出来そうだね」
マニュアル化については納得してくれたらしく、一人に押し付けてしまってすまないね、とフォローまで入れてもらえた。
「まだほんのさわりの部分だけですが、今後スキルの成長方法やスキルのイメージングや強化策や強化方法なども吟味していく予定です。その為には定期的にトレントの実のドライフルーツを仕入れる必要がありますが……ダンジョン庁のほうである程度数を都合してもらって、洋一さんに頼んで作ってもらえば外注という形で仕事をお願いすることもできると思います。今の所一番効率的に魔力摂取が出来て製法も秘匿されていて時間がかからず作れるのも【保管庫】の享受できる利益の部分があると思いますのでそこはちょっとお願いしてみようかなと思うのですが」
「ふむ……まあ文月君の頼みなら、ということで受けてもらえるかもしれないってことかな? 一応こっちでもドライフルーツの製造は成功している企業に伝手はある。原料を多めに供給する代わりに数を都合してもらうこともできるだろうし、そのあたりは追々詰めていこう。で、進捗のほうはどうかね? 文月君のパーティーは調子よく探索を進められているかな? 」
パソコンの個人情報欄から今泉君の最新の支払いレシート金額を参照し、自分がいた時に比べてどうか、という数字をはじき出す。
「そうですね……私がいない分だけちょっと効率は落ちてますが、このぐらいなら許容範囲でしょう。後は回数をこなしてCランク試験を受けられる金額までギルド税を溜めこんでいく、というところですので私がいるいないで変化する部分ではないとは思います。もし、私が最下層まで潜ってきた成果もまとめて査定に出してわざとらしく下駄をはかせるようなことをしない場合……後二週間ってところじゃないですかねえ」
実際、今足かせになっているのはギルド税の問題だけであり、パーティーで九層まできっちり潜って帰ってきている以上、戦力的には問題ない範囲であることは明確です。後は時間と金が解決する問題であるとは言える。この後手伝うことがあるとしたら、無理矢理十五層まで連れて行ってゴブリンキングをみんなで倒して四人ともエレベーターが使えるようにするぐらいのことじゃないでしょうか。
「後二週間か……よし、文月君、こっちの部署にいる延長手続きを取ってもいいかな? 」
「条件をお聞きしましょう……大体想像はつきますが」
「彼らがエレベーターが使えるまで、ということでどうだろう」
やっぱりか。想定内であるとはいえ、あと何週間もかかる話ではない。ちょっと洋一さんのところに戻るのが遅くなるだけだ。その間、ちゃんと浮気せずに仕事を続けているだろうか。芽生ちゃんロスに陥っていないかだけが心配だが、結衣さんもいるしその辺はちゃんと管理されていてくれることを望みますか。
「わかりました。期間としてはとりあえず二週間延長、というところでどうでしょう? 」
「それでお願いする。早速泊まってるホテルに延長の連絡をしておくといい。後、宿泊費だが……」
「それは自腹で構いませんよ。高めのウィークリーマンションを借りた程度にしか感じてませんし、経費で落ちますし、何より私は真中長官よりもちょっとだけ財布が重たいはずですので」
すると、あっはっは、と真中長官が笑い始めた。
「それもそうだな。後、人事院に掛け合ってきたが、ダンジョン庁に所属する限りにおいて探索者の収入を全て自分の懐に入れていいようにという話をうまく呑み込んでくれそうだ。我々の上の組織である財務省にも横から口を挟んでもらって、ギルド税と査定物の査定の金額を考えれば、下手に禁止するよりも自分の所属する部署に関わることでもあるから実地体験も必要だろう、ということになりそうだ。ちゃんと今年以降も稼げるように、文月君の望み通りになりそうだよ」
どうやら、これからも無事に稼げるようです。さすがに個人事業主としての職種にはならないでしょうが、副業として認められる以上稼いで稼いで稼ぎまくりながら、ダンジョン庁には必要な情報を送り続ける、ということでいいのでしょうね。
「それは何よりですねえ。これで堂々と胸を張って洋一さんの元へ帰れるというものです。それまではマニュアル作りのほうに力を入れつつ、息抜きがしたくなったら六十三層辺りに出没して適当にストレス解消してくることにしますよ」
「こっちとしては週四十時間働いてくれれば充分だからね。それ以上についても残業代は支払うけど……まあ、心配はしてないかな。週に二回ずつほぼフル稼働している計算になるから、むしろ過剰労働気味であるところではある。まあ、睡眠時間や仮眠、休憩時間まで仕事の時間に入れろと細かく指示を出すのは難しい部署だからね。ダンジョンに入ってる間はすべて仕事の時間、と割り切ったほうが楽だし、その分稼いできてくれていることは数字を見ればわかる。細かいことは言わないので是非気楽に仕事を進めてほしいね。不必要なストレスやプレッシャーは出来るだけ与えないように配慮しているつもりだから、伸び伸びとやってほしいね」
「あ、長官発見しました。確保します」
多田野さんが現れて真中長官見つけ、そのまま肩を担いで引きずっていく。
「ほら、仕事がまた溜まってきましたよ。長官室に戻ってください」
「じゃあ、後よろしくねー」
引きずられていく長官……多分これも見慣れた光景なんでしょう。ということは、課長の椅子が埋まってる時は息抜きの時間、ということなんでしょうね。
さて、仕事中ではありますが仕事に関係があることなので少しホテルに戻って宿泊延長の手続きを取らないといけませんね。心地よい仕事をするための自分のメンテナンスをするための宿泊先ですから、これも仕事の内と思って一時外出中にマグネットを動かすと、自分の宿泊先のホテルに戻ることにしましょう。
事前に伝えていたこともあり、ホテル側も継続的に綺麗に利用してもらっているからと、二週間の延長を快く承諾してくれた。多分二週間分を前払いで支払っておいたのも効いているのかもしれませんね。お金はあるに越したことはないです。それは間違いないです。さあ、戻ってマニュアルの続きを書きますか。
あ、洋一さんにも連絡入れとかないといけませんねえ。帰還の日程が二週間延びそうです……と。返事は期待せずにそのまま行きましょう。
作者からのお願い
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