1411:ゲン担ぎと宝箱
再び七十一層側へ戻ってきて車を止め、ユミルを車から降ろす。車から降りたユミルからはさっきまでのようなオドオドした感じはもう感じ取ることは出来なかった。ドライブで普段味わわない速さや車乗り心地を体験したからだろうか。
「今日はありがとうございました。おかげで決心がつきました」
両手をグッと握って耳を立ててピコピコさせながら気合を入れるユミル。どうやら、大丈夫そうだな。
「そんなわけで、一人に感じるかもしれないがちゃんと見てくれている人たちがいるし、問題なくダンジョンを開設することはできる。落ち着いてやってくれればそれでいいんだ」
「はい、頑張ってみます。とりあえず奥を作る前にまずダンジョンを出現させてみようかと思います。それから、奥を頑張って作っていこうと思います。やることが、決まりましたので後は頑張るだけです」
フンス、というような表現が似合う気合の入れようが見て取れる。
「無理しない程度に頑張るんだぞ。何かあったらミルコ経由で連絡をくれればいいしな」
「はい、今日はありがとうございました。決心がつきました」
そういうとユミルは転移していった。これで温泉ダンジョンも無事に出現させることができるようになるのかな。
真中長官にメールを送っておこう。「温泉ダンジョン、近日出現予定。これでやるべきことは全部終わりましたかね」送信、っと。
車を仕舞うと、そのままスマホをポケットに突っこんだまま七十一層へ。もしかしたら緊急で返信が来るかもしれないからな。その為に電波は通じるようにしておこう。
七十一層のいつもの雷撃アッパーカットを綺麗に決めて、そのまま七十二層方面へ。午後からは三時間、七十二層で探索。七十二層の全ドロップ品が査定品として計算できるようになった結果、皮算用で時給一億を見込むことができるようになった。七十二層でこれなのだから、よりポーションが落ちやすい七十三層以降ではもっと収入が増えることになる。家に帰ったら計算するか。
さて、七十一層も計算上の金額で言えば、モンスター出現率とドロップ率を加味すると七千万を超える。八時間ここにいるだけでギルド税込み五億六千万。今は更に深く潜るので六億五千万ほどの収入を見込める。ただしポーションが落ちるかどうかはあくまで確率なので、実際にはもうちょっと減る可能性のほうが高い。ポーションが小数点で落ちることはないからな。
モンスター一匹当たりの価格は……ざっと二百万ってところだな。エイサメグリフォンとそれぞれ多少誤差はあるものの、大体似たような物だろう。七十三層以降はもう五割増しぐらいになるかな。やはり時間効率で考えるとかなり美味しい階層であることは確かだが、セーフエリアの中間である所を考えると移動時間との兼ね合いもあって濃いところで美味しい思いをするのは難しいだろうな。
さて、七十二層に入り、モンスター密度が高まって、それにともないグリフォンが多く出現する分だけ稼ぎが増えることを期待することができる。もう何十回も通った七十二層であり、クレーターの周りをグルグルと高速回転することで、何らかのエネルギーを発生させることはできないが収入としての魔結晶やらフカヒレやらグリフォンの素材を集めることができる。大事。
時計回りに回るか逆に回るかはその時の気分で決めているが、基本的には時計回りで回るようにしている。反時計回りで回る時よりも、時計回りで回ったほうがポーションが落ちる回数が多いという謎の現象が確認されているためだ。十回ずつほど巡って八回はその通りだったので、何かしらの運要素なり仕組みが働いているのだろう。そういうゲン担ぎは積極的に利用していかないとな。
実際は倒す順番が違うだけで同じモンスターを倒しているのだがこれもダンジョンの不思議という奴だろうか。久しぶりに一つ増えた気がするな。これからもダンジョン二十四の不思議は二十四を超えて一杯発生することだろう。
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目一杯探索をして、午後五時になったので七十一層へ戻る。このまま七十層まで戻って午後六時、三十分ほどかけて七層まで戻って茂君刈りして戻って七時半、というところだな。大体いつも通りの時間に帰れそうだ。
七十一層に戻ってちょっと急ぎ目に七十層へ帰る。移動時間の早さは効率に直結する。七十層まで急いで戻って早めに戻れば、一本早いバスで良い感じに帰ることもできる。家に帰ったら調べものがあるし、早く帰れるのは今日にとっては良いことだな。
さっさと七十一層を渡り切ると、いつもの最後の一撃をサメに喰らわせてフカヒレと魔結晶にすると、今日の探索作業はほぼ終わり。いつも通り車でエレベーターの前まで横付けして車を降りて収納。エレベーターにリヤカーを押し込んで、七層まで倍速で運転させた後荷物整理開始。
さて、後は茂君が元気に茂っていてくれることを願うのみだな。ここのところ何ごともなくただひたすら魔結晶と羽根だけをくれている茂君だが、そろそろスキルオーブのドロップがあってもいい頃合いでもある。
俺以外の誰かが茂君を刈ってる間にドロップが出ているなら小西スレか七層のノートを覗きに行けば結果が見れるところか。まあスキルオーブが欲しくてダーククロウを刈ってるわけじゃないからな。出たら幸運、出なかったらそれまで、ということにしておこう。
七層に到着していつもの目隠しをして茂君ダッシュ。道中のワイルドボアのおかげで飯と細かい魔結晶を得られているのは嬉しいところ。往復で一層と七層分の燃料が賄えるのは毎回高い魔結晶を短いエレベーターの時間で使わなくてもいいのはこのダッシュの良いところだ。
茂君を綺麗に刈り取り、茂君からも魔結晶を手に入れて保管庫の中の雑多な魔結晶が増えることになった。とりあえず今のところ毎回ちょっとずつ黒字になっているので七層行きに青魔結晶を使うようなもったいないことは今のところしなくて済んでいる。
時給を考えたらそのほうがはるかに安くつくのはわかっているし、その分だけ価格の安い魔結晶を取るために浅い階層でモンスターを狩るのも非効率。なら、ちょっとの手間でエレベーター一階分の魔結晶も手に入るこの茂君ダッシュはちょうどいい感じに機能してくれている。
スマートに狩りが出来て余分に見える道中のワイルドボア退治の時間や手間も、総合的に見ればプラスになるお手軽探索、ということになっている。ご都合主義万歳。
七層まで戻ってくると、目隠しを外してリヤカーを再びエレベーターに入れ込んで一層へポチ。今日の成果はワイルドボアの魔結晶二つ分ぐらい余裕を持たせることが出来た。黒字になることは良いことだ。いつも通り一層に戻って退ダン手続き。
リヤカーを引いていつもの査定カウンター。五分待ちからの査定で再び五分待ち。本日のお賃金、四億六千三百十五万八千円。税込み五億。いつも通りのいい感じの収入だ。今日一日よく働いた。いつもの熱い水をもらって休憩所で一服。さて、スマホを見ると真中長官から返信が来ていた。
そういえばいつ返信がきてもいいように出しっぱなしにしていたんだったな。出しっぱなしの意味なかったな。「近日中に一通りのお仕事は終わりってことだね、ご苦労様」だそうだ。
ユミルの温泉地ダンジョンが立てば俺は晴れてフリーハンド。ダンジョンマスターの新築ダンジョンの一件は完全に手を離れることになる。いや、実質もう離れたようなものか。あとはネットで各地の状況を見ることにしよう。
後で何か問題が発生した時にミルコ経由で情報が入ってくるかもしれないからそれについて長官と話しつつ疑問の解決、という流れになるか、もしくは高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンで活動している新藤君達土竜のクランメンバーのほうへ話を持っていったほうが早く解決するならそうしてもらうことにしよう。
心の重しになっていた懸念事項は解決したということで、肩の荷も下りて軽くなった。後はここ数日のニュースを色々と調べて温泉地ダンジョンが無事に出現したかどうかを確かめるぐらいでいいだろう。
さて、帰ったら他のダンジョンの様子も見ないとな。バスは……ちょうど来た。ちょっと急いでダンジョンを走っただけのことはあったな。
家に着いたところで洗い物と片付けと、それから風呂も早めに入れてしまおう。やることを全部やり終えてから調べものをしたほうが、疲れてすぐに横になれる分だけ効率的だ。
風呂を溜めている間に今日の弁当を決める。今日は焼売弁当だな。ちゃんと別袋でついていたカラシと、体内マップで良く拾ったドロップアイテムではない中に醤油の入った容器を取り除いてからレンジでチン。温めて終わって蓋を外すと部屋中に広がる焼売の香り。うん、食欲がわいてきたぞ。
まずは醤油を焼売に均等にかけて、その後カラシを半分の焼売にだけつけて、残りは醤油だけで食べることにする。まずはご飯を一口。普通のご飯だ。そしてカラシのついてないほうの焼売を一つ口に入れる。うん、温めた分だけしっかりと中の脂も溶けだし、口の中でご飯と絡み合う。
やはり焼売弁当は熱いうちに食べるのが美味しい。温め過ぎ一歩手前ぐらいの塩梅で香りだしてくる匂いと、それから脂の溶け具合が抜群によくなり、容器の中に油分が少し溶けだしてくるぐらいがベターだ。温めが不十分だと口の中で不協和音を奏でてくるからな。
そしてカラシだ。鼻にツンとくるちょうどいい辛さが口の中で醤油と一緒に混ざり合い、焼売の味と合わさって爽やかにしてくれる。
一緒についてくる甘口の卵焼きや大根の漬物、かまぼこも中々に良いチョイス。油ものを一緒に入れないことで喧嘩しないようにあらかじめ仲裁をしてくれているのは有り難い。
一気にワシワシと食べ終わってその満腹感に包まれながら風呂。今一生懸命働いている胃袋をよそに、体の洗濯を始める。もっと早めの打順でも良かったかもしれないな、焼売弁当。次に買うときはもっと早めに開封するように心がけよう。
全身綺麗に磨いた後、きちんと髭も剃る。俺は髭は寝る前に剃る派なので、この時間にもなると顎をさするたびにジョリジョリと小気味のいい音を奏でてくれるのを、T字カミソリでもう一度ジョリジョリ。手で逆剃りするように触って触感がなければよし。あったら剃りなおし。
今日は綺麗に決まってくれたので割といい気分。湯に浸かってゆっくりと全身の疲れを癒すように、保管庫を使ったセルフ打たせ湯を無限ループして肩も労わる。欠点は、保管庫に入れている分だけ湯が少なくなって上半身が少し寒いと感じることぐらいだが、熱変動耐性をここでオンにすると確かに寒くはなくなる。
しかし、同時に打たせ湯の気持ちよさもなくなってしまうのでうすら寒さをこらえてしっかり肩へ水の打撃を与え続ける。ほどほどに気持ちよくなったところで五十数えて風呂からあがる。
さて、風呂もあがって寝る準備も万端にしたところで調べもの。各ダンジョンのボス撃破についてだ。現状入場できるダンジョンは聖蹟桜ヶ丘ダンジョンと和歌山のショッピングモールダンジョン……こっちはまだ正式名称が決まってないままのオープンとなったらしい。後日正式名称がつくんだろう。
和歌山には他にもダンジョンはあるようだし、被らないようにするのか、熊本みたいに第一第二第三という名称にするのか、入居した建物の名前が付くのか、ネーミングライツを募集するのか……今のところまだ決まっていないらしい。
まあ、和歌山のダンジョンの名前が決まったらスレでも話題になるだろうしスレッドの名称も変わるだろうからそれまではそっとしておくかな。
肝心のボス討伐だが、どうやら討伐レースは無事開催されたらしく、聖蹟桜ヶ丘ダンジョンでの討伐の瞬間が配信されていたらしい。ちゃんとリーンが登場して何やらむにゃむにゃ喋っているシーンが出てきているが、配信者の同時翻訳により話している内容は配信にもしっかりと入り込んでいた。
どうやら全員そろって【物理耐性】が欲しかったらしく、それぞれのパーティーメンバーにスキルオーブが渡され、その場で覚えてその場で光って、覚えていた。
配信者曰く「またさんじゅっそうでまっているの、ちょうせんをまっているぞなの、ふはははさらばーなの」というセリフと共に消えていったとのこと。どこへ行ってもフリーダムだな、リーン。念のため聖蹟桜ヶ丘ダンジョンスレを覗いてみると、宝箱探しに熱心である様子が伝わってくる。
どうやら小西ダンジョンで以前行われたトレジャーイベントの教訓が生かされているらしく、小西ダンジョンから聖蹟桜ヶ丘ダンジョンスレに書き込みをしたやつがこの辺にありそうとかこういう部分に出てくる可能性がある、等のアドバイスが入り込み、その通りに信じて探した結果無事に手に入れた探索者も居るらしい。
ダンジョンでは通信が使えるので、宝箱を発見した写真と共に宝箱のドロップ品を公開する、といった流れも好評らしい。宝箱のドロップ情報と時間と階層を共有することでお互いにおいしい思いが出来るように気を使い合っているらしい。これもスキルオーブのドロップ情報みたいな感じで運営しているんだろうな。
作者からのお願い
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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
後毎度の誤字修正、感謝しております。





