1395:二月一日
また新章です、よろしくお願いします
side:ダンジョン庁
二月一日。年明けから日が経ち、四月を年度のくくりとしている会社にとってはこれから年度末に向けての作業が徐々に蓄積し始めるそんな中途半端な時期に、探索者関連の忙しさがある。年に二回ある、ギルドのドロップ品に対する査定価格の改定が行われるのだ。
毎回全ての品目について価格が変わるわけではなく、現在の探索者の中間層の人数や世の中の需要供給なども加味され、更にその後どの様な市場の反応が返ってくるかも予測しての価格改定が行われる。そのためダンジョン庁職員にとっては年始も年末もなく、忙しい時期を無事乗り切った区切りであるともいえる。
真中の会見により、魔結晶とポーションの価格には今回手を加えないと宣言した通り、その二種類については価格は据え置きで行くことが確定していた。
価格改定のメイン部分としては、Bランクが増えて二十一層から三十層に達する探索者が増えた分、トレントやカメレオンダンジョンリザード、ジャイアントスパイダー等の有効活用されている素材が潤沢に供給されるようになったため、これらの品物は総じて値下がりをしている。
また、今までごく一部でしか取り扱われていなかった三十三層以降の素材についても新規B+ランク探索者が増え始め、ドロップ品の供給が大幅に始まったために今後また大量の在庫が増えていくであろうことを予測されて値下がりする商品もあった。
ワイバーン素材やその次の素材である熊胆やスノーオウルの羽根やドウラクの身、ドウラクミソも対象になった。具体的には三十三層から四十四層の間のモンスタードロップに関しては、例外を除いては軒並み値下がりという結果になった。
ただ一点、ワイバーン肉に関しては代替するものがないとして、値段は据え置きのままである。一パック四百グラムほどで五万円。価格も高いが若返りの効果があるのではないかと絶賛研究中であり、またそれほど数も取れないとあって数多い食品卸売業者が血眼になって探している最中であるという話だ。
ダンジョン庁職員としては、たまにはそういう物を口にして自分たちの仕事がちゃんと形になっているから、と高い料金を払って専門店に行き、調理されたワイバーン肉を食べてその不思議な美味しさを楽しむことがちょっとずつ増えているらしい。
四十九層以降のドロップ品については、現状新規B+ランクがギリギリたどり着いたところであり、ここで苦戦してしばらく滞留する可能性が高いことが安村達の報告や先行B+探索者からの報告を受けているので、あと半年は価格をいじらなくても済むだろうと考えている。
また、四十九層まで出来上がっていないダンジョンもあるため、そちらはダンジョンマスターと協議の上で階層を延ばすのか、それとも一旦踏破して新しいダンジョンとして作り替えた上で続きを作らせるのかそれぞれのギルドに任せる形になっている。
ここから半年後、流石に次回の査定については魔結晶は値下げの時期だろうとは思われている。あと半年もすれば魔結晶発電所もいくつか稼働を開始する。そうなれば電気代の値下げをするための措置として原材料である魔結晶の値下げに応じる考えではある。
探索者からは非難の声も聞こえるだろうが、ここまで充分稼いだだろう? そろそろ皆にも公平にダンジョンの資源という物を分配しようじゃないかという意思を省庁の視点からして認める必要があるだろう。それを見越しての真中の会見であった。
さて、ダンジョン庁長官である真中としては一山越えた……というわけではない。彼のお抱えプロジェクトである新規ダンジョンの全開放がまだ終わっていないのだ。
五ヶ所の予定である所の内二ヶ所は既にオープンを迎え、通信ができて宝箱が発生するという恒常イベントもあって中々の人気を博してくれている。
残りの内一ヶ所は絶賛インフラ工事中。他のダンジョンに比べて距離的に繁華街から離れているが、場所が高速のインターチェンジのすぐそばということと広い駐車場を取れるということでかなり広大な土地を開拓している最中である。中のダンジョンマスターには悪いが、同時にギルドの建物の建設も進んでいるため、駐車場の全体の完成ではなくある程度の範囲が出来た段階で公開、開場する予定ではある。
問題は残り二ヶ所、温泉地とニュータウンのダンジョンの発見がいつ行われるか、ということである。安村からは「一気に五ヶ所のダンジョンが発見されてあたふたしないように間隔をあけて立ててもらうようにお願いした」との連絡は受けているが、具体的な日時は不明である。そのことが少しだけ引っかかっていた。
念のため、該当する座標に対して毎日職員を派遣して今日は何事もなかった、昨日も何事もなかった、と毎日報告は受けているものの、発生した時点で連絡をもらう手はずになっている物を今か今かと待っている状態である。
五つのうち二つのダンジョンが無事解放されたことで探索者の移動経路やそれに伴う経済活動、交通機関の動線の確保などいろんなものを考えながらひねり出された結果が今の新規ダンジョン発見という結果につながった。
現在開いている二つのダンジョンは人口密集地でもあり、付近にダンジョンがなかったことからそれなりの人数の探索者が潜り込んでおり、それぞれのダンジョンからは配信者が配信行為を行うことによりダンジョンの内部構造や宝箱の内容などが明らかになってきている。
時々休憩がてら配信主を探しては探索の様子を眺めてはいるが、皆一からのスタートだというのにそれなりに楽しそうに探索をしているので問題はないんだろうという感想を漏らしているのを多田野が聞いていた。
先日のギルドマスター会議では、新熊本第二ダンジョンの到達階層が二十八層まで到着したという報告も受けた。どうやらあっちはあっちでうまくいっているらしい。
真中としては良いぞもっとやれ、そして探索者人口が増えれば他の省庁からは文句は来るだろうが、探索者が増える分だけギルド税も多く取ることができるようになるし、探索者も下手な企業に勤めるよりも頑張れば頑張った分だけ稼げるぞ、ということを目にすることができるようになる。
他の業界から転職して探索者になるような自由人も増えるかもしれない。それに対抗するように新しい人材を確保するために企業は出来る範囲で給料を上げ始め……という正のループを描いてくれるといいなあとは思っているが、ある意味では探索者もインフラ事業者となりつつあるわけだし、基幹企業とも言えるようになってくる未来がおぼろげながら見えてくる。
半年後はどうなることやら……と考える真中の手元に一通のメールが届いた。内容は「新型ポーションの効能と副作用について」とシンプルに伝えられている。待ち望んだ答えが目の前にあり、これで安村への借りを一つ返せるな、という思いである。
内容を読むと、このポーションには寿命延長の効能があり、平均して三年分ほどの寿命を延ばす効果があるらしいと明記されている。ただし、若返るかどうかは個人差があり、現状維持のまま三年分寿命が延びるのか、それとも若返って三年分増えるのかどうかはサンプルをより多く取らないとわからない。
そして、副作用としてかなりのカロリー、具体的には五万キロカロリーほどの体内カロリーが消費されてこの効果を発揮する、その分のカロリーがない際は筋肉や内臓から無理矢理搾り取ることになるので、体型やその人の状態によっては餓死の副作用が起きる可能性があることが添えられていた。
「どう思う? 多田野君。これ、一般に卸せるかな? 」
多田野がメールの内容を確認し、一通り読み終わった後で感想を口にする。
「一般に卸せるかと言われると今のところ危ない、というのが素直な所でしょう。痩せ薬にしても高級すぎますし……何より、若返りとダイエットを同時に求めてお金のある御婦人方が殺到するのは目に見えています。ダンジョン庁で預かっておいてお互いの承認のもとで使用する、というようなワンクッションが必要なのでしょうね」
「やっぱり一手間かかるよねえ……でも、だからと言って買い取り不可品にしてしまえば市場に漏洩してしまうのは目に見えているし、しっかりとギルドで管理して手綱を握っておくのが大事かな」
「そうなるでしょう。それに現状、あの二人ぐらいしかこのポーションを入手することができない現状ですし、数が溜まってきてから物事を考え始めても遅くはないかと」
「今頃安村さんの保管庫には何本眠っているんだろう。それを想像するだけでも怖くなるね」
真中は思考を放棄した。考えても考えなくてもあの二人はダンジョンに潜って深いところから最新の素材と最高品質のポーションを掘り出してくるのだ。今年も彼らがギルド税納付のトップであることは間違いないと言えるだろう。
「さてさて……後大きな問題はニュータウンダンジョンと温泉地ダンジョンの二ヶ所の発生と周辺自治体への理解をお願いするところかな。先に立ててしまえば言い訳もできるんだが、ここまで発生が遅れるとはちょっと予想外だったね」
「まあ、どちらもお試しのダンジョンではありますし、長々と駐留して潜り込んでくれる探索者が現れるのを待つのが得策かと」
「どこもうまくいって欲しいものだね。ダンジョンマスターと我々との交流の場でもあるし、何処のダンジョンマスターかはまだ秘されている。海外から引き抜いてきたダンジョンマスターだということは薄々感じ取られているようだが、ダンジョンマスターも自分の意思でこちらにきた、という流れに持っていければラッキーだけど、そもそも彼らが前は何処にいたか、までは確認できていないしね」
「あともう一つ。官用から官民に基準を変更したダンジョンから、新たに踏破した方がよいのでは? という一覧が出来てきています。今のところは一覧、というほどではありませんが、近々話題には上がると思いますのでその前に確認しておく必要はあると思います」
「どれどれ……なるほど、どこも予算の問題でそのまま立てておくよりももうちょっと便利な場所に移設した方がいいという案か。さて、どうしたもんかな」
真中としてはしばらくダンジョン移築騒ぎはお腹いっぱいである。攻略されたダンジョンのダンジョンマスターは一度ぐらいは安村の元を訪れるだろうし、そうなればまた安村との通話をしながらこちらと向こうでやりとり、という形で面倒をかけることになる。いっそのこと前に安村家の庭に出来たように、この長官室に直接ダンジョンを作るように仕向けてもらえないか、と思案するところではある。
「例えばだけどさ、ここの使ってないロッカーを開けたらダンジョンにつながってる、とかどう思う? 」
「面白い発想ですね。ここに待機中のダンジョンマスターが一堂に会するわけですか。通信越しではなく直接対談なら通訳も必要ないですし、安村氏の手を煩わせる必要もないですね」
「安村さんも今年は伸び伸びと探索者やってほしいからね。それに文月君の扱いをどうするかもまだ決めかねているところだ。とりあえず入庁研修は受けてもらうとしてその後だ。他の探索者候補生と一緒に潜らせるのでは彼女にとっては損失……金にならない仕事になるだろうから、効率的なステータスアップの方法を伝授してもらってそれに沿った内容のカリキュラムを模索していく一年になりそうかな」
真中は気楽に言うが、現状一般探索者にとっても最も効率的な金策、いうなれば探索者としてのランクの上げ方についてはまだまだ一定の水準として利用できるものが出来上がってきていない。もし出来上がっているならばそれが載っているサイトについての情報が耳に入ってくるはずである。
「ダンジョン庁が率先して探索者育成マニュアルを作っていき、そのマニュアルに則って自前の探索者を育成していく。ダンジョンが出来て五年目にしてやっと形に出来るわけか。まだまだ楽しみ甲斐があるな、この業界は」
「その前に、次のダンジョン庁長官がまたあなたである保証はないですけどね。私も含めてですが」
「その辺はうまく袖の下というか、話をつけておくことにするよ。ギルド税収にしてもそうだし、他の担当者ではまだ育成できてない部下の面倒もそうだし、私がこの椅子に座れている間に形にしておかなければならないことが多すぎる。それが一定の水準になるまでは是非とも据え置きでお願いしたいところだ」
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