1393:帰り道と若返り
休憩を終えて指輪を回収する。必要以上の指輪をつけていても邪魔だし、これはこれで資産足りえるからな。もし今後も必要がないというのであれば二人で探索しているときに査定にかけて現金化してしまえばいいし、もしかしたら価値が上がるかもしれないので売りしぶっておくことにしよう。
開けっ放しの扉のほうを向くと、フレイムサラマンダーが湧きなおしていた。こちらに意識が来ていないということは、ボス部屋は一種の隔離空間になっているんだろう。視線が通っているのにモンスターからの認識がこちらに来ないということは、モンスターにとってはここは階段の境目と同じで異次元ということになるんだろう。
「さて、ボス部屋から出たらすぐ戦闘だから心の準備しておかないとな」
「帰り道もご安全に、ですね」
部屋を出てすぐフレイムサラマンダーが反応するが、こちらが攻撃をする方が明らかに早かった。レベルアップした分素早く動けるようになったのも大きいだろう。芽生さんもスパスパっとより早く水魔法が撃てるようになっている。ドラゴンとの戦闘でしっかり【水魔法】をつかったおかげで熟練したのかもしれないな。
あっという間に四匹を雷撃と水魔法で処理するとドロップ品を回収。もう手慣れたものである。
「どうやらドラゴン戦のおかげで随分楽に動けるようになったか」
「身体強化もレベルアップもしましたし、帰り道も素早く帰りましょう」
七十四層方向へまっすぐ進む。今日は七十六層の階段を見つけるだけでなくボスまで倒してしまった。これ以上何かを望むのは贅沢というもの。大人しく真っ直ぐ帰って、今日の疲れをちゃんととってしまうことにしよう。いつもより三十分ほど早く帰れる予定だ。
他のモンスターもより楽に戦えるようになった。マグマゴーレムは言うに及ばず、ヘルハウンドも動きに慣れてきたうえにこちらの移動スピードも上がったので近接でも遠距離でもどちらでも問題なく対応できる。
後はこいつらがスキルオーブをきっちり落としてくれるのを願いながら物欲センサーを精々発揮させて挑んでいくとしよう。これで今日スキルオーブが落ちるような事態になったらもうこれ以上のものはない。そこまで願うことは贅沢だ。
七十四層へ上がると、そのまま七十三層へ向けてまっすぐ進む。ここと七十三層は階段までの距離は案外短い。一時間ほどあれば七十二層までは戻れる。そこから七十層まで各一時間。合計三時間、といったところだ。
モンスターもヘルハウンドが出てこなくなった分少なくなったが、マグマゴーレムは七十四層のほうが七十五層よりも多いらしい、というのは何度か通ってみた感想だ。フレイムサラマンダーもそうだが、やはりボス階層はモンスターが少し少なめになっているらしい。
なら七十四層で戦い続けるほうが移動時間が短い分稼げるのか? という疑問にはまだ回答が出ていない。ヘルハウンドの分だけスキルオーブが出る可能性があり、更にポーションが落ちる可能性が同様にある分、七十五層と七十四層どっちが美味しいかは今後に期待することにしよう。
フレイムサラマンダーはどの階層でも一番多い割合で出現する。倒すのは楽なので倍ぐらい出てきても問題はないのかもしれないな。ただ、まとめて出て来るよりも分布を多くしてほしい、という方面の話だ。
流石に六匹とか七匹襲ってきたら少々面倒くさいことになるだろうが、いきなり増えることもないとは思っているので、七十六層の湧き密度調査の時にでも期待しておこう。
七十四層を抜けて七十三層へ。七十三層はどっちのモンスターもまだスキルオーブを落としていないので期待値は高いが、長々と居座るなら七十三層よりも七十五層に居座るほうが出会う回数が多い分だけの今のところスキルオーブを拾う可能性は高いだろう。七十五層と七十六層それぞれで拾って、それでもなおスキルオーブを求めるなら七十三層、という順番だろうな。
七十三層と七十五層のモンスター密度の落差を感じつつ、そのまま通り抜ける。明らかに歩く距離が長く、合間に出てくるモンスターも数が少ない。お気楽帰り道だ。行きと違って暑さも感じないのでなおいい。芽生さんは初日以外毎回この気楽さでこのマップを歩いていたのかと思うと先に譲らなければよかった、と少し悔しくなる。
「良い感じの体感温度だ。これからは毎回この体感温度を感じて戦えると考えると楽だな」
「でしょー。みんなもこれを味わってここに来てくれると楽しいですが、辛さを感じてからありがたみを味わってくれるとなおいいですね」
「結衣さん達の分を確保するのを目標にするか。五つの玉を集めてまとめて渡して、その気持ちよさを充分に味わってもらうってのも悪くないな」
七十三層を抜けて七十二層に上がっていく。その間にポーションが落ちたのでちゃんと拾っていく。七十二層に上がった後はクレーターを無視して七十一層への階段で真っ直ぐ向かう。
「そういえばあのポーションも本当に若返りのポーションなんですかねえ。というか、どう若返るのか、どのくらい若返るのかもわからないんですよね? 」
「一年なのか二年なのか、もっと短いのか。それもわからないし何を基準にして若返るのかとか考えれば俺が飲むより芽生さんが飲んだ方が効果はわかりやすいかもしれんな」
「お、女子高生時代のピチピチの私に興味がおありですか? それも中々悪い話じゃないですねえ」
「俺ぐらいになると一年二年若返ったところではそう効果は見込めないだろうからな。一本飲んで効果があるかどうか見た目で区別できるかどうかわかりやすい歳じゃない。そういう意味で本当に若返りの効果があるかどうかを人間で効果が発揮できるかどうかわからないな」
テロメアの長さがどうとか、そういう部分で解りやすくはあるが、細胞分裂の若返りという意味ではヒールポーションの延長上に存在するポーションとしては納得できる。
サメもエイもグリフォンも考えの端っこで吹き飛ばされていくのでもはや相手にならない。ソロで七十二層で巡ることも考えていけるな。今後は一人の際は七十二層で戦っていってみるか。無理そうなら帰って来ればいいし、七十一層で戦い続けるのは問題ないしな。
「中々難しいんですね、若返りっていうのも」
「科学的に解析出来て若返っているという証拠がつかめない限り金には結びつかないだろうしな。そういう点では頑張ってもらわないと」
「いつ頃になりそうですかねえ。私が就職するまでに話がついてくれるんでしょうか」
「そう願うしかないな。ちなみにグリフォンのドロップ品は価格改定と同時に価格が決まるらしいからそっちのほうは大丈夫らしいよ」
「それは一つ朗報ですね。後二週間ぐらいですか、待ち遠しいですねえ」
七十一層にたどり着き、七十層へ向かう。今日も帰りは少し遅くなったので帰りの茂君はなしだな。何事もなく真っ直ぐ階段まで歩きぬくと、最後のサメにアッパーカット雷撃を喰らわせてドロップ品を回収して、七十層へたどり着いた。
「さて、いつも通り帰るか。今日も稼ぎは少ないが、ポーションが三本落ちた分だけうま味にはなっているはず。未来への投資ということで今日の収入は少なくても我慢しておかないとな」
「そういうことなら少なくても仕方ないですねえ。まとめてポーションを納品した時の金額で納得させてもらえることに期待しましょう」
いつも通り車でエレベーターまで来た後、倍速で一層のボタンをポチ。魔結晶とフカヒレとポーションだけのドロップ品納品だが、もう少しでまとまった収入……と言ってもそこまで大きな額ではないが、ある程度見込めるだけの見通しが立っているし、今後はそれもドロップ品として報告できるなら少しでも足しになればそれでいい。
大きな収入としては若返りポーション。そしておそらくそこまで大きな収入にはならないだろうが、グリフォンの爪と肉。これらがちゃんと収入化してくれればそれなりに楽にはなるだろう。
「さて……ボス戦も終わりましたし、今後はゆっくり七十六層巡りですかねえ」
「そうなるな。二月に入るまでは大人しくのほほんと巡るか。やり方はいつもと同じで、七十六層の地図を埋めに行くのを第一目標として設定しておけば問題ないと思う。埋めきったら……その後はまた考えようか」
「できてまだ数週間ですし、その間に次を早く作れというのは無茶な話かもしれません。ただ、【熱変動耐性】のおかげで生存が厳しそうなマップが来ても大丈夫そうなのは救いかもしれません」
「ドラゴン戦にしてもそうだが、【熱変動耐性】を拾う前提のマップ構成になっている気がするな。思い返せばこれまでも、【索敵】や【毒耐性】もそうだ。パッシブスキルはそれを持って奥に挑めという設計なのかもしれん」
ダンジョンハイエナが【索敵】を落として、ゴキやクモが【毒耐性】を落とす。そして四十九層周辺でも、【毒耐性】は落ちた。そこで使うことを前提に設計しないと思いつかない方法だ。
「じゃあダンジョンとしては出来が良いってことになるんですかね」
「少なくとも前のマップでこのスキルが欲しかった……という感想が出ない辺りは良い構成になってるんだろうな。二週間サウナの中をさまよった後の感想ではあるが」
「予定ではもっと早く拾うつもりでしたか。でもまあ、タイミングよく拾えてそこそこ万全の態勢でボスまで倒せて帰ってきたのだから悪い結果ではなかったですよね」
「良い結果だったと言えるかな。とりあえずギルマスにいつ報告するかだな」
「もう七十五層まで行って来たの? なんて言われそうですね。後、ボス戦の動画を撮影していないから
もっかい行ってきてと言われても後一カ月か二カ月かは復活するまでボスは出てこないからもう一回倒して来いと言われても無理って返せますし」
「とりあえず今日の稼ぎを無事に得て、それからだな。明日は休みだし、スーツの再注文と羽根の納品と……それからゆっくり休むか」
一層について退ダン手続き。退ダン手続きでぎょっとされる。
「あの、なんだかボロボロですけど大丈夫ですか? 」
そういえばスーツがボロボロなんだった。すっかり忘れてたな。
「ただの激闘の後なので気にしないでください。怪我とかはしてませんので」
「それならいいのですが。本日もお疲れ様でした」
退ダン手続きを終えて査定カウンターで同じ反応をされる。とりあえず怪我がないことだけを伝えると、査定をお願いしてしばし待つ。その間にひそひそと言われている気がする俺。やはり、スーツがボロボロだと目立つのか。それとも俺が負傷しているのをみんなが心配してくれているのだろうか。
しばらくして査定結果が戻ってくる。本日のお賃金、一億五千七百一万四千円を得る。着替え終わった芽生さんに結果を渡して二人支払いカウンターで並んで待つ。そして俺の番でまたボロボロなのを心配される。
「これで三度目だよ同じこと言われるの」
「安村さんがボロボロってことは相当な相手と戦ったとお見受けしますが」
「まあそれなりに苦戦したってところかな。でも、スーツの防御力がお値段相応だってことは確認できたしいいんじゃないかな。信頼できるスーツであることが証明できたことだし、また買うさ」
「そうですか、服はともかくとして怪我がなくて何よりです」
怪我らしい怪我はポーションで治してしまったからな。今後は両手両足を吹き飛ばされない限りは問題ないだろう。その場合でもヒールポーションのランク5があれば治るらしいしな。在庫としてちゃんと抱えているし、非常用のポーションは減り次第補充するようにすれば大丈夫だろう。
いつもの熱い水を飲む。熱い水は熱い水としてちゃんと認識されるらしく、そのへんの調節は上手いことされているらしい。アツアツの皿うどんを食べても口の中を火傷しないけど熱さは感じる、ぐらいのところで調整してくれるんだろう。
「さて、今日の夕飯は何弁当にしようかな。せっかくの戦勝祝いだし何か豪勢なのを開けたいな」
「いいですねえ。私もご相伴に与ってもいいですか? 」
「何か適当なのを二つ開けてはんぶんこするか。そうと決まれば帰ろう」
「はい! 」
そのままバスを待つ。バス待ちの時間も寒くないのはさすがのスキルのおかげ。そのまま家に帰ってステーキ重と五目御前を食べ、一緒に風呂に入って寝た。さすがに疲れてたので何もしなかったが、ハグぐらいはした。もうちょっとしたかな。
作者からのお願い
皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。
続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
後毎度の誤字修正、感謝しております。





