1384:思うようにはいかないのが探索というもの
「これは中々、洋一さんにしては小洒落た料理を出してきましたね」
「今日のお題がステーキだったからな。ただ単にチキンソテーというだけでは芸がないので一手間加えてみた。気に入ってくれて何よりだ」
「バターの香りが何より良いですね。後、バジルも香って更に食欲を引き立たせています。中々に高得点です」
芽生さんから高得点を引き出した。百点がベースラインなので百二十点ぐらいは貰えてるかもしれない。
「思い付きで振りかけたが……うむ、美味いな。しっかりとハーブが香ってて、バターの味もしっかりしてる。中まで火は通ってるし充分な出来だな。これで後は……うむ、ご飯とも合う」
「そういえば、今日は炊飯器は同伴じゃないんですね。盛大に洗ったとかそういうのですか? 」
芽生さんが炊飯器ごとご飯を持ってきていないことに疑問を呈する。
「ああ、今年から炊飯器の同伴出勤はなしということになった。例えばなんだが、俺が一人で探索してる間に芽生さんが家に来て勝手に夕飯作って待ってる場合、そこに炊飯器がなかったら不便だろ? 」
「確かにそういう可能性は今後ありますね。せっかくなら小さい三合炊きぐらいのを購入してみては? 」
「それも考えた。今度電気屋にいったら悩んでみることにする」
今は何はともあれ食事だ。気温が低い分さっさと食べてしまわないと冷めてしまうからな。吹き曝しというほど風があるマップではないが気温は確実に低いし野外での食事に違いはない。温めながら食べるでもない限り食事はここまで運んできたとはいえ確実に冷めはじめてしまっている。
冷めて固まったバターも不味くはないが、ムニエルの食感を悪くしてしまう原因にもなるので早めに食べてしまうことが先決だ。ササっと食べ終わり、食後の休憩に入る。
聖蹟桜ヶ丘ダンジョンの様子は……どうやら二十一層まではまだ誰もたどり着いてない様子だ。みんな十六層と草原マップでそれぞれ苦労しているらしい。あ、グリフォンだ。撃墜っと。
グリフォンは肉をくれた。さっき食べた分が返ってきたらしい。中々消費が捗らないのは盛大に唐揚げを作らないせいでもあるのだろうか。いずれ値段が決まったら各地でグリフォンの唐揚げが人気になるだろう。
その日まで俺は頑張ってグリフォンの肉を集め続けることにしよう。だから待っててくれ世の中の金のある消費者たち。俺が頑張って材料の供給をするよ。
芽生さんはお腹いっぱいでのんびりとダンジョン雑誌を読んでいる。警戒は俺がしてるから大丈夫だろう、ということらしい。まあ、二人して気を張ってても仕方がないしな。俺もそこそこ腹が満ちて満足しているところだし、後一回か二回襲撃があるかな? ぐらいで考えておけばいいだろう。
◇◆◇◆◇◆◇
結局リポップはあの一回だけで終わり、探索のお時間になった。さて、またこの暑い低温サウナに飛び込まなければならないのかと思うと少々気が滅入るな。芽生さんのほうはもう【熱変動耐性】を習得しているので、適正気温と体が判断しているのか汗一つかかない様子。ここに来る間も寒がることなく平然としていたので、ダンジョンに入った時点でスイッチを入れていたのかもしれないな。
階段を下りて七十三層の熱気に包まれる。相変わらずじっとりとした、裸なら気持ちいいことこの上ないだろうが服を着ているのとプライベートスペースではない都合上そういうわけにもいかず、早速ワイシャツの内側をさらりとした汗の感触。先日サウナにいったおかげで汗をかきやすくなっているのかもしれない。これはかえって逆効果だったかな?
「汗びっしょりですねえ。うわあ大変そう」
「そっちは丁度良さそうでいいな」
「先に譲ってくれたのは洋一さんですからね。有り難く使わせてもらってますよ」
「俺としては、肌に張り付いたワイシャツという姿を他の人に見られたくないというちょっとした束縛感もあるからな。それがなくなっただけでも精神的に落ち着いてくれてはいる」
「なるほど、そういう理由もありましたか。それはそれでちょっとうれしいところですね」
軽口を叩き合える間はまだ大丈夫。汗を拭きながら階段への道を進むことにする。
「さて、前回の帰りはしなかったが、今回は時間がたっぷりとあるので七十四層への階段の最短経路を探しながら行こうと思う。通ってない部分で短縮できそうなところがあればそこを通っていきたいんだが……この辺かな。ここに道があったら最短経路更新、無ければ前回のルートでそのまま七十四層まで行こうと思う」
地図のまだ書き切れていない、階段と階段の間の空白地点を指さして芽生さんに教える。
「なるほど、ここが繋がってるなら五分ほど短縮できそうですねえ。その分七十四層の探索に回せるから良いと思います。繋がってなかった場合のロスも同じぐらいの時間で挽回できそうですし、そこぐらいでしょうかねえ? 」
「後は全体は回ったし、宝箱を探してさまようわけでもないからパスで良いと思う。気が向いた時に……そうだな、もしも俺の分の【熱変動耐性】が出たらその時は地図を作って歩き回るという作業に従事してもいい感じかな」
「なら、もうしばらく先になりそうですねえ」
「そうだな、まだ七十五層と七十六層の探索が残っているし、ボスも居る。やることはたくさんだ」
七十三層をそのまま最短経路を探すようにして七十四層へ向かう。道中のフレイムサラマンダーはてくてくスパッとお手軽に。マグマゴーレムは少々面倒だが体を動かして雷切を伸ばし核を直接狙いに行く。【熱変動耐性】を所持した今の芽生さんなら腕の上を走るようによじ登ってコアを破壊しに行くことも可能だろう。
だが今のところそうはせず、ウォータカッターでコアを直接狙っている。多分そのほうが楽なんだろうな。無駄な動きは体力の消耗につながる。特に俺。他の階層よりもこまめに水分補給とウォッシュをかけてのアイシングに余念なく進む。
先ほど芽生さんと話していた地点まで来たが行き止まり。残念ながら七十四層への近道を発見することはできなかったが、おかげで最短経路はめどがついた。最初に巡って行った道が最短経路ということで良さそうだ。ちゃんと確認したぞと地図に書き記して、戻って最短経路である所の七十四層への道へ向かう。
七十四層までに合計八回ほど戦闘を行ったがさすがにその程度の回数で出てくれるスキルオーブではないようで、残念ながら暑さは継続だ。大人しく階段を下りて七十四層に下りて、すぐのところにいるフレイムサラマンダー三匹をあっさりと片付けると、次はどっちへ行くか相談する。
前回はここに来るまでに一時間半ほど階段を見つけるまでの時間を過ごしていたが、今回はその一時間半をまるっと七十四層探索に使うことができる。ゆっくりしても急いでもまずは歩かないことには方向は解らないが、七十三層と同じくマップ全体の広さを把握してから進むか、それとも適当に歩き回って階段を探すか悩むな。
「どうする? 時間はあるしまたぐるっと一周して広さを確認してから階段を探すかい? それとも適当に回って後で全体を作るような形にする? 」
「そうですねえ。前回もなんだかんだ上手くいったので、今回も全体を回ってから階段探しにしましょう。前回通ったところは頭に入れなくて済む分効率的に動けると思います」
「そっか、芽生さんが納得するなら多分そっちの方が早く見つけられるんだろうな。期待してるよその感覚は」
「えへへ、もっと褒めてもいいですよ」
「はーいえらいえらい」
◇◆◇◆◇◆◇
階段がどの位置にあるのかははっきりしないので、とりあえず南向きの方向から地図を埋めて、その後は反時計回りに回っていく、ということで意見は一致したのでそのようにして地図を描き加えていくが、地図に汗がしたたる。やっぱりサウナに行くべきではなかったか。
ドロッとした汗が出なくなっただけ体はずいぶん楽になった気はするしウォッシュでスッキリするのも変わりはないんだが、汗だくだくとまではいかなくてもヘルメットの中は蒸し蒸しの蒸しだ。早いところスキルオーブを手に入れてやらないといけないな、という気分にさせてくれる。
ただ、七十四層ではすでにマグマゴーレムが出してしまっているのでこの先しばらくはここでのスキルオーブはフレイムサラマンダー任せになる。七十四層のほうがモンスター密度は高いので信頼度は高まるが、ここ二日三日通ったところで出るものではない、ということは七十一層七十二層で散々体験している。
むしろ、あそこであれだけ出なかった分こっちでは出やすくなってくれていると嬉しいなあと思うところではある。もしもここで暑さに負けて俺がダウンしそうになったらミルコも焦ってスキルオーブを出す、という可能性もあるかもしれんがそれは最後の手段にしておこう。出来るだけ公平に行きたい。
南の端らしきところまで巡ったところで東方面へ、ぐるりと回る。やはり二割から三割ぐらいモンスターの出現率は高い。マグマゴーレムもフレイムサラマンダーも出会う回数はやはり七十三層より高い。その分だけ収入もあるが、目的はスキルオーブと地図作りなのでそのままサクサクとダンジョンを進んでいく。
モンスターの強さは問題にならないので地図作りが捗っていく。ここも同じぐらいの広さだとわかりやすくていいが、七十四層の広さはどのぐらいになるんだろう? という作業の最中だ。七十三層と同じぐらいの広さだとわかりやすくていいが、そうなると七十五層はちょっと広めに作ってあるかもしれないな。
ボスが出歩き型にしても、このマップの構造では大規模な戦闘をするには狭すぎる。ボス部屋があってそこにいてくれるような形式になる可能性が高いと思われる。っと、フレイムサラマンダーが早速現れたので雷撃衝でサクッと焼き終える。革が出た。
これも貴重な未来の収入源、いくらになるかわからんが耐火素材としては優秀らしいのでそれなりの金額の取引が可能だろうという希望を乗せておこう。いくらになるのかな。出来るだけ金になると良いが需要と供給考えると安いほうが世の中に広まるのは間違いないからな。
しかし、こんな深い階層で安すぎるドロップ品を、と考えると持ち帰るよりその場に捨てていくという選択肢も選べることになってしまうので、そうならない程度の金額にはなってほしいところだ。
フレイムサラマンダーがまた三匹編成で来る。七十四層で三匹来るってことは次の階層では四匹編成になるか、また新しいモンスターが現れるかという所だろうな。出来れば新しいモンスターが出来てくれる方が戦闘は楽しめそうな気がする。これでは一方的虐殺が過ぎるからな。その為にも次の階段を探さないと。
ここでちょっと休憩。経口補水液で水分とミネラルを一気に補充するとウォッシュと乾燥でワイシャツのべたつきを抑える。ここはやっぱり体に堪えるな。早いところスキルオーブを……と考えているとなかなか出ないのがスキルオーブだったな。
今は地図作りに集中しよう。戦闘しつつ地図作り。芽生さんがいる間に地図作り。芽生さんはお気楽そのものといった感じで分かれ道や行き止まりを感知しては、そっちをちらっと見て階段があるかどうかを確認してくれている。おかげで思ったよりも広いエリアを探しながら外周地図を作ることができる。
その気になればここも芽生さん一人で巡れる階層であるのだから俺が地図にある程度集中していても自分で戦闘してドロップ品を拾って帰ってきてくれるので収入面でも問題はなし。のんびりではなくテキパキと仕事にかかれるあたり、やはり優秀な相棒なのだろう。
「中々階段ないですねえ」
「まあ、まだそんなに巡ってないからな。一周して外周を作って、その後時間があれば階段を探して七十五層を降りて確認する時間があるかどうか、かな。まあ、ぼちぼちいこうや。急いで攻略しなきゃいけないわけでもないし、今日頑張ってどこまで地図が描けるかを考えて、七十四層の全体地図が出来てれば十割仕事が出来たと考えるぐらいで良いと思うぞ」
「汗だくで言われても説得力がないですが、早いことスキルオーブが出ると良いですねえ」
こればかりは運だからな。自分で生活魔法で水分補給と浄化が出来る分だけまだまし、というところだろう。いつになったらスキルオーブが出るかは解らないが、それまではこの暑さを毎回サウナを楽しんでいるということにして、精々暑さを楽しむようにしよう。
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