1374:七十三層 1
食事を終えるまでに出てきたモンスターはあのグリフォン一匹だけだった。どうやら比較的安全に食事をすることはできるようだ。
「ふむ……どうやらこの方式で問題ないみたいだな。今後はこのやり方でやっていこう。と、ミルコにも食事を届けないとな」
いつも通りコーラとミントタブレット、それと渡し忘れていたままだったナッツ類をまとめて置いて手を二拍、パンパン。すると、アイテムは消えずにミルコが直接転移してきた。
「やあお待たせ安村。七十六層まで完成したから伝えに来たよ」
そう言いつつ、早速コーラに手を伸ばすミルコ。そうか、ついにできたか。
「それはまたいいタイミングで来たものだな。ちょうど今後七十二層から七十三層以降に潜るための準備というか練習をするためにここで食事してたんだ」
「うん、見てたよ。帰り際にそれを伝えるよりも今完成したところだから早めに伝えたほうが良いと思ってね。できたてほやほやの七十三層、味わってみたくないかい? 」
タイミングとしてはバッチリだな。ピクニック練習がいきなり実践になってしまったが、七十三層に突入する流れになった。
「予定が早くなったが行くなら今の内、ということか。いいな、早速訪れてみようじゃないか、七十三層。今日はおそらく七十三層を巡るだけで終わるだろうけど、今後順番に攻略していくから問題なし、と。芽生さんはそれでいい? 」
「むしろ待ちかねた、というところですかねえ。私が就職する前に無事にたどり着けるようになって良かったというところでしょうか」
芽生さんもやる気満々らしい。これはいけるな、七十三層。
「じゃあ、せっかく作ってくれたことだし早速利用させてもらうことにするよ」
「それが僕としてもうれしいところかな。じゃあ、頑張ってね」
ミルコはお菓子を抱えると転移していった。
「さて、休憩したら向かうか、七十三層」
「マップの切り替わりは久しぶりなので楽しみですねえ。それに七十五層にはボスもいるはずです。期待は色々できますねえ」
充分に休憩して、湧いたグリフォンをもう一度倒すと、腹は良い感じにこなれた。
「そろそろいいかな」
「大丈夫ですよー。さあ行きましょうか」
七十三層に突入することとなった。ここは肌寒かったからな。次はどんなマップが来るのやら……と、階段を下りる途中で空気が変わり始めた。
一言で言うと暑い。さっきのマップが涼しかったからとはいってもこの暑さは度を越えている。まるで低温サウナに入ったような熱気だ。
「暑いですねー……ああ、下が見えてきましたよ」
「どれどれ……うわあ、またこれはこれは凝ったマップを作ったもんだな」
そこは、溶岩が横を流れる洞窟マップの変則的な場所の様だった。溶岩の上を歩いたりする必要は……さすがになさそうだな。溶岩マップと呼ぶには溶岩には近寄ることはできないらしい。その辺の安全性はしっかりととられているようだ。
「溶岩には触ることは……出来そうにないな」
手の届くところに溶岩があふれて来る、というギミックはないらしい。どうやら階層自体の熱気を表す記号としての溶岩がそこに存在する、といった感じのようだ。溶岩からモンスターが現れて来る可能性は低そうだな。
「その辺の安全設計は出来てるってことですかねえ。まあ、雰囲気は充分出てるからいいんですが」
どうやら溶岩は見た目だけのオブジェクトらしい。マップ全体が二十四層の見た目ギミックみたいなもんか。しかし、熱気自身は本物のようで、じんわりとした暑さが肌を覆ってくる。
「これは、ちょっと行動に支障が出るかもしれないな。水分とミネラルの補給は欠かせないマップのようだ。保管庫なしではちょっと厳しい環境になりそうだ」
さて、久しぶりにマップを作る準備をするか。紙とペンを出して洞窟の形を覚えていこう。
「紙とペンを出してそうそう申し訳ないのですが、先に戦闘が入るようです」
芽生さんに声をかけられて索敵に集中すると、近くに二匹の反応がある。地図の次を探すよりこっちのほうが先になるのは間違いないらしい。
紙とペンを仕舞うと、圧切を取り出してモンスターに近づいていく。モンスターは……なんだかオオサンショウウオのような形をしていた。
「うーん……フレイム……フレイムサラマンダーって感じだな。ちょっと丸っこくてサラマンダーっぽくはないが」
「サラマンダーっぽい要素が少ないんですが、どの辺がサラマンダーなんですか? 」
「昔ウーパールーパーって水生生物を買うのが流行ってな。それの正式名称がメキシコサラマンダーというんだ。だからそれにちなんで命名、君はフレイムサラマンダーだ」
「そうですか。さて撮影撮影」
芽生さんに急かされ撮影モードにしてヘルメットにマウントすると、戦闘モードにして早速攻撃を始める。まずは雷撃衝で一匹を叩いてみるが、あっさりと黒い粒子に還った。どうやらそれほど耐久力のあるモンスターではないらしい。後には魔結晶が残った。他のドロップが出るかどうかはまた別の機会で調べることにしよう。
芽生さんのほうは水魔法でスッパリと切断。どうやら火属性のモンスターらしく水魔法にはめっぽう弱いらしい。ウォーターカッターがここまでするりと切れるのは珍しいパターンだ。芽生さんもここでは戦闘でかなり役に立つような形になるだろう。
「楽ですね。このマップではかなり楽に戦えそうです。役に立てますよー」
「そうらしいな。よかったねえ自分の出番が多そうで」
ヘルメットをグリグリしてやると嬉しそうに首筋がくすぐったくなるような表情をする。そのまま首筋もくすぐってやると気持ちよさそうにしている。新しい階層に潜り始めていちゃついている場合ではないが、今ぐらいは許されているだろう。
「次出会ったらどんな行動をしてくるかと近接攻撃で対処できるかも確かめないとな」
「そうですね。とりあえずスマホはそのままで進捗を確認していきましょう」
再び圧切を紙とペンに持ち替えると、地図を描き始める。しばらく進むとまたフレイムサラマンダーが現れたので、今度は近接で倒そうと試みる。
どうやらフレイムサラマンダーも近接攻撃しかない上に、舌を伸ばして巻き取って、そのまま顎でかみ砕こうとするのが攻撃スタイルのようだ。それほど脅威的なモンスターに見えなかったのは、こっちがしっかりと七十二層近辺で戦いすぎてきているせいでもあるだろう。
カメレオンダンジョンリザードの見えてるバージョンのようなものか。引っ張られる強さもこちらで抵抗できる程度の強さのようだし、圧切でスパッと切れるのも確認した。もしかしたら雷切でもいけたかもしれない。つまり、相対的に考えても弱いということだ。
フレイムサラマンダー以外にはもう一種類モンスターが発生した。ゴーレムである。溶岩地帯のゴーレムなのでマグマゴーレムと名付けよう。
「久々のゴーレムですね。もっともこっちは赤いですけど」
「赤いな。とりあえず冷ましたらどうなるか気になるな。ちょっと水をかけてみてもらってもいいかな」
「ほいきた」
芽生さんが試しに大量の水魔法でゴーレムを冷やし始める。すると、水のジュワーッという音と共に水分が蒸発していく。それに伴いゴーレムに割れ目ができ始めやがてバラバラに砕け散った。そういう倒し方もできるのか。
「これでヨシ、なんですかね」
「いや、まだだ。黒い粒子化してない。多分普通のゴーレムと同じでコアを割らないとダメなんじゃないのかな」
マグマゴーレムのコアを探して、コアを圧切で突き刺して割ると、マグマゴーレムは今度こそ黒い粒子に還った。
「ふむ……戦い方としてはありですが、止めを刺す必要があるのは一つ面倒ですね」
「素直にコアだけ壊すのと、どっちが楽かは戦っていくうちにわかるからなんとなくで掴んでいこう」
しかし、この倒し方には問題も発生する。マグマゴーレムにかけ続けた水魔法の水蒸気で完全にこの辺りがサウナだ。
「暑いですね……赤砂の砂漠マップの時はカラッとしていてまだマシでしたが、ここだと湿気が発生して蒸すのがダメですね」
「これが続くとなるとちょっとな……ウォッシュ」
適度にウォッシュと水分補給を行って出来るだけ不快な感じを取り除きつつ進む。マグマゴーレムを冷やして倒すのはしばらくなしの方向性で行くことになった。
マグマゴーレムは次に出てきた時に試しに触れようと試みたが、近寄るだけで熱気を感じたので諦めることにした。その代わりにマグマゴーレムの核がゴーレムと同じ位置にあることを確認したので、雷切を伸ばしてそこまで突きに行ったところ、結構簡単に割ることが出来た。
芽生さんなら核に直接ウォーターカッターで切れるだろうから何とかなりそうな気がしてきたな。次が出てきた時に試してもらおう。
モンスターの出現割合としては、フレイムサラマンダーが四でマグマゴーレムが一ぐらい。流石に最初の層だからか、モンスターの出現率もそれなりに少ない。今日の内に七十四層への階段ぐらいは見つけてしまえそうだな。
「さて、時間がたっぷりあることだししっかり迷って地図を作り上げていくことにしよう。どうせまだ金にならないマップだ。モンスターも今のところは二種類だけだし、まだドロップ品も定かじゃない。順番に拾い集めていくことにしよう」
◇◆◇◆◇◆◇
マグマゴーレムは何も落とさないことがわかったが、フレイムサラマンダーのほうはドロップ品があった。久しぶりの革のドロップだ。全体的に赤く、見るからに炎耐性がありそうなドロップ品だった。フレイムサラマンダーの革、ということで間違いないらしい。
「これはなんか防火服とかに効果がありそうですね。大きさはワイルドボアと同じぐらいでしょうか」
「五十デシだっけ。でも縫い合わせとかどうやるんだろう?同じ革で紐を作って縫い合わせる形になるんだろうか。それともそこだけ金属を使うんだろうか」
「作り方はともかく、この革の薄さで耐熱性があるというのは中々面白い話ですね」
芽生さんがぺろーんと革をいじりだす。分厚さはほとんどない。そのまま手袋にするにも問題なく出来るような薄さだ。羊の革とかそんな感じの薄さで出来ているのだろう。
「うむ……これならそれほど運搬の邪魔にはならないからそれなりの金額で取引……いや、場合によってはかなりの値段になるか? まあサンプルは多いに越したことはない。出来るだけ数を集めてギルマスに渡すことにしよう」
ドロップ率は二割という所か。しかし、しばらくはうま味の無い階層になるのは違いないだろうな。なにせポーションが落ちたとしてもここで予想されるドロップは若返りらしいポーション。そのポーションの治験が終わって値段が定まるまではここのドロップは魔結晶の金額分しか収入にならない。
「うむ……しばらくはこの魔結晶だけが収入の頼みになるな。新年早々世知辛い金額になりそうだ」
「稼ぐのは七十一層と七十二層だけってことになりそうですね。ポーションの査定が終わるまでは我慢というところでしょうね」
「しかし、ポーションと魔結晶だけ……まあ革もあるが、これだけというのは前の階層で色々出た分の反動ということだろうか。前の階層では色々出たからな。査定がまだとはいえドロップ品について色々考察するのも必要なことだろうが、マグマゴーレムは何も落とさないだろうからこっちはスキルオーブに期待かな」
マグマゴーレムから落ちそうなスキルオーブ……やはり【物理耐性】だろうか。でもそれだと芸がないな。もっと違う形のスキルオーブがドロップしても面白いだろうな。
「この環境だと熱耐性とかそういうスキルオーブが欲しいですね。熱くても寒くても耐えられるような奴が欲しいです」
「そうだな、そういうのが用意されてると良いけどな。しかし、風邪ひいて体温が上がった時なんかはどう作用するんだろうな。変動しなくて病原菌がいつまでたっても体から抜けきらないとか新しい問題が出そうだ」
「その時はキュアポーション飲めばいいのでは? お腹は空きますが多分一発で治りますよ」
「それもそうか……ならそういうスキルがあることに期待して戦い続けるとするか。ボス倒して七十六層まで潜るころには一回ぐらいドロップはするだろうし、ボスを倒せばその分のボーナスで二人そろえられる。やり様は色々あるはずだから一つ一つこなしていこう」
まずはこの七十三層の階段の位置を確認することが先か。モンスターが少なめの新規マップ一層目であるここなら、戦闘回数が少ないうちに階段を見つけてしまおう。時間的に余裕があるなら七十四層も覗いてみたいところだ。
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