1364:荷物整理は大変面倒くさい
芽生さんの家を出て駅のほうへ向かう。車で帰っても良かったが、人の目が多いかどうかわからない所で社用車を出して運転する危険性は十分認識しているつもりだし、そこまで駅から遠くない。歩きながら色々考え事をする。
芽生さんと同棲、いや今のところ半同棲というところか。俺も覚悟をきっちり決めた訳ではないが、ちゃんと言い出さないといけないタイミングではあったと思うし、ダラダラとしながら今の関係を続けるよりははっきりとしていいと思ったからこその提案。だから後悔はしていない。
流石に旅行を終えて冷静になった芽生さんからいろいろ言われたものの、一歩進んだという点では問題ないはずだ。
後は結衣さんにそれを報告して、どういう反応が返ってくるかを考えるのと、俺の荷物を片付けないといけない、というのが残り今年の日課か。
流石に明日すぐにダンジョンに行ってお土産渡しに回っていく……という体力は残っていないと思う。今日明日はゆっくり休んで、旅行疲れも取りつつのんびりするのだ。
疲れを癒すために後半の旅行へ行ったわけだが、やはり家が近づくと誰もが思う。やっぱり自宅が一番いい。
そんな事を考えながら最寄り駅までたどり着き、コンビニで夕食をじっくり選んで調達する。ここのところ舌が肥え気味だからな、味が薄いものはやめて、濃いけど量がちょっと少な目のものを、としばらく悩んで購入。
そのまま家へ……と、家には電気がついていた。あれ? 点けっぱなしで出かけたのか俺。家の鍵を開けてはいると、リビングには結衣さんがいた。
「おかえりなさい、お仕事と旅行はどうだった? 」
「あぁ、結衣さんが来てたのか。てっきり家の電灯をつけっぱなしで出かけてたのかと思ったよ」
「芽生ちゃんから今日中に帰るって話を聞いてたから待ってたのよ。その割に遅かったけど? 」
「芽生さんの家で荷物整理とちょっと話し合いをしてた」
結衣さんの前にお土産をずらっと並べる。お土産の中ではブルーベリーとバナナとブドウには興味津々の様子。
「これが熊本第二ダンジョンの売りのドロップ品? 値段もそこそこしそうだけど」
「まあ、今のところ希少品でもあるからな。査定価格はそれなりだったよ。まだ世の中に浸透するには時間がかかるかなって感じ。ただブドウは早々と買い手がついてるような気がするな。ダンジョン産ドロップ品で出来たワインとか、世の中にはまだ存在しない新しいワインになるから出回るなら味が楽しみではある」
「なるほどね……これ、私たちのパーティー分はもらっていっていい感じ? 」
「そのつもりで持って来たし、人数分は充分あると思う。好きなだけ持っていって」
結衣さんは一つ一つ検品しながら、人数分以上にあるブルーベリーだけはパッケージを開けて中身を確認。齧りついた後美味しそうに一つ丸ごと食べ終えると、バナナとブドウを人数分確保。後は駅で買ったお土産をいくつか物色しながら話す。
「さて、芽生ちゃんとどういう話をしてたか詳しく聞きましょうか。わざわざ向こうの家でまで相談してたってことは、同棲しないかとでも伝えたの? 」
「そんなピンポイントな聞き方されると、まるで芽生さんから相談があった、みたいな予想がつくんだけど」
「安村さんがご想像の通りで。芽生ちゃん、本当に自分で大丈夫なのか不安がってたわよ」
「うーん……いいタイミングで伝えられたような気はするんだけどなあ」
やはり結衣さんには相談していたのか。もうちょっと早く帰ってたら結衣さんが後からくる話になっていたのかもしれないな。夕食を買ってる間に先に来られた、というのが正しい所なのかもしれない。
「ちなみに、私が来たのは随分前だからね。むしろここでテレビ見てたら芽生ちゃんからレインで連絡受けてちょっと驚いていたところだわ」
「まあ、旅行中に急に言い出したようには見えたのかもしれない。かなり雰囲気のいい旅館でさ、露天風呂で二人ゆったりしながらいい雰囲気になったので今が言うチャンスかも、と思って切り出したわけなんだけど、もっとちゃんとした機会のほうがよかったのかなあ」
「芽生ちゃん、いまになって私でいいんですかね? って不安そうにしてたから宥めてはおいたけど」
「ありがとう、手間かけさせるね」
結衣さんにはアフターケアまでしてもらったわけか。これはおみやげ以上のお礼が必要だな。
「で、私はパージされるの? それともダラダラと関係を続けるの? そこだけは、はっきり聞いておきたくなってきたわけよ」
あっけらかんと言うようなセリフだが、声はちょっとふるえている。多分、俺の口からちゃんと聞きたいんだろうなあということは伝わってきたのではっきり言葉にして伝えることにしよう。
「パージしない、ダラダラと関係も続けない、きっちりと関係を続けていきたいと思ってる」
「それ、向こうの親にも言えるの? 」
「向こうもうっすら知ってる、というか芽生さんのお母さん、暦さんっていうんだけど、そっちにはもう話は通ってるらしいんだよね。後はお父さんとお爺さんがどう言いくるめられるかにもよるんだけど、道場でしばかれる程度のことは覚悟してるつもりだ」
「そう……なら、いい、のかな? 」
「ほかのパターンを知らないからな。良いか悪いかなんて本人同士が納得してるかどうかでいいんじゃないかな。少なくとも俺はそう思ってる」
俺と芽生さんと結衣さんが三人とも幸せでいられる関係なら俺はそれでいいと思ってるのでそう返す。もし結衣さんに他にもっと幸せになれるような未来が見えるならそっちを選択しても構わないとは考えてはいるが。
「まあ、覚悟が決まってるならいいわ。私も半同棲ってことでちょくちょく来ることにしようかしら。朝が忙しくなりそうだけど構わないわよね? 」
「むしろ、今まであんまり来なかったのが不思議なぐらいだからな。鍵はもう渡してあるわけだしもっとちょくちょく来るもんだと思ってたよ」
「お互いダンジョン活動もあるしね。朝から厨房が忙しくなるのはお互い大変でしょ? 」
「まあ、言わんとしているところはわかる。けど、別に気にしなくていいんだから今後はもっと来てくれると、芽生さんの慣れにもかかわってくるから有り難いかな」
結衣さんが頻繁に来るようになればつられて芽生さんも来るようになるかもしれない。徐々に慣れてもらうことが必要なのだからそのきっかけになってくれると幸いだ。
「そうね。とりあえず……夕食はどうするの? 」
「ああ、コンビニで買ってきたからそれで済まそうとは思ってたけど……何か出てくる予定でもあるの? 」
「それじゃあ早速第一弾ということでわたくし結衣ちゃんの腕の見せ所と行きますか」
早速何か作ってくれるらしい。夕食は置いといて、お腹が空いたらつまみ食いする程度にしよう。
「じゃあ早速何かお願いしようかな。食材は……保管庫に入ってる物もあるからあれば出すよ」
「そうね、旅行で重たいもの一杯食べてきてるだろうし、シンプルに食べれてそこそこお腹に溜まるものあたりがいいかな。それでいてお腹を空かせてる人を長時間待たせるのも悪いし……よし、決まった。冷蔵庫漁るわね」
「ご自由にどうぞ」
結衣さんにお任せしすると、うどん麺の生はないかと要求されたので保管庫から取り出して渡す。うどん麺を焼く香りと醤油のいい匂いが漂ってきた。どうやら焼きうどんをサクッと作ってくれるらしい。作ってもらった食事に文句は言わない。大事なことだ。
しばらくして、はんぺんとキャベツ、ネギの醤油風味の焼きうどんに、最後に生卵を乗っけたものが出てきた。
「かき混ぜて食べて。なんちゃってかまたま焼きうどんを作ってみた」
「では早速いただきます」
ちゃんとだしの素も入れてあるのか、醤油と卵かけうどんだけではない風味が全体にまとわりついていて美味しい。即興でこれだけ作れれば……いや、新浜パーティーではこれが基本食なのかもしれないな。中々にあなどれないな、新浜パーティーの飯。
これを食って毎日探索に出かけているのだろうから、その食事の満足度は高いものだと言えるだろう。一食分だけだが、きちんと噛んで味わって、それでもちょうどお腹が空いていたからか、程よく胃袋を満たしたところで食事はなくなってしまった。
「美味しかった。だしが効いてるのが特によかった。はんぺんにもしっかりと絡んでいたし、かまたまうどんとしても出来がいいし、もうちょっと食べたかったけど充分楽しめたよ」
「それは何より。じゃあ、おみやげも受け取ったことだし私は帰るわね。明日の探索でみんなに分配しないといけないし。悪いけど洗い物はよろしくね」
「泊まっていかないんだ? てっきりそのまま一晩居るかと思ったのに」
「私たちには私たちの予定があるからよ。それはまた今度。それに、今日泊まっていったら芽生ちゃん拗ねちゃうかもしれないし、そこは気を使ってあげないと」
なるほど、そういう気の回し方もあるわけか。今後は二人区別ないように接するつもりではあるんだが、落ち込んでるならそれなりにフォローを、という調整を買って出てくれた結衣さんには感謝しないといけないな。
「じゃあ、気を付けて帰ってね」
「うん、また遊びに来るからその時は泊まっていくかも」
ちゃんと次は泊まりで来るから、と念を押すあたり、結衣さんも強くなったなという感じがする。玄関までちゃんと見送り、車が出ていく音を確認してから再び我が家に静寂が訪れた。
さて、荷物の片付けと食事の洗い物と服の洗い物と……やることはいっぱいだな。日帰り旅行じゃなく長期旅行の後片付けは面倒くさい。が、やらないと溜まっていくものでもあるからきちんと今日中に済ませて明日一日ボーっとするのだ。
まずは洗濯物からだな。二、三日キャリーケースに入れっぱなしでビニール袋に包まれていたとはいえ、それなりの時間熟成されてしまっている。これの匂いをしっかりと落とすところから始めないといけない。ちょっと洗剤と芳香剤を多めに入れてまとめて洗濯。スーツを着替えてウォッシュすると、綺麗に並べてこれも数日このまま並べておく。次に使うのは三日後以降だ。
細かいゴミ類は……ああ、明日が燃えるごみの最終日だな。さっさと片付けて綺麗にしてしまわないと。後は冷蔵庫の中をチェックして、新しい命が生まれていないかどうかを確認。大丈夫だったので冷蔵庫は問題なし、と。
いやまて、問題があった。牛乳が賞味期限切れだった。これは仕方ない、捨ててしまおう。流しに水と一緒にじゃーっと流してしまい、明日の休みにでも補充しに出かけよう。食パンと卵とキャベツはまだまだあるので、買い出しは足りないものだけ買い足す方向性でいこう。
後は……やはりもうちょっと食べたかったので購入してきた夕食を少しだけ食べることにする。弁当とサラダを買ってきたので、弁当は明日に回してサラダだけいただくことにしよう。
それから、小西ダンジョンのスレッドを覗きながらサラダを食べる。どうやら特に問題もなく運営されていたようだ。いない間に事件、みたいなことはなかったらしい。まあここ三週間特に問題もなく金だけ稼いでいたことを考えると、また変なイベントを催してその間に新しい階層を作る、なんてことはないらしい。
一通りの片付けと空腹を満たし、ようやくいつもの日常が戻ってきた、という感じがしてきた。あと今年も残りわずか。年末年始はどうしようかな。まるっと休むわけにはいかない。少なくとも年が変わった段階で確定申告用のリストをお願いしないといけないし、布団の山本にも確認のためにいくら取引したかの証明書を発行してもらう必要がある。それがなければ税金もちゃんと納めるにも面倒が多い。
後の収入というと……爺さんに渡したエンペラの取引額もあったな。これも消費税がかかる卸しになるはずなのできっちり領収書を残しておいて税理士さんに伝えておかなければいけないな。
年末年始は誰もが忙しい、というのは俺にも当てはまるようだ。そんな中でも休憩する時間は必要。明日一日時間を空けて、旅行疲れをしっかり癒してからダンジョンに挑むことにしよう。あ、芽生さんにも明日は休んで明後日は行く、ということを伝えておかないとな。
芽生さんから返事。「明後日は行きます。それで仕事納めって感じにしておきます」とのこと。それまでに多少立ち直ってくれると嬉しいが、できるならそのまま泊まっていってくれて、慣れてくれると良いんだけどな。
風呂を沸かして入りつつ、ぼんやりと物事を考える。後二ヶ所のダンジョン建立が終われば俺も晴れてフリー。その後はダンジョン庁が率先して動いてくれることになるだろうから俺が関わらなきゃいけないような話は出てこないはず。
新ダンジョンも年が明けてしばらくすれば、おそらく一般開放されるようになるだろう。そうすれば新しい店舗の目玉や地方の出勤先として、新しいダンジョンが扱われることにもなるかもしれない。
来年もダンジョンは忙しいことになるだろうが、今が稼ぎ時としっかりと来年の稼ぎに胸を膨らませつつ、旅の疲れを癒すことにする。やっぱり自宅のふろが一番ゆっくりできるのは、間違いないらしい。
さあ、風呂から上がったらまずはトレントの実のドライフルーツを作って、それから寝るとするか。明日の朝に収穫すればいい感じになるだろう。年末はやはり忙しいようだ。
というわけで旅情編RTAでした。突き詰めればもっと早くなると思います。
作者からのお願い
皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。
続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
後毎度の誤字修正、感謝しております。





