1361:まっったり
雰囲気のある古旅館の風呂でほのかな光の中で、言葉を伝えた。いつか言おうと思っていたことだが、今日このタイミングでうっかり口から出てしまった。
「洋一さんの家のほうですか? それとも新居で、ですか? 」
芽生さんの目がらんらんと輝く。
「どっちでも同じだ。今後もある程度は同じように暮らしていくんだろうし、部屋を引き払うなら荷物置き場も必要だろう。その点こっちにはもう芽生さんの部屋と呼んでもいいような部屋が出来上がってるから荷物さえ運べばもうそこは芽生さんの部屋だし、朝一緒に探索に出かけることもできればそれぞれ別で過ごして家から通学してくれてもいい。どうだ? 」
芽生さんが目をごしごしとこすり始めた。その後しっかりこっちを見つめ直して言葉を続ける。
「それは、結婚を前提に、という流れですか? 」
「俺は構わないと思ってる。後はいつまでこの関係を続けるかどうかだ。だからこんな雰囲気のいいところで雰囲気良く格好つけて言わせてもらう。一緒に暮らさないか? 毎朝一緒のトーストを食べたい」
「そこはお味噌汁ではないんですね」
「今日の朝、ホテルビュッフェで久しぶりに飲んだぐらいだからな。味噌汁にはそれほど興味はないけど、毎朝同じように焼いたトーストと目玉焼きとキャベツ。芽生さんが作るならもう一品増えてくれてもいい。どうだろう、考えてくれないか」
芽生さんはうつむいて少し考えた後、言葉を切り出し始めた。
「私、結構お寝坊さんですよ? 」
「時間になったら起こすから」
「寝る時間も結構中途半端ですし、洋一さんの睡眠時間が削られるかもしれませんよ? 」
「先に寝るかもしれないができるだけ同じベッドで寝たいところだな。前向きに検討しよう」
「それから、それから」
芽生さんは一生懸命理由を探している。そんなに嫌なんだろうか。
「その辺は戻ってからゆっくり考えても遅くはないと思う。ご両親に相談してくれてからでもいいし、お試しで頻繁に遊びに来て自分の部屋の使い心地とか荷物の量を考えてからでもいい。もう合鍵は渡してあることだし、自由に見積もってくれていい」
「引っ越し手伝ってくれます? 」
「ちゃんと家の場所を教えてくれるなら保管庫でササっと終わらせよう」
「それから、えっと……」
「落ち着け、大分頭が空回転してるぞ。後、のぼせてるのかどうかまでは解らんが、顔が大分赤いぞ」
芽生さんがハッと自分の顔の熱さに気づいてほっぺたをこすりだす。
「それはあれです、温泉の効能のおかげでお肌がきれいに血行が良くなってるからですよ」
「そうか、ならいいんだが、のぼせた場合は全裸のままベッドまでお姫様抱っこで運ぶところだった」
「なるほど、そういうプレイもありですか。のぼせればよかったですねえ」
芽生さんが顔を伏せてしばらく返答を待つ。
「よろしく……おねがいします」
「じゃあ帰ったらご両親にお土産を持っていくついでに報告、ってことになりそうだな。俺はついていったほうがいいか? 」
「いえ、それは自分で決めた道なので多分反対はされないと思いますし、洋一さんの顔通しも終わってますから、来たいと言ってたけど押しとどめてきたとでも伝えておきます。それにしてもいきなりですね」
「前から考えてたことではあるからなあ。このままの関係でずっと続けるのか、四月からお互い別の道を選んでいくのか。一人で探索してる時にも思うんだよ、一人で巡ってると寂しいと。やっぱり頼りになる相棒が近くにいてくれることがどれだけ頼もしいのかというのがわかってきた。いや、改めて思いなおしたというか」
ここが風光明媚でどことなく何処かのダンジョンのマップにありそうな雰囲気を醸し出しているのも原因かもしれないが、自然に口に出ていた。後はノリに任せて言い切ってしまった。芽生さんからそれでいいと返事をもらえて良かった、というところだ。ここで断られていたら芽生さんとの関係は普通の男女関係になるのか、それとも仕事仲間としての関係に戻るのか、完全に縁が切れることになるのか。
良い風に転んだから良いものの、これで同棲はNOとか言われたらちょっと困る所でもあったのだが、雰囲気で押して正解だったか。これで懸念事項が一つ解決した、と思っておこう。後は芽生さんがどのタイミングで引っ越ししてくるかだけだな。この後は楽しい時間になりそうだ。
「しかし、改めて思いますが私、合鍵貰ってる割にあんまり御厄介になってませんね。今後は一緒に暮らすんですから問題ないのかもしれませんが、しばらくは借りてきた猫の子になりそうです」
「それはあるかもしれんな。まあ、引っ越しした後はだいたいそういうもんなんじゃないのか? 頑張って慣れてくれ。もしくは新住居に引っ越すまでの辛抱だ」
「決まると良いですねえマンション。最新設備の最新マンションになるかまでは解りませんが、新居としてこれ以上立派な物件はそうそうないでしょうし」
芽生さんがようやく持ち直したのかうーんと伸びをする。肩が揺れ、肩と共に胸も揺れる。浮いてる……というほどまではないが、ほんのり浮かんでいるようにも見えるな。やはり大きいと浮くのかな。芽生さんは大きいほうとはいえ小柄だから大きく見えている部分もある。そこで大きさを計るのはちょっと違う気がするが、俺としてはこれだけあればもう十分というぐらいにはある。
俺の視線に気づいたのか、胸を持ち上げてうりうりと見せつけて来る。
「これもしばらくは洋一さんのものですよ? 嬉しいでしょう? 」
「あぁ、嬉しいな。早速頂きたくなるぐらいには嬉しい」
「体も心もあったまりましたし、今夜は頑張りますか」
「ほどほどにしておこう。いつもみたいに朝までってのはちょっと明日に響きそうだ」
今朝コンビニで補充したので残弾はある。一晩頑張らなくてもほどほどのところでやめることにしよう。
「じゃあ、私はのぼせたふりをするのでお姫様抱っこでベッドまで連れてってもらいますか」
「では、お言葉に甘えて」
芽生さんの耳の上を掻き上げるように手を当て、軽く唇にキスをすると、そのまま芽生さんを持ち上げて部屋の中に入っていく。ウォッシュで二人分の水分を吹き飛ばすと、ベッドに横たえる。
「さあ、どこもかしこも洋一さんの物ですよ、たっぷり愛してくださいね」
◇◆◇◆◇◆◇
アラームで目が覚める。あの後日付が変わるぐらいまで頑張って、今日はダーククロウとスノーオウルの布団を使わずに旅館の高級布団で裸のまま寝た。頑張ったほうのベッドはいろんな汗や汁やらでまみれているので、ウォッシュをかけて一応は綺麗にしておく。
芽生さんはまだ夢の中。と、朝の寒さが少しだけ部屋の中に入ってくる。流石に少し肌寒いか。エアコンの温度設定をすると、浴衣を着直し始めると、俺の身動きで目が覚めたのか芽生さんも起きた。
「おはようございます。昨晩はお楽しみでしたね」
「お互いにな。芽生さんの弱点を昨日は二ヶ所も見つけたぞ」
「私も洋一さんの弱点を一つ見つけました。次回が楽しみです」
お互いに顔を突き付け合わせ、ニンマリするとそのままキス。軽くのつもりだったが芽生さんが舌を入れてきたのでそのまま濃厚なキスに変わる。一分ほどお互いの唾液を交換し合った後、唇を離して身支度の準備を始める。
「朝ご飯は何時なんだっけ」
「そういえばお腹も空きましたね。昨日あれだけ食べたのにしっかり運動したおかげでまたお腹が減ってきました」
芽生さんが時間を確認する。
「もう一風呂浴びてからでもいけそうですね。朝風呂を楽しんでから行くことにしましょう」
「そっか。じゃあ俺も入っていこう。流石に朝から一発、とまでは時間がないだろうけどゆっくりお湯に浸かるだけなら時間はあるってことだな」
二人で朝風呂を堪能し、時間になったところで食事処へ行く。朝のメニューは……こちらも中々の飾りっぷりだ。朝早くから仕込みを済ませて映えを意識した食事作りに専念してくれたんだろう。板長さんありがとう。今日もいただきます……をするまえに芽生さんは撮影から入りだす。俺も食べる前に一枚撮っておくか。
食事のほうは一風変わったワンプレート料理のような感じ。一枚の大皿の上に小鉢に分けられたそれぞれの食材が鎮座し、大皿の外には生卵と吸い物。それとご飯。焼き魚、おそらく昆布締め、それから楓の葉っぱの形をした何か、明太子、からしレンコンなどがあり、全てがご飯のお供になるがごとき食事となっている。
普段パックで買ってタッパー容器に詰め替えて何日かにかけて食べるような食品でも、飾り方と味付けでこんなに見映えがするようになるんだな。こういう調理法もあるんだと考えると、普段の自分の趣味料理が寂しいものに見えてしまう。
「流石に夕食と違って食べきれない、ということはなさそうですがご飯のお代わりは確実に欲しくなりますね。これだけのおかずでご飯一杯では少ない気がします」
散々運動して朝から元気な芽生さんがモリモリと食べ始める。一日の元気は食事からだ。俺も負けじと食べていこう。ちゃんと食後のデザートもあるらしいのでその分は空けておこう。ご飯を一杯お代わりし、すべて平らげたところでデザートのプリンと最中。
最中には自分で乗せて食べてくださいと言わんばかりの甘く煮たあずきが付属していた。あずきをサクサクの最中の背中に乗せて食べる。最中も出来立てなのかサックサクだった。ここまでサクサクの最中は最近でも食べてない気がする。ここで焼いたんだろうか。デザートも美味しく楽しめた。
食事を終えて満足。後はチェックアウトの時間まで荷物の整理をするぐらいか。芽生さんは昨日とは違う服を着ていた。俺はスーツは同じだが下着やワイシャツはちゃんと替えている。なのである意味では俺も昨日とは違う服。スーツにはしっかりウォッシュをかけてあるのでまだほぼ新品を保っている。
「帰りのご予定は? 」
「バスが決まっているので、それまでにチェックアウトして早めにバス停周辺まで送ってもらおうかと。時間があればついでにお買い物、そのぐらいですかねえ」
「じゃあまだゆっくりできるのか、それとも早めにお願いするかだな。どうする? もう出ちゃってお店が開いてたら買い物していく? 」
「そうですねえ……うーん、早めに出ちゃいましょうか。乗り遅れることに比べれば数倍マシですから」
予定より少し早くにチェックアウト。バス停までの車を手配してもらい、黒川温泉駅のバス停まで乗せて行ってもらう。昨日の運ちゃんと同じだった。
「ゆっくりできたかい? 」
「おかげさまで。久しぶりの休暇を楽しめましたよ。機会があればまた来ます」
「それは何よりもありがたい一言だね。またおいでよ、まだ見どころは一日では回り切れないだろうしさ」
バス停に下ろされて、一時間半ほど暇な時間になったが、この辺りの店は九時には開いているらしく、土産物屋が軒を連ねていたので表を通りがかりつつ、気になった店には入る。そして食べたいものは食べる。ここで味わっておかずに後で後悔するよりは、味わっておいて肉がついて後で後悔するほうが肉が付く分お得だ。
付いた肉はダンジョンで落とせばいいので二重に効率がいいことにしておこう。シュークリームやメンチカツ、コーヒーフロート等を楽しみ、お土産も買って帰ることにした。コーヒーショップがあったので結衣さんに豆のお土産も買っていこう。好みが違ったらまたその時考えることにして、値段よりも口当たりを重視して品目を選ぶ。
酸味が効いているもの、コクの強いもの、苦味の強いものをそれぞれ選んで会計。どれかは好みに合うだろうから数打って一つ当たればいいし、好みが分かれば次回コーヒー豆の差し入れをする時にも適切なものを渡せることだろう。
芽生さんは散策兼おやつモードで色々見回っており、フラフラと店に入っては何かしらのお菓子を買って帰ってきている。荷物は何処かのタイミングでシュッと回収してしまおう、シュッと。
時間目一杯ショッピングを楽しんだところで良い時間になったので再びバス停へ戻る。バス停にはそれなりの観光客が待っており、やはり日本人は少な目。ここも外国資本の波にのまれるようになってしまうのだろうか。その頃までにもう一回来れると良いな。
帰りのバスで芽生さんは食事疲れか熟睡。起こすのも悪いのでそのまま阿蘇駅まで運んでもらって、到着寸前に起こす。荷物はバスに乗っている間に少しずつ保管庫に入れていったので、じっと観察してないとわからない程度には荷物を減らすことが出来た。後は帰るだけだな。
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