1357:少し和んで、お別れ
「早速だが、一杯やらせてもらうぜ。安村もどうだ? 」
ガンテツがビールの缶をあけて早速一杯やりだす様子だ。自前のスキルでビール缶を冷やし、キンキンに冷やしてから飲もうとしている。ダンジョンマスターにとっては温度変化も自由自在ということらしい。
「仕事上がりに俺も一杯……と行きたいところだが、時間が時間だ。泊まっていくわけにもいかないし、芽生さんもそろそろスッキリしてるだろうからな。起こして帰らないと。それに酒を呑んで車を運転するのは違反になるから。そいつはしっかり自分で味わってくれ」
「そうか、ギリギリのスケジュールで来てくれてるみたいだし留めるのは申し訳ないな。今日は助かったぜ。後は……後はなんとか自活していくことにする。地元の探索者にも顔つなぎは必要だろうしな。ここで主に攻略していた緒方はどこかに行ってしまって帰ってこないしな」
「その緒方さんのパーティーだが、今小西ダンジョンに居るみたいだぞ。潜り始める時に挨拶をされた。そのまま居ついている可能性は高い。どうも一番深いところまで潜ってくる気満々らしいが」
緒方さんの目的はどのあたりにあるんだろうな。古いダンジョンの再踏破にあるのか、それともAランクとして旧型ダンジョンの何処の階層まで潜れるのかチャレンジしているのか、それとももっと他に目的があるのか。
「ふむ……自分よりランクが下で自分より深く潜れているって状況が気に入らないのかもしれねえな。緒方は上昇傾向が強いんだ。既存のダンジョンでも三十八層で終わりではなく、もっと深くに潜っていって探索者ランクが高いだけでなくちゃんと実力もあるってことを見せつけたいのかもしれねえ。さすがに勝手にダンジョン踏破するような奴だとは思えねえが」
「なるほど、会談で俺が顔を出したのが何かしら刺激してしまったってことになるのか」
「まあ、そういうことになるだろうよ。直接的に手を出してきたりとかそういう手段に出ることはないとは思うし、まあ探索者の頑張りあいで張り合うってところだろうな。精々頑張ってくれ」
「まあ、まだ時間はあるだろうし彼らの頑張り具合にもよるだろう。あまり気にすることではないということは解ったよ。普段通りにしてればいいってことだろ」
「安村の場合はそれでいいだろうな。そうしていることが一番彼らに対しても刺激になるだろうし、小西ダンジョンとしても探索者が増えて魔結晶の搬出が増えることは悪い話にはならないだろう」
あまり細かいことは気にせずにしてればいいということだな。そういえば、白馬神城ダンジョンと別荘ダンジョンの攻略をしたAランクパーティーは今頃どうしているんだろう。他の場所に拠点を移して戦い合っているのか、それともAランクに満足してしばらくのんびりしているのか。
まさか全員が揃って小西ダンジョンに潜り始めるということはないだろうな。そんなことになったら最下層が現状七十二層にあることがばれてしまうし、必要以上のダンジョンマスターの接触のことも公になってしまうだろう。
それに、メディアに映ってはいないとはいえ翻訳者おじさんとしては既に小西ダンジョンについてはもう特定されてしまっているのだ。これからもAランク探索者が集まってくる可能性もある訳か。
今後の俺の動きに対して何かリアクションが行われるという可能性は低いが、いつも通りにやっていればいいということだろう。
「とりあえず芽生さんを起こすか。芽生さん、そろそろ帰るよ」
「うん……あれ、寝ちゃってましたか。ガンテツさんこんばんわ」
「文月もお疲れみたいだし、ここでお開きにするか。今日はご苦労さんだったな」
「お土産は後でしっかり頂きますので感想はまた機会があればということで」
「おう、味の人気は他の探索者からでも楽しめるからな。悪い話は聞かないから多分美味しく出来ているんだろうとは思う。気を付けて帰れよ」
ガンテツは酒を一気にしまうと、一缶開けたビールを一気に呷ってくはーっと息を吐いた後、転移していった。
「お話は終わったんですか? 」
「芽生さんがうつらうつらしてたんでスノーオウル枕でひと眠りしてもらってる間に。大分スッキリしたでしょ? 」
「久しぶりに味わいましたが、これはスッキリしますね。体の疲れは何となく残ってますが、眠気はほぼ取れた感じがします。これを常用してたら絶対体壊しますね」
「特注だからな。多分まだこの辺には一個しかない特別製だ。芽生さんの分として作った前のサンプルは素材に戻してもらったからこれは俺専用の緊急用だ」
「お話も終わったようですし、帰りましょうか。帰りの便はちゃんと残ってるんですかねえ」
「どうかな。タクシーぐらいは残っててくれると嬉しいが」
周りはどうやら寝静まってくれているようなので、安心してテントを保管庫に直接収納して、跡を残さないようにしてからエレベーターへ向かう。二十一層までは来れたのだから多分真面目に探索をしてれば二十八層まではたどり着けるんじゃないか? という疑問はまだ残るが、新熊本第二ダンジョンの新規階層開拓は他の探索者に任せることにしよう。
よそからきて勝手に踏破していって……というのは好まれない所だろうし、俺自身も率先してそれをするつもりはない。なら、ここで対話することでちょうどよかったんだろう。さて……一休憩して俺も体力が少し回復した。このままエレベーターで一層に戻って、ホテルに帰るぐらいの体力は残っているはずだ。
エレベーターに乗り込んで二十一層から一層までの分の魔結晶を投入。ボタンポチ。料金は小西ダンジョンとほぼ同じらしい。そこそこの収入を得ることは出来たので安心して戻れるな。
「地上に戻ったらリヤカー借りてきて。その間にこっちは荷物を色々誤魔化す用意をしておくから」
「解りました。で、どうだったんですか手ごたえのほうは」
眠っていた間に起きたことを簡単に報告。どれも高級食材としてプレゼンしたが、出しにくそうなものもあるんじゃないかという感触を得られたこともあり、全てが全て採用される可能性はそれほど高くはないということも見込んで、キノコ類は何とかなりそうだが熊の手は微妙そうは雰囲気を感じ取れたことなんかを話しておく。
「たしかに、熊じゃないモンスターが熊の手落としても不思議でしょうし、熊が出そうな階層ってどこにありましたっけ? 」
「うーん……花園マップか霧のマップか、その先はちょっと怪しいだろうな。体内マップに熊が出る……というのもインパクトとしてはありだろうが、体内マップまで出来上がってるかどうかも解らんうえに、もしかしたら今ミルコが作っているマップあたりまで作り込む予定が立っているとすると月面熊なんて可能性もある。それはそれで楽しそうだから良いが」
まあ、細かいところはガンテツが考えるだろうから問題ないだろう。これ以上は俺が口を出したり考えを出したりする場所じゃないはずだ。後のことは任せて、俺達は後は適当に観光して帰る。それでいいんじゃないだろうか。
「さて……予定よりは少し早くなったがこれで無事に帰れるのは良いことだな。今回の第二目標は達成ってところだな」
「第三目標は何ですか? 」
「そりゃ、芽生さんおすすめの観光ガイドを楽しむことだな。後はそうだな、お土産は既にある程度保管庫に詰まっているから、それ以外に観光地でのお土産を仕入れて持ち帰って、行くのが第四目標かな」
「それは私に随分負荷がかかる話ですねえ。でもまあ、予約もちゃんととってありますし、お薦めの家族温泉も仕入れてそこに宿泊するようにしましたから大丈夫ですよ」
芽生さんおすすめの旅館ということなのでそこに泊まることになるんだろう。今日を含めて後二泊三日ぐらいはゆっくりできると考えておこう。
エレベーターが一層に着き、芽生さんに先に行ってもらってリヤカーを借りてきてもらう。受け取ってきてもらったリヤカーに種類ごとに仕分けをして載せていく。魔結晶はさすがに乗り切らないので一部は手持ちにする程度にはかなりの量にはなった。やはり後半戦で拾ったドロップの中ではブドウが一番体積を所有している。
他のドロップ品は手持ちのエコバッグにある程度収納できるものはあるが、ブドウとイチゴでほとんどリヤカーはいっぱいになった。これで後はポーションだが、ポーションが一番金になるのは間違いない。しかし、食品ダンジョンとしては食品自体を産出することが目的なのだから、ポーションはもうちょっと少な目、もしくはランクが低めでもいい気がするな。
荷物をなおすと退ダン手続きを行い、査定カウンターまで荷物を運んでいく。両手にのしかかる魔結晶の重さが少しだけ懐かしさを感じさせる。出入口から指の千切れそうな思いをしながら運んだこともあったなあ。
全て査定カウンターに預けたところで、芽生さんからひそひそと話が始まった。
「私たちのお持ち帰りの分はちゃんと残してあるんですよね? 」
「バナナとブドウが二房、ブルーベリーが十四個、米と小麦粉が一袋ずつ。後はエレベーターの燃料用に少しの魔結晶を残して全て提出したからそれなりの金額になってると思うぞ。今回はポーションの本数も数えて出したからな」
「じゃあ、それなりに収入はあるって認識で良いんですよね」
「あくまで、それなり。普段の自分らからしたら端数か全部税金で持って行ってくれてもいい程度の金額ではあるはずだ」
相談しながらも査定は進み、十分ほどして査定は終わった。出てきた金額、九百八十六万三千七百円。確かに、これだけ稼げれば満足できる数字ではあるんだろう。ちなみにブドウは一房二万円、イチゴは一粒一万円、というのが今の相場らしい。
確かにこれだけ立派なものが名物として存在するなら、充分に価値はあるんだろうな。この先流通先でいくら稼いでくれるのかもわからないが、その一端を担ったという満足感を得ることはできた。
リヤカーを返しに行き、帰りの足を探す。バスはもう終業時間らしく、ダイヤがなかった。さて、タクシーの運ちゃんは……居た。窓をコンコンと叩くと、昨日の運ちゃんだった。
「おや兄さんがた、またかい? 」
「そうなんだ。また頼むよ」
「昨日と同じ場所まででいいのかな」
「うん、お願いね」
「よろしくお願いします」
他人の運転で帰れることにほっとする。もう夜も遅く、深夜料金であるにもかかわらず使ってくれるという所に有り難さを感じているのかもしれないな。探索者は金払いが良いということを広めるためにもいつでもどこでもタクシーを使うというのは手としてありかもしれない。
「しかし、二日続けてこんな時間まで探索とは熱心だねえ」
「探索は今日まで、明日からは観光かな。彼女が行ってみたいところがあるらしくて」
「それはまた。稼いだ金をしっかり地元に落としてくれて嬉しいもんだ。一杯お土産買っていってくれると嬉しいねえ。後できれば他のタクシーを使ってくれると我々も助かるよ」
「明日の予定にもよりますが、バスがなければ使わさせてもらいますよ」
「そいつは嬉しい話だねえ。是非頼むよ」
運ちゃんも自分達の生活がかかっているのか、出番を必死にアピールしている。芽生さんはさっきの睡眠で一応目を覚ましたらしく、外の真っ暗な景色をじっと見つめている。
やがて人間の生活の痕跡を認め始める所まで来て、そのまま駅前まで連れてきてもらい、ホテルの前に到着すると会計。荷物を下ろして運ちゃんとバイバイすると、ホテルの中に入る。日付はもう変わってしまっているので出来るだけ静かに行動。部屋に戻ると、流石に一日の疲れが出始めたというか、そういえば夕食を取ってなかったな。
「夕飯どうする? 今から食べてもすぐ朝だぞ」
「私たちよく夕飯抜きでここまで持ちましたね。探索熱にそれだけ浮かされてたってことでしょうか」
「かもしれない。かといって……うん、ここは一つバニラバーだけ食べて寝ることにするか」
「そうしましょうかねえ、二本ください」
そういえば忘れていた、というぐらいに熱中していた証拠でもあるのか、二人そろってバニラバーを二本食べて部屋備え付けのポットでお茶を沸かして呑むと、順番にシャワーを浴びて着替えておねむの時間がやってくる。芽生さんは一回寝たのでスッキリしているだろうが、俺のほうはどんどん思考力が落ちてきているのを感じる。
腹が膨れたら眠くなるのは人間の自然現象だ。芽生さんと入れ替わりでシャワーを浴びると、昨日の夜と同じく両方のベッドを軽くごちゃっとさせると布団を片方のベッドに放り投げて、こっちは自前の布団で寝る。
甘くイチャイチャしながら二人で眠るとするかな……と思っていたら、五分もしない間に芽生さんが早速眠りに落ちた。どうやら色気より眠気、ということらしい。そういう俺もスノーオウルとダーククロウの香りに誘われて早々と落ちて……ああ、もうダメっぽい。おやすみ。
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